今日は我愛羅、サクラの結婚日。 朝から、火の国の綱手に招待された大名が彼らの式場へ向かう。 今日の木の葉は天気雨。 俗に、「狐の嫁入り」とも呼ばれている。 朝日が眩しいというのに、木の葉を雨が濡らしていく。 今日が「作戦開始」の時である。 泡沫夢幻(ほうまつむげん)~第5章~ 「今日は目立った任務はない。が、刺客が狙っている場合もある。 式場に入ると逆に怪しまれるから・・・式場周辺の道路に立って見張りをしてくれ。 シノ、キバ、ヒナタは我愛羅たちに作戦内容を伝えろ。任務の話は人の気配がしたら、絶対にするな。 いつ、どこで聞かれているかわからん。」 「はっ!!」 ガイ班、紅班、アスマ班はひとかたまりになり、火影の部屋から式場へ向かう。 「そーいや、カカシ先生は?ナルトがいないのはわかってるとして。」 「アイツか・・・Sランク任務で数週間前からいなかった気がするな。」 「気がするって・・・まぁ、確かにSランク任務で出かけているわよ。」 「ふーん・・・じゃ、あたし、家に戻ってからすぐに式場に行くわ!」 「わ・・・私も・・・お父様にも報告してくる・・・。」 「そうね、私も。じゃあ、あとでね!リー!ネジ!先生!」 「了解ですっ!・・・またあとで!」 「じゃあ私も行こうかしら。あとでね。」 紅もスッと消える。 くの一がいなくなったあと。 式場に向かって歩く男の集団。 「ねぇねぇ、シカマル。」 「あ?なんだ、チョウジ。」 「サクラ・・・きっと綺麗なんだろうね・・・。」 「・・・お、おぅ・・・そ、そうだな、うん。」 このチョウジとシカマルの会話を聞き、一同は固まった。 ―――・・・さ、サクラ・・・? 一応、結婚式だから・・・・着物かドレスか何か、着るんだよな。 ・・・・・見たい・・・ 男一同、サクラの個室の周辺をうろつくことにした。 口実は、「花婿は別として、花嫁のほうが危険だからです。」 ―――・・・この前・・・ こいつに焼肉を奢ってさえいなきゃ・・・忍服以外、数枚買えたのに・・・ そしたら花嫁の部屋に行けたのにな・・・ アスマはおもむろに財布を取り出しため息をつき、チョウジを軽くにらんだ。 花嫁の個室。 サクラはすでに白無垢に着替えており、化粧も済んで座っている。 あまりにも固くなって、俯いているサクラに、背後からシズネは優しく声をかける。 「サクラさん!落ち込むことじゃありませんよ!堂々と! あとで花婿さんもくるはず・・・サクラさん・・・?」 「・・・・っ・・・」 正面に回りこむとサクラの頬には涙が。 白く塗られた化粧が落ちてしまう。 「ど、どうしたんですか!!何か悲しいんですか?!」 「いや、あくびを・・・ここ、疲れるんですよね・・・!」 「・・・へ?」 「なーんか、あんまり緊張感がなくって!あーだめだなぁ。」 「まぁ、頑張ってくださいよ!大名にペコペコするだけですし、ね?」 「・・・ですよね。頑張らなきゃ!!」 すると、ドアがノックされる。 「サクラ、入るぞ。」 「う、うん・・・!」 入ってきた我愛羅も正装の羽織袴に着替え、いつもとは多少違う雰囲気である。 「か・・・かっこいい・・・。」 「・・・なんだ。」 独り言を突っ込まれると、妙に言いづらい。 「えー・・・えっと、いや、その、ね。カッコイイなぁって・・・。」 「・・・そうか。」 この若者2人の様子を、シズネは微笑んでみていた。 ―――あぁ・・・先が長い・・・、と内心ため息をつきつつ。 すると、いの、テンテン、テマリ、ヒナタが花嫁の部屋に入ってくる。 「ちょっとぉー!サクラー!!すっごく綺麗になっちゃってぇー!」 「うん、可愛いねぇー!!」 いのはサクラをバシバシ叩きつつ、しゃべる。 テンテンはその様子を遠巻きに見て言った。 「我愛羅もかっこいいじゃないか、立派だぞ。」 「・・・あ、ああ。」 ギクシャクした弟。そうそう見れるものではない。 「ん?どうした?」 「な、なんでもない・・・。」 「へぇ~。そうかぁ~。」 テマリはニヤニヤしつつ、我愛羅を見る。 ―――・・・さっきのやり取り、聞こえてたのか・・・ 我愛羅はため息をついた。 すると。 「あ、サクラちゃん・・・綱手様が来るよ。」 「え?綱手さ・・・・ 「サクラッ!!我愛羅!出番だよっ!!」 「頑張ってこいよー・・・」 2人が綱手に引っ張られていくさまを、いのたちは呆然と見ていた。 サクラも我愛羅も気絶寸前である。 そこへ、男達が急に入ってくる。 「・・・あれ、サクラさんは?!」 「ああ、もう行っちゃったわ。かわいかったぁ~!!」 テンテンの一言で、男達のテンションがかなり下がった。 ―――そ、そのために走ってきたのに・・・。 今は・・・いつものテンテンの満面の笑みが、 一番傷ついた心に痛かった。 そこへ紅が入ってくる。 「はいはい、見れなかったのは仕方ない。 私達は見張りだから、早く散りなさいよ? シノ、キバ、ヒナタは別室で待機! 散!!」 紅の一言で全員はしぶしぶ散って行った。 「サクラ、行くぞ。」 「うん。」 綱手から離れた2人。 我愛羅はサクラの手を取り、前へ引っ張って行ってくれた。 ―――私の・・・任務への恐怖がわかるの? わざとシズネの前では強がって見せたが、怖くて仕方がない。 我愛羅はあまり私のほうを見ない。 だから、任務をどう思ってるかなんて、わからない。 まずどんな任務でも怖くなんてないんだと思う。 今回は違う班、里の人との共同任務。 ―――でも・・・いつも足を引っ張ってた私は・・・ 任務はこれからなのだと、少々足が震えるが。 ・・・我愛羅が横にいてくれると少し自信が沸いてくる。 サクラは我愛羅と手をつなぎながら式場へ入り、客人達へ深く一礼すると、 大名達は一斉にしゃべり始めた。 数人の大名はサクラ達に話しかけてきた。 中には若い大名もいる。 「おめでとうございます。 なんでも君は、5代目火影の弟子らしいね。」 「は、はい・・・。」 「それに君は、風影候補だということもきいているぞ。 どうだね、大変かね。」 「はい。そう容易になれるものではないので。」 「2人は中忍試験であったようだが、砂の君はかなり好成績を残したそうだな。」 「有難うございます。」 「君は5代目のもとで、かなり力を付けてきているとか。」 「そんなこと・・・まだまだです。」 我愛羅はもともと、口数が少ないため、不機嫌なように見えてしまうが・・・ 彼なりに、頑張っているとサクラは横目でチラリと我愛羅を見やった。 いくら任務とはいえ・・・なんか、本格的にやられると・・・やりにくいなぁ・・・ と、苦笑いしてしまう。 さすがに質問攻めはきつい。 ―――大名って言っても・・・たくさん集まれば、 ただのオッサンの集団ねっ・・・!! など、余計な考えをしていると、綱手が部屋に入ってきた。 「ではこれより、式に入る!」 彼女の一声で本格的に式に入る。 賑やかに行われると考えていたが・・・式は至って、厳かな雰囲気で行われた。 心配されていた任務の情報漏れや、刺客などの危険な人物もいなかった。 サクラは一通りの手順を終わらせると、式場から出る。 今思い返せば、式場に居た大名たちの中に、私達に冷たい視線を送っていた大名がいたような・・・ 「―――あいつもあいつも・・・あいつも怪しい・・・」 「なんだ、怖い顔をして。」 サクラの怖い、真剣な顔を見て我愛羅が声をかけてきた。 「え、いや、その・・・怪しそうな奴が居たから、犯人はあいつかな~って。」 「まだ根拠がない。 それに元々目つきが悪い奴だったらどうする。気の毒だろう。」 アンタがそれ言っちゃおしまいよォ~・・・と思いつつ、我愛羅と個室に入る。 「なんかすんなり終わっちゃって、気ぃ抜ける~・・・ 私達、どうしてれば良いのかしら?」 そう言い終わらないうちに、天井から数人、木の葉の忍がサクラの前に現れる。 ヒナタ、キバ、赤丸、シノだ。 「サクラちゃんはここにいれば良いんだよ・・・?」 「そうそう!!お前らの護衛は俺らの役目だしよ!!」 「ワン!!」 「俺らは偵察の類は、得意分野だ。周囲に怪しいものがいれば、すぐにわかる。 それが、一番良いやり方なんだ。」 「・・・そ、そう・・・なの・・・じゃあお願いします・・・。」 すると我愛羅は急に立ち上がり、サクラの横に立つ。 「木の葉はどういう計画を立てたのか、お聞きしたい。 俺達二人は、まだ詳しい内容を聞いていない。 任務の作戦漏れも怖いが、任務の内容を聞いていないほうが怖いんでな。」 口を開いたのはキバ。 「ああ、詳しくは話せてなかったな・・・悪い悪い。 じゃあ・・・お前らにも今回の任務内容を話す。 ・・・・まぁ、座ろう。」 そう促し、全員を座らせる。 座ると同時に4人は一斉にキバの目を見る。 キバは頷くと、にやっと笑った。 キバは臭いで、ヒナタは白眼で、シノは周囲に配備した虫で、すぐ近くに敵がいることがわかる。 ―――・・・この部屋の声は聞き取られている。 サクラたちも誰かいることはわかっていたが、敵だとわかるまでは、3人の気配を見るまで理解は出来なかった。 キバはシノを見ると、シノが話し始める。 「今回の任務に参加する忍は9人。 俺ら8班と10班、そして砂の3人だ。 お前たち2人は数には入れていない。 俺らは中央の扉周辺を塀の内側から見張る。 シカマル達は城に入り巻物の見張りを潰す。奴らは連携プレーが得意だし、シカマル、いのは相手を操れる。 騒ぎはそこまで広げれないから、巻物の見張り役をここで潰す。 そこで砂の3人は巻物を奪取。 お前たち2人は何もなかったように城から出れれば良い。 襲われるようなことがあれば、やり返してやってもかまわない。 ・・・以上だ。」 シノは全員を見渡す。 サクラと我愛羅も、シノの作戦を理解し、 近くで聞いている敵をだますための、全て偽の作戦だということも理解した。 数分すると周りにいた忍はいなくなる。 白眼でヒナタが確認すると、キバが改めて、本当の作戦を伝えた。 「・・・っていうのが本当の作戦だ。お前たち2人はうまく、大名と話していて欲しい。 それか、できるだけ大人数の奴らを俺らから見えないところへ呼び寄せてくれ。 それとサクラに、通信機を渡しておく。 髪か何かで上手く隠しながら、防犯カメラやら、トラップがないか、わかったらすぐに連絡を。 これは我愛羅以外の全員の通信機に繋がってる。」 「わかった。」 「・・・フゥ・・・綱手様がこれだけはお前らに伝えろってさ。 周囲を気にしながら、敵に悟られないようにって、厳しく言われてきた。」 「そう・・・」 さすが火影。 細かな配慮も完璧だ・・・どんな小さなことにも気を許さない。 我愛羅、サクラは改めて、火影の頭の良さを知った。 「とにかく、今の計画は絶対にしゃべらないようにな。 しゃべっちまうと、今回の任務に怪我人が出るとヤバイ。 じゃ、綱手様に報告してくるからよ!!明日、頼むぞ!!」 キバは勢いよく、赤丸と走って出て行った。 「バイバイ、サクラちゃん・・・明日、頑張ろう・・・!」 「じゃあな。」 つづけて2人も部屋を出ていった。 「サクラ、大丈夫か。」 不安そうにしていたサクラに我愛羅は声をかける。 「うん・・・なんだか、心配で・・・」 「大丈夫だ。みんないるんだろう。仲間を信じてやれ。 俺でも木の葉の連中を信じている。」 「そうだね・・・」 ―――みんな・・・ケガをしませんように・・・ そう祈りつつ、我愛羅とサクラは個室をあとにし、自分たちが数日過ごした家に戻った。 しかし。 何かが、おかしかった。 それに2人は気づかず、床についてしまった。 第6章へ
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