イタリアPFAS汚染、日本人に拘禁刑16年 三菱商事の元関連会社

宋光祐=ビチェンツァ 岩沢志気 寺西和男=ストックホルム 合田禄 福地慶太郎

 イタリアで起きたPFAS(有機フッ素化合物の総称)による地下水などの汚染をめぐって、北東部ベネト州ビチェンツァの地方裁判所は26日、三菱商事の元関連会社で取締役などを務めていた日本人3人を含む計11人に拘禁刑2年8カ月から17年6カ月の有罪判決を言い渡した。さらに有罪の被告や三菱商事などに対し、市民や公的機関への損害賠償として計6300万ユーロ(約106億円)超を支払うよう命じた。

 この裁判では、4人の日本人が起訴された。判決はこのうち、元関連会社のミテニ社の取締役だった2人を拘禁刑16年、三菱商事の社員1人を同11年、残る1人を無罪とした。日本人の被告はいずれも出廷せず、有罪判決を受けた3人が直ちに収監される可能性は低いとみられる。

 ミテニ社の化学工場があったベネト州中部のトリッシーノ市によると、三菱商事は1990年代から同社に出資し、2009年に他の企業に売却するまで社員を派遣するなどして経営に参加した。ミテニ社は18年に破産した。工場は現在、閉鎖されている。

 ベネト州当局は13年、ミテニ社の工場からPFASが地下水などに流出していると特定。州当局の推計では、州内3県の計35万人が汚染された水道水や地下水の影響を受けたとされる。その後の調査ではPFASの血中濃度が基準値を大幅に上回る住民が相次いだ。

 検察は21年、ミテニ社がPFASの製造で生じた廃棄物などを工場外に流出させ、汚染を隠蔽(いんぺい)したなどとして、水質汚染や環境災害を引き起こした罪などで起訴。刑事裁判に被害者として参加した市民らの代理人を務めたマルコ・カゼラート弁護士によると、三菱商事側は経営に参加する前から汚染が始まっていたことや、当時はPFASの危険性が科学的に確立されていなかったなどとして無罪を主張していたという。

 これに対し、裁判所は三菱商事の民事上の責任を認めて有罪になった被告と共に、公判の中で被害を訴えた市民ら個人や工場のあった自治体などに対する損害賠償の支払いに参加するように命じた。有罪判決を受けた被告には連帯してイタリア環境省に5700万ユーロ(約96億円)の賠償も命じた。

 26日の判決では有罪と判断した理由のほか、住民らが訴えている健康被害について、どのように認定したのかは明らかにしていない。裁判所は今後90日以内に詳細な判決を出す。イタリアの司法制度は三審制で、被告らは判断理由などを確認した上で、控訴するかどうかを決めることになるとみられる。

 三菱商事は「本判決に対する弊社の見解に関しては、現在進行中の法的手続きに深く関連するものとなりますので、回答は差し控えさせて頂きますが、弊社は司法の場での協議に、今後も誠実に対応して参ります」としている。

欧米で訴訟次々 規制強化の流れ

 欧州では、PFASによる土壌や地下水などの汚染が広がる。欧州の報道機関などが立ち上げた調査プロジェクトは、03~23年の各国の環境調査などをもとに約2万3千カ所でPFASによる汚染を確認し、うち2100カ所以上で健康を脅かす恐れがあると指摘した。汚染源とされるのは工場や泡消火剤を使っていた軍事基地など様々だ。

 住民による訴訟は00年ごろからPFAS汚染が社会問題化した米国が先行。多くの訴訟が起き、製造社側は責任を問われた。ウェストバージニア州の化学工場周辺で住民に下血や腎臓がんなどが相次ぎ、17年にはメーカー側が住民側と和解し、6億7070万ドルを払うなどの事例が出ている。米国各地の基地周辺でも多くの訴訟が起きている。

 欧州でも汚染に関わった企業側の責任を問う動きが強まる。スウェーデンでは汚染された水道水を利用してPFASの血中濃度が基準値を上回った住民が市営水道会社を相手取った訴訟で、最高裁が23年、製造物責任法で規定する「人身傷害」を認定した。

 また、企業側への規制強化を求める動きも広がっている。ドイツなど5カ国は23年、欧州化学品庁にPFASの物質について一定の移行期間後に製造や使用、販売の禁止や制限を求める提案をし、包括的な規制が議論されている。

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 日本でも、全国各地の水道や河川、井戸の水からPFASが検出されている。代表的なPFASのPFOSとPFOAの輸入や製造を化学物質審査規制法で原則禁止している。違反すれば、3年以下の拘禁刑や100万円以下の罰金と定める。

 加えて、水質汚濁防止法では、もし工場などの事故で保管しているPFOAなどを含む水などが流出した場合、応急措置と都道府県知事への届け出を事業者に義務づけている。対応していない場合は知事が応急措置を命令できる。命令に違反すれば、6カ月以内の拘禁刑か、50万円以下の罰金としている。

 イタリアの地方裁判所の判決について、環境省の担当者は「報道は承知しているが、他国の判決なのでコメントする立場にない」と話した。

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この記事を書いた人
宋光祐
パリ支局長
専門・関心分野
人権、多様性、格差、平和、外交
岩沢志気
経済部|消費・流通担当キャップ
専門・関心分野
食、エンタメ、流通、エネルギー
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