個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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疑問

 

 サーはカップを置いて、静かに話を始めた。

 

 

「ではこれから俺が視た未来、その断片を伝えよう。あえて隠しているわけではない。全容を把握していないのは俺も同じだからだ」

 

 

 その言葉に二人の顔つきが変わる。

 

 

「二月……、いや三か月後に、その事件は起きる。判別できない程に損壊したビルの残骸、恐らく街中……、その瓦礫の上に立つ本条、……そこには何人かの人影があり、私達の姿もあった」

 

「……何人か? 俺たちとアイツ以外に人がいるのか?」

 

 

 ここに至っては何故自分がそこに巻き込まれているかは置いておき、サーの表現に違和感を感じ指摘する心操。

 

 

「……そうだな、もう一人いる。そいつは……、間違いなく私たちの敵だ」

 

 

 限られた情報から、冷静に分析を行っていた先ほどの口ぶりとは違う断定的な言葉。

 

 

「破壊の後の中心に悠々と立ち、私たちはその男と対峙するように立つことになる……」

 

 

 視線を宙にさ迷わせるサーは一旦口を閉じ、それ以上の言葉は紡がれない。

 

 

 

「それじゃあ、本条がやったなんて言えないじゃないですか!」

 

「……それだけじゃねぇってことか?」

 

「……あぁ」

 

 

 二人の言葉に、サーは言葉を続ける。

 

 

 

「本条が立つ場所はこちら側ではない。その敵の隣に立っている。私達と向かい合うようにな。奴がそこに至る前に、個性で街への破壊行為を行っている瞬間も見た」

 

「本条が……、そ、そんな馬鹿な!?」

 

「……断定はできねぇが、そういう風に振舞う理由があって、向こうについてるってことか?」

 

「洗脳、あるいは本当に敵に寝返ったのか……。なんにせよ、その理由を解明できる程、我々は本条を知らない、だからこそ互いに話さなければいけない訳だが……」

 

 

 

 サーは拳を強く握り込む、砂藤を見る。

 

 

「……どうする、ここで一回休憩を挟むか?」

 

「別に外の空気を吸いたきゃ出てきていいぜ」

 

 

 気遣いではない。まずこの情報を呑み込めないなら、この場の話し合いには出るな、砂藤はサーと心操の言葉をそう受け取った。

 

 

「いや、続けようぜ」

 

 

 その一言を何とかひねり出した砂藤は息を整え、心操はそれを確認してから口を開いた。

 

 

「といってもどうすればいいんだサー? アイツのことを話すって言ったって、そんな大事件起きるってなら、せめて事件が起きる前後の時間だけ保護するとか出来ねぇのか?」

 

 

 前回集まった時にサーが話した“本条桃子がどういう人間なのか分析を行い行動を予測する”という目論見。しかし話を聞けば状態は思った以上に切迫しており、そのような悠長なことをしている余裕があるか疑わしい。

 

 

「もしその行動が事件を引き起こす切っ掛けになるとしたらどうだ? 私達の行動がさらに状態を悪くする可能性はゼロではない」

 

「だが、何もしない所為で事件が起きちまったら……、いや、この話に意味はないのか……。つまりは情報が足りないという話に戻るってことかよ」

 

「理解が早くて助かる」

 

 

 思考の堂々巡りを繰り返すしかない難題に心操は頭を痛めた。

 

 

「なぜアイツがそうなるのかが分からない。結局はそこか……。そもそもアイツは未来が見えるんだろ? なんでそんなアホみたいなことに……?」

 

「……これは私の個性から見た推論だが、奴が理想の道筋を見つけても、その通りに動けるかはアイツ次第なのだろう。職場体験中にそのような光景を見た」

 

「……つまり自分の理想の結果に向かって動いたらミスして、そのザマに陥ったと?」

 

「おそらくだがな。全く杜撰で迂闊な奴だ」

 

 

 軽口のように此処にいない人物の悪口を言う二人ではあるが、砂藤は口をはさまずに黙りこくったままである。

 

 

「……本題に行こうぜ。なんでアイツがそんなことをするのかって話だが……」

 

「そうだな、とにかく奴は矛盾だらけの行動をとっているが……、私が考える奴への疑問は三つある」

 

 

 サーの話す言葉に苦い気持ちになる心操ではあるが、努めて冷静に話を聞こうとする。

 

 

「まず第一の疑問だが、なぜこんなにも奴は“ヒーローになること”に固執しているのか、その動機が不明だ。一応考えられる理由がない訳ではないが……」

 

 

 だが、サーのその言葉を聞いて、心操のその努力はむなしくも破られた。

 

 

「あんなことしていい理由があるってなら、ぜひ教えて欲しいもんだぜ」

 

「まずは、そこからだろうな。ヤツの過去についてだが……」

 

 

 心操の態度を見て、サーは流石にこのことは自分が話すしかないだろうと口を開きかけるが、その直前に横やりを入れられる。

 

 

「まってくれサー、それは俺から言わせてくれないか……?」

 

 

 いいのか? そんなサーの無言の視線を砂藤は真っ向から見返す。

 

 

「そのために俺を呼んでくれたんだろ?」

 

 

 ここにきてようやく口を開いた砂藤。

 

 サーは一瞬迷ったような様子を見せるが、砂藤の顔を見て、その役目を譲ることに決めたのか腕を組みなおした。

 

 

「なんの話ってんだよ……」

 

「あいつの昔の話だ。まぁ、うまく纏められてねぇのは悪いが、ゆるしてくれ」

 

 

 調子はずれの明るい声。

 

 

「むかし……、そう、むかし、初めは野球で一緒に遊んで俺はアイツと友達になったんだ……」

 

 

 この話はおそらく、きっと、暗い話だ。

 

 目の前の神経が図太そうな大男の怯えの震えを誤魔化そうと引きつる声を聞きながら、心操はそんな予感を抱く。

 

 

「砂藤、やはり私が話すか?」

 

 

 途中そう問いかけるサーに砂藤は小さく首を振ってから、話し続ける。

 

 

「いや、言わせてくれ。言いたいんだ」

 

 

 そんな整理もロクにされていない思い出話をとつとつと語られ始める。

 

 

「明るい奴だったよ。妙に男子ともウマがあってな。他の友人のじいちゃん引っ張り出して監督なしで地元の少年野球の大会に殴り込んでな。アイツが一番で俺が四番ピッチャー。必ず一回の攻撃の時は二点もぎ取って地元じゃ敵なしだったんだ……」

 

 

 心操は本条の過去を知る。

 

 初めに語られるのは出会いの話。何をして遊んだの何処へ行っただのという、何でもない子供の思い出。内容は牧歌的でありながら、砂藤の声には深い後悔が滲んでいた。

 

 一通りの思い出を語り終わった後、舌を震わせながら砂藤の口は固まる。

 

 

 

「……ある日、本条はヴィランに襲われた。一緒にいた女の子が殺された。 そいつは本条の親友だったよ。本当にひどい殺され方だった。あっちゃいけないことだった。あんなことこの世で許されていいはずがねぇってぐらい酷い死に方だった」

 

 

 長い時を待ち、意を決したように砂藤は語った。

 

 一度口を開いてしまえば止められないと、砂藤は理不尽に対する怒りを滲ませながら語調は激しいものになっていく。

 

 

「あんなひでぇことがあったのに、その後もアイツは追い詰められた……。物見気分の大人が集まったんだ……。そんな余裕なんてねぇだろっていうのにアイツの周りに話を聞き出そうと沢山の大人が……。だっ、だけど、それだけじゃねぇ。それだけじゃなくて、そもそもアイツがあんな目にあったのは……」

 

 

 途中、砂藤は声を詰まらせ、まるで火に熱されたかのように汗を流すが、顔だけ真っ青になっていた。

 

 

「……おおよそ分かった砂藤、もういい」

 

「違う、違うんだ。違うんだよサー、まだ悪い奴がいるんだ……。本当に悪くて卑怯なヤツが……」

 

「奴の過去の話は十分聞けた。今は少し休め」

 

 

 そう言われた砂藤はそれでも何かを吐き出そうとしたのか、口をパクパクと開きかけた。

 

 大きく喉を鳴らして、言いかけた言葉を飲み込んでしまった後、砂藤はまるで信じられないものを見るかのように自分の掌を見つめ、脱力してしまう。

 

 

「……あの日以降あいつは街を去った……。それから丸3年、体だけはいっぱしに鍛えて俺はヒーローの免許を取るために雄英に来て再会した。……こんなとこか。自分語りばかりでだせぇな……。そんな余計な話いらねぇっつーのに……」

 

 

 砂藤は大きく息を吐いたあとに、話しつくした反動かのように椅子にもたれかかる。

 

 

「いや、事件の話は調べれば出てきた。むしろお前の視点から見た話こそ貴重な情報だ。感謝する砂藤」

 

 

 話を纏めればこうだ。

 

 子供時代に親友をヴィランに殺され、数年後に現れた彼女はただひたすらにヒーローになることに執着するようになっていた。

 

 なぜ本条がヒーローに執着するかという第一の疑問。

 

 そこから導かれる動機は非常に分かりやすい。

 

 しかし心操はそのことについて考える前に、目の前の男が言う余計な話にひどく動揺させられていた。

 

 

「……つまり奴がヒーローを目指す動機は普通に考えれば贖罪、あるいは復讐だが……、私はこれが正解だと思えない」

 

 

 話を最初の議論へと戻すサーは、砂藤の話でさらに確信を深めたように本条の人間性をプロファイリングしていく。

 

 

「あいつは復讐に身を投げうつほど強くもなければ、贖罪のためとはいえ人を踏みにじれるほど弱くもない。そうだな、普通の……、どこにでもいる普通の少女だ」

 

 

 心操はその言葉を聞いてほんの少し口を開きかける。

 

 

 アイツが普通? そんなわけがない。

 

 じゃあ自分への仕打ちは何だったというのか?

 

 

 そんな言葉を言おうとするが、彼女の過去を知り、どうしてもその一言が言えないことに心操は焦りを覚える。

 

 彼女への怒りは今自分を動かしている唯一の原動力でありながら、感情に任せて否定することも、ありのまま認めることもできないジレンマに心操は陥っていた。

 

 

「どうして……!」

 

「そうだな心操、それが疑問の二つ目、奴の支離滅裂な言動だ。人に近づいたと思ったら、今度は脈絡もなく拒絶する」

 

 

 あえてなのか素なのか、心操を宥めすかすように理屈の話に持っていくサーは、冷静に考えることを止めない。

 

 

「それらしい理由をつけるなら、過去に親友を失った負い目からもう親しい者を作らず孤独になっていた……、と言う風に言えば傍から見る人間は納得するだろうが……」

 

 

 砂藤から見ればそう不自然でもない理屈。だが、心操から見て彼女がどう映ったかと言えば、

 

 

「アイツはそんな器用な人間じゃねぇ……、なんて思ってたよ。最初はな」

 

「だろうな。私も同意見だ。どんくさい上に人懐っこすぎる……。個性がなければ相当のたわけだぞ」

 

「そうじゃねぇ。それはあいつの演技だった。アイツはそういう女だ……!」

 

 

 いつもならそこでムキになって否定してくる男はあれから黙り込んだまま。

 

 

「じゃあ次の話は俺の番ってわけだ」

 

 

 心操は項垂れる砂藤を見ると静かに前を向いた。

 

 

「まぁ俺の話はすぐ終わる。付き合いは数週間程度だ。語る程のかかわりがあるわけじゃねぇし」

 

 

 そんな言葉とは裏腹な重くのしかかるような声に他の二人はそこに込められた感情を読み取った。

 

 

「俺の場合は偶然……、いやちげぇな、思えば全部分かっててアイツは俺に近づいた」

 

 

 心操は彼女の悪性を証明するかのように口を開き、彼女が行った行為を告発していく。

 

 

「初めは、寂しい奴って思ったんだ。毎日一人で飯食ってるような孤独なやつ……。なんとなく目が離せなかった。それが無性に目について話しかけた。今になって思えば俺の同類を演じてたんだろうな」

 

 

 突然自分の周りに現れる理想の友人。

 

 

「全部俺が言って欲しい言葉だった。こんなに俺に都合のいい奴がいるんだろうかって怖くなって、それでも気づけば目が離せないぐらいアイツのことが気になっていて……」

 

 

 心操の心の傷につけこんで信頼を得た。

 

 

「それで不要になったらポイだ。しかも捨てただけじゃねぇ。俺の夢を閉ざすように念入りに踏み潰してから嘲笑った。きっとあの戦いが俺の個性のおかげじゃなく自分の力だって見せるために俺を潰したのさ……」

 

 

 利用するだけ利用する。

 

 それもただ利用するだけではない。考えうる限り最悪の方法とタイミングで心操の夢を踏みにじって裏切ったのだ。

 

 

「俺はアイツに騙された……。ようはそれだけだ」

 

 

 その端的でありながら端々から感じる恨みつらみに砂藤は何も言えなくなってしまう。

 

 砂藤はその言葉に、他者を信頼することが出来なくなった心操の心の棘を嫌でもわからされた。

 

 だがそれと同じように砂藤にも、彼だけが持っている真実がある。

 

 

「……なぁ心操、でもお前、あいつと仲良かっただろ? クラスメイトの奴らと違って、お前だけは特別だったと俺は思うぜ」

 

「だからアイツとは……」

 

「いや、良かったさ」

 

 

 反射的に否定しようとする心操だが、砂藤のあまりにも静かな目を見て、言い返すのが遅れてしまう。

 

 

「お前と話してる時のアイツを見たよ。俺はな、あの時確かに救われたんだ。あぁ、あいつにもあんな風に話せる奴が一人でもいてくれたんだってさ」

 

 

 それは懺悔の祈りが報われたような、控えめな笑みであった。

 

 

「……でもウソだった」

 

「俺はそうは思わない」

 

 

 二度目の異議。心操は砂藤を睨む。

 

 あの裏切りすら否定し、自分から奪うつもりなら心操は黙るつもりなどなかった。

 

 

「普通に笑うアイツ、あの顔、お前に見せた笑顔に嘘はなかったと思うぜ」

 

「どうしてそんなことわかんだ?」

 

「そりゃ見たことがあるからだよ」

 

 

 砂藤の言葉は少しだけ棘を含みながら、そしてその自分の感情に気づくと笑いが堪えきれなかったように冗談めかして話す。

 

 

「お前の横で見せてたあの笑顔は、昔は俺の横にあったんだぜ? ……いや、なんでもねぇハハ、なに言ってんだろうな俺」

 

 

 心操は不意に、この男があの女の昔馴染みだという話を今更になって思い出した。

 

 何か言い返そうとしながら言葉を詰まらせた心操に、そもそも自分は何かを言う資格はないのだと黙り込む砂藤。

 

 

「……人は自分というフィルターを通してでしかものを見れない。砂藤には砂藤の、心操には心操の見える光景がある……。もちろん私も含めてな」

 

 

 そんな二人の間に流れる沈黙を破ったたのはやはりサーだった。

 

 

「砂藤の言う善良な面、心操の見た悪辣な面、矛盾するがどちらも事実は事実だ。まぎれもなくアイツの起こした行動だ。……そういう意味で考えれば、私の見た光景はそれらが混じったモノだった」

 

 

 そういうとサーは理路整然と自身が体験した7日間の出来事を語る。

 

 

「私は本条を、私と同じ“予知”の個性を持つ者と思いスカウトした訳だ」

 

 

 砂藤と心操が知らない、彼女の一面、先々の可能性を模索する埒外の能力とそれに振り回される少女の話。

 

 

「奴は明らかに自分の個性に振り回されていた。そこでその制御の仕方を模索していたわけだが、やはり不自然だった。隠す……、というより言えないように私には見えた」

 

 

 唐突に心変わりが行われる彼女の二面性。

 

 

「それでも私の元で少しはマシになったかと見れば、別れ際であのザマだ。全くつまらん話だ」

 

 

 サーは二人のように感情に振り回されることはないが、それでも面白くなさそうに口を歪める。

 

 

「砂藤の言うようにヒーロー科で孤立を選ぶのも、心操を利用したのも、それ自体はアイツの言うプロヒーローになるという目標とやらに沿っているようでズレている」

 

 

 言われればそうではある。

 

 人を傷つけないように孤立を選ぶなら心操にそのような仕打ちはおこなわないと信じたい。そして心操を利用したようにヒーローになるためなら手段を選ばない狡猾さがあるなら、砂藤が見ているヒーロー科での振る舞いは不自然だ。

 

 

「私の職場体験の時もそうだった。アイツはもともとヒーローに関心……、いや期待か?……、とにかく心を許していない。実習中もヒーロー事務所に来たというのに全く興奮も気負いも見せないヒーローへの興味の薄さ。それは自分の才能への傲慢かとも思えばその態度は真摯。まるで嚙み合っていないチグハグだ」

 

 

 砂藤と心操は思い返す。何よりヒーローに執着している様子は幾度も見たが、その目的が全く見えない不自然さ。

 

 

「言ってしまえば、ヒーローになんて微塵の興味もない癖に、何よりヒーローになりたがっている。しかもヒーローになった後の展望もない人間、そんな矛盾の塊が本条桃子だ」

 

 

 サーが言語化することで、その違和感への確信がさらに強まっていくがもう少しというところで答えが出ないもどかしさ。

 

 

「時に甘いと言えるほどの行動を見せたかと思えば、残酷な選択を冷徹に行う。その表裏の切り替えが唐突に行われる。正直に言えば二重人格を疑うレベルにな」

 

 

 サーの突飛な冗談で言われた一言に、砂藤の一瞬だけ記憶の中の何かが掠めるが、心操の固く乾いた笑い声にすぐに現実へと引き戻される。

 

 

「ハッ、犯人は実は二重人格でしたってか? 推理のオチとしては三流もいいところだな」

 

 

 砂藤も心操と同じようにその可能性はないと切り捨てようとした。

 

 そうと思い、心操の言葉に続こうとしたが何かが記憶に引っかかった。

 

 

「現状、一つ目の疑問である本条の目的、二つ目の疑問である本条の行動、それらを繋げる答えは出せない」

 

 

 彼女の目的、普通に考えるなら、それは復讐、拒絶、贖罪、といった所ではある。

 

 

 だがそれは心操とサーの話を聞く内に不自然に砂藤も思えてきた。

 

 

 仇や敵に対しての復讐? 怒るより先に、泣き出してしまうような女の子だったのに?

 

 一人でいるのが好き? 本当は誰よりも怖がりで、臆病で、さみしがり屋な人間がか?

 

 友への償い? あり得るだろう。だがその償いのため他者を害するような奴だったか?

 

 おかしい。どこかに見落としがある。

 

 しかし、その疑問を見つけるにはピースが足りない。

 

 

「……だからこそ三つ目の疑問だ」

 

「三つ目ですか……?」

 

「先ほども話したが、そもそも本条の個性は“成長”という枠にはおさまらない。望んだ未来を観測し、磨いた能力を伸ばしていく複合型の個性……。いったいそんな無茶苦茶な個性を何て呼べばいい?」

 

「……そりゃ、きっと俺たちの知らないような強個性だとは思うが……」

 

「奴の個性……、『それ』はいったいなんだ?」

 

 

 サーの問いかけに誰も答えられない。

 

 

「おそらく鍵を握るのはそれだ……。そしてそれを暴くのは最も本条に近いが、決して見られないお前の役目だ砂藤」

 

 

 指を指された砂藤はしかし、それを本当に自分ができるのだろうかと思ってしまう。

 

 幼いころの彼女の個性、それを真に見た時が砂藤には確かにあった。

 

 

「本条桃子の本当の個性を探れ」

 

 

 一瞬だけ引っかかる遠い傷、自身の心の奥の奥に鍵をかけて隠した記憶。

 

 

 それを紐解くことに怯える自分自身に気づかぬよう、砂藤は無意識に大きく声を張り上げて返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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