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――桜井さんがゲームを作る際、ユーザーの視点を重視するのか、それとも自身の作りたいものを突き詰めるのか、そのバランスはどのように取っているのでしょうか。
それは完全にユーザー寄りですね。むしろ、自分が得意ではないジャンルのゲームを作ることもあります。例えば2005年のパズルゲームの『メテオス』はその典型です。私は落ち物パズルが苦手です。しかし、ゲームの特性を理解さえしていれば制作は可能です。
ゲームには、それぞれのジャンルで、好きな人や興味を持つ人がいます。その中で「一番いいとこ取り」をするにはどうすればいいかをよく考えます。自分が面白いと思うかどうかよりも、ユーザーがどう感じるかを優先しています。ただし、至らない部分も多々あると自覚しています。
――開発の中で妥協する場面も多いとのことですが、「これ以上は無理だ」と判断するラインはどのように決めているのでしょうか。
線引きというものは特にありません。その時々の状況によります。うまくいきそうであればリテイクしますし、難しければ諦めます。特に距離感が遠い課題ほど諦めやすいかもしれません。また、開発初期と末期とでもそれは異なります。末期であれば締め切りを重視せざるを得ません。
――桜井さんのようにスタッフを雇わず1人で活動する働き方は、ゲーム業界において最適解なのでしょうか。
それは人によります。私の場合、過去に『星のカービィ』や『スマブラ』といったタイトルを制作した実績と信頼があるからこそ成り立っています。それがなく、全く実績がない人ならば仕事は来ないでしょう。良いものを作り続けることで味方が増え、その結果として可能になる働き方であり、このスタイルが誰にでも通用するわけではありません。
一方で、ゲームディレクターという職種自体が現在は希少だとも感じています。それが何百人のスタッフがいる現場を引き受けられるディレクターとなると、相当にレアだと思います。ゲームを作りたい人、作っている人の数自体は多いのですが、大人数のプロジェクトをまとめあげられるゲームディレクターがいま、不足している状況ですね。
――それは業界の構造的な課題なのでしょうか。
理由はいくつもありますが、最近、特に難しいと感じるのはゲーム開発における専門化・細分化が進んでいることです。私はグラフィックやサウンドエフェクトなど幅広く目を通しますが、今このような「オールラウンダー」が育つ土壌は、ほとんどありません。
昔はグラフィッカーからプランナーになり、その後ディレクターになるという流れもありました。しかし現在では、例えばグラフィックだけでもモデル、エフェクト、テクスチャーなど細分化されています。その中でジェネラリストとして成長することは非常に難しい時代になっていると感じます。この専門化・細分化の進行が、広範囲に見通すディレクター不足の原因だと感じています。
――桜井さんは歴史に残るお仕事をされてきました。桜井さんのようなゲームデザイナーは、これからの専門化・細分化した時代においても生まれてくるのでしょうか。
私のようなタイプが生まれるかどうかを論じるのは、あまり意味のないことだと思います。それぞれの人が持つ個性が重要であり、その個性をどう伸ばしていくかが鍵です。私と全く同じレールを歩む人はいないでしょうが、別の方向で突き抜ける人は必ず出てくると思います。
これは例に出すのもおこがましいですが、宮崎駿さんの後継者問題と似ています。宮崎さんは、宮崎さんにしかできない仕事をしているわけで、他の人がそのレールに乗ってまねられるものでもありません。むしろ、それ以外の道で勝負することが大切です。ゲームデザインも同様で、個々のクリエイターが独自の道を切り開くべきだと考えています。
――ゲーム開発が大規模化し、専門化・細分化する一方で、1人や少人数で制作するインディーズゲーム市場も成長しています。ゲーム市場の今後についてどのように見ていますか。
正直なところ、一寸先は闇ですね。現在のような大規模なゲームを作ろうとすると、手間がかかりすぎて持続可能ではない状況に来ていると思います。このままではいけないとは感じていますが、現時点で有効な打開策として思いつくのは生成AIくらいです。生成AIを活用することで作業効率を上げるなど、スキームを変えていかなければならない段階に来ていると感じます。そして、その変化にうまく対応できた企業だけが、生き残れる時代になるのではないでしょうか。
――インディーズゲーム市場の可能性については、いかがでしょうか。
インディーズゲーム市場にも課題があります。現在、年間1万本以上もの作品がリリースされる中で、目立つ存在になるのは非常に難しいことです。インディーズゲームには自由度や創造性という魅力がありますが、それだけではなく、市場で成功するためには多くの努力と運、完成度や群を抜くことも必要です。その意味では、大規模プロジェクトもインディーズも、それぞれ異なる形で先の読めない現実に直面しているといえるでしょう。
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