ソレはまるで、胸が締め付けられるような感覚だった。
ただ、俺はお前を見つめることしか出来ないが・・・。
初めて見たとき、ソレはただの感情の、殺戮感情の肥やしにするためのものだった。
美しかった。白い肌、黒い髪、薄く色ずくその唇が、全て美しくて、俺のものにしたくなった。
簡単なことだ。砂で一握りにしてしまえばいい。
さすれば、その美しい容姿は一生俺のものになる。
それでもお前は逃げようとする。隠れているつもりなのだろうが、俺には最初からわかっていた。
―逃がすものか・・・。
「我愛羅、もうやめようっ」
邪魔をする声に苛立ちを覚え、殺意の矛先を目の前の傀儡師に向ける。
俺に逆らうものは、たとえ実の兄であろうと関係ない。殺すだけ。
だが、コイツを殺したら確実に四代目に殺される。
そんな、面白くも無い。
だから講義の手を振り払い逃げようとするお前にまた矛先を向ける。
邪魔なムシも二匹ついていたが、母さんの栄養になるだろうから一緒に潰してしまおう・・・。
「我愛羅っ」
うるさい女の声。その悲壮な声に、胸に何かがはしるのを覚える。
気持ちが悪い。
「わかったよ・・・」
今日のところは見逃してやる・・・。
だが、お前は俺のものだ。
忘れるな。
塔につき、連れの2人は寝てしまう。
たかだか半日森を歩いただけで何がそんなに疲れるのか。
それとも、これは眠れない俺に対する報復なのだろうか。
だとしたら、くだらない。そんな小さな抗らい、通用するものか。
胸糞が悪い。
ああ・・・だけど、俺も寝てしまいたい。
寝てしまって、いっそのことこのバケモノにのっとられてしまいたい。
そうすれば、こんなつらい日々から逃れられるかもしれない。
だって俺は守鶴の中で眠っていればいいだけだから。
でも・・・俺じゃなくなる。
それは、嫌だ。
途方もないことを考えていると、いつしか日が沈み、目の前には大きな夕焼けが。
部屋の中が朱色に輝いている。
夜になり、連れが起きだしてきた。
どうやら俺達は一番に着いたらしく、残りの四日をこの中で過ごさなければならないらしい。
そのことに文句を垂れる連れ。
とりあえずどこか広いところで食事を取ろうということになり、塔の階段を下りていく。
すると・・・いた。
俺の、ああ・・・なんていえばいいのだろう。
あの女のことを。
一瞬その女にみとれた。
だが、俺を見たお前が浮かべた表情。
それは恐怖以外の何物でもなく・・・。
ああ・・・いつかその顔を浮かべながら俺のものになる日が来る。
なんて、ぞくぞくするのだろう。
・・・待っていろ。
お前は俺のもの・・・。
塔の中での生活は、ただつまらなくて・・・。
のろのろと過ぎていった。
その間お前と目を合わせることも無く・・・。
いや、姿さえ見当たらない。
この中は狭いのに。
第二の試験が終了した。
その知らせを受け、塔の中のホールに一同は集まった。
これから・・・命がけの戦いが始まる。
俺はただ、悦びに震えていた。
なんて楽しいのだろ・・・。
皆が本気で相手を殺しあっている。
いっそ、相手を殺してしまえばいいのに・・・。
あの男、試験管。
止めるな。
皆を。
負ければそこまで。
敗者にはそこまでの存在価値しかないのだから。
だが一方で、怒っていた。
俺の女。
日向ヒナタ。
お前とあたった日向ネジに俺は怒っていた。
お前を傷つけていいのは・・・俺だけだ。
他の、誰であっても・・・お前を傷つけることは許さない。
お前の滴る血は、この俺のもの。
懸命に日向ネジに立ち向かう姿も、俺のもの。
渡さない。
渡しはしない。
日向ネジ・・・殺してやる。
それだけの力量はありそうだ・・・。
くくく・・・楽しみだ。
俺はただその日を、指折り数えて待っているだけ・・・。
ここは、火の国の国境付近の森の中。
追ってくるのはお前ではなくて、俺と対等にやり合えるあの男。
うちはサスケ。
ああ・・・猛るこの気持ちを、やっと発揮できるのか。
嬉しい。
嬉しいが・・・結局・・・お前をものには出来なかった・・・。
それが唯一の心残りだ。
まあ、いい。
この男を片付けたらお前の元へ戻ろう。
そして、俺はお前と一つになる。
お前は一生俺とともに生きる。
そう、この俺の心の中で、永遠に。
うずまきナルト、何故、俺の邪魔をする。
何故、俺の気持ちを見透かしてかのように語りかけてくる。
何故、俺のために泣いてくれる。
何故・・・何故・・・?
仲間がそんなに大切なのか・・・?
俺は自分の姉兄でさえ、ゴミ以下にしか見ていないのに・・・。
ああ、だけど・・・。
テマリ、カンクロウ・・・。
あいつらは俺のことを気にかけてくれていたのだろうか・・・?
俺のことを心配してくれていたのだろうか・・・?
そして・・・。
いや、そんなことは・・・あるはずが無い。
許されるものか。
そんな事。
だが・・・何故なのだろう。
お前らは来てくれた。
こんな俺なのに、倒れている俺の前の敵に、立ち向かおうとしてくれる・・・。
「もういい・・・。ヤメだ」
やめろ。これ以上・・・傷つくな。
お前達だって・・・いっぱいいっぱいなのだろうに・・・。
「わかったよ・・・」
カンクロウ・・・。こんな俺に肩を貸してくれるのか。
テマリ・・・。こんな俺なのに、心配してくれるのか。
ああ・・・今まで感じたことの無い、この気持ち。
この気持ちを・・・お前に向けられる日が来るのだろうか・・・・。
ああ・・・ヒナタ。
日々は過ぎ、そして、お前に対する想いも募っていく。
募い募って、お前のことが頭から離れず・・・。
「木の葉のうちはサスケが抜けた。
お前達はサスケ奪還に向かった五人を援護しろ」
「はっ」
結局・・・うちはサスケ奪還には失敗した。
うちはは音に渡り、アイツ、うずまきナルトは重症を負って帰ってきた。
見舞いに行こう。
そして、ともに他愛の無い話をしよう。
俺を救ってくれたナルト。
俺ではうちはの代わりにはなれないが、いや、俺がお前と友達になりたいだけだ。
よし・・・行こう。
ああ・・・ヒナタ。
何故お前がナルトの病室の前にいる?
・・・判っているさ。
好きなんだろう?
ナルトが。
こちらの視線に気づいたのか、お前はこちらに顔を向ける。
だが、俺はそこにはいない。
さっと壁の陰に隠れた。
見舞いの花を持ち、頬をそめて病室に入っていく様子を、第三の目を使って眺めていた。
そしてすぐに悲鳴が聞こえ、何かがドサッと音を立てて落ちる音がした。
「ヒナタっ!ヒナタ、おいっ、大丈夫かっ?!」
・・・ヒナタっ?!
ああ・・・。
すぐに駆けつけてやりたい衝動に駆られたが、ここで俺が行ったら・・・・なんて思われる?
やるせない気持ちを胸に、俺はその場を去った。
そして、また時が流れて。
俺は風影に昇任した。
里での祝いの席が設けられ、木ノ葉の火影と一部の忍を招くことになった。
ダメだとは判っている。
判ってはいるが、どうしてもヒナタ、お前の顔が見たくて・・・。
日向一族を招いた。
祝いの席でカンクロウが舞を舞っている。
前から舞を習っていたらしい。
いつの間にそんなことをやっていたのやら。
だが、相当練習したらしく、その舞はとても美しく、誰もが目を奪われた。
俺以外は。
キレイな横顔、以前より艶を増した唇が愛おしく・・・。
ああ・・・この気持ちを伝えたい。
そのふくよかな唇を奪ってしまいたい。
ああ・・・ああっ・・・!
でも・・・だけど・・・。
視線に気がついたのはお前ではなくて、護衛についていた男、ネジの方。
俺の視線に含まれている感情にも気づいたらしく、どこか寂しげな表情をした。
ああ・・・お前もか。
お前も・・・。
あの日お前に感じた感情は、もう俺の心からは消えている。
手合わせしたいという気持ちが無いわけではないが、それはまた次の機会でいいだろう。
だが・・・。
ネジ・・・頼むから、ヒナタを護り尽くしてくれ・・・。
最後まで。
伝わったのだろうか・・・。
お前は深く頭を下げた。
すぐそばにいる。
ヒナタは俺よりお前の近くにいる。
近くにいるのに・・・想いが、愛しさが伝わらないのは・・・つらいな。
だが・・・相手が相手だ。
致し方ない。
ナルトには・・・敵わない。
敵いっこない。
盛大な拍手で、カンクロウの舞が終わった。
それは、この宴の終わりを告げていた。
見送るお前の背中。
どんどん小さくなっていき、やがて消えた。
その淡い白の目。
その肌。
全てがあの花を思い出させる。
健気に咲いているあの花に。
摘んで、花瓶に飾りたい。
飾って、ずっと眺めていたい。
想いは伝わらず、ただ・・・。
ただ、ただ・・・。
俺はお前を遠くから眺めているだけ・・・。