個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア 作:ばばばばば
主人公が取り返しのつかない大きな失敗を引き起こす数か月前
近い将来、本条桃子が何らかの大きな事件を引き起こし、砂藤と心操が巻き込まれると予知したサー・ナイトアイ、彼は二人が協力すればその事件で引き起こされる被害をなくせる可能性があると言い、協力を申し出たのであった。
「お前らが協力してくれれば、自分も、人々も、本条も救えるかもしれない。……どうだやるか?」
よく考えて答えろと問うサーナイトアイの言葉、その一言に砂藤は間髪入れずに返答した。
「やります」
余りにも迷いのない返答に、サーナイトアイは言い出した側であるが、眉をひそめた。
「……私はよく考えろと言ったはずだが? もちろんこの行為には危険が伴う。はっきり言おう、学校のサポートは当てにできない。この件は、ほぼ私個人の思惑で動いていると言っていい状態だ」
「そうですか。でもやります」
「……いいか何度も同じことを言わせるな。私はよく考えろと言ったんだ」
「もうここに来るまで何年間も考えてました」
あの事件から、ずっと考え続けていた砂藤にとって、結論は既に決まっていた。
サーはその答えに鼻を鳴らすと目線を横にずらす。
「さて心操、お前はどうする?」
一方で心操は苛立ったように貧乏ゆすりをしばらく続け、最後に唸るように答えた。
「……アンタの予知がどんなもんかは知らないが、俺にも被害が出るんだろ」
助ける義理はない。でも自分や誰かのためにやるならそれは仕方がないことだ。心操はそう悪態をついてから最後に答えた。
「だったら、やるよ」
「そうか……」
「だけどな、それは俺や誰かが被害にあう可能性があるから、できる範囲でなら協力するって意味だ」
すぐに返事をした砂藤とは対照的に心操はサーナイトアイへ疑いの眼を向ける。
「そもそも詳しい話も聞いてないのに危険がある? しかもアンタ一人で動いてる話だって? おかしいだろ。まず説明しろ」
「もちろん、説明ができないことも私一人で動いている事にも理由はある。……が話す時間はない。もう授業が始まるだろう」
サーは心操から目線を外すと時計を確認する。
「では、部活の活動時間は今日の放課後。場所は普通科の特別教室棟の奥にある教材倉庫室。物事は慎重を期す。ここでの会話は他言無用だ」
そういうとサーは踵を返し、砂藤と心操から来た時と同じ唐突さで消えていった。
残された二人は、サーが来る前に言い争いをしていたことを思い出すが、今になってはそれを再開させる気はおきない。
顔を突き合わせて話すこともないと心操はすぐに無言でその場を後にし、残された砂藤はその場で少し考え込むが、予鈴のチャイムを聞いてヒーロー科に戻るしかない。
結局、午後の授業に集中できるはずもなく、砂藤は放課後の時間までを落ち着かない気持ちで過ごすのだった。
そして砂藤は心ここに在らずなまま、放課後になって、すぐさま部室へ向かう。
「よく集まってくれた」
巨大校舎に数ある教室のうち、目立たない端にある一室、机とイスしかない物置部屋のような部屋で3人の男が雑に置かれた長椅子を囲んでいる。
サーの冗談の話は本当だったのか、机には折り畳み式の碁盤と碁石の入ったツボが置かれていた。
「我々の目的はこれから起きるであろう事件を防ぐことであり、このことは絶対に他言してはいけない。それは雄英のヒーローに対してもだ。対策は現状この3人だけで行う必要がある。私がそうお前たちに説明していたのは覚えているな?」
「それなんですがサー……、事件って具体的には何が起きるんですか?」
「そうだ。そもそもなんで俺達だけなんだ? その事件とやらに俺たちが関わるのは分かったが、どうしてこんな風にコソコソとしなきゃいけないのかが分からねぇ」
ここに来るまでに強引な手段で引き込まれた彼らからしてみれば、あまりに非合理的で不可解なことが多すぎる。
自分たち生徒が事件に巻き込まれるなら、何よりもまず雄英のヒーローである教師たちに助けを求めるべきであるし、その事件の詳細を教えてくれてもいいはずだ。
サーの思わせぶりな言葉の数々に対し、前のめりになりかけている砂藤と、訝しむ表情を隠さない心操、その二人を前にサーは静かに口を開いた。
「納得はできないだろうが、今のお前達にこれから起きることの詳細をすべて伝えることはできない」
この言葉で、二人のサーへの視線が険を帯び始める。
「おいおい、危ない目に遭いますと呼ばれて、それは通らねぇだろ」
「サー、みんなを救うためなんだろ。未来が視えるなら教えてくれ」
「落ち着け。昼休みに言ったばかりだろう。勿論お前らにまだそれが伝えられないことも、そして少数でことに当たるのにも理由がある」
誤魔化しは許さないという雰囲気でサーを見つめる二人に対し、サーは自分のペースを崩さずにゆっくりと答えた。
「これはもっとも重要な点だ。私達の目的は標的に露見してはいけない」
「バレちゃだめなのか?」
「いや標的って誰にだよ」
「本条にだ。まず前提としてあいつの個性は成長だけではない。私と同じ“未来を視ることができる”、おそらく複合型の個性だ」
「なっ!?」
「ハァッ!?」
砂藤と心操は驚きのあまり目と口を見開く。
「未来を視る? ホ、本条がですか……?」
「本格的にできることになったのは私の元に来た時だがな。あれから妙に運がいいとか、技術以外で説明できないようなことは感じなかったか?」
「あっ……」
砂藤はたしかにヒーロー事務所の職場体験後で彼女の様子が、明らかに変わったことを思い出していた。
「そして私の予知と本条の個性はお互いに干渉し合う。私が不用意に未来を変えようとすればアイツはそれに気づくだろう。我々はその裏をかく必要がある。本条が決定的な事件を引き起こす前にな」
「待ってくださいよ。本条が引き起こす……?」
まるで本条が原因でその事件が生まれるという物言いに、砂藤は声を荒げた。
「そもそも、なんで本条に気づかれちゃダメって……! それに標的って……!!」
「落ち着け。私も本条が望んで事件を引き起こすとは思ってない」
「望んで……!? まるでアイツが犯人みたいに! やりませんよアイツは、そんな……!!」
「……へっ、どうだかね。やりかねないって俺は思うが?」
嫌味な含み笑いをする心操に砂藤は我慢できずに睨みつける。
「おい心操……!」
「……まずは話を聞けと言っただろうが」
狭い室内にサーの鋭い声が響く。砂藤は大きく息を吐いて座り、心操は苛立ちながら目線をそらした。
「私が予知した事件とは、本条が能力で未来を変えようとして引き起こされるものだ。それを無理に変えれば逆にどのような被害が出るか予想がつかない」
「だったらなおさらアイツに直接話せばきっと……!」
「サーのいうことを信じるなら、説得に失敗したらリスクがデカいだろ。アイツがどうしたいかは知らねぇが、そのせいで大事件だぜ。あぁ、おっかねぇ」
おどけた様な心操に砂藤が再び反応しかけるが、それを遮るタイミングで、サーは会話を挟み込んだ。
「今すぐ本条の目の前に出るのは簡単ではある。……だが無策で奴の予知を遮ろうとするのは危険だ」
“よく聞け”
なんど言ったか分からない枕詞を添えて、サーは語りだす。
「そもそも私の予知とはなにか……」
サーはプロヒーローなら秘すべき己の個性の詳細をつまびらかにしながら、いつか語った内容を伝える。
プロヒーローが個性を開示するその意味を理解している二人は、黙ってそれを聞いた。
しばらくの説明の後、サーは言葉の最後にこう結ぶ。
「私の予知は万能ではない。予知の精度を高め……、観測するためには、指針となる明確な目的、判断を下すための情報、そして同じ意思を共にする仲間が不可欠だ」
「仲間ねぇ……。まぁいいけどよ」
「心操、オマエ、いい加減にしろよ……」
「……いちいちつっかかってくんな。協力する気はあるって言ってんだろ。何が不満なんだ?」
「いいか! 俺たちは本条を助けるために……」
「……まず出るのが女の名前か? 勘違いしてんじゃねぇぞ。目的は事件の回避だ。巻き込まれる誰かの安全は無視なんて、それはお前の勝手じゃねぇかよ」
熱を増していく言い争いに、コツコツと、指先でテーブルを叩く硬質な音が三度繰り返される。
「いいか、私は貴様らを仲間として必要としている。それが出来なければ最悪の形で未来が訪れる可能性があるからだ。この意味をもう一度考えてそれでも余計な諍いをしたいなら構わん、お前ら一般人は私の庇護対象だ。学校生活に今すぐに戻れ」
「……俺だって別に足を引っ張り合いたいわけじゃない」
「……すいません、サー」
サーは黙り込む二人を見て、眼鏡の下から目頭を揉んだ。
「よろしい、では続けよう。私の予知の説明はした。次は本条がどのような予知を行っているかという、現時点での私の考察だ」
本条という名を聞いて、二人の集中が自分に集まったことをサーは感じ取りながら、彼が職場体験での指導を経て理解した本条の能力について評じ始めた。
「お前らに言っておく。私と本条の未来視は別物、私の個性が定まった未来を視る予知だとしたら、本条の予知は望む未来を手繰り寄せる予測だ」
「……それって何が違うんだ?」
「説明は難しいが、私が視る未来は結果の未来、途中でどのような干渉があろうとそれを受け、既に確定した未来を他者の視点から視る。だが本条は自分が手繰り寄せようとした過程の未来を模索し、自分が望む結果へ行きつく過程を自分の視点を中心に見ている……はずだ」
「……どういうことだ?」
「サー、俺も正直分からないです」
本条の予知を実際に体験したサーは端的な説明を行うが、実際に未来を視ることの出来ない二人には、理解が及ばなかった。
「いや、仕方がない。実際に見られるものでもないから分からんのは当然だ。私は他者から定まった結果を、本条は自分から求める過程を見ている。そのことだけでも覚えていてくれ」
見て、体験しなければ分からない話であることを理解しているサーは、二人に対して要点だけを説明する。
「……ここで大事な点は予知の個性を持つ者が直接対立した場合、どうなるかということだが」
サーは机の上に置かれた碁盤を広げ、壺から黒の石を取り出し、最初に右上に置いた。
そのまま彼は凄まじい速度で白と黒の石を交互に盤面に打っていく。
「予知同士の争いは削り合いだ。お互いに未来が視えれば互いに最善手の打ちあいとなる」
右手左手で交互に迷いなく置かれていく白と黒の碁石は、僅かに話す間に200を超えていた。
「お互いの可能性を潰し、勝ち筋を広げあう……。互いの個性は加速し続け、だが続ければそれでも決着はつく……」
部屋には雨のように延々と石を打ち付ける音が続き、そしてそれは突然にピタリと止まる。
「もしも本条と私が条件が同じ直接勝負を行うなら、見た目にはギリギリ拮抗したうえで私が圧倒され負けるだろう」
二人には碁のルールなど知りはしなかったが、サーの言わんとすることは伝わったようで、盤面を見つめながら悩ましげに呻いた。
「まるで将棋だな……」
「いや、碁だっていってんだろ……。まぁ俺も碁は分かんねぇけど」
「……どのような理解でも構わん。とにかくアイツの個性は桁外れだ。情報の収集、分析、処理、どれをとっても私を上回る。正面切っての個性の削り合いで私に勝ち目はない」
黙り込んでいるが、不安と焦りが入り混じった砂藤と心操の表情は“ならどうすればいいのだ”という言葉を雄弁に語っていた。
「だが、世に五分五分の勝負などない」
サーは碁盤の端を持って傾けると、上に置いた石をひとつ残らず机に落とした。
「なら答えは簡単だ。不利を埋めるためこちらが有利な状態から勝負を始めればいい」
そういうとサーは黒い石を三つ握りこむ。
「本条の予知は見たい未来を手繰り寄せる。言い換えればあいつは自分の視たい未来しか見えない。……見たくもない未来が視える私と違ってな」
自虐的な笑みを浮かべるサーは四角の配置で盤面に描かれた九つの黒点、その中で三角を作るように三つの黒石を置いた。
「本条が視ている景色の外側、そこに隙がある。だから私は集めた。本条が目をそらした外側の人間を……、奴の観測から外れた者をな……」
その置かれた三つの黒石の意味をうっすらとだが、二人は理解した。
「なんども同じことを言ってすいません。……それでもやっぱり本条に直接説明してその事件を一緒になんとかするってことはできないんですか? このままじゃ大変なことになるって伝えれば、きっとアイツだって」
「…………何度も言うが私が視る未来は結果だけだ」
「サー?」
だがそれでも砂藤は諦めきれない様子でそう問いかけ、サーは少しの沈黙の後に答える。
「私が予知した未来で本条と協力しなかったという行動を逆説的に考えれば、本条と協力する未来に問題があるともいえる」
「でもサー……、あいつはそんな……」
「そう、どうして私がその決断を下したのか分からない。だからこそ我々は知らねばならん」
「……それは」
「最善の行動をするための判断を下すために情報を集めなければならない……。奴がこれから何をするのか、どうしてそれをしなければいけないのか、それらを私たちは見極める」
「……ですがどうすれば? 本条に怪しまれちゃ駄目なんでしょう?」
「俺たちはサーみたいに未来が視えるわけじゃないんだぜ」
サーは呆れた様にため息をつきながら、二人を指さす。
「貴様らは単純なことを見落としてるぞ。先のことがどうなるかを予測するとき、未来を視てから考えようとする奴なんて普通はいない」
「そりゃそうだが……」
「未来が視えるサーが言う言葉じゃないでしょう」
「この際、私の予知は一度捨て置け。お前たちを選んだのはなにも未来でこの事件に巻き込まれることや、本条から距離をとられていることだけが理由じゃない」
答えを安易に欲しがる生徒に対する教師のようにサーはゆっくりと二人に言い含める。
「 “結果には原因がある。現在は過去の選択で存在し、これから行われる選択は過去の積み重ねで決まる” ある者が言うにはだがな……」
サーは眉を寄せて考えを絞り出そうとする二人の表情をみてから口を開いた。
「自分の知る本条について、それをこの場にいる者に伝えろ。もちろん私も含めてな……。本条桃子とはどういう人間なのか、私たちはもう一度、考え直す必要がある」
その言葉に砂藤と心操は僅かに目を逸らす。一方は悔いるように、もう一方は憤怒の感情を淀ませながら。
「……と言っても、今それを言えと命令しても素直に話せる雰囲気ではなさそうだ……」
「いいや、俺は構わないぜ。あの女は俺を利用するために近づき、間抜けな俺は騙された。それだけの話だからな」
自虐的な表情を浮かべながら心操は口に弧を描き、しかし目は笑わずに言葉を吐き捨てる。
「……では聞くが、奴にどのように騙されたんだ?」
「あ?」
「どのようにお前と本条は出会った? そして何故お前は本条に心を開いたんだ?」
「それは全部アイツの虚飾だ。あいつの嘘ついた部分を話したって意味はねぇだろうが……!」
質問に対し、怒りに震えながら話す心操を見て、サーは一旦視線を外し、砂藤の方を向いた。
「砂藤、お前はどうだ? 彼女の過去を洗いざらい話せるか?」
「あ、あぁ。それがアイツのためだってんなら俺は……、話せる」
「なぜアイツは変わった? お前はその瞬間を見ていないのか? 本条の悪辣な部分があったんじゃないか?」
「そんなの……! アイツは本当は良い奴で……!!」
砂藤の脳裏に過った雄英でみせた残虐な部分、それより昔にみた葬式での彼女の姿。しかし砂藤がその姿を思い出しかけた時には頭を振って、彼女がそんな人間ではないと否定した。
「……やはり、今聞いても難しいだろう。先入観に捕らわれすぎた視点では事実にたどり着けるとも思えない」
サーの言葉に二人は抗議の声を上げようと立ち上がるが、彼らは自分達の中のわだかまりが邪魔をして上手く話せない。サーはただ静かに見返して口を開いた。
「……お前たちは口で協力すると言ってもまだお互いを信じていない。これ以上は時間の無駄だ。お前たちがどうしたいか……、少し冷静になって考えるんだな」
そう言って、椅子から立ち上がり、そのまま部屋を出ていこうとするサーに二人は納得がいかないといった表情でその背中に噛みつく。
「サー、そもそもアンタがそれを言えるのか? アンタの予知だって眉唾だ。未来の詳しい話も教えない、他に協力を求めちゃダメ、自分だけ何もかも知ってるような面して信用だけはしろなんて虫が良すぎるだろうが。どうせ本当は俺たちなんて信じてねぇんだろ?」
「……コイツの言葉に同調するのは癪ですが、俺だって未来を教えてくれるなら今すぐなんだってやります……!」
「互いを信じる? そいつをアンタが言えんのか? 何も話さないアンタの何を信じろっていうんだ。アンタはいったい何がしてぇんだよ」
サーは部室の扉に手をかける直前、最後の心操の言葉に立ち止まり、ゆっくりと振り返り、二人をみる。
「何もかも全部救ってやる」
自分が何者だと思っている。当たり前のことを聞くな。
そんな空気を纏うサーを見て、自分たち二人も彼の言う全部の中に入っているのだろうと感じ、それすらも自分達が軽く見られているのだと思えて苛立ってしまう。
「まずはお前らは少し余裕を身につけろ。話し合いの度に言い争いを挟んでまともに議論が進むわけがない。簡単に言えば素直に歩み寄れ。お前らの向いてる方向はそう違わないのだから」
その不満を見抜いてか、サーは実に性格が悪そうに口の端を持ち上げると、最後にそう言って部屋を出ていく。
残された砂藤と心操。
歩み寄れと言われた二人であるが、視線は一切交わらない。
「……っち」
長い沈黙の果て、心操は立ち上がり扉へと向かいはじめる。
「どこ行くつも……」
砂藤は思わず出た言葉を途中まで言いかけ、その問いの無意味さを自覚して言い換えた。
「いや、どうするつもりなんだよ」
そう問いかける砂藤に心操は目線を少しだけ向ける。
「正直サーのいうことは一理ある。だが、俺とお前の気が合うとは思えねぇ。多分お前も同じだろ?」
「……いや、俺たちが争っても仕方がねぇ。……協力でも仲間でも、やらなきゃいけねぇだろ。俺は別にお前のことを……」
「……っは、お前、今の自分の顔を見てみろよ。それが協力する仲間に向ける顔か?」
心操にそう言われ、その顔を撫でた砂藤は自分もどう繕っても心操の態度へ怒りを隠せていないことを自覚した。
それはつまりどうしても目の前の男と彼が相容れない部分であり、詰まるところ
「アイツは良いヤツだ」
「いいや最低の女だね」
この一点に尽きる。
そこが彼らの
互いににらみ合いが続いた後、ふと心操は虚ろな笑みを浮かべる。
「そういうことだ。これ以上会話は必要か?」
彼の言った言葉に間違いはない。これ以上言葉を交えても争いにしかならないことは明白だった。
「じゃあ、なんでサーの誘いに乗った? 本条の為に手を貸すような……」
「……何度も言うがテメェのその勘違いを正すことだ。まず自分の身にも危険が及ぶかもしれねぇし、単純にそんな大事件を防げるなら防ぐのは当然だろうが」
「なら本条はどうなってもいいのか?」
「……うっせぇな! アイツなんてどうでも!!」
途中で気まずそうに言葉を濁した心操は砂藤から目線をそらし、乱暴にドアを開ける。
「頼むよ……。アイツを笑顔に出来たお前が……、アイツを救わないなんて言わないでくれよ……」
砂藤は懇願するように小さく呟く。それは彼のむき出しの本音であるが、それが心操に伝わったかは分からない。それでも彼は祈るように彼に言わずにはいられなかったのだ。
「……知るか、こっちはヒーロー目指して忙しいんだよ……」
そう吐き捨てて、背を向ける彼をこれ以上留める言葉を砂藤は持っていなかった。
残された砂藤はただ一人、小さくなることしかできない。
彼女を救えるかもしれないという可能性。自分は何だってやると思っても、こうも上手く行かない。
「また、余計なことを考えてやがる……」
サーの諫言を受け入れない。彼女を否定する心操を信じきれない。頭でわかっていてもプライドが邪魔をする。
結局、自分は彼女を救いたいのではなく、自分が救われたいだけの矮小な人間なのではないかと、自責的な考えに囚われた砂藤。
「ふんっ!」
彼は突然全力で己の頬を殴りつけた。
誰もいない部屋に響く骨同士の衝突音、ちらつく意識のまま砂藤は歯を食いしばり、血反吐を飲み込む。
「……いらねぇよな、そんなもん」
覚悟が、信念が、実力が、何もかも足りていない。だというのに一人前に無為に嘆くことだけには長けている。
「やれることは全部やれ。やれなくてもやれるまでやれ。それがヒーローでもねぇ俺の最低ラインだ」
自分に言い聞かせるように呟いた後、砂藤は立ち上がる。
「まずは心操と仲良くならなきゃな。気に食わねぇ奴だが、なに、俺ほどじゃねぇよ」
なにせ自分は一度、彼を認めている。
根っこのところでは尊敬までしていたのだ。
そう思いなおした砂藤は、これからどうするかを考えながら部屋を出た。