(私の視点)不妊治療のルール法制化 出自知る権利、声に応えて 石塚幸子
私は匿名の第三者の精子を用いた人工授精(AID)で生まれました。父とは血がつながっておらず、私の遺伝的ルーツの半分は精子提供者にあります。
提供者を父と思っているわけではありません。ただ、自分のルーツを知りたい、精子という「モノ」ではなく実在する人の存在を感じたいと思い、いつか提供者に会ってみたいと考えています。
先の国会に、第三者の精子や卵子を使った不妊治療のルールを定める「特定生殖補助医療法案」が議員提案で提出され、審議されぬまま廃案になりました。医療のあり方や受けられる範囲、そして生まれた子の「出自を知る権利」が論点でした。
この権利について聞く機会が増えてきています。67年前、東京都立病院で別の新生児と取り違えられた男性が起こした訴訟で、東京地裁は4月、出自を知る権利は憲法などで保障されているとの判断を示し、都に調査を命じる判決を言い渡しました。内密出産の取り組みでも課題となっており、法整備が強く求められています。
議員提案の法案は、そうした要請に応えていたでしょうか。法案では、特定生殖補助医療で生まれた人は成人後、精子などの提供者の「身長、血液型、年齢等」を知ることができますが、それ以上の情報には開示申請が必要で、提供者の側はその時点で、自身の情報を開示するかしないか、する場合はどこまでかを決めることになっています。
しかし、出自を知る権利は生まれた人がもつ権利であり、知りたいか知りたくないか、何を知りたいかは生まれた人が決めることです。その決定権を提供者に委ねているこの法案では、出自を知る権利が保障されるとは決して言えないでしょう。
これまでのAIDは、行った事実自体を隠し、提供者を匿名とすることで続いてきました。生まれた人は長く親に隠されてきたことに傷つき、不信を抱き、自分が何者かわからないというアイデンティティーの喪失に苦しんでいます。
提供者を知ることはアイデンティティーの再構築に必要で、身長や血液型などの情報にとどまらない、個人の人となりについて知ることが必要だと考えています。提供者がわからないことで、遺伝情報の半分がわからず健康上の不安を抱えたり、本人が知らないまま「近親婚」をしたりする可能性も生じています。
当事者の声に耳を傾け、真に望まれる形で出自を知る権利が法制化されることを心から願っています。
(いしづかさちこ 一般社団法人ドナーリンク・ジャパン理事)
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