TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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6月22日水曜日 ラストステージ
大作戦


──これはとある山村に隠された、禁じられた古文書にあるお話。

 

 

 

 

 その一族は、長い長い旅をしていた。

 

 どこから来たのかは分からない。

 空の果てか、地の底からか、或いはこことは違う世界からなのか……とにかく想像する事も出来ない場所から、彼らは旅を続けていた。

 

 

 彼らは安住の地を求めていた。

 そしてついに、その探し求めていた土地を見つけた。

 

 美しく澄んだ沼。そこより流れた川が切り拓いた、豊かな山の渓谷。

 彼らはここを、旅の終着点に選んだ。

 

 

 

 

 しかしその土地は既に、人々の営みに溢れていた。

 先住の人間たちによる村が作られていた。

 

 

 彼らはその村人たちを尊重し、共存を望んだ。

 しかし村人たちが彼らを受け入れる事はなかった……彼らは、人ならざる姿をしていたからだ。

 

 村人たちに出来た、その人ならざる彼らに対する恐れはいつしか明確な敵意へと変わり、とうとう悲しく悲惨な事態を引き起こしてしまった。

 この美しい地に、血が流れてしまった。

 怒りと暴力に、満ち溢れてしまった。

 

 共存など、夢のまた夢であった。

 

 

 

 ある時、これに心を痛めた一人の少女が現れた。

 彼女は一族の者であったが、村人との宥和を求めるべく、人の姿を模して村の神社に現れた。

 神主ならば、村人たちを説得してくれると期待したからだ。

 

 

 だが人の姿を模しても尚、頭から生えた二本の角だけは隠せなかった。

 人々はその異形の姿を恐れ、神主さえも彼女を拒絶した。

 やがてその神主の跡取りが彼女を見初め、子を授かるに至ったが、それでも村人たちとの宥和は叶わなかった。

 

 

 人ならざる彼らが現れた事で、村に血が流れた。

 澄んだ沼の水を穢してしまった。

 村人たちはそれが許せなかった。

 

 これは誰でもない、彼女の一族がこの地に降り立ったばかりに起きた罰。

 そして対話を拒否し、暴力を選んだ村人たちの罪。

 

 

 

 彼女は決断した。

 

 全ての罪と罰を背負い、祓おうと。

 その為に討ち滅ぼされる人柱となろうと。

 

 

 

 

 禁書は伝える。

 人柱となる事を選んだ彼女を討つ役目を担ったのは────その彼女の、実の娘であったと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終章

ラストステージ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──小此木造園は朝から慌ただしい。

 事務室には大量の機材が設置され、数人の男たちが随時無線機に齧り付いている。

 

 中央にあるテーブルには、およそ造園会社には似つかわしくない物が綺麗に並べられていた。

 S&W M39、H&K MP5SD……拳銃と銃器、そして大量の銃弾だ。更にはRPG7と言う榴弾発射機まである。まるでこれから戦争にでも行くかのようだ。

 

 薄墨色の作業服を着た男たちが、室内を右往左往としている。

 そこへ茶色の作業服を着た男が現れた。途端、室内で準備を進めていた作業員らは手を止め、その男に向かって姿勢と足先を正し、敬礼をする。

 

 

「ほぉ〜、こりゃあスゲェ。『野村さん』の大盤振る舞いの話、本当だったんだなぁ」

 

 

 満足そうに男は、傍らにあったRPG7を撫で上げる。

 その男とは、この小此木造園の社長である「小此木 鉄郎」だった。

 

 

「銃弾は足りそうか?」

 

「ハッ。最終的には毒ガスを使いますが、村民の一掃には十分な量かと」

 

「ほぉ〜、そうかそうか」

 

「しかし……RPGはやや、過剰装備では?」

 

「いいやぁ、そうでもねぇ。車両で村から脱走しようとする奴らもいるだろう。その場合、RPGの方が都合が良い……まっ。様々なケースに備えておくンが俺のやり方だ」

 

 

 小此木はそう言うと、部下たちを掻き分けて無線室に向かう。

 その内、近くにいた部下に状況を伺う。

 

 

「どうだ?」

 

「ハッ。『R』は同居人と共に、自宅にまだいます」

 

 

 インカムを受け取ると、小此木はすぐ自身の耳にスピーカー部を当てた。

 

 

『梨花〜。大丈夫なのです?』

 

 

 ややノイズ混じりだが、沙都子の呆れ声がきっちり聞こえた。

 それから少しを間を置いて、梨花の気怠そうな返事が聞こえた。

 

 

『みぃ〜……頭イタイイタイなのです……』

 

『もぉ〜! 学校がお休みだからって羽目を外し過ぎなんですわ!』

 

 

 鬼隠しを受けて実施された雛見沢分校の休校は、明日までになったそうだ。

 

 

『今日は魅音さんたちと遊ぶ約束ですわよー?』

 

『お昼まで様子見るのです〜……』

 

 

 それから暫くは沙都子の小言と、出かける準備をしているのかガサゴソとした生活音が流れる。

 そこまで聞き終えたから小此木は、インカムを部下に返した。

 

 

「へっへっへ……隙を見て一昨日から仕掛けておいて良かったぜ……」

 

 

 梨花の動向を探るべく、作戦開始に先んじて盗聴器を仕掛けていた。

 仕掛けたのは二十日の夜。その日、梨花は竜宮家の葬式が終わった後、沙都子と一緒に園崎家へ泊まった。家がもぬけの殻となっている隙に、寝室や受話器の中、居間など数箇所に設置。

 

 更に梨花の家には八人体制で部下が見張っている。これでまず、梨花を見失う事はないだろう。

 

 

 

「よし。まず、一昨日からのRの動きを確認するぞ」

 

 

 小此木は数人ばかりの部下を集め、口々に報告させる。

 

 

「ハッ。竜宮家での葬儀の後、Rは園崎邸に宿泊」

 

「ただ一度、神社に戻っております。着替えを取りに来たようですが、祭具殿にも入っております」

 

 

 小此木は顎を触りながら唸る。

 

 

「Rは滅多に入らないだろ? 祭具殿へは何をしに?」

 

「戸締まりと、侵入者がいないかの確認のようです」

 

「あぁ……まぁ、直近で入られているからなぁ。しかしありゃ、我ながらベストショットだったぜ」

 

 

 ニヤニヤと笑いながら、小此木は室内に立てられていたホワイトボードを見る。

 そこには作戦の流れと割り当てる人員の数が書かれている他、梨花や沙都子、園崎魅音と言った人物の写真が貼り付けられていた。

 

 

 その写真の中には、祭具殿から出て来た上田や山田を撮った、隠し撮り写真があった。

 それは綿流しの日、祭具殿の前に張り出されていた物と同じ写真だった。

 

 

「村人を煽動させる為に撮るたぁ、『三佐』も恐ろしい事ぁ考えるモンだ」

 

「隊長。続けても?」

 

「あぁ、話の腰を折っちまった……Rが祭具殿から出て、園崎邸に行ったんだったな」

 

「はい。さすがに内部の動向は掴めませんでしたが、翌朝二人は竜宮家の告別式に参加した後、そのまま帰宅しております」

 

「Rの動向もだが、注意してぇのは奇術師と教授、そして富竹二尉だな」

 

 

 ホワイトボードに貼られた上田と山田、そして富竹の写真を一瞥する。

 

 

「竜宮家での葬儀の際、入江所長と話していたって情報もある。もしかすりゃあの二人、雛見沢症候群の事を嗅ぎつけたかもしれねぇ」

 

「二人は葬儀の後、富竹二尉と共に、前々から園崎家より与えられている家へ行っております。その家にも、五人体制で見張りをつけております」

 

「昨日の動向は?」

 

 

 別の部下が報告する。

 

 

「昨日は一二◯◯に、園崎家に呼ばれていました」

 

「確か……園崎家で会合があったンだったな。鬼隠しに関する集会だろう」

 

「はい。村の長老たちの他、村長である『公由(きみよし) 喜一郎(きいちろう)』、そしてRも招集されております」

 

「まぁ、園崎・公由・古手は村の御三家だ。集会に参加するのは分かる……だが、あの三人の余所者が呼ばれる意味が分からねぇ」

 

「祭具殿侵入に関する弁明、とかでは?」

 

「その線もあるのか……そう言えば所長も呼ばれていなかったか?」

 

 

 確か会合と近い時間に、入江が園崎邸に行っていた事を思い出す。

 

 

「えぇ、呼ばれていました。何でも、園崎頭首が体調不良のようで診て欲しいと頼まれたそうです」

 

 

 それ自体は珍しい事ではなく、これまで高い頻度であった。

 表向きは村で唯一の医者である入江は、村民から重宝されている。頭首が高齢である園崎家もそうで、度々検診に来て欲しいと入江に頼んでいた。

 

 今回もその検診の一環だろう。だがその屋敷に上田、山田、富竹たちがいたのが不穏だ。偶然なのだろうか。

 

 

「会合が終わったのは?」

 

「一五◯◯です」

 

「三時間か……例年より長かったな」

 

「入江所長は最初の一時間後に帰られました。そして会合が終わった後、村の子どもらが園崎邸に集まっていました」

 

「やけに客が多いな……」

 

「カードやボードゲームの類を持ち寄っていたそうで、遊びに来たようではありました。昼下がりに集まったのは、竜宮礼奈の告別式が落ち着くのを待っていたようです」

 

「その後は?」

 

「一八三◯に解散。それぞれの家に帰宅しております。以降、誰も外には出ておりません」

 

「そんで夜が明け、今に至るってか……やはり奇術師と教授辺りが不穏だなぁ」

 

 

 昨日は半日も園崎屋敷にいて、その間に様々な人間と会っている。

 楽観的に捉えるならば、会合で祭具殿侵入について詰められ、その後に竜宮礼奈を慰める目的で集まって遊んだと思うだろう。しかし場所が、この村で唯一部隊が追跡出来ない園崎屋敷なのが引っかかる。

 

 また、入江もそこに一時間ほどいた。間違いなく、何か話をしていたハズだ。

 

 

「……入江所長は?」

 

「現在、診療所地下区画で監視下にあります。診療所には現在、一階に十五人、地下区画に六人の隊員が警備しております」

 

「外部との連絡は不可能か……」

 

「連絡と言えば……如何しましょう? 村全体の通信手段の遮断は?」

 

「必要ねぇ。今回、俺たちには強力なバックアップがある」

 

 

 小此木の歯を見せ、凶暴な笑みを浮かべる。

 

 

「番犬部隊の調査部は、野村さんが買収済み。富竹がどれだけ連絡を飛ばそうが、上層部の手前でブロックだ……それに岐阜県警にも、雛見沢からの通報を無視するよう要請済み。そんで既に興宮に続く道も全て、俺たちの部隊や県警が封鎖している」

 

 

 もはや村は完全に包囲されている。外からも中からも、ネズミ一匹出入りは出来ないだろう。

 

 

「ヌル過ぎるぐれぇだ。何だったら今から学校に榴弾ぶち込んだってお咎めなしだ」

 

 

 彼らの勝ちは確定している。後は実行に移すだけだ。

 小此木は声を張り上げ、この場にいる全員に聞こえるように指示を飛ばす。

 

 

「Rの確保は、今から一時間後……一◯◯◯に開始する! 確保後、速やかに三佐の元へお連れしろ!」

 

 

 小此木の指示は無線部隊を通じ、全ての部下に即座に伝わる。

 更に彼は強い口調で念を押すよう、もう一つ命令を下す。

 

 

「いいか? Rの殺害より前に村人は殺すな! R殺害と緊急マニュアル発令が俺たちの自作自演だと思われちゃあ間抜けだ! 騒ぎは出来るだけ、必要最低限に抑えろ!」

 

 

 それからニタリと笑い、もう一つ付け加えた。

 

 

 

 

 

「ただし邪魔者がいた場合、躊躇するな。引き金は軽くて良い」

 

 

 指示を言い終えた小此木は背を向け、部屋から出ようする。

 

 

 今の彼は最高に昂っていた。これほどの大作戦は久々だからだ。

 上司の命令には従う、一方で行動原理は自分の満足──戦い、打ち負かす事にある。彼は根っからの兵士で、「戦闘狂」だ。

 

 

 これから始まる作戦に沸る小此木だったが、その彼を呼び止める一人の部下。

 

 

「隊長。少し、よろしいですか?」

 

 

 その部下は、梨花の家の受話器に仕掛けた盗聴機を担当していた。呼ばれた小此木は怪訝な顔で近寄る。

 

 

「どうした?」

 

「先ほどから、R宅宛てに奇妙な連絡が交わされていまして……」

 

「奇妙な連絡だぁ?」

 

 

 貸してみろと出した手に、部下はインカムを乗せた。

 すぐにそれを耳に当てる。聞こえて来たのは、どこかの家が梨花宅にかけている電話の音声だ。

 

 

 

 

 

 

『…… 8と1、9と3、8と4、1と6……』

 

 

 聞こえて来たのは、数字の羅列。声は少女の物だ。

 

 

『9と1、10と2、8と2』

 

「……あぁ? なんだこりゃ?」

 

『9と3、8と2、9と1、2と1……えー、繰り返しまーす。8と1──』

 

 

 それからまた同じ数字の羅列を言ってから、連絡は途絶えた。

 訳が分からず、小此木はコメカミを掻いた。

 

 

「何かの暗号か? オイ! 誰かペンと紙持って来い!」

 

 

 部下からメモ用紙と万年筆を受け取ってすぐに、また梨花宅に電話が入る。

 

 

『5と1、2と4、10と4、7と5』

 

 

 さっきと同じような数字の羅列。今度は老父の声だ。

 

 

『5と3、2と3、7と4』

 

「五、三、二、三…………」

 

『4と2、6と1、4と2、9と1、2と1。繰り返ぇーすッ! ひっくぃーんッ!!』

 

 

 そしてもう一度同じ数字を言い、連絡は終了。

 小此木は全ての数字を書き取り、それを顰め面で読む。

 

 

「……何を意味している。五十音か?」

 

 

 すぐにまた別のメモ紙に五十音表を書き、それを参照しながら数字と当て嵌めてみる。

 

 

「お、う、い、う、き、え……いや違う。逆か?……を、う、い、う、ら……これも違う」

 

 

 五十音ではない。ならばとアルファベットにしてみるも、それもまた意味不明な言葉になってしまう。

 するとまた声が聞こえた。幼い少女の声だ。

 

 

『8と1、7と5、9と5、7と4、2と4、5と2、9と1、9と3、2と4、7と1』

 

 

 聞き覚えのある声だ。すぐに小此木は合点が行く。

 

 

「この声は……北条沙都子か……今度はR宅からどっかの家にかけてんのか?」

 

 

 声の主は分かっても、話している数字の意味は分からない。

 必死に耳へ全神経を集中させメモを取ってはいるものの、検討が付かない。

 

 

『2と2、9と1、9と5、5と3、1と6、9と5、7と4、2と3……ええと。繰り返しますわー!』

 

 

 そして例に漏れず、もう一度繰り返してから通話終了。

 沙都子は何をしていると別の盗聴班に目配せし、報告させる。

 

 

「Rと話しています! これから出かけると……」

 

「となると、Rは一人になるな……作戦開始の時間を早めるぞ。R宅の監視班は北条沙都子がいなくなった後、五分経過してから突入しろ」

 

 

 指示は飛ばしたものの、疑念は消えない。

 やはりあの、謎の暗号だ。普通に考えて一般家庭同士が交わすようなものではないだろう。明らかに作為的だ。

 

 

 こちらの正体がバレたのか。いいや、仮にバレていたとして何が出来る。既にこちらの準備は万端で、しかも村は丸ごと包囲されている。県警の力を含めれば、例え興宮に逃げられたって即座に捕まえられる。

 

 だが先ほどの暗号は不穏だ。小此木はすぐに部下へ命じた。

 

 

「村人同士の怪しいやり取りが見られた。やはり、通信手段の遮断を実行するぞ」

 

「分かりました。待機している工作員に交換機を破壊させます」

 

「良し……おい! 誰か暗号の解読に詳しい奴ぁいねぇか! 今さっきR宅で交わされたこの暗号の解読をやって欲しい!」

 

 

 すぐに該当する部下が名乗りを上げ、暗号を書き取ったメモ用紙を渡す。部下は皆優秀だ、これで何か分かれば良いがと期待する。

 直後、古手神社で動きがあったようだ。現地の部下から無線が入る。

 

 

雲雀(ひばり)10から(おおとり)1』

 

 

 鳳1とは小此木のコードネームだ。自前のトランシーバーを手に取り、応答する。

 

 

「こちら鳳1。どうした?」

 

『R宅に三人の村人が向かっています』

 

「なに?」

 

 

 小此木の眉間に皺が寄る──

 

 

 

 

 

 

 

──突然やって来た三人は、梨花の家の前に着く。

 それを森林に身を隠した部下が双眼鏡を覗きながら監視する。

 

 

「村人は三人とも四十代の男。今、R宅のチャイムを押しました」

 

 

 邪魔が入ったと小此木は苛つき、自身の頭を撫でる。

 

 

「Rが連れて行かれるかもしれん。そうなったら報告しろ」

 

 

 無線を切ろうとする小此木だったが、即座に部下が切迫した声音で止めた。

 

 

「ま、待ってください! 誰か出てきました!」

 

 

 玄関戸が開いたと思えば、中から少女が飛び出した。

 最初は沙都子だと思っていた。しかし緑のワンピース、ロングの青い髪を見て違うと判断する。

 

 

「Rが家から飛び出しました!!」

 

「なに!?」

 

 

 飛び出した梨花はやって来た男たちに囲まれ、護衛されるようにして一気に鳥居の方へ向かう。

 梨花は風邪気味だと聞いていた小此木は、彼女が出て来たと言う報告に困惑する。

 

 

「本当にRか!?」

 

「服装はRが良く着ていた物です! 髪も本人のものと一致していましたが……」

 

「顔は見たのか!?」

 

「……駄目です。村人たちに遮られて良く見えず……」

 

 

 ならば変装の可能性もある。梨花の家には、殆ど同じ背丈の沙都子がいるではないか。

 それに髪もカツラの可能性がある。彼女たちは部活の一環で、コスプレの類をやっている事は織り込み済みだ。変装用のカツラがあっても不思議ではない。

 

 

「クソ……鳳1から(うぐいす)5!」

 

 

 鶯5は神社前を監視している分隊だ。

 

 

「こちら鶯5」

 

「Rと思われる人物が三人の男と共にそっちへ行く! 引き止めろ!」

 

 

 しかし鶯5は渋い顔をしていた。

 

 

「……それは困難かと思われます」

 

「どうした!? 何かあったのか!?」

 

 

 彼の目線の先、古手神社へ続く階段の下には、大勢の村人が集まって来ていた。

 

 

「……神社前に村人の集団。ざっと、十人以上はいます」

 

「……何だと!?」

 

 

 多くの目がある前で梨花を攫う訳にはいかない。

 鳥居を抜けて階段を降りた三人の男と梨花を確認したものの、それを見逃すしか出来なかった。

 

 緊急事態に焦る小此木は、盗聴班に急いで命じる。

 

 

「R宅の音声は拾えたか!?」

 

「は、はい! 拾えていますが……」

 

「中にいるのは北条沙都子か!?」

 

 

 部下は首を振る。

 

 

 

 

「いえ……Rです」

 

 

 それを聞いた小此木はすぐにインカムを手に取り、居間のコンセント内に仕掛けた盗聴機が拾った音声を聞く。

 

 

『うるとらまぁ〜ん、えいてぃ〜♩ うるとらまぁ〜ん、えいてぃ〜♩』

 

 

 歌っているが、確かに梨花の声だ。

 つまり彼女はまだ家にいる証拠。出て行ったのは変装した沙都子だと判明した。小此木は安心したように息を吹く。

 

 

『……ふふん、ふふんふ〜んふ〜んふぅ〜〜ん……英語のトコ分かんないのです』

 

「……へっ。どうやって俺たちの目に気付いたか知らんが、詰めが甘いぜ……鳳1から雲雀10! Rはまだ中にいる! 引き続き監視しろ!」

 

「雲雀10、了解」

 

 

 続け様に神社前に控えている部下にも指示を出す。

 

 

「鳳1から鶯5! 神社から出たRと思わしき奴を追えるか?」

 

「鶯5、了解」

 

 

 わざわざ変装し、守らせて出て行った事が引っかかる。万が一に備え、出て行った方の梨花を追跡させる。

 次にまた、小此木の元に一報が来る。

 

 

「鳳6から鳳1。交換機の破壊に成功しました」

 

 

 指示していた電話回線の交換の破壊についてだ。どうやら成功したようで、これによって雛見沢村全域の電話は使い物にならなくなった。

 

 

「鳳1、了解……ふぅ。これで妙な暗号も送れねぇな……」

 

 

 だが不特定多数の人間がこちらの存在に気付いている事は確かで、出し抜こうとしている事も確かだ。これは非常に危うい状況ではある。

 小此木は思考を巡らせる。突然集まった神社前の村人たちがもし意図して集まったとすれば、それを行えるのは村で絶大な影響力を持っている園崎家に他ならない。

 

 

「やはり、昨日の昼の会合で何かあったのか?」

 

 

 ならばその「何か」を聞く必要がある。小此木はすぐに無線を入れた。

 

 

「鳳1から鶯10」

 

『こちら鶯10』

 

 

 鶯10は診療所の警備に当たっている分隊。そこで幽閉状態の入江の監視も担っている。

 

 

「入江所長に昨日あった園崎家での会合の詳細を聞け。多少、手荒な方法を取っても良い」

 

 

 入江はあの時、園崎屋敷にいた。間違いなく、何か知っているハズだ。

 拷問の許可を仄めかし、無線は切られる。後は梨花を確保するだけだと、小此木はそう考えた。

 

 

 五分経過し、雲雀10から作戦開始の声掛けが入る。

 

 

「雲雀10から鳳1。これより、R宅に突入する」

 

 

 無線から「鳳1、了解」と声がかかる。

 近辺に人の気配がない事を確認してから、監視に当たっていた八人が突入を開始。

 

 玄関戸の鍵は開いている。そこから突入する者たちと、裏口から挟み込む者たち、そして標的の脱出を考慮して四方から見張る者たちとで役割を分担。まず、こっそり抜け出せる事は出来ないだろう。

 

 

「雲雀10から鳳1。Rの居場所を報告されたし」

 

 

 盗聴機によると、梨花はまだ居間にいる。

 

 

『ふ〜んふふんふん、ふ〜ふ〜ふ〜ん〜来ると言う〜♩』

 

 

 うろ覚えの「ウルトラマンレオ」を歌っていた。完全に油断している。

 

 

「鳳1から雲雀10。Rは居間にいる」

 

「雲雀10、了解。確保に移る」

 

 

 確保用のテーザー銃を構え、相方と目配せし合う。

 それを合図に、とうとう部隊は梨花の家へ一斉に突入する。

 

 

 土足のまま玄関から廊下に上がり込み、居間を目指して駆ける。

 目的の部屋の前に着くと、すぐには襖を開けずに耳を澄ます。中からは確かに、梨花の楽しげな声が聞こえていた。

 

 

「セブ〜ン、セブ〜ン、セブ〜ン♩」

 

 

 部屋から移動はしていないようだ。雲雀10は思わずほくそ笑む。

 

 

「へっ……何も知らねぇで……呑気に『ウルトラ()()セブン』歌ってやがる……」

 

 

 廊下の奥を一瞥すると、裏口から侵入した仲間が待機している。これで仮に逃げられたとしても、すぐに捕まえられるだろう。

 

 

 テーザー銃の銃口を向け、引き金に指をかけた。そして一息で襖を開け、一気に居間へと雪崩れ込んだ。

 後は梨花に向かって放つだけだ。

 

 

 

 

 

 

 しかし雲雀10は居間の中を見た途端、「あっ!」と愕然の声をあげる。そのまま慌てて、小此木へ無線を飛ばした。

 

 

「こちら雲雀10! 緊急事態発生!」

 

 

 雲雀10の眼前に、梨花の姿はない。

 誰もいない居間、大きなテレビ、積まれた座布団、中央にはちゃぶ台──そのちゃぶ台の上に、ラジカセが置いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

『ウルトラセブンをウルトラ()()セブンって言う人とは仲良くなれないのです。にぱーっ☆』

 

 

 そのラジカセは、延々と梨花の声を大音量で流していた。

 ラジカセの傍らにはぽつんと置かれた、次郎人形。まるでこちらを嘲笑っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 その情報は即座に小此木へ渡る。

 

 

「ラジカセだと!?……クソッ……! 盗聴機の存在に気付かれていたのか……!?」

 

 

 完全に想定外だが、まだ巻き返しは可能だ。

 ならば外に飛び出した梨花が、本物だったのだろう。そっちはまだ追跡中だ、取り逃してはいない。

 

 

「鳳1かは鶯5! Rの確保は可能か!?」

 

「こちら鶯5。辺りに人はいない……護衛と思われる男が三人いるが、こちらは六人。制圧は可能です」

 

「良し……許可する! すぐに確保しろ!」

 

「鶯5、了解」

 

 

 一応、その梨花が本物だと見做しているものの、蟠りは消えない。

 確かに昨日時点で、梨花と沙都子の二人が家にいたハズだ。そして出た方がどちらか一方だとしても、必ずもう一方は中にいるハズ。

 

 

「鳳1から雲雀10! 徹底的に屋内を調べろッ! 隠れている可能性もあるッ!!」

 

 

 梨花の家はそんなに広い家ではない。勿論、内装は全部隊、頭に叩き込んでいる。大人が数人がかりで調べ回れば、ほんの十分で隅から隅まで探し尽くせるだろう。

 

 

 とりあえずは外に出たもう一方の確保だと、部隊からの報告を待つ小此木だが、掛けられたのは困惑した声だった。

 

 

「お、鳳10から鶯5!」

 

「どうしたッ!?」

 

 

 度重なる異常事態に、小此木の声も荒っぽくなる。その声に少し驚きながらも、鶯5は信じられない物でも見るかのように前方を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 梨花を確保しようとした彼らの前を、軽トラ数十台が並んで遮る。車列はザッと道の端から端まで並び、遠回りは出来ない。

 何だこれはと困惑する彼らに応えるように、一台の軽トラのスピーカーから大音量で声が響く。

 

 

 

 

 

「これよりッ! 公由家主催ッ!!『ひっきーのえれくとりかるぱれーど』を開催するッ!!」

 

 

 

 

 

 その声の主は、雛見沢村の村長である公由喜一郎だ。

 並んだ軽トラの荷台には段ボールで作った、村のマスコットキャラクター「ひっきー」が乗せられている。一台だけ、なぜかエッフェル塔に貫かれている。

 

 軽トラだけではなく、村人たちもぞろぞろとその車列に追随して歩いていた。すっかり、梨花たちと鶯5はパレードによって分断されてしまった。

 

 

 報告を受けた小此木は唖然とする他ない。

 

 

 

 

 

 

「……どうなってやがる?」

 

 

 脳裏に浮かぶは、東京から来た奇術師と学者の顔。

 何をした、何を考えている、それよりも自分たちについて何を掴んだのかと……ひたすらに考えを巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山 田 奈 緒 子
前 原 圭 一

 

 

園 崎 魅 音
上 田 次 郎

 

 

矢 部 謙 三
竜 宮 レ ナ

 

 

北 条 沙 都 子
石 原 達 也

 

 

菊 池 愛 介
古 手 梨 花

 

 

大 石 蔵 人
秋 葉 原 人

 

 

山 田 里 見
園 崎 詩 音

 

 

 

 

 

 

 

【卵の黄身は、 山田と上田】

 

 

 

 

 

 

 

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