もはや「支店経済」ではない? 「札仙広福」に生じる中枢性の差

聞き手・富田洸平

 地方の大都市として君臨してきた札幌市、仙台市、広島市、福岡市の「札仙広福」。近年はこの4市でも「拠点性」に差が生まれていると「政令指定都市」の著書がある北村亘・大阪大教授は指摘します。4市の現状は。地域の拠点であり続けるにはどうしたらいいのでしょうか。

東京にすべてを吸い取られかねない

 札幌、仙台、広島、福岡の4市は「支店経済」の都市でした。高度経済成長期、東京や大阪に本社がある企業が全国展開する際、拠点として支社や支店を置いた。当時は今ほどの交通網や情報通信技術はないので、人を駐在させ、ある程度の権限を与えたのです。政府の機関や地元企業の本社もあります。

 そこに行けば雇用があり、定住できる。医療などの高度な行政サービスも受けられる。全国の経済を牽引(けんいん)し、その地方の経済を支える都市でした。地方の人口流出を抑えるダム機能も果たしていたと言えます。

 いま4市のうち、福岡を除いて、全国の経済の牽引役とは言いがたくなっています。行政や企業活動の拠点であることを示す「中枢性」という指標で4市の2013年と22年を比較すると、福岡市だけが水準を維持しています。ほかの3市では、特に札幌が大きく落とし、仙台や広島と同程度になりました。東京や大阪、名古屋、福岡とは大きな差があります。

 なぜこのような状況になったのか。4市すべて、東京に多くの企業が流出しているからです。札幌が典型的ですが、理由としては首都圏と結ぶ交通網が発達したことが大きい。このままでは東京にすべてを吸い取られかねません。また、4市は人口や製品を後背地と呼ばれる周辺の市町村から受け取ってきましたが、送り込む側の若者が減っています。

 福岡は後背地が九州全体と広く、まだ若者の流入がありますが、ほかの3市はいずれも厳しい状況です。さらに東京などの大都会では幅広い職種を選べるので、地元で生まれた若者も出て行く。企業も若者も流出すれば、当然、経済は縮小し、消費財を送っていた周辺地域にも影響が出ます。

 全国的に見れば、東京に権限が集中すると意思決定が速く効率はいい。半面、地域ごとのバリエーションがないモノトーンの経済は、意思決定を間違えた際の脆弱(ぜいじゃく)性をはらみます。

目指す都市像、大きな制度論ではなく

 全国経済の牽引役か、地域の拠点都市か。今後4市がどのような都市像を目指すのであれ、置かれた状況は違うので、それぞれが戦略を持たなければなりません。例えば、福岡が全国の牽引役を担おうとするなら、国も税源移譲などで後押しをするべきでしょう。その分、失敗したときの責任も負うことになります。

 他の3市は、地域の拠点としていかに現在のサービスを維持できるかが重要です。今後、さらに人口は減っていくわけですから、単独ではかつてのような都市には戻れません。公共交通網や病院、教育機関の維持、デジタル化の推進などを周辺の自治体と水平連携して進める必要がある。小さな取り組みを積み重ね、後背地との信頼関係を築かなければならないのです。

 例えば、同じ政令指定市である川崎市は、そこで生まれた子どもが大きくなると都内や横浜市に人を抜かれていきます。ですが、元々あった工場の跡地などを開発し、都内から人を集めている。さらに、羽田空港近くには先端的なITやバイオなどの研究施設が集積しています。人を抜かれる分、人を集めて帳尻を合わせる。都心の衛星都市ならではの独自の戦略があるのです。

 スカッとした答えはありません。市の将来を考えるとき、どうしても府県から独立する特別自治市構想などの大きな制度論から入ってしまう傾向があります。しかし、まずは自分の街の課題を見つけ出し、できること、できないことを精査してもらいたいと思っています。

北村亘さん

 きたむら・わたる 1970年生まれ。大阪大教授。主な研究領域は行政学、地方自治。著書に「政令指定都市」。共著に「地方自治論」。

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