PFAS汚染訴えてきたイタリアの母たち 「三菱商事は態度改めて」

ビチェンツァ=宋光祐

 イタリア北東部ベネト州で2013年に明らかになった化学物質PFAS(ピーファス)による大規模な水質汚染で26日、日本人を含む三菱商事の現地の関連会社幹部(当時)らに拘禁刑の有罪判決が下った。PFAS汚染の刑事責任を問われるのは欧州でも異例とみられ、被害者らも「画期的な判決」と驚く。

 判決公判が開かれたビチェンツァの地方裁判所の法廷には、PFASで汚染された水を飲んだことなどによる健康不安を訴え、被害者として裁判に参加した市民らが詰めかけた。

住民ら35万人に影響か 地元の州が推計

 09年に別の企業に売却されるまで三菱商事の関連会社だったミテニ社がPFASを地下水などに流出させて水質汚染や環境災害を起こしたとして、同年までミテニ社の取締役や三菱商事の関連事業部門の責任者を務めた日本人3人を含む計11人に拘禁刑2年8カ月から17年6カ月などの有罪判決が言い渡されると、傍聴席からは拍手が起き、涙を流す人もいた。

 判決に立ち会ったジョバンナ・ダルラゴさん(56)は、PFAS汚染による子どもの健康被害を訴える母親たちでつくる団体「MAMME No PFAS」のメンバーとして17年から地元の行政やミテニ社などに汚染の浄化を訴えてきた。

 問題発覚から4年後の17年2月にベネト州が14~29歳の住民を対象に実施した検査で、ダルラゴさんの娘(23)の血液からは1ミリリットル当たり328ナノグラムの高濃度のPFASが検出された。ダルラゴさんは自宅の庭で井戸水を使って育てた野菜を食べていたことが原因だと考えている。「恐怖と怒りが湧き、娘にも説明できなかった。PFAS汚染で私たちの人生は変わってしまった」

 それ以来、ダルラゴさんは団体の代表を務めるミケラ・ピッコリさん(52)と一緒に汚染地域とされた自治体で800回以上の市民向け説明会を開いてきた。今年4月には三菱商事の社長宛ての手紙で汚染された地下水の浄化を訴えたが、返事はなかったという。ピッコリさんは「対策への協力に消極的だった三菱商事は態度をあらためて汚染水の浄化に技術や資金を提供してほしい」と訴える。

 ベネト州当局によると、今回のPFAS汚染は州中部の自治体にあったミテニ社の工場が流出源とされ、「帯水層」と呼ばれる地層を流れる地下水や飲料水、河川が汚染された。汚染地域は同州パドバ、ビチェンツァ、ベローナの3県に及び、汚染された水を飲むなどして影響を受けた住民は35万人に及ぶと推計されている。

「汚染は欧州で最大規模」 大学教授が指摘

 パドバ大学のクラウディア・マルコルンゴ教授(環境法)は被害を受けた住民の数や汚染範囲から「今回のPFAS汚染は欧州で最大規模だ」と指摘する。イタリアでは全国で一律にPFASを規制する法律がないことから、マルコルンゴ教授は今回の判決を受けて、政府が法規制に動くことを期待する。

 公判に証人として出廷した同大学のアンニバレ・ビジェッリ教授(医学統計学)によると、18年までの34年間の住民の死者数や死因などを分析したところ、汚染の度合いが強い地域の住民には腎臓がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)による死亡率の上昇が見られたという。「今回の汚染は長年にわたっており、企業側が早く問題を明らかにしていれば汚染の拡大は防げたのではないか」と指摘する。

 イタリアメディアによると、裁判所は今回、検察側の求刑を上回る量刑判断を下した。被害者の代理人を務めたマルコ・カゼラート弁護士は「企業側が意図的に対策を取らずにPFAS汚染を引き起こしたと裁判所が認めた結果だ」としている。

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 三菱商事は「本判決に対する弊社の見解に関しては、現在進行中の法的手続きに深く関連するものとなりますので、回答は差し控えさせて頂きますが、弊社は司法の場での協議に、今後も誠実に対応して参ります」としている。

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この記事を書いた人
宋光祐
パリ支局長
専門・関心分野
人権、多様性、格差、平和、外交
PFAS問題

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