TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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往生際

 診療所突撃班を乗せたバンが、林の中で停まる。

 運転手であった入江はすぐに車を出て、走り出す。

 

 

「監督! 待ってください!」

 

 

 すぐに呼び止める詩音。

 すると入江は足を止め、俯きがちに振り向いた。

 

 

「……車の運転は他の方にお任せします……どうか、悟史くんを無事に……」

 

「……一人で行くつもりですか」

 

 

 入江は気まずそうに、首肯した。

 

 

「……こうなってしまったのは全て、私の責任です。要である梨花さんが捕まってしまった以上……その責任を果たさないと」

 

「……悟史くんを治してくれるって……約束しましたよね?」

 

 

 そう咎められ、入江はハッと顔を上げた。

 詩音は困ったような笑みを見せてから、持っていた鞄からゴム弾入りの散弾銃を取り出す。

 

 

「確かに監督が負うべき責任は多い……でもまだ、梨花ちゃまは死んでいませんし、梨花ちゃまも私たちを信じてくれています」

 

「……詩音さん……」

 

「だからまだ……梨花ちゃまが生きているこの今なら……私たちが取り戻して来ます」

 

 

 そう言う彼女の後ろに、富竹や公安メンバーが並ぶ。

 矢部だけ気付かずまだ車に残っていたので、メンバー全員で引きずり下ろした。

 

 

「今の監督は……ここで悟史くんを見守り、私たちを待っていてください」

 

「彼に何かあった場合、適切な処置を施せるのはあなただけです」

 

 

 富竹もそう意見する。

 次に矢部が、頭の毛を整えながら話した。

 

 

「ワシらとて公安警察や。先生もやけど……娘っ子が捕まったとあっちゃ黙ってられへんわい!」

 

「やっぱ先輩……未来ちゃんの件でこう、父性みたいなのが刺激されたんじゃないですかぁ?」

 

「余計な事ッ、言うなや!」

 

 

 そう言って恥ずかしそうに秋葉を右ストレートでぶん殴る。秋葉は「私たちもキラメキたーいッ!」と叫んで倒れた。

 次に石原と菊池も口を開く。

 

 

「みんなワシらが助けちゃるけぇのぉ! 先生はここで待っときゃええんじゃ!」

 

「実はこの菊池愛介、東京理三卒で医師になれた男ッ! しかし医療では治せない『悪』と言う病理を治す為、警視総監を志した背景があるッ!! あなたは患者をッ!! 僕は悪をッ!! ここは我々の出る幕だッ!!」

 

「キクちゃん、お医者さんの試験落ちたから警察なったんじゃろ?」

 

「ファンタスティックラヴァーーッ!!」

 

 

 変な掛け声と共に殴って黙らせる菊池。殴られた石原は「アイアンフリルーッ!」と叫んで倒れた。

 一呼吸置いてから、詩音が締める。

 

 

「絶対に責任は取らせます。その前に死んじゃうなんて……許しませんから」

 

 

 それを言われては、入江はもう何も言えない。

 感極まったように唇を噛んでから、清々しい顔付きで詩音らを直視する。

 

 

「……分かりました。どうか、ご無事で」

 

「……はいっ!」

 

 

 元気な返事と共に、詩音は走り出す。富竹らもそれに続いて、梨花たちを助けるべくその場を去った。秋葉と石原はヨロヨロしていた。

 彼らの背中は何とも頼もしい。その背が見えなくなるまで見送ってから、入江はバンの中に乗り込む。

 

 

 ヘッドセットを付けた芝犬が、悟史に寄り添っていた。

 入江はその隣におずおずと座り、話しかける。

 

 

「……君は静岡に戻った方が良いんじゃないですか?」

 

 

 芝犬は、傍らになぜかあったラジカセの再生ボタンを前脚で押す。

 オルガンの音色に犬が吠えて合いの手を入れた謎の曲が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──梨花と対峙する小此木。その表情は意外そうなものだった。

 

 

「……神社じゃなく、こっちの方来たんですん?」

 

「……悪い人たちの総大将がどんな顔してるのか……見たかったのです」

 

「どうやってこっちに……あー。無線で古井戸って言っちまってやしたね。こりゃ失敬」

 

 

 小此木はニヤニヤしながら梨花の方に身体を向けた。

 対する梨花は、鋭く彼を睨み付けている。

 

 拘束されている上田と圭一が叫んだ。

 

 

「梨花ッ!! なんで来ちまったんだッ!?」

 

「お、俺たちの事なんてほっといて逃げろよッ! これじゃこいつらの思う壺だろッ!?」

 

「ボクだけ生き残っても意味ないのですっ!」

 

 

 梨花はそう一喝し、二人を黙らせる。

 

 

「部活メンバーも、村の人たちも……ボクを助ける為に全力で戦ってくれているのです……だからボクも、みんなを守る為に戦わせて欲しいのです」

 

 

 そう言って二人ににぱーっと笑いかけると、また小此木を睨んだ。

 

 

「……約束は守った……殺すのはナシなのです」

 

 

 梨花の言葉を受け、小此木は二人を拘束している部下に目で合図を送り、二人を立たせた。

 立ち上がりながら上田と圭一は、神妙な面持ちで梨花の行動を見守る。それしか出来ない。

 

 

「じゃあ交渉通り……付いて来て貰いますん」

 

 

 小此木が手を差し伸ばした。

 

 

「……分かったのです」

 

 

 梨花はそう言って歩み寄る。

 そして差し出された彼の手を、握った。

 

 

 

 

 

 

 

 途端、小此木は梨花を抱き竦め、動けないようにする。

 その上で隊員らに一言命じた。

 

 

「跪かせろ」

 

 

 拘束していた隊員が、乱暴に二人を蹴り飛ばし、地面に伏せさせる。

 その状態にした上で、二囲んでいた隊員らが二人に銃口を向ける。

 

 

「なに……ッ!?」

 

「何だよコレッ!?」

 

 

 当惑する上田、怒号をあげる圭一。

 拘束された梨花も、小此木を見上げて叫ぶ。

 

 

「殺さないって約束したじゃないっ!?」

 

 

 小此木は小馬鹿にしたように首を振った。

 

 

 

 

「約束出来る立場にあるんですんね?」

 

 

 交渉は潰された。

 立ち上がろうとした二人だが、無数に向けられた銃口を前に中腰姿勢で止まる。

 そんな二人を見ながら、小此木はイキイキとした口調で続けた。

 

 

「三佐……鷹野さんからの命令ですわ。ちっと、この村の連中は『自分が死ぬ』って意識が低いんですと。仲間内から死者が出れば、士気も削がれるでしょうや?」

 

「……やはり最初から……俺たちを無事に返すつもりはなかったのだな」

 

 

 上田の問いに、小馬鹿にしたような鼻笑いで小此木は返す。

 

 

「さんざ、我々を弄んだんですからねぇ。ちっとばかしこっちもスカッとしたいもんなんですわ」

 

「卑怯も──んぐっ!?」

 

 

 梨花の口を乱暴に塞ぎ、黙らせた。

 その様を見た圭一の頭に血が昇る。

 

 

「……ッ……梨花ちゃんに乱暴すんじゃねぇぇえッ!!」

 

「少年ッ!?」

 

 

 上田の制止を無視し、圭一は小此木に向かってなにふり構わず駆け出した。

 すぐに発砲しようとした山狗らだが、向かって来る彼を見て関心した小此木が止めさせる。

 

 

「良いぞボウズ! ほれ、相手してやるぜ!」

 

「このヤローーッ!!」

 

 

 梨花を突き飛ばしてから小此木は構え、突撃する圭一を迎える。

 怒りに任せ、ニヤニヤ笑いの顔面目掛けて拳が飛ばされる──

 

 

「甘ぇって」

 

 

──が、相手は訓練された自衛隊員。中学生が敵う訳がない。

 難なく圭一の拳を受け流すと、空いた腹に膝を打ち込む。

 

 

「うぐ……ッ!?」

 

「これが大人だボウズ」

 

「が……ッ!!」

 

 

 背中に肘を打ち付け、圭一を倒れさせる。

 突撃してから打ちのめさせるまで、ものの数秒。しかしそれを悔しがれるほどの余裕はなく、ただ痛みで悶えるだけだ。

 

 それでも突き飛ばされた梨花の方を見て、圭一は声を振り絞る。

 

 

「に……逃げろ……!!」

 

 

 梨花もそうしたかった。

 しかし小此木とて、何の考えもなしに適当に突き飛ばした訳ではない。しっかり彼女の周りには、山狗らが逃がすものかと囲んでいる。

 上田も圭一に続きたかったが、隊員らの殺意を前にただ見ているだけしか出来なかった。

 

 

 

 

 しかし上田の目に、ある物が映る。

 倒された圭一のポケットから飛び出した何かが、コロコロと梨花の足元に転がった。

 

 

 

 それは、白い液体の入った試験管。

 ハッと、それが何なのかを思い出した上田が叫ぶ。

 

 

「梨花ッ!! 足元のそれだッ!!」

 

「え……っ!?」

 

「それを拾って飲めッ!! 早くッ!!」

 

 

 何事かと小此木が梨花の方を向く。

 彼女は既に、おずおずとだが、言われた通りに試験管を手に取っていた。

 

 

「……ありゃなんだ。オイッ! Rを止めろッ!!」

 

 

 小此木が号令を飛ばすと、囲んでいた隊員らが一斉に梨花へ飛びかかる。

 このままでは捕まってしまう。そう察した梨花はすぐに試験管のコルクを抜いた。

 

 

「梨花ちゃぁぁーーーーんッッ!!」

 

「梨花ぁぁーーッッ!!」

 

 

 圭一と上田、二人が彼女の名を叫ぶ。

 それに押されるように、梨花は一思いに試験管の中を口に含む。

 

 山狗らが梨花の手を止め、拘束したのはその直後。試験管は取り上げられたが、中身は飲み干されていた。

 

 

 

 

「……って、ノリで飲んだけどこれ何なのですか!? うぇーっ、変な味……!」

 

 

 ご尤もな梨花の質問が飛ぶ。

 中身については、小此木も上田に問いかけた。

 

 

「今のは何だ? 何を飲ませた? 飲ませたところで……何が変わるってんだ?」

 

 

 変わる訳がない。

 梨花は数人の男に捕まって、まず逃げ出せない。銃口を向けられている上田も圭一も同様。何か液体を飲んだところで、この状況がひっくり返る訳はないだろう。

 

 

 

 

「ふっふっふっ……」

 

 

 しかし上田は、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

 

「何がおかしいんで?」

 

「今に分かる」

 

「あ?」

 

「……『アレ』の効力は……ハンパないからなぁ?」

 

 

 さっぱり意味が分からないと首を振る小此木。

 すっかり興はそがれた。「遊びはここまでだ。とっとと二人を銃殺しろ」と命じるべく、口を開く。

 

 

 

 

「……アレ? な、なんか……」

 

 

 梨花の困惑した声で、命令が舌先で止まる。何事かと彼女の方を向く小此木。

 

 

「……どうしたんですん?」

 

「なんか……胸が……バクバクって……身体もなんか……あ、熱いのです……!」

 

 

 様子のおかしい梨花。途端に俯き、身体を震わし始めた。

 

 

「はぁ? 一体なんで──」

 

 

 そう小此木が言った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉおーーーーッッ!!!!」

 

 

 震えていた梨花がカッと顔を上げた途端、雄叫びと共に馬鹿力を発揮し、拘束していた隊員らを吹き飛ばした。

 

 

「!?!?」

 

 

 愕然とする小此木。

 すぐに控えていた隊員が梨花を捕まえようとするが、彼女はとんでもない反射神経で回避し、隊員の懐に潜り込んだ。

 

 

「な、なんだその動きは──」

 

「なのですッッ!!」

 

「オウッ!?」

 

 

 そのままその隊員の股間を殴って倒す。訓練された屈強な男でも、そこを狙われれば敵うまい。

 次に別の隊員が捕えようとするが、またしても梨花に懐まで潜り込まれ、そのまま股間に一撃貰う。

 

 

「なのですッッ!!」

 

「アウッ!?!?」

 

 

 大の大人を二人倒した後、梨花は拳を震わせながら自らの力に驚いていた。

 

 

「何なのですかコレは……!? 力が……めちゃんこ溢れて来るのですッ!!」

 

「オイッ!! 何を飲ませたッ!? 何だこりゃッ!?」

 

「ハッハッハッハッハッ!」

 

 

 上田が小此木の質問に、得意げに答える。

 

 

 

 

「……奥アマゾンのピラニア汁だぁ!!」

 

「……は、はぁ!?」

 

「効果はなかなかだぞぉ? それを飲んだ山田は東京から茨城まで自分の足で走破したッ! しかも俺の車と並走してだッ!!」

 

「俺が上田先生から分けてもらったヤツだぜッ!!」

 

 

 ふらふらと立ち上がりながら圭一も得意げに言う。

 その間も梨花は山狗を倒して回っている。

 

 

「なのですッ!! な"のですッ!!」

 

「た、隊長ッ!! 発砲の許可を──」

 

「な"のですッッ!!!!」

 

「俺のクリーピーナッツがーーッ!!??」

 

 

 とうとう最後の隊員が倒れる。

 

 

 

 残るは隊長の小此木。

 訳の分からない状況に困惑しつつも、梨花を止めるべく、己を鼓舞しながら突撃。

 

 

「俺が山狗の小此──」

 

「給料いくらなの"ですーーーーッッッッ!!!!」

 

 

 しかし奥ピラニア汁のバフがかかった彼女に敵うハズもない。

 そのまま股間に一撃食らい、少し耐えたものの、フラフラと地面に倒れ伏す。

 

 それを見届けてから、梨花は勝利の雄叫び。

 

 

「オヤシロパワぁぁーーーーッッ!!」

 

 

 そんな彼女の元へ、圭一は嬉しそうに歩み寄った。

 

 

「凄いな梨花ちゃん!? まさか敵の大将を一撃で──」

 

「なのですッッ!!!!」

 

 

 その圭一の股間も潰し、ノックアウトさせる。

 次に梨花は、完全に理性のない目で上田を睨む。

 

 

「おおお、落ち着け!……お、おかしいなぁ? 子どもだから、大人よりバカ効きなのか……?」

 

「上田ァァーーーーッ!!」

 

「まっ、待って待って! やめて──」

 

「な"のですッッ!!!!」

 

 

 命乞いも虚しく、股間に強烈な一撃を食らう上田。

 今、梨花を中心に男たちが股間を押さえて倒れていると言う、奇妙な光景がここに広がっていた。

 

 

 

 

「オヤシロパワぁぁぁぁーーーーッッ!!!!」

 

 

 梨花の理性が戻ったのは、それから三分も後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──古井戸に行った小此木らからの連絡が途絶え、そして神社にも梨花は現れなかったと言う。

 自ら捕まる事を表明した梨花からの無線が流れて、既にもう十分経過。鷹野は司令室で気を揉んでいた。

 

 

「……何やってんのよ……! 小此木からの連絡はないのっ!?」

 

 

 無線を担当する隊員に怒鳴って尋ねる。

 しかし隊員は首を振るだけ。

 

 

「それが……こちらから何度も呼びかけているんですが……」

 

「まさかやられたなんて訳ないわよね……!」

 

 

 スムーズに作戦が進まず、鷹野はずっと苛ついたまま。

 それもそうだろう。自分の悲願達成が、もう眼前まで迫っているのだから。こんなところで足を掬われたくはない。

 

 無線機から短いノイズが鳴り、続いて別働隊からの報告が入る。

 

 

『鴉10から雛へ。緊急連絡です』

 

 

 鷹野はすぐにインカムを取って応答した。

 

 

「こちら雛。どうしたの?」

 

『診療所地下区画が襲撃を受けた模様です』

 

「……なんですって?」

 

 

 困惑から思わず聞き返してしまった。

 彼女に連絡を入れている鴉は、元々診療所の警備を担当していた隊だ。R捜索の応援で鶯や雲雀と合流していたが、それが終わって本来の任務に戻った際に襲撃を確認したと言う流れだ。

 

 

『どうやら診療所が手薄になったところを狙われたかと……』

 

「……診療所から人員が向かわされる事も織り込み済みだった訳ね……」

 

 

 鷹野は鼻で笑う。

 

 

「さしずめ、入江所長を助けに来たのかしら。とっくにH178を打ち込まれていると言うのに……」

 

 

 その言葉に対し、鴉10は言い辛そうな物言いで話す。

 

 

『入江所長ですが……救出した隊員によれば……どうやら無事、のようで……』

 

「……は?」

 

『H178を保管していた薬瓶の中身がビタミン剤にすり替えられており……本物は既に、所長の手によって破棄。なので所長は無傷で、救出されてしまったようです……』

 

 

 鷹野の心臓が跳ねる。

 入江を奪還された以前に、何とか守り切った研究成果の一つを消されてしまった事実が彼女の感情を揺さぶる。研究者としてこれ以上屈辱的な事はあるのか。

 

 更に鴉10からの報告は続く。

 

 

『また、地下区画にて保護していた北条悟史も連れ出されていました』

 

「…………ふっ……」

 

 

 それを聞いて思わず失笑する。

 

 

「……そうよね。連れて行かない訳ないわよ……あの人にとったら私たちが積み重ねて来た研究全てよりも…………」

 

 

 筋が見えるほど、拳を強く握り締める。

 

 

 

 

「……大事なんですから……ッッ……!!」

 

 

 無線を乱暴に切る。

 そして怒りに任せて、無線の担当に命じた。

 

 

「すぐに所長の捜索を開始させなさいッ!! 北条悟史を連れているなら車で移動するしかないわッ!! 診療所に繋がる車道は全部封鎖ッ!! 近辺の森や雑木林を捜索させるのよッ!!」

 

 

 それからまた思い出したように、命令を付け加える。

 

 

「それと確保させた園崎魅音ッ!! もう県警が何言おうと無視していいわッ!! 彼女を人質にしなさいッ!!」

 

「え!? さ、さすがにそれは……『東京』とは無縁の者もいるのに、終末作戦の件を悟らせるのは……!」

 

「後から金を積んで黙らせれば良いわよッ!! 早く無線を飛ばしなさいッ!!」

 

 

 完全に怒り狂った彼女の迫力に負け、隊員は全隊へ言われた命令を伝え始めた。

 その間、鷹野は机に置いていたスクラップ帳を手に取り、抱き寄せる。それを手に取っている時だけ、握り締めていた拳を柔らかく緩められた。

 

 

「三佐!!」

 

 

 別の無線係が鷹野を呼んだ。

 

 

「小此木隊長から無線が入りました!!」

 

「代わりなさい!」

 

 

 無線係と席を代わり、無線機に耳を当てる。小此木の声はすぐに聞こえて来たが、やけに悶えている様子。

 

 

『お……鳳1から雛へ……んぉお……ッ……!!』

 

「ちょっとなに!? 気持ち悪い声出さないでっ!!」

 

 

 

 

 それもそうだ。小此木の隊は全員、地獄の痛みから復帰したばかりなのだから。

 ピョンピョンと跳ねて何かを降ろそうとする隊員らを背に、小此木は痛みで歪んだ顔のまま報告する。

 

 

「あ、Rは逃げた……人質も……しかし逃してからまだ三分程度。ありったけの人員、裏山に集めてくだせぇ……!」

 

「……裏山にいるの?」

 

 

 思わず口角を上げる鷹野。

 小此木との通信を終えると、無線係から無線機を取り上げ、自ら全隊へ命令を下した。

 

 

「雛から全隊へ!! Rは裏山に逃げ込んでいる!! R捜索にあたっている鳳、鶯、雲雀、鶫の隊員はすぐに向かいなさいッ!!」

 

 

 

 

 そして最後に一言。

 

 

「……私も行くわ……!」

 

 

 乱暴に無線機を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鷹野の命令は鳳の隊員を経由し、大高の持つ無線から伝えられた。園崎家との取っ組み合いで少し身なりが乱れている。

 そのまま彼は園崎の構成員らを一纏めに集めた所まで行く。そこには魅音とお魎も、手錠をかけられて立たされていた。

 

 

「園崎魅音メンバー!」

 

「なんなのさその呼び方」

 

 

 大高の呼びかけに、うんざり顔で応じる魅音。

 大高は部下を集め、高圧的に彼女へ迫る。

 

 

「あなたはパトカーでお連れ致します。どうぞこちらへ」

 

「……私も護送車で良い」

 

「いえいえ……あなたは、特別に」

 

 

 すぐに魅音は悟る。

 

 

「……私を人質にしようって? 幾ら積まれてんのか知らないけど、あんた刑事なりにプライドってもんがないの?」

 

 

 事情を知らない部下たちが「どう言う事ですか?」と言いたげに大高を見やる。

 図星を突かれたようで、彼は神経質に眼鏡の位置をなおすと、鼻で笑って誤魔化した。

 

 

「なにを言い出すかと思えば馬鹿馬鹿しい……根拠のない事を言わないでください。さぁっ!! 付いて来てくださいっ!!」

 

 

 手を叩いて合図し、部下たちに魅音を連れて来させる。

 構成員らから怒号が上がるが、それは他の県警刑事らが抑えた。

 

 肩を掴まれ、引っ張られる魅音。

 

 

 

 

「諦めるんかい」

 

 

 お魎からそう声を掛けられる。

 魅音は振り向かず、力無く首を振った。

 

 

「……ここが往生際だよ、婆っちゃ」

 

 

 敵はあまりにも強大過ぎた。あまりにも完成されていた。そしてなにより、その執念深さに押し負けてしまった。

 警戒すべきだったのは、敵の仕上がりや頭数ではない──その執念だった。強引にでも梨花を捕まえようとする、その執念をもっと警戒すべきだった。

 

 

 このまま魅音は連れて行かれ、梨花や戦っている村人らに投降を促す交渉材料にされる。

 もはやこれまでか。県警に連行されながら、魅音は悔しさで唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 その時、遠くからサイレンの音が響いた。パトカーのサイレンだ。

 県警の応援か、と魅音は思ったものの、一方の大高は訝しんでいた。

 

 

「ん? 応援は呼んでいないハズだが……」

 

 

 園崎屋敷の前で数十台のパトカーが並ぶ。

 全員が注目する中、車のドアが一斉に開いた。

 

 

 

 

 

「いやはや! 知らない内に四課のやり方を覚えちゃって……まぁ! 経験を積まれているようで私ぁ嬉しいですよぉ!」

 

 

 先導していたパトカーの運転席から、男が顔を出した。

 

 

 

 

 

「……んふふ。大高くん?」

 

 

 興宮で待機していたハズの、大石ら興宮署の刑事たちだ。

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