留学生受け入れは何のため? 外国人4割の研究室で得た気づき
大学生の30人に1人、院生の5人に1人――。
日本が受け入れる留学生の数は2024年度、日本語学校などを含めて、過去最多の約33万7千人にのぼった。米国ではトランプ大統領が「なぜ留学生がそんなに多い必要があるのか」などと発言。受け入れ抑制の動きが進む。日本でも、外国人留学生の誘致より国内学生を手厚く支えるべきだという声が上がる。多くの留学生を受け入れる意義とは何か、探った。
留学生の積極性、日本人学生にも刺激
研究室のドアを入ると、白衣姿の学生が大きな密閉装置に両手を差し込み、化学物質を合成していた。そばでは、英語で「次の報告会の準備、終わった?」と雑談をする学生の姿もあった。
東京都新宿区にある東京理科大の実験室。ナトリウムイオン電池など、次世代電池の研究で知られる駒場慎一教授の研究室は、40人の教員・学生のうち約15人が、インドや韓国、中国、米国の出身だ。
修士課程1年の澁谷圭さんは、日々留学生から刺激を受けているという。「留学生はしっかり意見を主張する。自分もはっきり意見を言わないと、と思う」
駒場研究室で学び、現在は講師の保坂知宙(ともおき)さんは、6月までのスウェーデンの名門チャルマース工科大で2年間研究した。海外での研究に挑戦したきっかけの一つが、駒場研究室での経験だったという。
研究室で、議論や発表はたいてい英語で行われる。国際学会に参加したり外国人研究者の講演を聴いたりする機会も多い。「学術研究には、多様性がある中でのオープンな議論が必要。この研究室にはそうした訓練を自然とできる環境がある」と話す。
国際ネットワークの構築にも
宇宙ロボットの研究の第一人者である東北大大学院(仙台市)の吉田和哉教授の研究室も、所属する70~80人のうち4割ほどが外国人留学生だ。出身国は、ドイツやトルコ、インド、フィリピンなど多岐にわたる。
吉田教授によると、研究に欠かせない国際的なネットワークの構築に、留学生が一役買っている。中には、卒業後に日本で民間企業に就職し、交流が続いている学生もいる。帰国した学生の後輩が、「先輩」の背中を追って留学してくることはしょっちゅうだ。
留学生側にもメリットは多い。吉田研究室に所属する博士課程1年でフィリピン出身のパマ・パスカルさんは、「母国で航空宇宙工学を学べるところが少ない。大学院のプログラムも実験機器などの環境も、日本は充実している」と話した。
コストや安全保障 指摘される課題
一方、国内では、急激な留学生の増加にさまざまな懸念の声が上がっている。
自民党の有村治子参院議員は、3月24日の参院外交防衛委員会で、博士課程学生の経済的支援制度を利用する学生の4割を、留学生が占めると指摘。「日本の学生を支援する原則を明確に打ち出し、留学生を一部に限定する制度にしなければ、国民の理解は得られない」と述べた。
参政党の吉川里奈衆院議員は3月18日、衆院法務委員会で、留学生や研究者による先端技術の情報流出の懸念を示し、「入国制限や研究者の厳格なスクリーニングを導入し、リスクを未然に防ぐしくみが必要だ」と主張した。
留学生の受け入れには、ビザの手続きや住まいの紹介といった生活支援も必要で、大学に大きなコストがかかる。そのため、海外では留学生の授業料を高く設定している国もある。日本でも昨年、国立大学が、国内学生よりも高い授業料を留学生に対して設定できるよう、省令を改正した。6月現在、実際に授業料を変えたところはない。
多様な人がキャンパスに集まる意味
受け入れへの懸念やリスクへの対応は必須だとしながらも、日本の学生の成長や研究力の向上のために、留学生を増やす意義は大きいと話す大学関係者は多い。
中国を含め、日本より留学生を多く受け入れるほぼ全ての国は、質の高い研究の指標とされる「注目度の高い論文数」の国別順位(文部科学省調べ)で、日本を上回る。
日本で2番目に多い5231人(24年11月現在)の留学生を受け入れている東京大の林香里理事・副学長は、「東京にいても、常にグローバルな環境に身を置いていないと、社会に出てから高いレベルで仕事を進めることはできない」と指摘。「優秀な留学生に来日してもらうことは、日本の学生にも刺激を与え、ひいては日本の経済や文化の発展にも寄与する」と話す。
東京理科大の石川正俊学長は「自分の考え方の外側を知ることが、多様な発想を生み出すことにつながる。地方出身だったり社会人だったり、理系では女子だったり、視点が違う人が集まっているのが大学の最大の価値。外国人留学生も、そのひとつだ」。
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- 【視点】
この記事が示している通り、大学にとって、留学生の受け入れは多様性や国際化を推進し、教育・研究の活性化にもつながるという意味で、大きな意義があります。少子化のなかで財政的な基盤を支えてくれる点でも重要となります。 ただ、留学生の多くは、大学や大学院を卒業した後、そのまま日本で就職することを希望します。就労を含めた受け入れ環境を整備していかないと、留学生の拡大は壁にぶつかります。 日本の就職は、とりわけ文系分野において、依然として高い日本語能力が求められます。そのため、就職を希望する留学生にとっては困難が多く、それを解消するには大学による支援だけでは限界があります。 人口減少が進むなかで、企業が外国人労働者をどのように受け入れていくかが問われています。就労ビザや移民政策を含めた制度全体の見直しとも連携をとりながら進めていくことが重要です。
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