ブラジルの名門クラブに見る光と影 100億円を生んだ11歳の今

潮智史

 J1湘南ベルマーレは2016年から、11歳以下(U11)による国際大会「コパベルマーレ」を開いている。今年も6月に海外クラブやJリーグクラブなど24チームが参加した。

 例年通り、神奈川県内の地区選抜(トレセン)チームに広く声をかけていて、地元の子どもたちに海外のサッカーを体感させたいという思いが込められている。指導者同士の情報交換や交流も盛んに行われた。

side change

サッカーを30年以上にわたって取材してきた潮智史記者が独自の視点でつづるコラムを連載でお届けしています

 優勝したのはブラジルの名門、パルメイラスだった。

 6戦全勝で得点43、失点2。圧倒的な勝ち上がりだった。目をひいたのは、指導者交流会で聞いた普段のトレーニングやブラジル国内のサッカー環境についてだ。

 説明したフェリペ監督によると、アカデミー(育成下部組織)には8歳から17歳までの約300人が所属している。

 サンパウロに本拠を置く巨大クラブには、一旗揚げようと子どもたちが全国から集まってくる。高いレベルの競争があり、選手の入れ替えは短くて半年ごとだという。毎日の練習が生き残りをかけた場なのだ。

 今大会でも大差がつこうと、誰も緩むことがない。点を取ろう、ボールを奪おうと果敢なプレーの連続だった。

 日本では選考試験に合格して一度チームに入れば、中学年代や高校年代に進むまでは入れ替えがない。湘南の育成部門をまとめるアカデミーダイレクターの平塚次郎さん(45)は、「半年で追い出されるかもしれない、という厳しさは日本にはない。彼らの内側から出てくるエネルギーは、日本では指導者が仕向けないと出てこない。強さ、たくましさという点でなかなか追いつけない部分」と話していた。

 ほかにも、参考になる点はいくつもあった。

 17歳まではフットサルも並行して行い、ボールを扱う技術の習得に生かしているという。サッカー指導と同じコーチがフットサルも教えることで統一性も持たせていた。

 土のグラウンドであえて裸足で練習する機会も設けているそうだ。

 第1回大会から出場しているパルメイラスは5度目の優勝だったが、平塚さんは「最近は変化も感じている」と興味深い話をしてくれた。

 「以前のブラジルの子どもには、どんどんドリブルを仕掛けていくような自由度がもっとあった。ここ2年ほどで、ポジションごとの役割や動きが整理されていて、戦術を教えているという印象を受ける」

 世界最大の選手輸出国であるブラジルは年間1千人もの人材が欧州を中心に出ていく。国際移籍が認められる18歳になると同時に出ていく選手も多い。国内では、「ブラジルのサッカーを身につけない未完成のまま、出ていくのが現状だ」という声もあがっている。

 移籍金収入はブラジルのクラブにとって経営を支える柱だ。昨夏、パルメイラスからスペインのレアル・マドリードに移籍したエンドリッキの場合、移籍金は100億円を超えていた。契約が成立した当時、まだ16歳だった。すでにブラジル代表デビューした彼は、17年のコパベルマーレに出場していた。

 そんな環境を考えると、欧州の市場を意識して選手育成にも影響が出ているのではないか、と勘ぐりたくもなる。

 この質問に、チームに同行するパルメイラスのコーディネーターは否定した。一方で、フェリペ監督は「複数のポジションができて、左右両足が使えることが大切になっている」と国際移籍を前提に話していた。

 米国で開催中のクラブ・ワールドカップを見ても、世界的なサッカーの均質化を感じる。人材を送り出し続けるブラジルのサッカー界が自ら変化しているのは仕方ないことなのか。考え込んでしまう。

 16年から始まったコパベルマーレは、アカデミーの指導者たちを中心に手作りの大会として広がってきた。来年で10回目を迎える。

 今回、最終日の運営や片づけを手伝っていたのは、高校年代のユースの選手たちだ。彼らも小学生時代にこの大会に出場して刺激を受けた体験をしている。

 「この先も10年、20年と続けていけば、大人になった彼らがボランティアとして大会を支えてくれるかもしれない。そんなサイクルができたら素晴らしい」

 地域の子ども、指導者、サッカーに種をまく。その目線があるからこそ、未来が描ける。

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
さらに今なら2~6カ月目も月額200円でお得!

この記事を書いた人
潮智史
スポーツ部
専門・関心分野
スポーツ