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其の二十四
星が降るように空気が震える。
波のざわめきが風を渡ってゆく。
プレリュードのようにわたくしたちを包み込む大気。
運命の渦の中、あなたと二人きりで錐もまれるように大地が回る。
「愛しているわ、
わたくしの、あなた。」
胸を含みながら、あなたは驚いたように強張って。
わたくしは精一杯の愛おしさをこめてありったけの愛を囁こうとする。
なのに、どうしたことかしら。
発しようとする言葉は、吐息にとって代わられる。
あなたの愛撫の一つ一つが、嬉しくて切なくて。
あなたの胸に包まれることに、ときめいて少し怖い。
折れるほどに抱き締められる。
身体が硬くなる、胸が苦しくなる。
それはもっと、抱き締めて欲しいからなのに。
「りか ・・・・ 。」
わたくしの強張りを感じてしまったのかしら、
あなたの口唇がわたくしの名を呼ぶ。
わたくしはただ、首を振るばかり。
熱に浮かされてしまった舌はいうことを聞いてくれない。
「ちがう・・・の。」
どうしてしまったのかしら、あなたが欲しいだけなのに。
どう言ってよいか分からない。
今、はじめて、こんなにも求めている。
なのに、指一本自分から動かせないなんて。
見えていなかったのは目ではなく、こころ。
あなたはいつの間に、こんなに魅惑的な青年になってしまったの。
いいえ、最初から知っていた。
どれほどに雄大で、どれほどに美しく、どれほどに誠実で真摯な方であることか。
なにもかもが人を魅きつけてやまない、あなたは獅子宮の王子さま。
あなたに魅かれ、あなたを愛し、想いに焦がれるのが怖かった。
欲張りで傲慢で臆病で寂しがりの、わたくしは天蠍宮の女王。
あなたの輝きは、わたくしの盲いた瞳をこじ開ける。
もう抗えない。
もう抗わない。
あなたが触れる身体の隅々が、火傷でもしたように熱くなる。
あなたの漏らす吐息の欠片にまでも、身体が痺れてくる。
初めて愛されるその時のように、身体の行方がわからない。
愛しているという思いを頼りに、高い波に飲みこまれてゆくような。
揺れる身体とこころ、しっかり繋ぎとめてくれる、
わたくしのあなた。
あの夜よりも、お義母さまははるかに輝くように美しく。
幻のような言葉に酔いながら、俺の熱は昇りつづける。
精一杯の優しさと、ありったけの愛おしさを込めて抱き締める。
そして、お義母さまは柔らかく震えつづける。
不安そうな少女のように、瞳が揺らぐ。
その度に俺は、困ったように口付ける。
その度にお義母さまは、はにかむように吐息を漏らす。
不器用に、戸惑うように、お互いを少しずつ確かめあうように。
ゆっくりと、手探りで、お互いに止められない思いを注ぎ込む。
赤い口唇は潤って艶めいて、誘うように開かれる。
長い爪が痛い程に、背中を這いまわる。
華奢な肩、細い首筋に何度と無く頬を寄せる。
真っ白い胸から薄い鳩尾へ、
口唇にあわせるように震えは昂まってゆく。
身体中、ありとあらゆる処を触れ合わせて、
このまま二人溶けあってしまえたら。
俺達は、二人で一人なのかもしれない。
「おう、じ、さま。」
溢れる吐息が紡ぐのは、同じ言葉ばかり。
離さないで。
離れないで。
昇まる快感と、切ない寂しさが交互に押し寄せる。
こんなにもわたくしは、寂しかったなんて。
あなたを受け入れることが、こんなにも怖いなんて。
「 りか。 」
耳にかかる吐息が、切ないほどに熱い。
離さないで。
離れないで。
繰り返される言の葉は、哀切な響きさえ帯びて。
こんなにもあなたは、繊細でたおやかで。
あなたの為ならば、命さえかけられる、
それくらい愛してる。
あなたがわたくしを揺るがせる。
わたくしは夢中でしがみつく。
白く輝くように、世界が弾けてゆく。
あなたに抱かれたまま、わたくしはばらばらになってしまう。
あなたとこうしたまま、わたくしは削ぎ落とされてゆく。
そして、何もかも捨て去った魂で、
あなたと天に昇ろう。
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