(ここから 女性記者が伝える地方のリアル)徳島新聞 取材で感じた性差別、語り合う

 ■ThinkGender ジェンダーを考える

 取材先との飲み会帰り、突然に体を触られた。

 「もっと胸元の開いた服を着てくればいいのに。使えねぇな」。スポーツ選手の取材現場で、テレビ局の男性ディレクターが同僚の女性アナウンサーの悪口を言っていた。

 「あるよね」。4月下旬、徳島県鳴門市内のホテルに集まった十数人の女性記者らが皆うなずきながら聞いていた。所属も勤務地も様々だ。最近のニュースについて話すうち、自身が体験したり見聞きしたりした性差別を語り始めた。

 主催したのは、徳島新聞の乾栄里子さん(42)。2020年から会社を超えた女性記者の集まり「フェミキャン」を年2回開く。

 ジェンダー格差の大きい日本の報道機関では女性は今も少数派。ニュースの価値判断をする意思決定層はさらに少ないなか、こうした交流の場は貴重だ。

 20年近いキャリアの中で警察や行政を担当したが、取材先から常に軽んじられているように感じてきた。

 飲み会にばかり声がかかる。取材相手の自宅に連れ込まれそうになる。未熟だから、若いから、取材者として見てもらえないのか。

 ある年、性暴力の取材をきっかけに、自分が受けたセクハラも、社会に根づく女性差別や女性嫌悪、相手との権力勾配の中で起きていることに気づいた。「正体が見えた。悪いのは私じゃなかった」

 同じように自分を責めている人は少なくないはずだ。15年から災害時の性暴力や「多産DV」などの実態、背景にある性差別を書き続けてきた。

 取材をしながら、心細さを感じた。トラウマを抱える被害者にどうアプローチするか。記事の表現は二次加害につながらないか。だが身近に取材経験の豊富な先輩はいなかった。「行政や事件なら助言をあおげる人はたくさんいるのに」

 支えてくれたのが、日本新聞労働組合連合(新聞労連)の活動でつながった他社の記者たちだった。

 地方では、ジェンダー規範に疑いを持つと生きづらくなる場面も多い。「私も法律婚をしていないだけで冷ややかなまなざしをむけられることもある」。どう読者に届けていくか。

 今年3月の国際女性デーに寄せて徳島新聞はジェンダーにまつわる短歌を募集した。県内外から700通を超える応募があり、中年で独身でいることの所在のなさや、押しつけられる「嫁」の役割、日々の理不尽をコミカルに綴った作品が多く寄せられた。「突き詰めていけば全部ジェンダーの話。あなたが悪いんじゃない、悪いのは社会のほうだよってことを書き続けていきたい」

 (大貫聡子)

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