個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア   作:ばばばばば

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最速ヒーローRTA_113925時間24分51秒_Part11/11

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ、今日は入学式だ。ふるっていこう!!」

 

 

 時は春、さくら散るが木の芽は青い。別れが終わり新しい出会いを予感させる。

 

 

 スーツなしの生身の私は車の中で明るく腕を突き出すが、車内から帰ってくる返事にはやる気を感じさせない。

 

 

「はぁ……、お前んとこの入学式は午後からだったか……。あれだろ?東の雄英、西の士傑に対抗するって作った中央のヒーロー科学校だってヤツ」

 

「東京の郊外に天文学的な富を集中させ、ぶち立てたアレ? いやぁ、私校長先生になっちゃったね。初めは緊張でスピーチも上手く出来なくて……。今年はトガちゃんも来るからいいこと言わないと……!」

 

「あの子か……。ちょいちょいお前が会いに行くから俺も会うけど、あんないい子が、あの学校に行くなんて……」

 

 

 意外にも分倍河原さんとも仲良くなったトガちゃん。年の差を超えて友達になった彼らは、何気ない会話を携帯でしているのを時々見かける。

 

 正直最近私への連絡より多くて少し悔しい……。

 

「……なんだよ、本当のお前の所在が分かんねぇからとりあえず俺に連絡が来るだけだ。お前の本体がどこにいるのか分かんねぇのを反省しろ」

 

 

 私達はそれぞれの役目を必要によって変わっている。そう言われては引き下がるしかない。

 

 私はその指摘をわざと聞き流して、もともとしていた話題に逃げる。

 

 

「でもすごくいい学校なんだよ? ちょっと個性的な学校なだけで……。ほら外典君とかいたじゃん! 彼この前ヒーロービルボードランキングに乗ってたし、この前母校を褒めてたよ! ほらこの記事!」

 

 

 たまたま自分の学校について書かれた雑誌を後で見ようと買っていた。

 

 その本の記事の一つを分倍河原さんに見せつける。

 

 

「えーっと、なになに、“ランキングに乗ったが、あそこを褒めろと校長に金を積まれた。あの学校を褒めろと言われ絞り出すなら一点だけ、この日本でもっとも自由な学校だ。校長に目を付けられた生徒は特別に一つのクラスに集められた。そこは半分以上が道をたがえれば(ヴィラン)”になるような者達ばかりで、教壇に立つのは教師とも呼べぬ(ヴィラン)、教育と称した体罰も日常茶飯事、そこは日本一無法な場所だった。” ……これゴシップ雑誌じゃねぇか」

 

「で、でもうちの学校、卒業してヒーローになった子も現場で即戦力と評判だし……」

 

「そうは言うけど、ヒーローになったやつ半分も居ねぇじゃん」

 

「し、就職進学率は90%だもん」

 

「いうほど高いか? それ?」

 

 別にヒーローになるだけがヒーロー科ではない。友情を育み、個性を生かす授業を通せば、それを生かした場所を見つけることもできている。

 

 

「でもそれ、お前の系列の会社だったり、ヒーローもお前の息が掛かったところだし、マッチポンプじゃ……」

 

「就職進学率なんて飾りだよ! 大事なのは個人の満足度! それならウチは100%だから!!」

 

 

 なんやかんやみんな楽しそうに働いている。

 

 それだけは間違いないと言いたい私は分倍河原さんに食って掛かる。

 

 

「そこでたヒーローに学校の授業でマジの犯罪者と戦わされたって聞いたぞ。マジもんの(ヴィラン)が学校に平然といるって話も聞いた」

 

「実践主義と言いなさい。それに彼らは犯罪者じゃなくうちの系列病院の精神疾患の患者様で、学生は戦わされたのではなく貴重な医療体験としてのボランティアだから。地域の病院とも交流する生徒の精神育成も兼ねた我が校の素晴らしい伝統だから……」

 

「建ったばかりで伝統もクソもねぇだろ。それに先月、シガラキのあんちゃんが率いたグループが、学校で雇った職員……、あのトカゲが個性のヤツと共謀して脱走しかけたじゃねぇか」

 

「あれはヒーロー科の抜き打ち訓練、……いいね? それに私の不在になる日程が漏れたのはあなたが喫煙所で彼にバラしたからでしょ」

 

「……いや、アイツ、話すと割と良いヤツでよ」

 

 

 あれは本当にまずかった。

 

 いくら私が国と癒着まがいのことをしていても、被害が出れば隠し通すのは難しい。更生プログラムの一環という砂上の楼閣が消し飛ぶところだった。

 

 

「無茶苦茶言いやがる……。あの事件を隠し通すのにどれだけの金を握らせたんだか」

 

「やだなぁ……、清廉潔白ないちヒーローになんてこと言うの。このヒーロービルボードチャート10位の“RTA”に向かって」

 

「入れたのはかなり前の年のそれ一回だけだろ。巷では“金で手に入れた偽りの順位”ってもっぱらだったぞ」

 

「事実だろうが構わないね……! あの年は開校の客寄せに知名度が必要だったんだもん」

 

「開き直りやがって……。その年のヒーローとしての実績が違法駐車の一件だけで受賞とか相当巷で炎上してたくせに」

 

 

 商売に対し余りにも貧弱なヒーローの実績という痛い所を突かれ、私は逆上する。

 

 

「そ、その年は会社の切り盛りで忙しかったの! 公の場所で同時に二か所に存在してたら怪しまれるでしょ! ヒーロー向けの保険会社とか、住宅斡旋のための建築業、ヒーロー事務所の設立の融資のための金融会社、ヒーローの家族を守る警備会社の設立とか! もう体がいくつあっても足りなかったんだからね!」

 

 

 捲し立てる私を全く気にせずに彼はいつものペースを崩さない。

 

 

「あー、あの、ヒーロー向け生命保険とかあったなぁ。ヒーローのためとは言えあんな高額の死亡保険金や障害の見舞金で利益出んのか?」

 

「ふふ、私が彼らを守れば、保険料は丸まるポケットインだよ」

 

「阿漕な上、やり方が汚ねぇ……」

 

 

 せめて商魂たくましいと言って欲しい。それに結局ヒーローの福利厚生に反映しているんだから聖商と呼ばれてもいいほど私は清らかだ。

 

 

「まっ、そのせいでもともとそっちで似たようなことやってたヒーロー協会と喧嘩しかけたけど、私の顧客であるヒーロー達が庇ってくれたし……」

 

「自分の事務所の資金繰り握ってる大本の顔を窺ってただけだろ」

 

「ち、ちがうもん……!」

 

「しかも、そのせいで無茶な注文もしてきたのを俺は見てるからな。学校の教師になれだの、生徒のインターン取れだの……」

 

「商談の結果、握手の上での円満な合意だから……」

 

 

 私が負け惜しみの様に呟くと、彼はため息をつく。

 

 

「それにヒーローばっかり増やしたってしょうがねぇだろ。今、ヒーローはお前のせいで閑古鳥が鳴くんじゃねぇのか?」

 

 

 その一言を私は否定する。

 

 

「ううん、重個性犯罪は減ったけど軽個性犯罪はむしろ増えてる。悪の御旗としての統率者は潰え、だからこそ悪は二分した。……軽挙に走った敵とさらに闇に潜んだ敵に分かれただけ。いずれこの社会は試される。だからそれまでみんなが強くならないと……」

 

 

 彼の一言に私が真面目に答えたというのに、向こうはこちらに向かって呆れた顔を見せる。

 

 

「裏でその悪と繋がってるお前に言われてもなぁ……。あの警備会社とか建築業者も元はヤクザだろ。世も末だぜ」

 

「働き口を作って真面目に更生をうながしてるだけですー」

 

 

 対個性犯罪者に特化した警備会社。今は警察にも配備されるデトラネット社と共同開発したハイエンド品を一般の会社に配備する許可を国からもぎ取るのには苦労したものだ。

 

 

「前行った警備会社に指示出してた若い男、部下を引き連れてお前を睨んでたやつだよ。どう見ても堅気には見えなかったが……、あの時は肝が冷えた。ていうかアレ俺ら襲おうとしてなかったか?」

 

「あれは少し気合の入った挨拶で襲撃ではない……。そんな事実を我が社は確認してません……」

 

 

 支部が治崎さんの親派に乗っ取られかけたが、それは未遂に終わった。

 

 悪としてのヤクザの再建を目論む彼には悪いが、今は別の警備会社の支社を切り盛りしてるナガンの元で頼むから性根を入れ替えて欲しい。

 

 

「いやあれ、全員完全武装で多分反乱直前だっただろ。そいつらに囲まれた後、そいつら全員どついてた女と男の方がおっかなかったけどな……。あのスタンダールとかいうヒーローも、あいつ等確実に人ヤったことあるだろ」

 

「スタンダールはこの前、ヴィランっぽいヒーローランキングで不動の1位だったエンデヴァーと激戦を繰り広げてとうとう打ち勝ったね。最近子煩悩であることが浸透してきたのが敗因かなぁ……」

 

「あぁ、あの親子でサウナ店の宣伝をする動画がバズった……」

 

「ふふふ、あの動画にもう一人出ていた男の子いたでしょ? あの子も雄英だよ」

 

「あの無理やり出された感満載のガキが? はっ親子三人エリートかよ、気にくわねぇ……」

 

「雄英は良い所だよ」

 

 

 嫌そうな顔をする彼に私は笑った。

 

 

「そんなにか?」

 

「うんそんなに……、おっと、そこらへんで止めて」

 

 

 

 久しぶりに饒舌な分倍河原さんにつられ、つい長話をしてしまった。

 

 

「きたよ」

 

 

 私は目を輝かせながら、道の奥から歩いてくる二人組を見つめる。

 

 

 

 

「なぁホ……、本条、雄英って麓からバス出てるんだろ? わざわざここ歩く必要あるか?」

 

「あ、いまホモ子って言おうとしたでしょ、リキ君、絶対それ学校で言わないでね!」

 

「分かってるって」

 

 

 下ろしたての制服。親友同士の二人は街の景色を眺めながらただ歩いていた。

 

 

「まぁちょっと歩きたい気持ちは分かるぜ。なんつーか、これから三年間ここを通るって思うと、初めの1回目をバスでさっと通るってのも味気ねぇかも」

 

「おっ、詩人だねリキ君」

 

「うわ、指摘されるとなんだか急にハズいじゃねぇか。もうバスに乗っちまうぞ」

 

「リキ君、安心して、いざとなったらタクシー呼んでも遅刻しないようにって、お父さんからお小遣い追加で貰ったから」

 

「なぁ本条、俺はホモ子止めるのにお前はリキ君呼びを続けるのは不公平じゃねぇか? ここらはお前も呼び名を変えて心機一転とかどうだ?」

 

「じゃあ砂藤君」

 

「いや、言っておいてなんだがしっくりこねぇな……」

 

「じゃあリキ君でいいじゃん。それとも今更恥ずかしい?」

 

「非公式全国個性草野球で中学最強バッテリー、ツーでカーな俺達に今更そんな遠慮ねぇよ」

 

「私、この前の優勝インタビューで“本条選手は理想の女房役ですけど砂藤選手は日常でも本条選手は理想の女性だと思いますか?”って聞かれた時、“いえ、女子力は自分の方が高いです”って即答したこと、まだ根に持ってるからね」

 

「だって事実だろ。ほら弁当、デザートは奮発してマカロン」

 

「ま、まいワイフ……!」

 

「雄英って広いんだろ? 時間あったら向こうで探検しながら食おうぜ!」

 

「うん!」

 

 

 何気ない二人の何気ない会話。

 

 そのやり取りを聞いただけで、私は喜びの涙を静かに流した。

 

 背を向けて坂を上っていく二人を見送り、私は長い時間、その光景を胸の中で反芻する。

 

 ただ満ち足りた感情の中、分倍河原さんが何本目かのタバコを吸い終わっても私は、予測もつかない彼らの先行きを夢見る。

 

 

 私の夢の続きがそこにはあった。

 

 

 

 ずっと不安だった。

 

 この世界に押しつぶされそうで、狂いそうで、それでも見届けたい世界があって。

 

 

 これは奇跡だ。

 

 

 ここに走りぬいて辿りつくこと、私がそれを見れたこと。

 

 

 ようやく私はゴールテープを切る。

 

 私が望みうる限り最高のゴール。

 

 

 

 

 ようやく私の夢が終わり、ついに始まる。

 

 

 わたしのヒーローアカデミアが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完走した所でわりぃが、その走りは遅すぎて欠伸が出るとのことだ」

 

 

 

 

 車の急加速、私は前につんのめる。

 

 

 

 

 万感の思いで放心していた私は鼻頭を強かにダッシュボードに打ち付けた。

 

 

「はっ?」

 

 

 勢いよく顔を上げ、隣に頭を向けようとすると風を感じる。

 

 

「わぷっ……!」

 

 

 全開で開けられた車の窓から、一切引っかからずに飛び乗る人影達は、私の顔を布で覆うと後部座席に引きずり込む。

 

 

「ゴホッ……!! なんだこいつら!?」

 

 

〆鯖ァ!(しっかり押さえろ!)

 

「抵抗しても無駄だ!」

 

「こっちは任せろ!」

 

 

「なん……!? このッ……!!」

 

 

「3人に勝てるわけないだろ!!」

 

「馬鹿なにやってるの!! 私は勝つぞ、このっ……!!」

 

 

 力の限り抵抗する大乱闘、しかし襲撃者たちは私の体力と四肢の自由を奪う。

 

 

 

「脱がすぞ!!」

 

 

 

 突然の襲撃者、それが誰かは分かる。

 

 だからこそおかしい。こんなことが起きるはずがない。

 

 私の服を無理やりに脱がし、彼らは別の服を私に無理やり着せていく。

 

 

「あー、見ないでおくからさっさとやってくれ」

 

「なんで!? こ、こんなこと……!?」

 

 

 半笑いのまま、顔を前へと向けたままの分倍河原さんに向かって私は叫ぶ。

 

 

「なんでッ……!?」

 

「言ってなかったか? ……いつまでも分身を同じ自分だと思うと俺の二の舞だぜ?」

 

「やめてみんな! 私はこんなことしてる場合じゃ!」

 

 

 体を抑え込む自分たちに向かって、体を振り乱すが、一向にその緊縛は緩まない。

 

 

「私が一生懸命考えた結果の記録がこれ?」

 

「多分これが一番幸せだと思いますって?」

 

「そんな遠回りで遅い記録は更新するから」

 

 

 こちらの言葉に耳を貸さず、みんなは無慈悲に私を見下ろす。

 

 

「おっ、もう追いついた。道草くってんなぁ……」

 

 

 いつの間にか、車内には料金メーター、車の外にはタクシーのステッカーが貼られていた。

 

 

 車は停車すると、助手席から制服に身を包んだ私がのぞき込む。

 

 

「すいません、いろいろ見てたら学校の入学式に遅れそうで、二人乗ってもいいですか?」

 

「いいぜ学生さん達、乗ってきな」

 

 

 いつの間にか私を縛ったみんなは、車から飛び降りて消えていた。

 

 

 雄英の制服に身を包んだ私は車の中にいる私の縄を解いて手早く回収する。

 

 

「人に一番大変な役割を任すなんて、私はもう限界で胸がいっぱいなの、だから……」

 

 

 もう一人の私……、いや、彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべて一言だけ。

 

 

「次は君だ」

 

 

 そう言うと、瞬時に反対の窓へと飛び出していった。

 

 

「まっ――」

 

 

「おー、本条、タクシー止められたのか」

 

「えっ、あっ」

 

「ククッ……、どうぞお乗りください。目的地は雄英高校であってるかい?」

 

「あぁ! お願いします」

 

 

 頭が真っ白になった私が口をまごつかせている内に、分倍河原さんは砂藤君が乗り込んだのを見るやいなや、すぐさま発車させる。

 

 

 

「助かった……、木の上に引っかかった子猫を助けてたら、バスに乗り遅れてこんな時間に……」

 

「ぷっ……! ベタ過ぎるなお二人さん」

 

「それはすぐ助けたんだけどよ、こいつが猫と遊びだして……、って本条? どうしたんだ?」

 

「えっ、うん、砂藤君……、私は別に……」

 

「あぁ? なんだ本条、お前やっぱり名字呼びで高校デビュー決めてくのか?」

 

「えっ、あっ……、違くて、その……、リ、リキくん」

 

「おっ、おぅ……、お前なんか変だな? なんか急に変わって……」

 

「そ、そんなこと……」

 

「彼氏さんよぉ、女ってのはすぐ変わる。ましてや多感な高校生ならなおさら、男子三日会わざればなんていうが女が変わるのに3秒もかからねぇもんなのさ」

 

「ははは、よく勘違いするヤツが多いんですけど、俺達は親友ですよ!」

 

「なんだい、そいつは失礼したぜ」

 

 

 目の前で忍び笑いをしている分倍河原を睨みそうになるが、砂藤君の前でそれはできない。

 

 

「……運転手さん、きっとお忙しいでしょうから、そんな無駄話をしてる暇があるなら……」

 

「そうでもねぇんだなぁ。前を見てみな」

 

 

 信号機の前を見ると、そこにはいつも自分が乗っている車。そこには見慣れたヒーロースーツを着た私と、運転手がいた。

 

 

「あれ、あの運転手さん、顔が似てる……」

 

「そっくりだろ? 双子なんだ。アイツはヒーロー専任の運転手をしてる。よくあんな忙しい仕事をするもんだと俺は常日頃思ってるぜ」

 

「なっ」

 

 

 車が通りすがるとき、わざとらしい笑みを見せる向こうの車は通り過ぎる。

 

 

「付き合ってらんねぇんで、どうにかするならもう、こりゃ自分を増やすぐらいしか休暇はもらえないだろうってもんだ」

 

「双子ならたまには仕事を変わってもいいんじゃないんですか?」

 

「ヒッ、ハハハハッ! そいつは違いねぇ。今度そうしてみるぜ!」

 

 

 大笑いをしながら運転手は最後に呟く。

 

 

「まぁ、向こうは向こうで上手くやるさ。だからな、アンタはアンタの居場所で戦うんだぜ?」

 

 

 

 そう言い残して彼、分倍河原仁は私を置き去りに去ってしまう。

 

 

 

「なんか掴めない人だったな。……じゃ遅刻しない内に行こうぜ」

 

 

 

 校門は時間ギリギリで人はいない。

 

 私から離れていく彼は立ち止まるこちらを見て、しばらくすると駆け寄ってくる。

 

 

 

「なに、そんな不安そうな顔してんだ?」

 

「わ、私は……」

 

「新しい学校生活にビビってるのか? まぁ、困ったら俺を呼べよ、飛んで駆けつけてやる」

 

 

 彼は笑うと私の手を取る。

 

 

「ほら」

 

「あっ……」

 

 

 

 手を引かれスタートを切る。

 

 

「まっ、落ち着かないなら歩いてもいい。初日の遅刻ぐらい大目に見てもらおうぜ」

 

「あっ、急がないと除籍されるかも……」

 

 

 きっとみんな、先なんて本当にあるか分からないまま、前に進んでゆく。

 

 

「はは、まさかそんなことあるわけ……」

 

「ここの先生、本当に生徒を除籍してるから……」

 

「…………マジ?」

 

 

 何が起きるか分からない。自由な地図に好きな道で、好きなペースで進む。

 

 

「このままだと遅刻だ!! 走るぞ!!」

 

「うん……!!」

 

 

 今私は自由を与えられた。先に見えるのは何もない地平。

 

 進む道も速度も、何一つ決められてなどいない。

 

 けど――

 

 

 

「テメ本条!? 待ってた俺より早いの卑怯だろ!?」

 

「大丈夫! 私の手を握って!!」

 

「うおッ!? 引っ張られ――」

 

 

 

 

 でもどうせなら、私は思いっきり私の人生を真っすぐに駆け抜けてみたい。

 

 

 

 




個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア

完走
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