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  其の二十一








「ね、待って、君たち。」


後宮へと続く細い道で、小さな灯りを携えた女官達に声をかける。

連れ立った娘たちの中、あの夜の子のまあるい目が、
ぼんやりとした明かりの中でこちらを見ていた。


「君、えっと、覚えてる?」
「え・・ええ、王子さま。」
縋るような気持ちで小さな手をとって、瞳を覗きこむ
「お義母様は、いらっしゃる?」
「え・・・」



チカは困ったように連れに目を向ける。
「チカ。」
目を向けられた背の高い女官が、目で彼女を制する。
「だって、ユウヒ・・」
彫刻みたいに冷たくて綺麗な、あの夜のお義母様の。
「チカ、気持ちはわかるけれど。」
間に挟まれおどおどしながら、優しそうな女の子がチカって子を
庇うように寄り添った。


「お義母様に、お会いしたいんだ。」




「王子様、お戯れはお許し下さいませ.」
ユウヒが王子を振り返り、つれなく言い放つ。
「アカネ、チカ、もう失礼致しましょう。」
二人を急かすように、ユウヒは灯りを回す。


ここで行かれちゃったら、本当にお義母様に会えなくなっちまう。
そう思った瞬間、俺はその女官の腕を引っつかんでいた。
「乱暴はお止めくださいませ。」.
顔色一つ変えず言うその顔に、あの夜が重なって、
情けないことに俺は頭に血が昇ってしまった。




「なんで ・・・・・・・・・・・・・・ わかるんだよ。」




「え。」
「お戯れだって、どうしてわかるんだよ?」
真正面から見つめられ、ユウヒは珍しく気圧される。
静まりかえった道端で、灯りが微かに爆ぜる。
チカに寄り添っていたアカネが、すまなそうに口を挟む。
「だ、だって、あなた様は王子様でいらっしゃって・・・
 りかさまは・・・   」
「だから、なんなんだよ。」
アカネに向かってまで、言葉がつい険しくなる。
お優しいと評判の王子様の剣幕に、アカネの言葉は消えてしまった。
「そんなこと、心配してくれなんて頼んでないよ。
 お戯れかどうか、俺が一番よくわかってるよ。」


落ち着きをいち早く取り戻したユウヒが、口を開く。
「りかさまのご迷惑になりますことは、どうかおやめ下さいませ.。」
「ご迷惑かどうか、どうしてあんたにわかるんだよ。」
「ご迷惑にございますわ。」
少し眉を寄せてユウヒは王子を睨みつける。








「ユウヒ、もういいじゃない。」


チカが、アカネと手を取り合って声を上げた。
「チカ、なにを馬鹿なことをいいだすの。」
「ご迷惑かどうか、りかさまがお決めになられればよいことだわ。」
「だって、りかさまは、あんなに・・・」
「わたしたち、もう伏せっていらっしゃるりかさまを見たくないわ。」
チカに勇気づけられたように、アカネも小さく言ってみる。




「王子様。」



あの夜よりももっと優しく、チカって子が話しかけてくれる。
「りかさまは、涼みたいと浜辺の方へお寄りになられましたわ。」
頭をまわすと、木々の向こう果てしなく白い浜辺が広がる。
「あの、あちらの奥の小さな入り江。」
人差し指を立てて、浜を指差す。
「りかさまのお気に入りの場所だから、多分、ね。」
そう言って、少し不安そうにアカネを覗きこむ。
「少し窪んだ、洞窟みたいになっている処じゃないかしら。」
アカネが、どう?という顔をユウヒに回す。
「ええ、恐らくね。」
憮然としたまま、ユウヒも溜め息混じりに頷いた。



「有難う、ありがとう。本当に。」


固くチカの手を握って、王子はそのまま浜辺へと飛び出していった。














手もとの灯りに目を落とし、夢から覚めたようにチカが呟いた。


「手、握ってもらっちゃった。」
「嬉しいの?」
「ええ、ちょっと残念だけど。
 アカネは?」
「ええ、ちょっと素敵だったわね。」
二人で顔を見合わせて、何となく微笑みが零れてくる。


無言で前をゆくユウヒに声をかける。
「ユウヒ、そんなに早く歩かないで。」
「怒ってるの?」
「 ・・・別に。」
「ごめんね。」
「何が。」
「ううん、なんでも。」
「じゃあ、謝らないで。」
ユウヒの背中に向けて、アカネが明るく語りかける。
「でも、あたしたちもりかさまが好きだから。」
「それはよかったわ。」
灯りに浮き上がるユウヒの横顔は、
相変わらず凍りついたように整ったまま。



チカがそっとユウヒの耳元に口を寄せる。
「私たちね、本当はユウヒもりかさまとおんなじくらい、好きよ。」


微かにユウヒの持つ灯りが揺らいだように、みえた。





「・・・・・・・・・・・・つまらないこと、言ってないで。
   さっさと、帰るわよ。」













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