試作483品を完成させたのに白紙…予約殺到の万博くら寿司「70種の世界料理」開発者が記憶が飛ぶまで飲んだ夜
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■メニュー開発担当者が483品を考案した後、企画が白紙に メニュー開発時には必ず経営陣に試食してもらって最終的な承認を得る。ただ、483皿はさすがに一度にまとめて試食できない。試食会は8回に分けて実施。どれも自信作で、試食した経営陣からの評価は高かった。ところが、最後の最後で企画自体にNGが出た。 「各地の料理は個性的なのですが、それをシャリの上に乗せて寿司の形にすると違いがわかりづらく、『これさっき食べなかった?』となってしまう。味付けも南アジアの地域はカレー味が多く、違いを出しづらかった。それらを指摘されて、寿司にアレンジすること自体が取りやめになりました。自分ではやり切ったつもりでいたので、仕切り直しを告げられたときはショックでしたね。その夜は記憶なくなるまで飲みました(笑)」(中村氏) ■わずか3カ月で世界の料理70メニューを完成させるミッション 落ち込む間もなく中村氏のもとに新たな指令が届く。「寿司にアレンジしないでいい。世界の料理を70品開発しろ」。161カ国3品ずつと比べれば、70カ国1品ずつはハードルが低い。しかし、新たな指令には別の困難があった。時間との闘いだ。企画を練り直したのは24年春。メニュー決定後にはオペレーションをつくりこむプロセスがある。万博開幕の25年4月から逆算すると、開発に充てられる時間は約3カ月しかなかった。 「最初はメニュー選定に苦労しました。万博であることを考えると特定地域に偏らずに選ばなくてはいけないし、地域内でも肉料理や魚料理、デザートなど広くカバーする必要がありました。いろいろと制約がある中で、バランスを取るのはたいへんでした」(中村氏) 制約は地域バランスだけではない。大きかったのは価格だ。くら寿司は世界の料理を一皿300円(回転レーンから取った場合。注文は320円)で提供。大阪・関西万博は各国パビリオンにあるレストランの飲食代金が高価であることが注目を集めているが、それに比べるとずいぶん良心的だ。ただ、利用客にはありがたい低価格も、開発側には原価の制約条件としてのしかかる。 〈後編〉に続く ---------- 大阪・関西万博店長の飯田尚美さん:新メニューとして70もの世界の料理を出すと聞いたときは、店のオペレーションがちゃんとできるか、正直、不安もありましたが、練習期間は十分あり、大きなトラブルもなく運営できています。 ---------- ---------- 村上 敬(むらかみ・けい) ジャーナリスト ビジネス誌を中心に、経営論、自己啓発、法律問題など、幅広い分野で取材・執筆活動を展開。スタートアップから日本を代表する大企業まで、経営者インタビューは年間50本を超える。 ----------
ジャーナリスト 村上 敬