女性に欠けている能力は「自信」 アイスランド大統領からのエール
「ジェンダー平等先進国」として知られるアイスランドのハトラ・トーマスドッティル大統領を招いたトークイベント「アイスランド大統領と考える ジェンダー平等のつくりかた」(朝日新聞社、津田塾大学、アイスランド大使館共催)が5月31日、津田塾大千駄ケ谷キャンパス(東京都渋谷区)で開催され、大統領が、超党派でつくる「クオータ制実現に向けての勉強会」の女性国会議員や大学生らと、女性の政治進出や、ジェンダー平等が社会に何をもたらすかなどについて意見を交わしました。
記者サロン「アイスランド大統領と考える ジェンダー平等のつくりかた」
第1部の大統領のスピーチと、第2部は、記者サロンとして配信しています。申し込みは9月30日(火)20:00まで(配信は同日23:59まで)
第1部で大統領が語った主な内容は以下の通り。
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ジェンダーギャップをなくすことがなぜ重要なのか。もちろん、女性や女の子のエンパワーメントも大事だが、未来に適したリーダーシップ、革新的で、経済と社会を繁栄させるためにすべての才能を解き放つ経済の構築、持続可能性、包括性、平和などの価値観にも関係がある。私たちが住んでいる世界はいま、あまりうまく機能していない。戦争、気候と環境の危機、偽情報や誤情報、不平等。私たちは「何をするか」だけでなく、「どのように行うか」を再考する必要がある。
「いい子」でいるだけでは達成できない
そのためには、リーダーシップを発揮する女性を増やす必要がある。私たちには、誰もが繁栄できる社会、平和な世界が必要だ。それは、ジェンダーギャップを埋めることで達成できると確信している。
親切で優しく、謙虚な日本の人々が勇気を出し、ジェンダーギャップ指数世界118位から、上位に上がるよう呼びかけてくれることを強く願っている。日本は世界の主要国の一つ。世界をリードする国であり続けるためには、これが最大の経済的および社会的課題だと思う。
本当は誰も怒らせたくないが、アイスランドは「いい子」でいるだけではこの地位を達成できなかった。いたずらをし、ときには少し怒ったが、私たちは連帯と喜びの中で、私たち全員がアイスランド人であることを強く、誇りに思う何かを追求してきた。皆さんにもそれができるはず。
50年前に始まった
アイスランドのジェンダー平等は50年前、女性によるストライキ「女性の休日」から始まった。左から右まで女性がみんな連帯し、家庭でも職場でも働かず、女性が働かなければ社会が何も機能しないことを示した。その5年後、私たちは勇気を出して、初めての女性大統領を民主的に選出した。
以来、地方議会と国の両方で女性政党が見られるようになった。女性がテーブルに着くと、彼女らはそれまでとは異なる問題を議題に据え、それについて異なる方法で話す。長期的な視点で考える。革新と新しい考え方をもたらす。
彼女たちは自分の子供や孫にどんな未来が待っているのかを考えた。女性は権力のための権力ではなく、世界をより良い場所にするために影響力のある地位に就くことを考える。
「すべての答えを持つリーダー」よりも
権力とは人に対する強さか。それとも、人を通じて、人とともに行い、影響力を持つものか。女性は後者と考える傾向があると思う。すべての答えを持つリーダーがいるわけではない。謙虚な姿勢で、物事のやり方や考え方を変える勇気を持つリーダーが必要だ。規範や前提を変えることは、政策よりも重要かもしれない。
ジェンダー平等な社会や世界を目指そうとするとき、しばしば「女性を変えよう」から始まる。女性に何か問題があり、女性はもっと男性のようになるべきで、そうすれば政治やビジネスをすることができるようになる、という考えだ。でも、一つ言いたいのは、私たちは男性のようになる必要はないということ。私たちは、私たちの特性と価値を提供するべきだ。
女性に欠けている能力は
女性に欠けている能力があるとすれば、それは自信だ。女性が「自分は何もかも知らない」と思ったとしても問題ない。その姿勢は財産なのだ。謙虚さは今日のリーダーシップに不可欠なスキルだ。謙虚で、他の人を巻き込み、他の人から学び、他の人から最高の能力を引き出したいと思っている人と一緒に働くことをみんなが望んでいる。すでにすべての答えを持っている人と一緒に働きたいと思う人はいますか? そこにあなたが貢献できる余地はあるのでしょうか? 女性がもたらす謙虚さを価値として考え直してみよう。勇気のない謙虚さは世界を変えない。しかし、謙虚さのない勇気は、世界を悪くした。女性たちを変えることなく、ありのままの姿に自信を持てるように手助けするべきだ。
ジェンダー平等に向けて重要な「三つのM」の話をしたい。
一つ目はお金(Money)。起業家であれ、政治家であれ、大企業を経営している女性であれ、女性がお金を得るのは困難だ。私は2016年と24年に大統領選に立候補したが、あまりお金をかけなかった。女性がそれを実現できるのは、私たちが創造的で革新的だから。私たちはそのことに誇りを持つべきだが、男性に使われるお金の方がずっと多いことにも注意を払うべきだ。
二つ目はメディア(Media)。女性は男性ほど画面に登場しない。女性が気にかけている課題も取り上げられない。人は「見えないもの」にはなれない。メディアは女性の物語をもっと共有し、より多くの女性のロールモデルを見せてほしい。誰にインタビューするのか、なぜその人にインタビューするのかを意識的に考えてほしい。その対象が男性であることが多すぎるから。「過去のメディア」になるか、それとも「未来のメディア」になるか。女性や少女たちの物語、世界観、価値観、声を将来に向けて届けることを目指すべきだ。
そして最後は男性(Men)。今は、少年や男性のことが本当に心配だ。孤独、依存症、目的や帰属意識の欠如。多くの少年や男性が、自分や世界にとって良くないかもしれない何かに属そうとしている。ジェンダーギャップを解消するには、男性にもジェンダーがあることを理解する必要がある。
「G7の国が118位で満足か」
アイスランドの次の50年は、女性に注目し、女性の話を聞き、女性を評価することは、男性から何も奪うことにはならない、と感じられるようにすることが大事だと思っている。
女性議員の皆さん、政治的立場の違いを超えて連帯して働いてほしい。お互いのために、国会、そして日本のために。あなたから始めてください。若い女性はあなたに注目している。彼女らが必要とするロールモデルになり、お互いが正しいことを追求するために必要なコミュニティーになろう。
そして、大きな目標を設定してほしい。一度目標を定めれば、日本ほど優れたパフォーマンスを発揮する国はない。G7の国が118位で満足できるだろうか。
最後に、男性を味方につけてほしい。「女性のために戦っている」という物語から「私たちは未来にふさわしい日本のために戦っている」という物語に変えれば、男性はより強い味方になる。
ジェンダー平等に向けたアイスランドの歩み
女性の国会議員が46%を占め、首相も含めて閣僚は11人中6人が女性。大統領も首都の市長も女性で、各国の性別による格差をまとめた「ジェンダーギャップ報告書」では2009年から15回連続で世界トップ――。
北欧の島国、アイスランド。ただ、「ジェンダー平等に最も近い国」は一朝一夕で築き上げられたわけではない。
大きな転機となったのが、1975年10月24日の「女性の休日」ストライキだ。女性がいなければ職場も家庭も機能しないことを示すため、全国の9割の女性が一斉に休日を取った。社会はまひし、女性の重要性が広く認識されるきっかけとなった。
翌76年に男女平等法が成立し、80年には民主的に選ばれた世界初の女性大統領(ビグディス・フィンボガドッティル氏)が誕生。16年間にわたって「国民の顔」を務めたビグディス氏は、ロールモデルとして大きな影響を与えた。
政治におけるジェンダー平等を求める声が小さくなることはなく、83年の総選挙では、女性だけの政党「女性同盟」が3議席を獲得。得票率こそ5%強にとどまったが、男性優位だった国会に対する圧力となった。
家庭や経済界でも、ジェンダー平等を実現するための取り組みが続けられてきた。
有給の育児休業は、97年に父親が2週間取得できる権利が認められ、現在では両親それぞれが6カ月間得ることができる。2010年には、従業員50人超の企業に、取締役の男女の割合をそれぞれ4割以上にすることを義務づける改正法が成立した。
こうした政策面の動きがあるのは、市民が声をあげ続けていることも理由だ。「女性の休日」ストライキはこれまでに7回開催され、23年のスト時には、当時のカトリン・ヤコブスドッティル首相も休みを取って連帯を示した。
今年10月には歴史的なストから半世紀を迎える。国中で大規模なイベントが行われる見通しだ。
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