個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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13話「デッドエンド」

 

 

 

 ただ歩く。

 

 暗い穴へ向かって足を動かす。

 

 中空で轟く衝突音。埒外の力と力のぶつかり合いの音も今の私には遠い。

 

 なんで私は生きてるのだろう。

 

 どうして初めからこの選択が取れなかったのだろう。

 

 

「君を殴る」

 

 

 絶対強者と絶対強者の戦い。

 

 守るべきものを背負う英雄と守るべきものを顧みない怪物。

 

 どちらが強いかなんて今の私には遠い世界で、

 

 

「はっ、ハハ、アーハッハッハッハ!!!! 考えればわかるだろう? このギリギリの戦いで他人を守りながら私にも勝とうだなんて流石に虫が良すぎるだろぉ!? なぁ!!!!」

 

 

 どこかの役立たずを巻き込もうとした怪物の攻撃をヒーローは受けて倒れる。

 

 きっとこの先、世界の信念とか正義とか、そういう人の心を支える光は折れてしまうのだろう。

 

 早く消えるべきだった。

 

 いつだってそのチャンスはあったのに私は逃げてきた。

 

 言い訳を止めて事実を見るべきだ。

 

 

 

「あぁ、君か、助かったよ。いや、アイツ相手の脳無がまだあったのも助かったが、君のおかげで助かった。何回か体のいい囮にして申し訳ないね。まぁ君としてはそこで消えてしまっても本望だろ?」 

 

 

 自分の手の届く周りの人にただ幸せに生きて欲しい、そう願った結末はどうだ?

 

 

「ククッ、余力ができたおかげで他のヒーロー共も掃除できた。適当に町の二区画を吹き飛ばせば人命救助に切り替えて蜂の子を散らすように救いに行った……、いや、逃げたのか! ハハッ!!」

 

 

 ここから密集した市街地一帯は見渡せるほどの一面瓦礫となっている。

 

 その下にはいったいどれだけの人々の暮らしの灯があったのだろう?

 

 

「あぁ、気分がいい。病んだ肺に突き刺さる空気すら清々しい……。本当に感謝しているよ。エスコートしてあげよう。さぁこちらへどうぞ、お嬢さん?」

 

 

 助けたい助けたいと口先で言い続けた結果がこれだ。

 

 助けようとした者は皆私のせいで死んだ。

 

 (おまえ)は死神と何が違う? 

 

 ふらふらと歩く私は、怪物に連れられ、暗い穴へと向かう。

 

 ようやく終われる。ようやく終われるんだ。

 

 

 

 

 

「何を勝ち誇っている? 我々は何一つお前に屈してなどいない」

 

 

 

 

 

 だというのになぜ、彼ら(ヒーロー)はそんなことをしてしまうんだろう。

 

 後ろの瓦礫から、何かが崩れて起き上がる音、それに次いで服を払う音が聞こえる。

 

「もうやめて……」

 

 

 小さな呟きをかき消すように、その人はこの崩れた足場の中、磨き抜かれた靴を小気味よく鳴らしながら堂々と歩いてくるのが背中越しに分かってしまう。

 

 

「一旦引いたのは貴様を倒すための態勢を整えるためだ。救助? そんなことはもう済んでる。心操の“洗脳”の個性で集めれば楽なものだ」

 

「楽じゃねぇよ。ここの区画にタワマンが何軒あると思ってやがる。ギリギリもいいとこだった。あぁ……、個性の無断使用どころじゃねぇ……。マジで俺の夢終わったな……」

 

「それを言ったら俺なんて今日だけで数え切れねぇほど人様の家のドアを器物損壊してるぜ」

 

「フッ、問題ない。それこそ木っ端みじんで全てチャラだからな」

 

 

 なんでよりによって彼らが来るのだろう。これも私のせいとでもいうのだろうか。

 

 

「お、お願いです……、か、か、彼らを傷つけないで……」

 

 

 私はただ俯き、血流の止まった白い手を見ながら、隣の怪物に小さく懇願する。

 

 

「うーん、君はある意味恩人だから聞いてはあげたいが……、 まっ、彼らの態度次第だね」

 

 

 そんな私の祈りに最大限の悪意をもってほほ笑む怪物は、至極めんどくさそうに顔だけ彼らの方へと向ける。

 

 

「あー、うん、えー、あぁたしか君はオールマイトのとこに居たヤツだろう。今の今まで彼の陰に隠れていたのが今更這い出してきたのかな?」

 

「そういうお前は私の目を必死に搔い潜っていた奴じゃないか? 私は目には自信があったがよくもまぁ、社会の隅っこに縮こまってうまく身を潜めていたみたいだな」

 

 

 心臓が破裂するほどに脈打つ。恐る恐る目を上に向ければ、口角を吊り上げるソレがいた。

 

 

「君には申し訳ないことになるね。まぁ諦めてくれ」

 

 

 そのようにこちらを向いて口だけ謝ると、片手をあげる。

 

 それに合わせて皆のいる足元のビルの残骸から、槍のように捩じれた鉄骨が彼らに向かって伸びる。

 

 

「磁力――」

 

「磁力探知、操鉄、圧縮、ツイスト、貫通、 捩じり上げて鋭利にした鉄骨で狙うつもりだろうが、先端以外はただのコケ脅しだな。そう思わんか心操?」

 

 

 言葉の先をつまらなそうにつぶやき、その槍先を身軽に避けるサーは槍の中ほどを拳でへし折る。

 

 

「賢そうに解説するのはいいけどよ、砂藤が助けてくれなきゃ俺は今死んでたぜ、サー……」

 

「元気そうで何よりだ」

 

「クソッ、こんなクソみたいな戦いに無理やり巻き込みやがって、あんたはどうせ ”()()()()()()()()()()()()”んだろうが」

 

 

 心操君の嫌味に二人は忍び笑いを返す。

 

 

「お前達には荷が重いだろう。避難誘導の時点で十分だ。下がってろ」

 

「あぁ、上手くやれよ、サー」

 

「……ここからだぜ」

 

 

「おいおい、もう行くなんて、そんなさみしいことを言うなよ」

 

 

 後ろで距離を取る砂藤と心操。それを追うように鉄骨の槍が追いすがるが、その全てを、サーは鋼色の棒を投げ飛ばして撃ち落とす。

 

 

「……まぁ羽虫の一匹や二匹程度見逃してやろう。今日は宿敵を倒して気分がいいからね」

 

「ぬかせ。私相手に心理戦は無駄だ。本当は消耗を避けたいんだろ?」

 

「はは、予知の力かい? 君の個性には手を焼かされるね。君がいなければもっと早くオールマイトを消せたのに……。まっ、ちょうどいい。君が前に出るという選択は愚策としか言えない失敗で、僕にとっては幸運だ。生かすと厄介な君をここで殺せるんだからね」

 

「焼きが回ったのかオールフォーワン。私の個性を忘れたのか? 逆だ。お前が失敗したからここに()()()()のだ」

 

 

 サーの言葉に初めてソレは不快そうな表情を露わにした。

 

 

「先ほどまで景気よく放っていた攻撃はどうした? 私にはもう見えたぞ。もうお前の力はほぼ底をついてる。 だから逃げる奴を追う余裕もない。今のお前は後ろに引きこもっていた私程度に負けうるほどオールマイトに追い込まれているんだからな」

 

「君がどう思おうと勝手だが……」

 

「オールマイトに追い込まれたお前はサイドキックである私が倒す。結局お前は()()()()()()()()()()んだ」

 

 

 ソレは黙り込む。それは言い負かされたというより、意識を切り替えたのだ。

 

 会話は不要だと判断したうえでの無言。コイツは消すという冷徹な切り替え。

 

 

「……そうだ。いいことを思いついた」

 

 

 ソレは何かを思いついたようにあげていた手をそのままに、人差し指を立てる。

 

 

 瞬間、目が潰れるほどの光が視界を焼く。

 

 

 指の先端から目くらましのように光を放ったという理解に達する前に、体の全ての動きが制止する。

 

 

「発光、視覚操作、生体電気、神経操作、洗脳……、まぁ、こういうのは戦闘中や普段使いには面倒でね……。戦闘中に気軽にとはいかないが、君程度ならまぁ余裕だよ」

 

 

 私の体も指先一つ動かせない。

 

 頭からの意思が体の一切に伝わらず、呼吸すらできずに息を詰まらせながら硬直している。

 

 

「……“()()()()()()()()”」

 

 

 私とサーが同時に息を吸い込み、機械的に肺を膨らませた。

 

 

「喜ぶといい。捕らわれのお姫様はお優しい。君を傷つけて欲しくないそうだ。僕は彼女を最大限尊重することにした」

 

 

 ソレは私の肩にやさしく手を置く。すると私の洗脳は解け、体の自由が利くようになる。

 

 

 しかし私の体は上から肩を押さえつけられ動けない。そんな私にソレはサーの顔を覗き込むように動かすとニタリと笑う。

 

 

「洗脳、肉体強化、高速思考、五感操作、体内時計、多幸感」

 

 

 突如頭の上から垂れ流される言葉の羅列。

 

 

「今からサーの脳内感覚を操る。彼の脳内で今から45秒間で100時間人生で最も幸福な感覚に浸ってもらい、次の100時間体を砕きながら燃やされ、最後の100時間五感の消失した時間にいてもらう」

 

「あっ、あぁ、サー……!」

 

「約束しよう。“体は傷つけない” 心は知らないけどね? 」

 

「や、やめっ……!」

 

 

 怪物が指を鳴らす。

 

 

「あぁ……!!」

 

「君にヘロイン中毒者の知り合いはいるかい? 彼らが言うには薬を使うと、人生での成功、結婚、子供が生まれた時、それらの幸福をかき集めても耳クソと言いきれるほどの幸せを感じるらしい」

 

 

 耳元で囁くように呟く悪魔は、規則的に息を吸うだけの二人を指さす。

 

 

「人は痛みに無力だ。自分は痛みに耐える特別な訓練を受けてきたっていう屈強な兵士もね、度重なる痛みに終いには死を願うようになる。痛みには決して誰も勝てない」

 

 

 指折りながら数えるソレはまるで解説のように私の耳元でささやき続ける。

 

 

「人が一切の五感を無くして何分正気を保てると思う? 世の中の胡散臭い実験の話じゃ5分で限界らしいけどね。実際はどうなるか知ってるかい? すごいんだぜ。君も今に見ればわかるさ」

 

 

 指の音が鳴る。

 

 

 サーの足下から力が抜ける。

 

 その姿のまま前に倒れ込み。

 

 そしてそのまま

 

 

 

「ガハッ……!?」

 

 

 跳ね上がり、怪物の顎を殴りぬいた。

 

 

「シッ!!」

 

 

 連打に次ぐ連打、息を吐かせぬ連撃を加える。

 

 

「趣味の悪さが仇となったなオールフォーワン!!」

 

「何故洗脳が……そうか、あのガキの個性、同系統か……!!」

 

「ガキと言ってやるな。子供らの成長は凄まじいものだぞAFO。もはやアイツの個性は洗脳に留まらない」

 

 

 一歩、また一歩と後ろに下がるソレ、その間合いを潰すようにサーは歩を進める。

 

 

「本条ッ! 今のお前に言葉は通じないだろうッ!!」

 

 

 一撃によりさらに後退し受け流そうとする動きをすり抜け、拳を叩き込み続けるサー。

 

 

「私のような人間に言えることはない!!」

 

 

 一切何もさせないという、理詰めの動き。()()にむけて正確に急所へ抉り込む。 

 

 

「だからみていろ! これから起きる全てを!!」

 

 

 やめて、なんでそんなことをしてしまうの……。

 

 サーは詰みに向かっている。

 

 彼は今、追い詰めているのではない……。追い詰められているのだ。

 

 

「吸収、バネ、反発×3、痛打、衝撃……」

 

 

 あれだけ撃ち込まれ続けているというのに、AFOは眠たげな態度で攻撃を受け続けている。

 

 

「じゃあもういいかい?」

 

 

 たった一撃、たったそれだけで、その拳はサーの腹部を貫いた。

 

 吹き飛ぶ体、一緒にへし折れた背骨は出来の悪いオモチャの様に砕けて瓦礫に突き刺さる。

 

 

「……ふぅ、こんなところかな」

 

「げふッ……」

 

「まだいきてるのかい? ゴキブリ並みだ。まぁそこで朽ち果てるといいさ」

 

 

 まただ。またこれだ。

 

 もはや感情を動かすことを心が拒否して、強烈な虚脱感が私の膝から力を根こそぎ奪おうとする。

 

 

 私なんかの為にサーが死のうとしている。

 

 あの笑顔が素敵なサーの命が失われる。

 

 

「さてと残りは……」

 

 

 怪物の首が残る二人の方へ傾けられようとするその瞬間、私は全身全霊をかけて口を開く。

 

 

「口先ばっかり……。もう行きましょうAFO、いい加減疲れました」

 

 

 彼らの方に向きかけた首が一瞬止まり、歩き出そうとする私に戻る。

 

 少し何かを考えている様子のAFOに私はさらに続ける。

 

 

「いい加減ヒーローの妄想に……、私を巻き込まないで欲しい」

 

 

 AFOは私の言葉には反応せず、ただこちらを観察するように見ている。

 

 

「ヒーローはいっつもそう。守る、助ける、救う、馬鹿の一つ覚えでそればっかり。同じことしかできない虫みたい……」

 

 

 害悪でしかない自分が、彼らの気高い意志に唾を吐く。その言葉を聞き流しながらAFOは、動かずにこちらを見る二人の方に顔を向ける。

 

 

「耳触りだけ良い、甘ったれの言葉なんか私には何一つ響かないよ……」

 

 

 どうかお願いします。

 

 彼らを摘み取らないでください。

 

 その一心で私は口からあらん限りヒーローへの罵倒を尽くす。

 

 

「虫か。確かにうじゃうじゃと潰しても湧いてくるところはそうかもね。目的は既に達してる……」

 

 

 恐らく私のちゃちな芝居など全てわかっているのだろう。

 

 しかし純粋な自身の消耗と現状を照らし合わせ、ソレは今の私が望む言葉を発した。

 

 

「まぁ君の頑張りに免じてあげよう。もう行こうか」

 

 

 残された二人を意に介さず、私の歩みに合わせて歩き出す。

 

 私の心臓は早鐘の様に打ち鳴らされている。

 

 耳から聞こえる背後の気配。

 

 お願いします。頼むから動かないでください。もうやめてください。

 

 

 もうこんな人間に救いはないんです。

 

 

 

「なぁ本条」

 

 

 

 あぁ、だけれども

 

 こんな私なんかの為に、やはり彼らヒーローは立ち上がってしまう。

 

 

 急ぐ私の足を裏腹に怪物はその足を止めた。

 

 

 お願いします。やめて下さい。その人達だけはやめてください。

 

 もう私には彼らぐらいしか残っていないんです。

 

 

「……砂藤君、私、もう関わってくるなって言ったよね」

 

 

 私は腹の中から湧き上がる全てを飲み込み、ただ彼らは私にとって価値のないものだと隣にいる怪物に懇願する。

 

 

 

「私を助けたいの? 見捨てた癖に……」

 

 

 私の一言に砂藤君は何も言わずにこちらを見つめる。

 

 そうだ。そこから一歩だって動いちゃいけない。もうこれ以上は私に関わっちゃいけない。そんな気持ちは完膚なきまで叩き潰さなきゃいけない。

 

 

「ふぅん……、 彼、君の友達?」

 

「友達? 冗談はやめてください」

 

 

 この怪物は全てを分かった上で、軽く指を上げて彼をくすぐる様に指さす。

 

 

「裏切者ですよ」

 

 

 私はそれに答え、汚らわしいものを見るような目で砂藤君を見る。

 

 隣の怪物は面白そうにその様を眺め、暇つぶしになるならいいかと焦らすように歩く。

 

 

 

「知ってたよ。マスコミに私の居場所バラしたの砂藤君たちでしょ? よく私の前に出てこられたよね」

 

 

 違う。知ってたよ。無理やり言わされたんだよね。あみちゃんが亡くなって、その不安を悪い人たちに付け込まれたのは知ってた。

 

 ずっと私は謝りたかった。

 

 

「なんで雄英まできて砂藤君の顔見なきゃいけないんだろうって思ってた。まともな神経してるなら学校辞めるよね」

 

 

 久しぶりにあった時、本当に涙が出そうになって、元気な顔が見れて嬉しくて、けど私なんかのことを引きずっているのが分かってて……。

 

 

「それでも私を助けて気持ち良くなりたい? 本当に身勝手で気持ち悪い」

 

 

 なのに私は君だけは巻き込みたくなくて、無視して、君を悲しませて本当にごめんなさい。

 

 

「違う? 私の気持ちを少しでも楽にしたいなら助ける前に死んでよ。それでも自分が気持ちよくなりたいなら助ければ? そのあと私もどうせ死ぬけどね」

 

「ククク……」

 

 

 生きて欲しかった。私なんかとは関わらずA組の陽だまりみたいな人達の中で、君に笑顔でいて欲しかった。

 

 

 私がどうなっても君達だけには生きて欲しい。

 

 

「おっと、もうワープゲートだ、旧交は温められたかい?」

 

 

 怪物はあえて直前で立ち止まり、私に問いかける。

 

 もっと呪詛を吐け。呪いをかけろ。

 

 この見世物がつまらなかったら火をつけるぞ。

 

 

 そんな邪悪な感情が分かってしまう。

 

 

 

「砂藤君なんかに死んでも助けられたくない」

 

 

 

 

 暗い穴にようやく私はたどり着く。

 

 

「ははっ、いうねぇ」

 

 

 砂藤君は俯きながら体をこちらに向けるだけ、私の罵詈雑言を受けて身じろぎ一つしない。

 

 

 

 最後に彼はゆるゆると顔をあげてこちらを見る。

 

 その目はひたすらに静かで、ただこちらを待っているような表情。

 

 

 

「なぁ本条、お前はどうして欲しい?」

 

 

 

 私は最後にチラリと後ろを振り向き侮蔑の色を目に宿して砂藤君と初めて目を合わせた。

 

 

 何を今更言ってるんだこの愚かしい男は。そんな風に蔑み嘲るような視線を向け、そのまま消え失せようと暗い穴に足をかけ―――

 

 

 

 

「……だ、………………、だれか……、たすけて………………」

 

 

 

 

 自分の耳にすら届かない、小さな、空気に溶けるような言葉。

 

 

 

 

 

オ゛オ゛オ゛オォ゛ォォォォォォォォォ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 それに彼は全身全霊で吠えて応えた。

 

 

「心操……、頼む」

 

「あぁ、よく聞けよ……。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

「……いってくる」

 

 

 心操君の一言、彼の個性は洗脳のはずである。

 

 だが砂藤君の目は燃えるような意思を宿したまま、こちらに向かって突き進んできた。

 

 

 

 拳を握り込む。その大きな手の平が桁外れの握力で二回りほど小さくなるまで握り込まれる。

 

 踏み込んだ足は地を貫き、肥大した筋肉が服を押し上げた。

 

 明らかに今までの彼の個性の出力ではない。これはきっと、後戻りできない何かを捧げている。

 

 

 いま、彼は全てを込めた一撃を放とうとしていた。

 

 

 だがそれでも、

 

 

「はは、せっかく彼女が頑張ってたのに、男の子なら気持ちぐらい汲んであげないと」

 

 

 悪魔の右手が上げられる。

 

 

「や、やめ――」

 

「まぁまぁ楽しめたよ」

 

 

 たった一つの目的、相手を叩き潰すためだけに腕が変形する。

 

 

「けどもう飽きたな」

 

 

 分かってしまう。彼の全力でさえ、この怪物には及ばない。冷徹に、過不足なく標的を仕留める一撃を淡々と組み上げていく。

 

 

「やだよ……、やだよ……」

 

 

 愚かなことをした。

 

 

 どうしてこの何の価値もない人間は、大人しく消えることさえできないのだろうか。

 

 

 この衝突で砂藤君は死んでしまう。

 

 出力された事実は打ち破れない無慈悲な現実となる。

 

 

 

「筋骨発条化、瞬発力×2、膂力増強×3、鋲、増殖、肥大化、槍骨」

 

(シュガー) D(ドープ)…… O(オーバー) D(ドーズ)

 

 

 衝突の瞬間の直前、

 

 不意に砂藤君の体から力みの一切が抜ける。

 

 

 

 

 

 

「……全てを撃ち砕く砂糖菓子の弾丸(シュガーバレット)

 

 

 

 

 

 私の動体視力ですら見えないその一撃。

 

 それでも私は本物のヒーローを見た。

 

 

 

「ば――――――」

 

「ぶっとべえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 怪物の腕が砕ける。

 

 

 そのまま瓦礫を突き破り、その轟音は長く続く。

 

 そしてその音が止み、私はただ茫然としながら呆ける。

 

 誰がこんなことを想像できただろうか。

 

 私の想像した現実を打ち砕き、砂藤君は私を助けに来てくれた。

 

 

 

 砂塵の中で姿を現した彼は、ぐしゃぐしゃになった右手を後ろ手に隠しながら、私の方に近づいて左手を差し出す。

 

 

 

「お前ならできるだろ?」

 

 

 

 私はそれに触れていいのかとためらって、伸ばしているのか引っ込めているのか分からない中途半端な位置で手を彷徨わせた。

 

 

「ほら」

 

「あっ……」

 

 

 彼の手が伸びて私の手を包む。

 

 その手はあまりに大きく、温かかった。

 

 ボロボロになりながらも力強く引き上げるその力は……、

 

 

 

「全く、……ヒーローという奴らは度し難いね」

 

 

 

 途中で途切れる。切れてしまう。

 

 

 あれだけあった力が不意に抜ける。

 

 ぴちゃりと私の顔に温かいものがかかる。

 

 

 彼の、からだが、斜めにずるりとずれて、ぼとりとおちる。

 

 

 むせ返るほどの赤がひろがる。

 

 とろとろと地面に流れて止まることなく流れていく。

 

 

 

「奴らのご都合主義は酷いものさ。丁寧に潰しても新たに湧いてくる。きりがないよ」

 

 

 

 遠くから聞こえる轟音。先ほどまで心操君が立っていた場所には誰もいない。気づいた時には遠い瓦礫の中に深々と空いた穴を残すのみであった。

 

 

「あぁ……、あぁ……」

 

 

 

 とうとう視界一面が真っ赤になってしまった時、

 

 彼の体から、規則的に流れ出るものすらなくなった。

 

 優しい鼓動は止まった。

 

 もう彼の目に光はなく、薄く開いた口からもう、細い息の一つも漏れはしない。

 

 

 

 

 心操君もサーも、砂藤君も、今ここに誰もいない。

 

 

 終わりだ。

 

 

 何もない。家族も友達も生きる理由も。

 

 

 これから世界がどうなろうと、もはや私にとって意味はなく、だからここで行き止まり。

 

 

 

 この先の物語に救いはなかった。

 

 

 

 

 

 

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