式まであと1週間。
連日、砂、木の葉の上役で計画の確認、調整が行われた。
木の葉でも、大名の中で誰が怪しいか下調べを行ったりで大忙しだった。
それに今回はアスマ班、ガイ班、紅班の任務ということになったため、入念に各自の行動の確認をしなければならない。
そんな中、式の準備は着々と進んでいった。
なにしろ、公では「砂の風影と木の葉の火影の愛弟子(?)の結婚式」だが、実際は嘘だということがバレたら、今回の作戦は失敗してしまう。
そのためには悟られぬように行動しなければならない。
泡沫夢幻(ほうまつむげん)~第4章~
「我愛羅っ!ちょっと・・・我愛羅!!」
「…ん…すまない。」
この平和すぎる木の葉の里は・・・あまり俺にあっていないようだ、と我愛羅は思う。
砂では居眠りなどできなかったのだが・・・この里にいると、安心しきってしまうようだ。
いや、もしかしたら・・・これも・・・お前のおかげか・・・?
そう思うとそうかもしれない。
以前なら、人を抱きしめたことなどなかったが。
サクラを見ていると、つい、抱きしめてしまう。
サクラを抱きしめることが日常になってしまったようだ。
―――・・・寒かった、冷たかった腕が、温かくなっていく気がするから。
任務が終わったら・・・俺はサクラなしじゃ生きられないかもな・・・
そう思いつつ、必死に自分を起こそうとしているサクラを、すっと抱きしめた。
この里も悪くない。
でも・・・もし、これが彼女の演技だったら?
実際はまだ、うちはが好きなんだと思う。
―――・・・いや、むしろそうなんだ。まだ、やつを想っている。
俺が本当にサクラが好きで、サクラを求めていたとしても。それは彼女にとって演技かもしれない。
本当に演技だったら。ただ「嫁」と、いう役を演じているだけだとしたら。
それを聞こうにも、恐ろしくて聞けないのだ。
それにサクラが俺の嫁になってくれたこと・・・
嬉しいと思う反面。
嫌がる他のくの一が可哀想だから自分を犠牲にして、『嫌々進み出た』のかもしれないと考えている自分がいた。
問うてみたい、
サクラのこの行動はすべて演技なのか。
また「自分を愛してくれる者などいない」という考えが頭をよぎった。
夜叉丸の「あなたは愛されてはいなかった。」という言葉が、頭の中で反復する。
―――・・・本当に、俺は弱い生き物だ。
「サクラ、すまない。」
「え・・・・我愛羅?」
いつもなら、抱きしめてくれる手を緩めたら、サクラに微笑みかけてくれるのだが・・・
なにか、悩みがあるような表情だ。
行動も、いつもの彼ではないみたいで。
「悩みだったら、遠慮なく言ってね・・・?私、できるだけ・・・」
「何もない!!!!・・・何も・・・!!!!!」
そう言い残すと、我愛羅はその場を去ろうとした。
今はとにかく、彼女から離れたい。
この忌々しい感情、どうすれば消える?!!
いつまで、俺を苦しめる!!!
自らの恐怖心に苛立ちを感じる。サクラに当たってしまった自身を悔いる。
頭がズキッと痛くなったかと思うと、彼は意識を手放した。
――――・・・・サクラは、俺のもとから離れてしまうのだろうか・・・。
早朝。
「また・・・頭痛が・・・?」
「ああ・・・まだ完全には、立ち直れてない部分もあるみたいじゃん・・・」
カンクロウ、テマリが寝ずの看病をしていたサクラの代わりに看病を引き受ける。
サクラは我愛羅が頭痛で倒れてから、寝ずの看病をしていた。
―――・・・・式は明後日だというのに・・・大丈夫なんだろうか・・・?
サクラは我愛羅の看病を代わってもらうと、倒れるように床についた。
結婚式前日。
我愛羅は目を覚ました。
朝日が顔に当たって眩しい。
そこで気づいたのだが・・・自分の上に何かが乗っている。
少し起きあがると、鮮やかな薄紅色が見える。
いつも見えた翡翠色の瞳は今日は見えない。
完全に起きあがると、自然に膝枕の体勢になる。
サクラは疲れきった様子だったので、我愛羅はうまく布団からはいだし、自分が寝かされていた布団にサクラを寝かす。
どうやら、テマリたちの看病をまたサクラが代わり、そのまま寝てしまったのだろう。
我愛羅は深く眠ることが出来ないため、うっすらと聞こえていることがある。
手を握ってやると、弱々しくも握り返してくれる。我愛羅は静かに、自分を悔いた。
自分の看病に、こんな疲れ果てるまでついていてくれたのか。
それからサクラの手を握り、起きるまでずっと、彼女を見つめていた。
夜・・・
サクラはゆっくり目を開けた。
彼女の瞳には我愛羅が映る。
我愛羅の瞳にもサクラが映った。
「あ・・・あれ・・・?何で私がここに寝てるの?」
「お前が・・・俺の看病をしてくれたようだな・・・
俺は深く寝れないから、うっすらとは聞こえていた。」
「そ、そうなの?!!!」
サクラと我愛羅を照らすのは月明かり。
サクラの白い透き通るような肌が映える。
しばらく見つめあっていたが、その静寂を破ったのはサクラだった。
「我愛羅は・・・・我愛羅は、私が任務としてでもお嫁さんってことになるの・・・いやだった?」
「いやじゃない。俺はお前が、好きでもない男との結婚を望んでいたのかが不安だった。
今、こうして、触れ合っていることさえお前は芝居なのかと、こっちが逆に不安だった。」
それを聞くとサクラは我愛羅から目を背け、体ごと後ろを向いた。
「我愛羅は私のこと・・・好きでもないのに、抱きついたりする女だと思ってた?」
「・・・?」
「・・・・みんなの前で、好きでもない人に花嫁役をかってでるような、軽い女だと思ってた?」
震える声からわかる。サクラが後ろを向いたのは、彼に涙を見られたくなかったからだった。
「岩場で・・・我愛羅が・・・大丈夫だって言ってくれて・・・嬉しくて・・・・・っ!!」
そこからサクラの言葉は途絶えた。我愛羅が後ろから抱きしめたからである。
「が・・・あら・・・?」
「俺は、ついこの間まで、孤独で・・・他者を信じたり、愛することをしなかった。
今、お前のおかげで信じ、愛するということがわかった。」
「・・・・え・・・」
「・・・ お前はもう、俺のものだ・・・誰にも渡さない。」
サクラを抱く腕の力を緩めると、サクラは我愛羅のほうを向いた。
先ほどまで泣いていたために、瞳が潤んでいる。
「・・・心配をかけてすまなかった。」
「うん・・・。」
そう言葉を交わすと、自然に唇が触れ合う。
その口付けはほんの数秒だったが、サクラにはとても長く感じられた。
その後、サクラは我愛羅の胸に体を預け眠ってしまった。
我愛羅はサクラを抱きしめながら寝床につく。
「お前は・・・俺の・・・」
そこで、彼も浅い浅い眠りについた。
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