個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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個性『RTA』

「全く、……ヒーローという奴らは度し難いね」

 

 

 

 途中で途切れる。切れてしまう。

 

 あれだけあった力が不意に抜ける。

 

 ぴちゃりと私の顔に温かいものがかかる。

 

 

 彼の、からだが、斜めにずるりとずれて、ぼとりとおちる。                

 

 

 むせ返るほどの赤がひろがる。

 

 とろとろと地面に流れて止まることなく流れていく。

 

 

 

「奴らのご都合主義は酷いものさ。丁寧に潰しても新たに湧いてくる。きりがないよ」

 

 

 遠くから聞こえる轟音。先ほどまで心操君が立っていた場所には誰もいない。きづいた時には遠い瓦礫の中に深々と空いた穴を残すのみであった。

 

 

「あぁ……、あぁ……」

 

 

 

 とうとう視界一面が真っ赤になってしまった時、

 

 彼の体から、規則的に流れ出るものすらなくなった。

 

 優しい鼓動は止まった。

 

 もう彼の目に光はなく、薄く開いた口からもう、細い息の一つも漏れはしない。

 

 

 

「計画の障害になるだろうOFAも消えた。まぁどうせ何時ものように死んだ者の意志を受け継いだだの喚く次のヒーローも現れるだろうが……、一区切りはついた」

 

 

 

 死んだ。

 

 砂藤君はもう死んだのだ。

 

 

 

「そう、あいつらヒーローの思考は伝播する。こんなにたちの悪い病を僕は知らないよ」

 

 

 

 

 痛みすら感じない一瞬の出来事だったのだろう。

 

 彼の顔は私を見ていた慈しみの表情そのままであった。

 

 

 

「で、だ……。君はこれからどうする? 彼に感化されて一応の抵抗をしてみるかい? 面倒ではあるのだがそれでも僕は構わないよ」

 

 

 

 名残惜しい、そう思いながらも私は彼の顔を撫でて瞼を閉じさせた。

 

 

 

 

 心操君もサーも、砂藤君も、今ここに誰もいない。

 

 終わりだ。

 

 何もない、家族も友達も生きる理由も。

 

 これから世界がどうなろうと、もはや私にとって意味はなく、だからここで行き止まり。

 

 

 この先の物語に救いはなかった。

 

 

 

 

 

 だが、それでも、彼らは私に見せた。

 

 

 

 

 

 

 頭に浮かぶ皆の顔。

 

 私はゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

「どうしてでしょうね」

 

 

 

「うん? 最後に聞きたいことでもあるのかい。いいよ、僕はそういうのはなるべく聞いてあげることにしてる。まぁ趣味みたいなものだね」

 

「世界は……」

 

 

 そう、いつも思ってた。

 

 

「なぜ世界はこんなにもはやくて、どうしてこんなにも遅いんだろうって」

 

「ふむ……? 続きを聞こうか」

 

 

 多少の興味を引いた様子のAFOは首をこちらに傾ける。

 

 

「いや、なぜ世界は悲劇で満ちているのか、なんて語りださないでくれてよかったよ。そんなことを言い出したら、そのつまらなさで思わず殺してしまうところだった。君は一応生きていてくれた方がドクターが喜ぶからね」

 

 

 心底おかしそうに話すAFOを無視して私は思ったままの心を吐き出した。

 

 

「みんな、いつも何かが起きてから後悔する。だから、いつだって間に合わない」

 

「だったらどうする? 危険に備えて保険のセールスマンにでもなってみるかい? 近々破産するだろうがヒーローなんかよりは幾らか賢い選択だよ」

 

「いいえ、なら私が誰よりも早いヒーローになる」

 

 

 私は両の足で立ち、腕を上げて構えた。

 

 

 

 

あなたを倒します(AFO撃破RTA)」 

 

 

 

『親の屍を超えていけ。走りきることに意味があるRTA part13はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 そんな私の言葉を至極つまらなそうに聞くAFOは呆れたようにこちらを見下す。

 

 

「ふぅん……、そうかい」

 

『としあき? 今、目の前に敵が来ています。すぐ援護に来れますか?(現実逃避)』

 

 

 

 

『はやく、はやく、はやく、はやく、はやくはやく、はやく、はやく、はやく、はやくはやく、はやく、はやく、はやく、はやくはやく、はやく、はやく、はやく、はやくはやく、はやく、はやく、はやく、はやくはやく、はやく、はやく、はやく、はやくはやく、はやく、はやく、はやく』

 

 

 意識が漂白されかかる。

 

 自身の意識が明転する様に切り替わる。

 

 

 

『現在の状況はホモ子が拉致され、オールマイトが腹筋ボコボコにパンチ喰らってヒーロー凌辱だぜ!(ヤケ糞) このままじゃヴィランルートに溺れる! 溺れる!』

 

 

 脳の細胞が加速度的に壊死していくのを感じ、その端から超回復で自己を保とうとするが、壊して作られる頭の中の思考は連続性が保てない。 

 

 ただ一つ、おそらく遠くない先で、私の精神が荒廃しきってしまうことだけは、なんとなく分かった。

 

 

「君も、さっきの彼みたいに勘違いをしているんだね。自分の全てを燃やし尽くせば私に届くなんて、そんな可能性を」

 

『はい、それでは現実逃避もこれぐらいにしておきましょうか。このクソみたいな状況を打開する方法が一つだけ残された道があります……。今ここでAFOを撃破することです』

 

 

 AFOを倒す未来を探す。

 

 単純な命令だ。この個性の力を最大限発揮できるゴールである。

 

 

 

「愚かだよ、そして哀れだ」

 

『まぁそれが出来たら苦労しないってそれ一番言われているから……、どう? (記録)出そう?』

 

 

 だがその未来へと続く道筋は視えない。無数の道、その先の全てで私はAFOに敗北していた。

 

 今の私の延長線上にゴールはない。だから私は勝てない。

 

 だが私は止まらない。それを無駄と感じてほかの道を考える思考の柔軟性すらすでに奪われている。

 

 今私は目の前の男を最速で倒すことのみを考える装置。

 

 解のない計算を処理し続ける演算装置だ。

 

 

 

『ラスボスを撃破……、なるほど完璧な作戦っスねーーーっ! 不可能だという点に目をつぶればよぉ~!?』

 

 

 未来のその全てでAFOの実力はこちらの予測より上回っていた。

 

 圧倒的な実力差。

 

 そしてその単純な力のぶつけ合いで、私はAFOに敗北することが確定している。

 

 

 

「粒子観測、波動観測、高速思考×2、高速移動、ビーム、高速演算、座標把握。……まぁ平たく言えば疑似的な予知攻撃ってとこさ。……ふぅ、さっさと終わらせようか」

 

『AFO序盤撃破が困難な理由がこれです。AFOはこちらの個性に対するメタ戦法をとってきます。高機動タイプにはノックダウン+必中のクソ攻撃をこちらの速度を上回る速さで動き回られながらの起き攻めをされ何もできずに死にます』

 

 

 足元が不意に爆発する。

 

 

『止まるんじゃない。犬のように駆け巡るんだ!』

 

 

 その前に私は真横に飛んで避けた。あとピッタリ43秒後に私は詰み、敗北する。

 

 今の私では、AFOには勝てない。勝利というチャート(地図)にかかれたゴールへたどり着けない。

 

 ただ無意味に脳の神経を灼く無意味な行為。ただあてもなく疾走しているだけの暴走列車だ。

 

 

 

『これを撃破する方法は三つ。一つ目は圧倒的なステータスの暴力、OFAのような高出力で相手の個性を超えること』

 

 

「はぁ……、不毛だ。君もわかりきっているんだろ。そういう個性だ。君の全力でさえ私には及ばない」

 

 

 全力で瓦礫の隙間を移動する。

 

 

『いってっ、蹴りやがったなオイ! もう許せるぞオイ! 』

 

 AFOは悠々とこちらと並走し蹴り飛ばしてくるので、私は防御を選択。あと32秒。

 

 

『二つ目は数の暴力、最終決戦のように複数の種類の個性で対応しきる前に圧殺することです。……一人で勝てるわけ無いだろういい加減にしろ!』

 

 

 速さだけじゃダメだ。

 

 この先は行き止まり。どれだけ己の全てを燃やして走り抜けても目の前の強大な壁にぶつかり、このまま私は砕け散る。

 

 私がいかに脳を酷使し、脳のたんぱく質が熱で変性するほど稼働させようと届かない。

 

 そう既に結論付けられている。

 

 

「いいのかい?ヒーロー達の方に逃げれば、まだ君が逃げ切れる目があったかもだよ?」

 

 

 これでいい、そこじゃなきゃダメなんだ。

 

 ヒーローも民間人もいない瓦礫の上に私は移動する。

 

 さらに未来予測を高速化、超回復を前提にした出力上昇でAFOへ攻撃を仕掛ける。あと19秒。

 

 

『三つめは運、必殺の攻撃を運よく避けて、運よくこちらの攻撃が当たることを祈る。実質不可能なのでTASさんに任せるぐらいしか勝機はありません』

 

 

 私に許された自由は速さ。

 

 そのように向こう側の『アレ』は定めている。

 

 だが、その速さによって私は滅ぶ。莫大な情報の処理に最後に脳は焼ききれる。

 

 

 

「いけないね。予知の個性は強すぎるけど、あまりにもつまらないな」

 

 

 効率よく相手にダメージを与えられる行動を選択、しかし相手の攻撃はこちらの急所をとらえ、私の攻撃は有効打とならない。

 

 こちらの被害は甚大で相手の損害は軽微。ダメージレースでの敗北。このままでは3秒後に戦闘不能となる。

 

 

「ほらもう終わりだ」

 

『お願い許し亭! 何でもしますから! オネシャスセンセンシャル!』

 

 

 AFOの足払いで私の両下肢は折れてしまい、次の攻撃が避けられない。

 

 AFOは私の超回復を封じるため、こちらの頭をつかむと突き刺すように瓦礫の中から飛び出した鉄筋に向けて叩きつけ、体を縫い留めた。

 

 鉄骨の先は私の肺を貫いていた。

 

 

「はぁ、ドクターには申し訳ないことをしてしまった。まぁ超再生を与えてるんだ。多少手荒に扱っても平気かな。胴体と頭が残ってれば……」

 

 

 私はAFOに気づかれずにそこへたどり着いた。

 

 瓦礫の屑山、その中に埋もれる彼に手を伸ばす。

 

 

「……ちっおせぇよ、バーカ。もう逝っちまうとこだったぜ、本条」

 

「ごめんね、待たせちゃって」

 

 

 そこには心操君がいた。

 

 腹からこぼれる様々なものを押しとどめながら、もう終わりかけているその命を必死につないでいた。

 

 

「結構大変だったんだぜ、俺のこの個性の使い方……。砂藤の脳みそ弄りながら完成させたこの技、……暗示、お前の無意識に俺が働きかけろ……って……、サーが……、言って……」

 

 

 それは生きるためでは無い。託すためだ。

 

 私を見た彼はもはやこちらを見えているかも分からない霞んだ目で、傷口を押さえていた手を放してこちらに向かって瓦礫をよじ登り始める。

 

 

「おやおや、そんな所で死にかけてたのかい」

 

 

「俺の言葉に答えろ本条桃子……、いくぞ……」

 

 

 

 

「なぁ、俺達、友達だよな?」

 

「うん」

 

 

 

 その言葉に答えると、心操君は少しホッとしたような笑みを見せた後、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「“()()()()()()()()()()()()()()() () ()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()”」

 

 

 

 心操君のやわらかく包む洗脳は私の脳を優しく包み、頭の奥にある枷をほんの一瞬だけ緩ませた。

 

 それは刹那なんて表現じゃ欠伸が出るほどのほんの一瞬のノイズ。彼の洗脳が私の個性を上回ることはない。

 

 

 だが、限界まで思考を加速させた私はその隙を見逃さなかった。

 

 私はその一度きりのチャンスに全てをかける。

 

 

 

 頭の線を辿る。

 

 

『はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく』

 

 

 超えてはいけない境界など、もはや私には関係ない。

 

 こちらに手を伸ばす『何か』

 

 代り映えせずに馬鹿の一つ覚えで同じことしか言えない『ソレ』に私は苛立たし気に掴みかかる。

 

 

 

 

「頭に来るなぁ……。前から思ってたけど、お前の方が()くしろよ……!」

 

 

 

 私はその手をぐいと掴むと、今までの怒りを込めて全力で引っ張った。

 

 

 

 

 

 ずっと思ってた。

 

 

 『コイツ』は何だ?

 

 私を縛り、気色わるく指図し、最速を目指す存在。

 

 今、何となくこの個性を身におろし、完全に同一になった時、ようやく理解する。

 

 この『RTA』と言う存在の価値や意味は「はやさ」なのだ。

 

 

 これは狂ってる。

 

 

 はやさが全てであり真実。

 

 

 早ければこの力は一切万物を無視してでもそれを合理とする。

 

 底知れないのではなく底がない。どれだけ早さを為そうとしても、それでも貪欲により早い方法を探し続ける概念。

 

 

 

 

 私は今『RTA』と同一になった。

 

 

 

 

 

 

 私は目を見開く。

 

 

 叫びきった心操君は、そのまま地面を背に倒れ込んでいる。

 

 彼はそのまま空へと手を伸ばし……、そしてその腕が倒れた後に微動だにしなくなる。

 

 心音が止まった。

 

 

 私の親友、心操人使は死んでしまった。

 

 

「ふぅん、洗脳系の個性……、いや暗示かな? で、心機一転、磔にされた君とここにいる僕、この差はどうにも埋まらないわけだが……?」

 

 

 AFOは私を見下ろし、私はただそれを何もせずに見つめる。

 

 AFOはその姿を興味なさそうに見ていたが、私がそのまま彼の方へ立ち上がり一歩踏み出すとその表情に僅かばかりの動きが見て取れた。

 

 

 自然な所作で立ち上がった私は、まるで背中の裏に刺さった鉄骨を無視するようにAFOには見えている。

 

 

「……無傷だと? 超再生……?」

 

 

 

 私の胸には一切の傷がなかった。

 

 

 

 再度AFOは同じ攻撃を仕掛ける。

 

 今度は鉄骨を鞭のようにしならせての捕縛。足元に巻きつけられた鉄骨は私の骨をへし折る勢いで急激に締まる。

 

 だが、鉄条は体を縛ることはできずに絡まったままの勢いで弾け飛ぶ。

 

 

 

 私は一切動かないままAFOを見た。

 

 

 

「超回復……、違うな、服すら破れていない。これは……?」

 

 

 いつしか私の体の表面から、まるでドロリとした青い膜の様なものが滲み出す。

 

 自然界にはない人工味溢れる目が痛くなるような青。

 

 まるでそれが体の端を包むように現れた。

 

 

「まさか透過か……?」

 

 

 そう透過。

 

 通形先輩の個性と似ているが根っこのところで仕組みは違う。

 

 だがそれを説明する必要もないだろう。

 

 

 私はAFOを無視して瓦礫の山を下る。

 

 直ぐそこにいる心操君の上に乗った汚れを払うと、目を静かに閉じるために彼に触れた。

 

 

「電磁波、光線」

 

 

 そこを狙い、AFOは私の背後から光線を放つが、そのまま私は振り向いた。

 

 

「物体には触れてる……。確かに君はそこに実体があるはずだが……。なら、搦手だ。シールド、気体操作」

 

 

 私の周りに足元の地面ごと覆う光の膜が現れ、空気中の酸素濃度が急激に低下する。

 

 

「……気が変わったよ。君を生きたままドクターに引き渡したくなった。このまま窒息させて――」

 

 

 私は瓦礫の中に手をつき入れると、どこからか吹き飛ばされてきた酸素ボンベのバルブを開放する。

 

 

「……なに?」

 

 

 私がAFOに顔を向けると、奴の横にあるビルの残骸が崩れ落ちる。

 

 AFOに張られたシールドは私達を守り、AFOのみにビルの残骸が降り注いだ。

 

 落ちていく瓦礫、尖ったガラス、重い石、質量ある物体全てが執拗なまでに彼を狙う。

 

 

「……いや、これは……、まさか透過だけではない……」

 

 

 瓦礫の中にあった消火栓が爆発し、まるで破城槌の様にAFOを狙うが、奴の目の前に鉄骨たちが集まり壁を作る。

 

 打ち鳴らされる金属音、弾ける火花、……そして引火するガス。

 

 AFOの足元、そこにたまたまあった露出したガス管、そこから吹き上がるガスは鉄同士の衝突による火花に引火し、AFOを爆炎が吹き飛ばす。

 

 

「泡、硬化、衝撃吸収……。僕に都合の悪い偶然……、そうとしか考えられないが……」

 

 

 心操君を背にしながら、私は遠くに飛ばされたAFOを歩いて追いかけながら、その様子を観察する。

 

 爆炎は効いていない。攻撃は体から湧く泡に阻まれ防がれていた。

 

 

 

「どうやらゴチャゴチャした場所は僕に不利なようだ。浸食、砂塵化、土塊操作、硬化」

 

 

 安全を確保するつもりなのだろう、彼AFOの周囲の建物がまるで早回しの様に風化していき、地面へと降り注ぐ、入れ替わるように地下から湧き出す硬い土が表面を歩きやすい場所に作り替えていく。

 

 

 だがその掘り返された土は場所が悪かった。

 

 AFOに引き上げられた地面の中、崩れかけた人ひとりほどの大きさの巨大なドラム缶、そしてその中に多数収められた六角の棒。

 

 横浜大空襲の不発弾、E46集束焼夷弾内の子弾であるM69焼夷弾38本中18本がAFOの個性による衝撃で信管が作動した。

 

 吹き荒ぶ砂塵と炎、その中でさらに吹き飛ばされたAFOを私は追う。

 

 

「……私の行動すら偶然に含めている……? いや、それだけじゃないな……。なぜそもそも複数の個性を……?」

 

 

 AFOはこちらの姿に集中しながら低く呟く。

 

 

「……君の個性、これは何だ……?」

 

 

 ようやく追いついた私は足を止める。

 

 

 初めて顔のないAFOがこちらを見て、それに私はそらし続けた目を前へと真っすぐと向けた。

 

 

 

 

 

 

「 『個性RTA』これからお前になに一つの慈悲は訪れない 」

 

 

 

 

 私はAFOに目を向ける。

 

 

「グゥ……、ガハァッ……!」

 

 

 その時突然、AFOは胸を押さえ、苦しみだす。

 

 

 

「 く、クク、こんな時に発作か、体の限界がずいぶんと都合よく……! 超再生ぃ……! 代替……! 肩代り、操気、身体活性化。悪いが僕は万能でね……!」

 

 

 私はAFOへ指をさす。

 

 その動きに反応したAFOはその指先を避けるように身を避ける。

 

 

「こわい?」

 

「……何?」

 

 

 AFOは不愉快そうな顔をするが、自分が目の前の私を警戒して無意識に身を逸らしたことに気づくと、忌々し気に口を歪める。

 

 

「……あまり僕をなめるなよ」

 

 

 どす黒い、濁り迫る様な声。

 

 

「僕が恐れる?」

 

 

 指の真正面に身を乗り出すAFOはこちらに向けて手を伸ばす。

 

 凝集する力、周囲の風が一点に集まり、全てを切り刻む暴風がその手の大きさに収まる。

 

 

 

「はっ、それは僕が与えるもので、受けるものでは決してない」

 

 

 此方に手をかざし、さらにその殺傷性を高め続けるAFO。

 

 

「AFO、怖いもの、恐ろしいもの、不安なことを、思いつく限り紙に書いてみるといい」

 

「僕こそが恐怖だ。お前のような小娘に――」

 

 

 

 私はAFOに向けた指を空へと伸ばす。

 

 

 

 

「そこに書ききれないものがお前を殺す」

 

 

 

 

 突然夜空を照らす光が私を背後から照らす。

 

 地上100km上空、時速6万8000キロで飛来した射手はその身から剥がれた飛来する光の礫を降り注がせる。

 

 その礫はさらに砕け、AFOを撃つ。

 

 

 地面を抉る衝撃音に包まれる一帯。

 

 

 だがそれでもAFOは立っていた。

 

 

「……全くふざけた個性だ。最初のあの透過はトンネル効果かい? あれは陽子や電子レベルでの話だ。おまけに不自然なアクシデント。君のそれは疑似的な確率の変化だろう?」

 

 

 AFOは体に付着した埃を払う。

 

 

「全く、個性は世代を経るごとに複雑化するとはいえ、君のようなヤツがいるなんてね。だが……」

 

 

 腕を広げてAFOは仕立ての良いスーツを見せびらかす。

 

 

「僕は生きてる。直接攻撃で仕留めないのはそれができないからじゃないのかな?」

 

 

 AFOは歯を見せて嗤った。

 

 

「だが、それじゃ千日手。僕に時間がないことを考えればこのままでは僕は負けてしまう……。だけど君に抵抗する手段を思いついた。どうせ分かってるんだろ? さぁ競争だ」

 

 

 常人なら瞬間AFOの体が搔き消えたように見えるほどの凄まじい高速移動。

 

 私はそれを目で追いかけた後、一拍置いて今度はそれを走って追いかける。

 

 

 だが個性の性能に私の体は追いつかない。

 

 ようやく追いついた時、AFOは既に目的を達するところであった。

 

 

 

 場所はワープホールがあるあの場所、サーの前にAFOは立っていた。

 

 

 

「よくぞ死にぞこなってくれたよ、サーナイトアイ」

 

 

 頭を掴み、千切れかかった下半身ごと持ち上げるAFO。

 

 

「ヤレヤレ、最近はそう何度も個性を取り込むのも大変でね、胃がもたれるか心配だ。年は取りたくないものだよ」

 

 

 ボトリと無造作に取り落とされるサー。背中を瓦礫に預け、サーはAFOの方でない中空へと手を伸ばす。

 

 

「はは、どこに手を伸ばしてるんだ。返して欲しいのかい? まぁどうせ死ぬなら僕が君の個性を有効活用して彼女を消してあげるよ」

 

 

 ギリギリと伸ばされるサーの拳、それが伸びきった瞬間、サーの体は弾けた。

 

 

 

「僕はスペックでは君を圧倒している。でも君はその厄介な力で僕を邪魔出来るわけだが……。それは君が望む未来を手繰り寄せて、確率に干渉しているからだと僕は考えた。なら抵抗手段は? そう僕も同じようにそれを観測すればいい」

 

 

 その返り血はAFOを一切濡らすことなく、周囲に血の雨を降らせた。

 

 

 

「確かに見えない、分からない。まぁ常人なら“怖い”なんて思うのかもね。君がその力でそんな勘違いをするのも仕方がない」

 

 

 悠々と赤い血を避けながら歩くAFO。

 

 

「ぞっとさせてあげようか」

 

 

 AFOの纏う空気が変わる。

 

 

「キャッチ、アイコンタクト、粒子観測、波動観測、高速思考×2、高速演算、座標把握、…………そして予知だ」

 

 

 個性の発動が干渉しあう。観測する未来が互いを食い合い、領域を塗りつぶしあう。

 

 AFOは本条桃子の未来を観測する力は超えられない。だが、このどうしようもない現実の壁。

 

 

 単純な力で、AFOはこちらを圧倒する。 

 

 

 例えどんな理不尽が降り注ごうと予見できるなら、AFOはその全てに対処できる。

 

 その力をもって、たった一人の小娘など容易く握りつぶせる。

 

 

 

「じゃあ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 その言葉を聞いた時、初めて私は強い反応を示した。

 

 私の体から纏わりつく青が滲み出す。

 

 

「いま、なんて?」

 

「あぁ、君をさっさと倒して、ドクターへのお土産にさせてもらお――」

 

「私をさっさと倒す………?」

 

「……あぁ、こっちもそこそこ疲れてね、君にかける時間はもうないんだ」

 

「言ったなAFO? 確かに聞いた。()()()()()()()()()()と望んだ。そして()()()()()()()()()()と願った」

 

「…………何が言いたい?」

 

 

 

「気づいていないのかAFO、お前はもう逃げられない。『個性RTA』の力は確率の干渉ではない」

 

 

 

 

 

 青い皮膜を揺らめかせ、私はそのままAFOに突貫する。

 

 自身の最高速度での連打と、AFOに降りかかる確率による殺意。

 

 狙ったかのように突然崩れる足場、物体をすり抜ける偶然、突発的に訪れる不調、追いかけるように降り注ぐ隕石。

 

 しかし、その両方を備え得ながら、AFOはあらゆる手に対応しきった。

 

 

 そしてついに私の心臓を貫き。

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!? 』

 

「さぁ、どんな偶然で、心臓が潰されて君が死なないのか、おしえてくれないかい?」

 

そのまま握りつぶす。

 

 

 耳元でそうささやく男に私は最後に一呼吸を振り絞ってこう答えた。

 

 

 

「いま未来は輪になって()()()()()()()()()

 

 

 

 

 私の体からその青が滲み出し、AFOとこちら以外を全て青に染める。

 

 現実かとすら疑うその異様な光景の中でAFOは驚く。

 

 

 

「なんだこれは……!」

 

 

 だが、AFOが驚いているのは周りの異変ではないのだろう。

 

 

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 AFOは私の高速攻撃を適切に弾き相手を圧倒している。

 

 AFOは私の全ての抵抗をいなし、予見し、そして最後に私の心臓を貫いた。

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!? 』

 

 

 

 そうだ。私は走り切れなかった。

 

 AFOに無残に負けた。

 

 ならばこの試走は失敗だ。

 

 私はそのまま死に

 

 

 

「なんだ、何が起こっている!?」

 

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 青が滲み出し、AFOとこちら以外を青く染める。

 

 現実かとすら疑うその異様な光景の中、私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 そしてAFOはやはり私を圧倒し、最後にはその胸を貫いた。

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

 

 

『いや、これは、そうか……、お前!! 予知を喰い合わせているな!!』

 

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 青が滲み出し、AFOとこちら以外を青く染める。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 そしてAFOはやはり私を圧倒し、最後にはその胸を貫いた。

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

 

 

『僕が勝つ未来とお前が勝つ未来、円環する矛盾!』

 

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 青が滲み出し、AFOとこちら以外を青く染める。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 そしてAFOはやはり私を圧倒し、最後にはその胸を貫いた。

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

 

「お前の望みが果たされない限り永遠に続く空間を生み出した!! ここは現実ではない! 予知の中の世界!!」

 

 

 

 繰り返す。

 

 幾度でも、この輪を駆け抜ける。

 

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 青が滲み出し、AFOとこちら以外を青く染める。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 そしてAFOはやはり私を圧倒し、最後にはその胸を貫いた。

 

 

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「やられたよ本条桃子、確かに君にハメられた認めよう」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「この空間で君が諦めない限り私はここから出られない」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「だがね、一つだけこの空間には欠点、そうだ穴がある」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「私が諦めてしまえば、循環しないんじゃないのかな?」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「僕が倒されてしまえばそれでこの空間は開いてしまう」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「意外に思うかい? 僕は策を何重にも張り巡らせている」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「例えここで負けたとしても、僕の意志は潰えないのさ」

 

 

 

 繰り返す。

 

 幾度でも、この輪を駆け抜ける。

 

 

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「君に致命傷を与え、僕が倒されてしまえば、結局は僕の勝ちだ。この行為に意味はない」

 

「無駄だよ。この空間は互いを最速で倒す空間、最速を目指す行為しか許されない。気づいているでしょ」

 

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「それは試してみないと分からない。他にも例えば君の精神を壊す個性を使うとかね」

 

「そしたら私の負け。またここに戻るだけ」

 

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「……永遠にここで閉じこもっているつもりかい? まぁ僕は君が諦めるのを待ってればいいだけさ。君よりも心はそこそこ強いつもりだからね」

 

「そう、じゃあ続けましょう」

 

 

 

 繰り返す。

 

 幾度でも、この輪を駆け抜ける。

 

 

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「………………」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「………」

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「……」

 

 

 

 繰り返す。

 

 幾度でも、この輪を駆け抜ける。

 

 

 

『胸にかけて胸に!! ファッ!?』

 

「……なぁこの気に障る声はいったい何なんだ?」

 

「幻聴? あなたの強い心はもう病んじゃったの?」

 

 

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 青が滲み出し、AFOとこちら以外を青く染める。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 そしてAFOはやはり私を圧倒し、最後にはその胸を貫いた。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()A()F()O()()()()()()()()

 

 それは悠々と避けられ、私の命はそこで潰えた。

 

 

 

 

「……待て。いま、避けたのか? 僕の攻撃を」

 

「今更気づいたの? 現実の貴方のスペックは私を超えていた。でもね、未来を走査する力は私の方が圧倒的に上なんだよ。それに私の最初の個性、もう忘れちゃった……?」

 

 

「成長か……!」

 

「そうそう、少しずつね、私は貴方に迫ってる」

 

 

「……だが、お前が言ったんだ。ここは環だ。僕が負けたとして、そこで終わりはしない、永遠に続くんだぞ」

 

「うん、そうだよ」

 

 

「なっ……」

 

「私、単純作業、相当強いよ」

 

 

「こんなことに意味はない。ここを作り出したお前ならこの環を解けるはずだ……!」

 

「じゃあ、続けようか」

 

 

 

 この輪を駆け抜ける。

 

 何度でも、幾度でも。

 

 繰り返しの中、次第に私がAFOへ負わせる傷が増えていく。

 

 いつの間にかAFOに食い下がれるほどになり、気づけば互角、そして……、

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 青が滲み出し、AFOとこちら以外を青く染める。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 互いに鎬を削りあう戦いの中、とうとう必殺を狙うAFOを躱し、その懐に飛び込み、顎先への一撃を叩き込んでAFOはその場に倒れた。

 

 

 私はとうとうAFOに勝利する。

 

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! RTAは幸せな最速を叩き出して終了。 WR! WR!WR! まじで最高なRTAmachine!完璧なタイムで程よい見所さんで、見てて早いし声もいい!(電子音)エンターテイナーさを五感で感じさせてくれるのはマジで気持ちいい!(ガバ)。他のやつはつまらなくなるよ、マジで。(増長)』 

 

 

「殺しもしないとは見縊られたものだ。僕は必ず君を消す。それだけじゃないお前の大切なものを全て――」

 

「もう誰もいないよ」

 

 

「………チッ」

 

「私は殺さない。それだけはしちゃいけないって、分かったの」

 

 

「……で? どうするつもりだ?」

 

「じゃあ続けようか」

 

 

「待て!」

 

「じゃあしばらく集中するから黙るね?」

 

 

 繰り返し繰り返し同じ環を駆け抜ける。

 

 AFOは時に私を脅し、甘言で篭絡を、改心した振りなどでここから出ようとするが、私はその一切を無視し続けた。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 走る。走り続ける。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 ただ早く、より早く。

 

 私の体は()()()()()()()()()()()()AFOへ突貫する。

 

 そしてとうとうその時が来た。

 

 

 

「たぶんね、そろそろおわりかな?」

 

「フンッ……、ようやく口を開いたと思えば……。僕を打倒して終わりなら、さっさと決めて欲しかったがね」

 

 

「そうはならないかな」

 

「……なに?」

 

 

「どういう意味だ?」

 

「あっ、多分次で終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 そして私達は互いに先ほどの位置でやり直す。

 

 相対する私とAFO

 

 

「本条オォ!! 桃子オォォ!!!!」

 

『お願い許して!!』

 

 

 怨嗟と憎しみの籠ったAFOの声、繰り出される全てが必殺の攻撃の連続。

 

 それを私は避ける。世界が彼を否定する。

 

 風が、土が、人が、

 

 この世の全てがAFOに敵対する。

 

 

『ペッ!!甘ちゃんが!! 』

 

「カハッ……」

 

 

 彼の攻撃はこちらの薄皮一つ切り裂くことなく、私の拳が彼の顎を打ち抜いた。

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! RTAは幸せな最速を叩き出して終了。WR! WR!WR! 』 

 

 

 そう終わり、巨悪は倒れた。

 

 だけど、油断はできない。きっと世界はまだまだ試される。

 

 

『まじで最高なRTAmachine!完璧なタイムで程よい見所さんで、見てて早いし声もいい!(電子音)エンターテイナーさを五感で感じさせてくれるのはマジで気持ちいい!(ガバ)。他のやつはつまらなくなるよ、マジで。(増長)』

 

 

 それは、ちっぽけな私にとってそんなことはどうしようも出来ない問題で、なにより……、

 

 目線の先にいる彼らを見る。

 

 

ではいっちゃいますか!! 例のアレ!! 万感の思いを込めて!

 

 

 私はこんな終わり方には納得できない。

 

 

 

 

 

 

 加速、そうはやさだ。

 

 何故今までこの繰り返しをしてきたか。

 

 閉じた輪にいるAFOは気づけなかった。

 

 私と『お前』だけは知っている。

 

 

 

『……ん?(違和感) あの~? 走者ですけど(エンディング画面表示まで)まだ時間かかりそうですかね?』

 

 

 

 この質量を持たない情報のみの思考空間。

 

 そこでの繰り返しは、加速し続けていた。

 

 

 

『あれ? すっげぇゲームが重くなってる。はっきり分かんだね……。………………は?(焦り)』

 

 

 

 加速した世界は現実世界において、今まさにある壁を超えようとしている。

 

 遅延する世界は徐々に動きを止める。

 

 

『あっ、ふーん……(察し) あっ、待ってくださいよ!(命乞い)』

 

 

 光に近づく私の周りの光景は徐々に薄暗いものへと近づいていく。

 

 

『動けえぇぇぇ! 騒げえぇぇぇぇ! 魂を燃やせえぇぇぇぇぇ!!(ハードへの祈り)』

 

 

 

 

 私は光の止まった世界で光を見ていた。

 

 

 物体が光速を超えることはない。だがこの空間でそれは起こりうる。

 

 

 そして光速を超えた私がどうなるか?

 

 

 

『お慈悲ぃ^~! お慈悲ぃ^~!! 』

 

 

 

 今更そんな言葉を私が聞くと思うか?

 

 お前に慈悲は与えない。

 

 

 

『ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!(懇願)待って!助けて!待って下さい!お願いします!助けて!! “()()”だけはヤメロオォォォォォォオォォォォォオォォォ!!!!!!!!』

 

 

 

 光すら止まった暗黒の世界、そこを突き破り、全ては逆転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「再走しろ」

 

 

 

 

 

 

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!!!!!(ブリブリブリ ブリュ リュリュリュリュリュ!! ブッチチ ブッチチチ ブリリィィ ブッブッブルルルゥゥゥ ブリブリブリ ブリュ リュリュリュリュ!! ブッチチ ブッブゥチチチ ブリリィィブブブ ブッブゥゥゥゥッッッ!!!)』

 

 

 

 

 

 全てが巻き戻る。

 

 私は自分の体の外から早回しをするように戻る世界の光景を見る。

 

 

<本条オォ!! 桃子オォォ!!!!>

 

 

 ……そう、戻る。

 

 ならば私と同じく()()()()()加速していたもう一人にもその権利がある。

 

 

<はははははははははっ!! 都合がいい!! 過去に戻る? 大いに結構!! 僕も戻ってお前の全てを壊してやる!!>

 

 

 彼の個性だけでは過去に向かうこの速度についていくことはできないのだろう。

 

 巻き戻る精神、その私に幽鬼の様にAFOは追い縋り、私の体を掴もうと手を伸ばす。

 

 

「そうだね、()()()()()()()()()()()にはその権利がある。でもね……、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

<知ってるか? AFO、おじさんに触られて嬉しい女子高生などいないらしい>

 

 

 

AFOの手は横合いから伸びた手により弾かれた。

 

 

<サーナイトアイイィィィィィィィ!! この死にぞこないがァッッッ!!!!>

 

<私の個性、返してもらうぞ>

 

 

 AFOからサーが這い出る。

 

 それと同時に、AFOは弾かれるように、正しい時の中へサーと共に弾き返される。

 

 

 消えていくサー。くだらない冗談を言うぐらいなら、私と言葉の一つくらい交わして欲しかったと思いながら、消えゆくサーは私の隣を指さす。

 

 

 巻き戻り始めた現実世界。ちょうど死の直前のサー。

 

 彼は私の方を見て拳を突き出し、唇だけ動かしていた。

 

 

 おまえならやれる いってこい

 

 

 逆さに読み解けばそう話すサー。

 

 

「行ってきます」

 

 

 虚像の私はサーの突き出した拳に同じように拳を突き合わせる。

 

 

 

 サーはきっと知っていた……、いや、信じていたんだろう。だからこんなことになっている。

 

 

 例えば心操君。

 

 死の直前、彼は空を仰いでいたのではない。きっと通り過ぎる私に手を伸ばして話しかけていた。

 

 

 また ともだちに なってくれ ……にげんなよ

 

 

 今更になって気づく。今ここまで私がたどり着けたのは誰のおかげだったのか。

 

 

「うん、またね、心操君」

 

 

 手を伸ばす。彼の突き出した手を握る。

 

 温度はない、だが確かに私の心に灯がともる。

 

 

 そしてさらに時はさかのぼる。

 

 私に手を伸ばす砂藤君。

 

 

 お前ならできるだろ?

 

 

「私を助けてくれてありがとう砂藤くん。私……やるよ」

 

 

 その手を握る。

 

 もう私は迷わない、走る。

 

 走り続ける。

 

 

 巻き戻りは徐々に加速していく。

 

 太陽は西から登り、東へ沈んでいく。

 

 

 それが明転するほどの速度。

 

 

 

 街を包む白銀の雪の世界が紅葉に色づき、青々と茂る木々が芽吹きのなかで桜を散らす。

 

 

 

 

 そして私は……

 

 

 

 

 

 

 




ラスボスとのバトルの姿か? これが……
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