岩場を離れた後。テマリとカンクロウが迎えに来た。
どうやら火影がお呼びらしい。
一方サクラも、頭上を連絡用の鳥が旋回しているのを見たあと、火影のところへ走った。
サクラが見上げた空は・・・青く、澄み切っている。
泡沫夢幻(ほうまつむげん)~第3章~
我愛羅たちが戻ると、中忍試験の会場にいた木の葉の忍がいた。
綱手が輪の中心で、腕を組んでいる。
「あとはサクラだけか。そう遅くもないだろう。
あらかたの内容は全員に話した。
作戦のほうも、それが一番穏便にいくだろうとみんなの了承も取った。
あとは我愛羅・・・
お前が、この中から花嫁役のくの一を選ぶだけだ。」
―――・・・本当にこの作戦でやるのか・・・?
あきれ返ったが、綱手の目は本気だった。
いまさら、自分の我侭で固まりかけた計画を無駄にできない。
しかし。
我愛羅は先ほど、サクラと話したことを思い出してその場の全員に言った。
「任務とはいえ…女はこういうのは嫌なんだろう。
嫌がるのに無理強いする必要はない。
俺一人で良い。それに…」
女の目を見てみろ。
こいつらは中忍試験での俺の戦いを見ている。
―――・・・こいつらの目には恐怖の色しか見えない。
そんなに嫌なら俺一人で十分だ。
みんな殺せばいい。
・・・・みんな、みんな。
それで傷つくものが少ないのなら。
しかし。
彼の考えを否定するかのように、火影の部屋の扉が勢いよく開いた。
「・・・そんな。そんなののダメですよ!!砂の、大切な巻物なんでしょう!
それなら、わたしがその役をやります。」
息を切らしたサクラが我愛羅のほうに歩いていく。
サクラは我愛羅に問いかけた。
「私じゃ・・・だめですか。」
一瞬、その場が緊迫した雰囲気になる。
しかし、我愛羅の言葉で打ち解けた。
「お前が進んで言ったことだ。
俺が止める権利はない。ただ、嫌なら早々にやめろ。」
冷たく聞こえるかもしれないが、テマリたちには、今までの彼より、他者を考えての発言だと感じ取れた。
―――・・・やはり我愛羅は・・・成長しているな・・・。
テマリとカンクロウは思わず微笑んでしまった。
サクラも多少はそれを感じ取ったようで。
「はい。」
と、微笑んだ。
これで、正式に役柄が決定したことになる。
先ほどまで、2人の様子を固唾を呑んで見守っていた他の忍が一斉にしゃべりだした。
「
くぅーーーーーっ!!く、悔しいです・・・サクラさんをとられてしまいました・・・!!
ガイ先生!修行に行きましょう!!
この悔しいという思いを、修行でぶちまけますッ!!」
「おぅっ!!熱い・・・熱いぞ、リィィーーーーーーッ!!!!
行くぞぉーーッ!!
ネジ、テンテン!熱い修行を始めるぞーっ!」
熱血おかっぱ2人組の後をネジ、テンテンがため息交じりでついていく。
「はぁ・・・じゃぁ!式、ちゃんと行くからね!」
「おめでとう、春野。任務もがんばれよ。」
ガイ班はまるで風のように走り去ってしまった。
「はぁ・・・8班!!
結婚のお祝いを買いに行くわよ!!サクラ、おめでとう。
頑張るのよ!結婚式には日本酒を持っていってあげるから。」
「お、おいおい!サクラは未成年だぜぇ?じゃあな、サクラ!」
「・・・またな。」
「サクラちゃん・・・あ、あの・・・おめでとう!」
紅班もまた、まとまって出て行ってしまった。
「めんどくせぇが俺らも行くか。サクラと砂のヤツのお祝いっつーのを・・・」
「めんどくさがり屋のアンタが、めっずらしー!
じゃあねん、デコリーンちゃぁーん♪」
「僕はお菓子でいいかな、好きなものがあったら言ってね。」
「ちょっとぉ!アスマ先生ってば!行くわよぉ!!」
「へーいへい。じゃあな。サクラ」
アスマ班も出て行ってしまった。
急に騒がしくなったかと思うと静かになった。
サクラたちの緊張の糸が切れる。
そこへ。
「よし、サクラ。式の準備は任せろ。
・・・シズネ、頼むぞ!!」
「え・・・えぇぇ?!!!私ですか?!!!!」
「当たり前だ!火影っていうのは、色々と忙しくてねぇー・・・
あと砂の方々の宿泊施設も手配してくれ。
サクラは今後、砂の方々とともに行動せよ。いいか?!」
「え・・・あ、はいっ!」
「では、私にも諸々の準備がある。
数分すれば、砂の方々と泊まってもらう施設に案内してもらえる。
しばらくはここの部屋に居ていいぞ。
では、失礼する。」
足早に綱手は部屋を出た。
すると。
廊下にはすすり泣く声が充満していた。
「な、なんだぁ?」
綱手が見たもの・・・
それは。
先ほど、爽やかに去っていった木の葉の忍たち、
サクラ婚約の報を聞いてしまった(サクラの熱狂的なファンの)通りすがりの忍、
なぜかちゃっかり居た医療忍者、
そして偶然にその場に居合わせたパートのおばちゃんがすすりないていた。
(パートのおばちゃんはその場の雰囲気で泣いています。彼女は涙もろいのです。)
「これは・・・簡単には済みそうにないな・・・」
綱手はそういうと、自分の頬をつたう涙を拭いたのだった。
外のそんな様子を知る由もない者5名。
バキ、テマリ、カンクロウ、我愛羅…そしてサクラ。
テマリはサクラに向かって
「こいつを頼むぞ。・・・実は、シャイなんだ。根は優しいやつだから、頼んだぞ。
わからないことがあったら私たちに聞いてくれ。出来るだけ力になる。」
と言われ、はい、と言うしかなかった。
テマリはその後、ハッとしたかと思うと、カンクロウとバキを部屋から引っ張り出した。
「我愛羅。姉さんたちは外に居るから。花嫁に、言うことがあるだろう?」
それだけ言い残し、テマリは2人を連れて出てしまった。
「・・・・言うこと・・・?」
サクラはまだわかっていないらしい。
ここら辺は鈍いようだ。(とても)
すると。
我愛羅はサクラの前に行き、
サクラの手をとる。
岩場で彼女にしたように。
「春野・・・いや、サクラ。
任務上とは言えども、お前は俺の妻ということになるが、本当に良いのか。」
「うん。私が選んだんだから。」
「・・・結婚・・・してください。」
「・・・はい。」
木の葉のアイドル。
春野サクラ、結婚・・・
このニュースは他国の忍でさえ深い悲しみを与え、嫉妬を煽ったとか。
しかし怒りの矛先であるのが、あの砂漠の我愛羅だということも知っているため、口出しは出来なかった。
そのため、怒りをぶつけるのには術の鍛錬や勉学に励もうと試みる者が増え、
例年を上回る学力、戦力を記録したとか。
自分絡みだという事を、春野サクラ、彼女は知らない。
結婚予定日・・・・重大な任務の時は刻々と迫っている。
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