「どうする?シカマル・・・。」
「大名から鍵を盗むしかねぇだろ。」
「でも・・・どこに・・・?本人が持っているかなんて、わからないんじゃ・・・」
「わからないなら行くしかないじゃないのよ!
いざとなったらこのあたしが、色香を・・・」
「いや、やめろ、ホント。」
「逆にみんな倒れちゃ・・・・」
いのの鷹のような鋭い視線に2人ともかたまる。
「・・・っていうか・・・」
「「?」」
「・・・・長い廊下ねぇー・・・」
泡沫夢幻(ほうまつむげん)~第8章~
「外が騒がしくなりましたね、まだ制圧できないのですか?」
「急がせております。少々お待ちくだされ。」
大名にも焦りの色が見えてきた。
―――これならぼろを出すのも時間の問題・・・と我愛羅は考えた。
人間、焦るとうまく行かないものである。
・・・サクラとの数日間の共同生活で、初めて気づいたことだ。
本人の無意識な行動に焦り、何度困ったことか。
大名は違う焦りだろうが、もう平静は保てないだろうと、考えた時だった。
大名が後ろを向き、とっさに印を結ぶ。
サクラも我愛羅もそれを見てはいなかった。
―――種縛の術!
その瞬間、サクラの首筋を強烈な痛みが襲う。
何なんだろうか、この巻きつくような痛み。
まるで、つるが巻きついてきているようだ。
「う・・・くっ・・・!」
「サクラ!どうした!」
「・・・くぅ・・・首ッ・・・!!」
サクラの首筋を見る。
朝、特に問題はないと考えていたところに、黒の十字の印が浮かび上がっている。
サクラの首筋に浮かび上がったそれは・・・彼の中に住んでいる守鶴の目のような。
我愛羅は息を呑んだ。
―――・・・深い眠りにつくと訪れるあの恐怖。
サクラに守鶴がとり憑いてしまったのかと考えてしまった。
しかし、守鶴は自分の中にいる。
何にせよ、人体に危険を及ぼすものだということはわかる。
サクラは思わず倒れ込んだ。首筋を抑え、苦しむ。
大名はそれを見、サクラに近づいてきた。
「たいへんだ!大丈夫ですか!
ともかく、横になった方がいい!
布団を用意させます、さぁ、そこの者にについていってください。」
我愛羅は任務としてであれば、もちろん大名を見ていなければいけないが、
今はサクラのほうが先決であると判断した。
「わかった、早く行け。」
「は、はいっ・・・!」
苦しむサクラを抱きかかえ、家来について行った。
彼らが出ていった瞬間、大名の表情は一変する。
再び従者が現れた。
「下はどうだ。」
「はい、情報通り2組の突撃班が左右から攻めてきております。」
「巻物は?」
「無事でございます。」
「巻物の部屋の周囲も警備を固めろ。そうだな・・・
2つの班が侵入するはずの廊下の仕掛けは、万全にしておけよ。」
「御意。」
「こ・・・こちらでございます。」
「わかった。もう戻れ。」
「ひっ、はいっ!」
サクラを布団に寝かせ、周りに誰もいないことを確認すると、サクラの無線をはずし、自分につける。
「シカマル、聞こえるか。」
「ああ、聞こえる。どうした?」
「サクラの様子がおかしい・・・というより・・・首筋に何か痣のようなものが浮かび上がってきている。」
「何?!」
「体内に何か埋め込まれたかもしれない。
奴には直接、術をかけられるようなことはされていないからな。
目立った外傷もない。」
「・・・フゥ・・・・よかった・・・
わかった。対策を考えよう・・・やつの監視は?」
我愛羅はそれを聞き、大名がいた部屋へ、砂の目をやる。
これは、対サスケ戦でも使われた術である。
「声は聞こえないが・・・片目だけ、奴の部屋に。
変な動きをしたら、すぐにでも行けるぞ。」
「わかった。監視は怠るなよ。」
「もちろんだ。で、サクラはどうする。」
「サクラは・・・ちょーっと、待っててくれ。考える。」
シカマルが作戦を考える。
しかし・・・
―――ガタッ!!
「・・・サク・・・・く・・・・・・お・・・・・!――――――・・・・・」
「おい、どうした!・・・くそっ。」
シカマルからの無線が途絶える。
襲われたのか、無線の調子が悪いのか。
どちらにしろ、あまりよろしくない。
とにかく、サクラを安全な場所へ移さなければ。
俺も彼女を守りきれるか、確証がない。
我愛羅は、早く誰か来てくれ・・・と、必死に呼びかけた。
「サクラ・・・サクラ・・・大丈夫か、もう少し頑張ってくれ」
「・・・うぅ・・・っ・・・あ・・・・・
―――イヤァァァァッ!!」
「サクラ!!!!」
痛々しい悲鳴を上げたかと思うと、我愛羅の腕の中でサクラは気を失う。
・・・首筋の十字の印が広がりは腕や、背中にまで広がっていた。
種縛の術・・・。
サクラは結婚式の日、家でその術にかかっていた。
種縛とは、小さな特殊な種を何らかの方法で体内に埋め込む。
すると、術者が念ずると体中をつるが巻きつくように縛り、体の自由を奪う。
今回、首筋に埋め込まれてしまったために、取り出すことは危険すぎて出来ない。
大名はこれを狙っていた。
我愛羅は自分が守れなかった少女を抱きしめた。
俺は・・・こんなとき、あまりにも無力だ。
どうすれば、彼女の苦しみを解いてやれるのだろう・・・
―――・・・・・我愛羅の中で、何かが脈打ち始めた。
ネジ、リー、テンテンは警備兵を破り、城内へ侵入していた。
「シカマル班がやられたようだ。俺らも警戒していくぞ。」
「わかりました!」
「わかったわ!」
―――白眼!
ネジは白眼を発動させる。
すると、至って何もなさそうに見える壁。
しかしその内部には様々なトラップが仕掛けられていた。
「どうですか、ネジ。」
3人とも少々立ち止まる。
「・・・1つのトラップにかかると、この周辺のトラップが全て発動するようになっているんだと思う。」
「だったら・・・どうしましょう・・・。くぅっ・・・そうだ!なら、走って―――・・・」
「じゃあさ、ひっかかればいいのよ。」
テンテンはわかりきったように言う。
走っていこうと言おうとしたリーは固まる。
「1つで全部のトラップが発動してくれるんでしょう?
なら、1つ引っ掛ければぜーんぶトラップは終わりじゃない。
あーラクチン!ってね。」
「・・・おぉ!さすがテンテン!」
「当然、わかることでしょ・・・じゃ、やってみる。
足元のトラップ、行くわよ!」
テンテンが数本のクナイを、ネジに指定された場所へ投げる。
クナイが刺さった瞬間、いくつものトラップが発動する。
それを3人は物陰からそっと見ていた。
最初は足元。
クナイを刺した場所へ向かってワイヤーがのびる。
次に左右からいくつもの刃物が迫ってくる。
そして頭上からはクナイ、手裏剣が雨のように降り注ぎ、最後に毒ガスが辺りに充満した。
足元を攻めれば前後左右の攻撃だって避けにくいことが考えられる。
その様子を3人は呆然と見ていた。
「・・・・トラップにかかったら確実に死んでいるな・・・。」
「っていうか、すんごいわねぇー!」
「くうっ・・・!サクラさんのことが心配です!
こんなトラップを作るような大名、きっと残忍なやつなんですよ!」
「春野なら、さっきうっすらと連絡が入った。
体内に何かを埋め込まれたようだ。それで、砂の我愛羅も自由に身動きできないらしい。」
「な・・・サクラさんが?!!うぉぉぉーーーっ!!僕が助けに行きますよっ!」
「リ、リー!!ちょっと!まだ毒ガスが・・・」
リーは全てのトラップが発動し、毒ガスが充満した場所まで走りよると・・・
「
木の葉旋風!!!!」
彼の蹴りで巻き起こす旋風は、瞬時に充満していた毒ガスを薄くした。
「くぅぅぅーーーー!!やりましたよガイ先生!愛の力、愛の力です!!」
「わかったから早く行くわよー。」
「頼むから、黙って走れ・・・」
ネジ、リー、テンテンも動き出した。
一方、砂の忍3人も城内へ侵入していた。
「ったく・・・警備兵はしつこいし、巻物はみつからねぇし。」
「仕方がない、だったら片っ端から壁を崩せば良い。」
「そんなことしてみろ、城中のやつらが来るぞ。
・・・そういえば・・・さっき入った連絡だと、春野が危険な状態だそうだ。」
「我愛羅がついているのにか?」
「ああ・・・我愛羅でさえも気づかないうちに、体内に何か埋め込まれたらしい。」
我愛羅がそのことで我を忘れて・・・
守鶴が表に出なければいいが・・・。
おそらく、春野サクラは・・・。
やつにとって特別なものになっている。
それを殺されでもしてみろ、この城どころか火の国を滅ぼしかねないぞ・・・!
バキの心配は常に、我愛羅の中に住まう守鶴だった。
「とにかく、巻物が先だ。
巻物さえ奪い返せば、形成は逆転できる。春野も助けられるかもしれん。」
「・・・わかった。」
砂の班も巻物を目指し、走りだそうとする。
しかし、テマリがそれを止めた。
「な、なんだよテマリ!急に・・・驚くじゃねぇか!」
「わからないか、カンクロウ。こんな長い、何もない廊下、怪しいとは思わないか。」
「・・・そ、そうか・・・?」
―――・・・・ああ、こいつ、結構鈍いところもあるんだったとテマリは思い出し、詳しく説明をする。
「天井を見てみろ。」
「なんだよあれ・・・。」
「天井は真っ暗で、かなり上まで続いている。あれは―――」
「あれは上が吹き抜けのように見せかけているだけで実際は、無数の武器が襲ってくるように仕掛けられている。
だから暗いんだ、わかり難いだろう。」
サングラスの、木の葉の蟲使いの・・・・
「お、おまえ・・・油女シノ!」
「そろそろ偵察班も内部へ侵入しろと指令がきた。
蟲にこの周辺を調べさせた。この廊下は仕掛けが多すぎる。
特に、この床だ。
壁を渡っていくか宙に浮かべれるような奴しか突破はできない。」
「と、いうことは・・・触れてはいけないと?」
テマリはすぐに察し、問う。
「そうだ、察しがいいな。
少しでも触れてはいけない。少しでも触れれば、この廊下の全てのトラップが発動する。」
「じゃあ、誰かひっかけちまうか?」
「―――・・・いや、こうすればいい。」
シノは手裏剣を1つ、床に向かって投げた。
すると先ほどのネジの班のくぐったものと同様の仕掛けが発動し、廊下は酷く崩れた。
「・・・こんなところに人間をいれたら人の形をしていないぞ。」
「・・・ああ・・・こりゃ、すげぇじゃん・・・」
砂の班も毒ガスをテマリの扇子で巻き起こした風で吹き飛ばし、前へ進もうとしたが・・・シノが止める。
「どうせなら奴らを騙した方がいいか。」
そういうと、自らの体内に住まう蟲を用い分身を作り出す。
そして、あたかも、人間の死体が散乱しているかように蟲もうまく化ける。
「数十分もつだろう。ここで俺らは死んだように装う。」
「なるほど、考えたな。」
「これで、背後から追っ手が来る確率は減るだろう。いくぞ。」
シカマルからの連絡が途絶えてしまったため、巻物の在処がどこなのか、どういう警備なのかはわからない。
が、中心に・・・城の中心部にあるはずだと考え、進んで行った。
「ん~・・・これは・・・どっかに連れて行かれたか、罠にかかったか、だな。
臭いが消えてやがる。」
「わん・・・」
「ここに無線機が落ちてるんだもんなァ・・・」
キバはシカマルから、内部へ侵入しろと指令がきたため、自分が開けてやった穴から侵入したが・・・
シカマルからの通信が途絶えたため、彼らを捜すことから始めた。
「大声出すわけにもいかねぇし・・・・いてっ!」
―――コンッ。
天井から何かが降ってきた。
「なんだ、こりゃ・・・飴・・・か?」
どこからどうみても飴である。
しかし何故、天井からそんなものが・・・
すると、頭上からとぼけた声がした。
「ぬわぁぁぁっ!!!!!僕の飴が!飴が!!」
「ばっかね~!こんなときに、なぁに食べようとしてんのよっ!」
「どこであろうとお腹は空くんだよ、いの。」
「だからってね、お菓子じゃなくて忍具を持ち歩きなさいよ!」
「あ~お前ら本当にめんどくせぇ~!!」
この緊迫した空気の中、こんな会話ができるのはシカマル達しかいない。
上からの臭いを赤丸に嗅がせると、ワン!と元気に吠えた。
「お、犬の声・・・キバか?」
「おぅ、シカマル達か?」
「そうよ~、チョウジが罠にかかっちゃってさ~。」
「僕だけじゃないよ、みんなだよ!」
「あたしはぁ~、警戒して行こうとしたのにあんたたちが~!」
「・・・ああ~もう、本当にめんどくせぇ・・・!」
「・・・と、とにかく、降ろすぞ。」
上に行ってみると、3人は足にワイヤーが絡まり、宙づりになっていた。
シカマルはこのトラップのせいで無線機を落としてしまったようだ。
―――・・・どうやら、ここだけが簡単なトラップらしい。
「お前ら、かなりラッキーだな・・・」
「何で?」
「他のグループんとこなんて、クナイが降ってくるわ、毒ガスが出るわでたいへんだったって聞いてるのによ・・・。
・・・お前らだけなっさけねーな、宙吊りだけだぜ?!」
「まぁ、あたしらは幸運のかたまりみたいなもんだからね~!」
けらけらと笑ういのを横目に、シカマルは盛大なため息をついた。
―――・・・本当に・・・よく生きてたなぁ・・・―――
とシカマルは感じつつ、進もうとするが。
「あ、ちょいまち。こんなことするのはめんどくせぇがよ、俺らもお返しをしなきゃな。」
「なんの?」
「なんのってそりゃ、宙づりのだよ。」
「どうするのよ?」
「まぁ、任せとけよ。」
シカマルがニヤリと笑った。
なんでだろう・・・急に、警備兵が増えた・・・。
外の警備をしていたヒナタの周りには、10人前後の忍がいた。
みんな、中忍クラスである。
「貴様だけなら、さっさと終わらせることができるな。
ここの大名が捕まっては、我々には大損なのだ、おとなしく捕まれ!」
女一人と軽く考えたようだ。
一気に中忍が向かってくる。
―――・・・これでは・・・さすがに避けれない・・・!!
ヒナタの引っ込み癖が出てしまう。
しかし、何度も何度も自分の臆病な心に呼びかけた。
―――・・・だ、だめよ、ヒナタ!サクラちゃんだって、必死でやってるんだから!
こ、ここで・・・食い止める・・・・
私が・・・私が・・・
「私が食い止める!はっ!!!」
ヒナタの白眼が発動し、柔拳で全ての攻撃が押さえ込まれていく。
彼女の修行の賜物、守護八卦。
全ての攻撃をしなやかな手さばきでかわしていく。
―――・・・これで、おしまいっっ!!!!!!
全員を片付けたとき、無線機からシカマルの声がした。
「ヒナタ、無事か!」
「うん、今何人か倒したところ・・・」
「わかった、1人じゃ大変かもしれないが、警備を頼む!
大名とやらは顔が聞くらしいからな、どんどん援軍が集まって来やがる!」
「そうか・・・だから・・・。
・・・うん・・・わかった、みんな気をつけて。」
「了解っ!」
信頼できる仲間同士、全班は確実に巻物に近づいていた。
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