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  其の十二









もう通いなれた路のはずなのに。
運ぶ脚はぎこちなく、地面が変に柔らかく、
とにかく、頭は沸騰したままで。



重なり合う葉陰の奥深く、ぼんやりと東屋が浮かび上がる。
俺はいきなり走り出した。

あの人に会いたい。










肩で息をして、仁王立ちの俺。
かわらずに、優雅なお義母さま。


「まあ、どうなさったの。」
ゆるやかな見透かすような微笑は、いつものままに。
「おっ・・・・お、久しぶ・・・・・・・・」
情けないことに、俺は息がすっかり上がっていた。
瞳が面白そうにこちらを眺め、小首を傾げて物憂げな声。


「すこし、落ち着かれたら?
 こちらでよろしければ・・・・・
 それとも、お水でも持ってきましょうか?」
からかうように、ゆったりと杯を差し出される。
酒も飲めない若造と思われているような気がして、
一気に体温が上がる。



「いいえ、結構。  頂きます ! 」



ひったくるように杯をとり、俺は一気に酒を流し込んだ。














「     ・・・・・・・さま、・・・王子さま。」




白くて冷たい指が額にかかる。
ここって、東屋にしちゃあ、よく出来てる。
なんかいい匂いがする。
柔らかな寝台、仄かな蜀台。

・・・・・・・・・ って、おい!




「やっとお気がつかれたの?」
顔の上には、お義母様。
「いけませんわ、あのような飲み方をなさっては。」
ああ、最悪。
ひっくりかえったんだ、俺。


まだくらくらする頭を押さえて、俺は起き上がる。
「あの、おれ・・・。」
「女官たちに手伝わせて、ここまで運ぶのは大変でしたのよ。」
ここ、って、お義母様のお部屋じゃんか。
「あそこに放っておくわけには、いかないでしょう。」
そういいながら、水差しから水を汲む。
切り子のグラスを受け取って、ひんやりとした水を流し込む。




いつのまにか、お義母様が横に座られていた。
「わたくしの悪ふざけが過ぎましたわね。
 あのように強いお酒は、もうすこし大人になられてから。」
「すみません。」
まだ酔いは覚めていないらしい、
ゆらゆらする頭のまま俺の口はまわり続ける。
「でも、俺、そろそろ大人です。」
お義母様の瞳が少し大きくなって、そして少し眇められて。
「そうですわね、もうすぐ、お誕生の宴がございますのでしょう。」
「え・・・」
「大王様が、教えて下さいました。」


「お気に召す、姫君が見つかることを祈っておりますわ。」
表情はかわらない。
微笑みは揺るがない。
俺はさぞ、情けない顔をしていることだろう。






言葉が途切れ、蜀台の炎が息を潜めるように揺れる。







どうにもいたたまれなくなって、俺はお義母様の掌を握り締める。
掌は思いもかけず暖かく、そして俺はもっと熱くなっていた。


「お義母・・・・・さま。」
「なあに。」


「おれは・・ 子供ですか?」
「まあ、そんなお年ではないことくらい承知しておりますわ。」
そう仰って、口唇はふんわりと甘く弧を描く。
「わたくしが少しふざけてしまっただけ、お気になさらないで。」


俺の体温は、どんどん上がるばっかりだ。
「 ・・・お義母さま。」
「なあに。」
小首を傾げ、覗き込む瞳が虹のように色を変える。
どうとでもなれ、という気持ちが湧き上がる。






たとえどれほどに姫君をかき集めても、
これほどに美しく、これほどに可愛らしく、
これほどに素晴らしいお方なんて、いるはずはない。
どうしても、どうしても、この方でないと駄目なんだ、俺。




握る手を引き寄せて、思い切り口付ける。
くらくらするような甘やかな香りに、俺は包み込まれる。
お義母さまの身体は一瞬強張って、
そして、柔らかく力が抜ける。
華奢な身体を折れるくらい抱きしめて、
縋るような無様ななりで、
祈るように声を絞り出した。


「お義母さま。  俺、あなたが。」









遮るように、低く甘い囁き声。





「仰らないで。
 ・・・・・・・・・・・・・・・ わたくしの息子さん。」







そして頬を滑らかな両手が包み込み、夢に見続けたその口唇が寄せられる。
口付けたまま、お義母様の指は優しく俺の服を剥がしてゆく。
ゆっくりと寝台に横たえられる俺の上で、
夢にまで見たあの方が婉然と微笑まれる。
酔いが戻ってきたかのように、頭はガンガン鳴りっぱなし。
潤んだように映す瞳が瞬いて、俺は包み込まれる。


赤く艶やかに舌が頬から首筋へ、そして胸へと伝ってゆく。
暖かなその感触は、体中に火をつけてゆく。




遠のきそうな意識の中、やっとの思いで身体を起す。
薄く開く口元、光を弾くような眼差しにそっと口付けて、
この上もなく恭しく、とろけそうな絹に手をかけて。
蜀台の灯りの下、眩しいほどの白い身体を抱きしめる。


俺と同じくらい熱くなった、首筋、肩、胸、そして吐息。
覚えているのはそこまでで、あとはもう無我夢中。
加減もなにも分からぬままに、俺はむしゃぶりつくばかり。
切れ切れに聞こえてくる、吐息と喘ぎにそれだけで又体温が上がってゆく。
お義母様の白い指が、時折導くように俺の身体を滑る。


気が付いたときには、お義母さまの身体に沈み込んで、








「お・・うじ・・さ ま     」

耳をくすぐる微かな、声。









そしてそのまま、気が遠のいた。












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