生活保護の大幅引き下げは「違法」、原告側の勝訴確定 最高裁判決
国が2013~15年に生活保護費を大幅に引き下げたのは違法だとして、利用者らが減額決定の取り消しなどを求めた2件の訴訟の上告審判決が27日、最高裁第三小法廷であった。宇賀克也裁判長は、引き下げを違法と判断し、減額決定を取り消した。原告側の勝訴が確定した。
一方で判決は、原告側が求めた国の賠償は認めなかった。判決は裁判官5人のうち4人の多数意見で、宇賀裁判官は賠償も認めるべきだとする反対意見をつけた。
同種訴訟は29地裁で31件起こされた。引き下げを違法とした最高裁の判断を受け、今後、同種訴訟でも減額決定を取り消す判断が続くとみられる。国は、原告に加わっていない生活保護利用者も含めて、減額分をさかのぼって支払うなどの対応を迫られそうだ。
引き下げに先立つ12年の衆院選では、野党だった自民党が保護費削減を選挙公約に掲げて政権復帰した。国は13年以降、生活保護費を約670億円削減した。
この削減では、生活保護費のうち、食費などの生活費にあたる「生活扶助」の基準額が3年の間に平均6・5%、最大10%引き下げられた。引き下げ額を決めた厚生労働相は、物価の下落に合わせて保護費を減らす「デフレ調整」を行った。
判決は、生活扶助の額は従来、世帯支出など国民の消費動向をふまえて決められていたのに、今回の調整では、「物価下落のみ」が指標とされたと指摘。指標を変えることは、専門家による社会保障審議会の部会で検討されておらず、専門的知見との整合性を欠いているとして、判断過程を誤った厚労相に「裁量の逸脱や乱用があった」と結論づけた。
訴訟では、一般の低所得世帯と生活保護世帯の均衡を図るとした「ゆがみ調整」の是非も争われたが、判決は、統計などの専門的知見と整合しないとはいえず、不合理ではないとした。
判決は、国の賠償責任について、生活扶助の指標を変える議論が過去にあった点などを踏まえ、認めなかった。
宇賀裁判官は反対意見で、「最低限度の生活の需要を満たすことができない状態を(原告らは)強いられた」として精神的損害を賠償すべきだと指摘した。
福岡資麿厚労相は「司法の最終的な判断が示されたことから、判決内容を十分精査し適切に対応する」とのコメントを出した。
最高裁の判断、なぜ重要? 法解釈に大きな影響
司法に関する記事でよく使われる「司法のことば」を分かりやすく解説する。
今回は、「最高裁の判断」について。「人権のとりで」とも呼ばれる最高裁が下す判断が、重要視されるのはなぜなのか。
最高裁は、行政、立法、司法という「三権」のうち、司法権のトップに立つ。
行政(内閣)や立法(国会)の下した判断が、人権を侵害するなど行きすぎた場合、司法(裁判所)には法的な判断を根拠に歯止めをかける役割が期待される。
司法の中で最高裁の判断が重要視されるのは、全国の地裁や高裁の判断を拘束する事実上のルール(判例)になるからだ。
裁判に持ち込まれたトラブルについて、各地の裁判官は独立して判断を下す。このため、同じ事案でも地裁と高裁で、異なる判決が出ることもある。こうした法的な争いについて、結論を確定させる権限を最高裁は持つ。
最高裁が「法律をこう解釈するべきだ」という考えを示すと、各地の裁判所はその後、最高裁が示した解釈を踏まえて判断していく。
最高裁の判断は、法律や制度の見直しに直結することもあり影響は大きい。
例えば、最高裁は2021年、建設作業員や遺族がアスベスト被害を訴えた訴訟で、国や一部建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡した。
これを受け、菅義偉首相(当時)は判決翌日に原告団に謝罪。さらに、訴訟を起こしていない被害者に補償するための基金をつくるなど、救済の手続きが急速に進んだ。
「政治判断で補償を」立命館大・桜井啓太准教授
立命館大・桜井啓太准教授(社会福祉学)の話 生活保護基準は、日本の生存権を守る最も重要な指標だ。今回の判決は、その生活保護基準は合理的かつ専門的な手続きと権利性を前提としており、国の裁量は無制限なものではないことを確認した点で、歴史的に意義のある判決といえる。
2013年からの基準が違法な形で設定されたと認定されたのだから、できる限り早く、原告だけでなく、影響を受けたすべての生活保護世帯に対して、引き下げられた分を補償する必要がある。判決を受けて、政治判断で補償に踏み切ってもらいたい。
生活保護の基準は、就学援助など他の低所得者制度にも影響する基準なので、本当の影響は、当時の受給者だけにとどまらず何百万人にも及んでいた。その意味で、この基準の引き下げは取り返しのつかない行為だった。こうしたことを二度と繰り返さないためにも、なぜこのようなゆがんだ基準設定が行われたのか、当時の状況について検証することも必要だ。
基準設定の違法性が認められた一方で、過去最大の引き下げによって受給者が被った精神的な被害に対する賠償が認められなかったのは残念だ。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
さらに今なら2~6カ月目も月額200円でお得!
- 【視点】
先ほど、私も現場で「勝訴」の旗を見届けました。 2013年に、生活保護バッシングという「国民感情」を煽り立てる中で断行された不当な引き下げによって、生活保護受給者の暮らしは困窮を極めてきました。 10年以上、正義を求めて闘ってきた原告の声が、ついに聞き届けられました。 一方で、長い裁判の間に232人の原告が高齢や病気のために亡くなっています。各地の原告団の方が、遺影を掲げて勝訴判決を見届けている姿を見て、最高裁の判断にはあまりに長い時間がかかったことを痛感しました。 闘いはこれで終わりではありません。原告の訴えと勝訴を受け、国はまず過去の誤った判断について謝罪し、生存可能な水準の実現に向け、生活保護費の基準自体を見直すべきです。
…続きを読む