募る想いは決して消えず。
だけど熱い想いは伝わらず。
この情熱、せめて。
共に同じ女を想うあの男に。
ぶつけてしまおうか。
荒涼とした砂漠の中に広がる風の国砂隠れの里。
その中に一際目立つ球体の建物が。
そこにはこの国の最大の権力者であり、主が居座っている。
その名は、我愛羅。
五大国最年少の長である。
そこをなめてかかった周りの小国が攻め入ってきたところがあったが、後悔して帰っていくことになった。
その過去は、壮大で哀しさに満ちたものであり、今も、彼は哀しさの中にいる。
日々窓の外を眺めてはため息をつく我愛羅。
そんな彼をひどく心配した姉兄は何故毎日哀しそうなのかを聞くが、
いつも決まって微笑んで、首を横に振るだけ。
そして、我愛羅は日々活力をなくしていく。
昔みたいに、虚無感に浸って、見えない何かを愛しげに眺めている。
我愛羅の様子にいても立ってもいられなくなったテマリとカンクロウは
里の上役達に無理を言って弟をどこか静かで安らげる場所に休暇へ行かせてやるよう頼んだ。
上役達もここ最近抜け殻状態の我愛羅が気になっていたらしく、特にとがめることなく許可を降ろした。
木ノ葉の里へ、我愛羅は休暇をとることになった。
願ってもいない木ノ葉への休暇。
これで、ヒナタに会える。
会いに行ける。
それだけを想って我愛羅はテマリとカンクロウと共に砂隠れの里を後にした。
「これから三日後に砂隠れの風影が見える。
皆、失礼が無いように丁重にお迎えするんだぞ」
五代目火影、綱手の言葉に木ノ葉の上忍達は浮き足立って風影を迎える準備を始めた。
ただ一人、日向ネジを残して・・・。
あの男。
何故今になって、この里へ来る?
無駄だと分かっているはずなのに。
無駄なのに・・・。
苛立ちが、募っていく。
砂から木ノ葉への道のりを、テマリを先頭に、カンクロウをしんがりに三姉弟は進んでいた。
その間中も我愛羅は一言も口をきかず、テマリとカンクロウが一方的に話しかける状態だった。
ただ、砂にいたころよりは話に相槌を打つ程度には回復していた。
それでも、様子がおかしいことには変わりない。
とうとうカンクロウが鬼門を開いた。
「我愛羅、いい加減話したらどうなんだっ」
何も話さない我愛羅に心配と苛立ちを募らせていたカンクロウは知らず知らずのうちに声が荒くなっていた。
「・・・何をだ?」
我愛羅は、やんわりと笑いながらカンクロウをみた。
だがその目は兄を通り越してどこか遠いところを見ていた。
「・・・わかってるだろっ。
一体なにをそんなに悩んでるんだっ?!
なあ、話してくれよ。それとも俺達には話せないことなのか?」
「そうだよ、我愛羅。
私たち一生懸命相談に乗るよ?」
黙って話を聞いていたテマリが話に入ってくる。
テマリもカンクロウも、我愛羅に笑顔が、本当の笑顔が戻るなら何でもする覚悟だった。
すると我愛羅はもっと柔らかい笑みを浮かべて言った。
「・・・大丈夫だ。
お前達に相談できないことではないが・・・言ったらお前達、何をするか分からないからな・・・。
それに・・・お前達に迷惑はかけたくない」
「迷惑じゃないっ!」
がっと我愛羅の肩を掴んだカンクロウは目に涙を浮かべていた。
「我愛羅・・・話してくれないのか?」
我愛羅は遠い目をして笑みを浮かべたままカンクロウの手に手を重ね、開いた方の手でテマリの頬を撫でる。
「大丈夫・・・。
大丈夫だよ・・・」
その目はやはり、目の前の姉兄ではなく、遠いところにいる何かをみていた。
苛立ちと、哀しさが積もり・・・。
積もって・・・。
日向家。
普段この家は静かであるが、ここ数日はバタバタしていた。
理由は風影である我愛羅が木ノ葉へやってくるから。
以前の風影就任の宴にこの日向一族がよばれ、
恩義に厚い日向一族は火影に申請して風影一行をこの家に泊めることにしたのだ。
その中で、一番張り切っているのが日向家当主の日向ヒアシとその次女のハナビ。
ハナビは我愛羅の変わりぶりをみて惚れてしまったのだ。
自分もあのようなリーダーになれればよいなという憧れの念だが、
この家に来てくれるというので色々な心得を教えてもらえると思うとワクワクしてしまっているのだ。
そしてヒアシは単純にあのときの宴のお礼をしたいというだけ。
だが、あのときの宴よりも素晴らしいものにして風影とその姉兄に喜んでもらいたいというのが大きかった。
そして、考えた。
あのときカンクロウが舞ったように、素晴らしい舞を見せて差し上げようと。
だからヒアシは一族一の美しい容姿を持つ自らの甥のネジを選んだ。
「ネジ、風影様にお前の素晴らしい舞を見せて差し上げたい。
やってくれるか?」
そう言って。
ネジはいつものように伯父の願いを頭を下げて聞き入れた。
「はい・・・。仰せのままに」
それからネジは舞の練習を始めた。
もともと物覚えがよいネジだから、見る見るうちに上達し、誰もが目を見張るようなものに仕上がった。
その顔に化粧を施している彼は美しかった。
だが、彼の心は真っ暗な感情で埋め尽くされていた。
我愛羅、俺はお前が憎いわけではない。
むしろ、尊敬している。
だが、判っているだろう?
判っているんだろう?
無駄だって・・・・。
敵わないって・・・・。
決して・・・。
届かないって・・・。
明日、風影一行が木ノ葉隠れの里に到着する。
=続く=