TOP   






  其の八










「お兄さまああ。」
「ん。」
「ねえ、たまには、遊ぼうよ。」
「ん。」


木陰で居眠りする俺を目ざとく見つけて、弟たちがまとわりつく。








あれからアタマは、著しくぼやけっぱなし。
寝ても覚めても、メシ食ってても、
お義母さまの声が、吐息が、感触が。
そして遂に、どうやらとんでもない失敗をしでかしたらしい。




「王子様っ!先日は一体なにを仰いましたのでございますか?」
コウ先生、顔引きつってるよ。
「別に。」
「先方より、お詫びの書状が届いておりますが。
 その内容が、なんともはや。」
「え。」
「『まことに差し出がましい事を申し上げました娘ではございますが、
 あれより涙に暮れたまま、病の床に伏せっております。』、
 とかなんとかと・・・」
「ふうん。」


でもなあ、もう行く先々であれだけ期待混じりに見つめられると、
期待させちゃあ悪いって気にもなってくるじゃん。
そのうえ、あそこの大臣、
もう縁組決まったみたいな言い方ばかりしやがって。


「いや、つまり。」
「つまり・・・ 何でございますか?」
「俺はあなた様にその気は、ってはっきりと。」
「・・・・はっきりと。」
「全然ございませんよ、ってきっぱりと。」

「・・・・・・仰ったので、ございますね。」

「・・・うん。
 だって先生だっていってたじゃん、きちんと言うべきときには言え、
 ってさあ。」
コウ先生、天を仰いで手を額へ。
「時と場合というものが、ございましょうが!」
「だから、その、時と場合だと思ったんだよ。」
「あちらのお国はわが国にとりましても戦略的に重要な立地にございます。
 あなたのお父上も近々同盟を結ぶおつもりでいらっしゃるのでございますよ。」
「わかってるよ、でも、それとこれとは別もんじゃん。」
「このご時世、別物ではございませんっ。
   ・・・・・王子さまっ! 」

と叫ぶ先生をほっぽり出して、窓から逃げ出した。











「入り江の亀、見せてあげる。」
「すごく、かっこいいんだ。」
「背中に角とかはえててさあ。」


「ああ、わかった、わかった。」


両の手を弟たちに引きずられるようにして、俺はしぶしぶ立ち上がる。
お前らの鳥のお陰で、えらい目にあってんだぞ、おい。


洞窟のように大きな岩がぐるりと囲む、やつらの秘密の静かな入り江、
水晶のような波を眺めながら、浜に腰を下す。
ぼんやりと亀と遊ぶ弟達を見守りながら、思いはあの人のもとへ。


水飛沫をあげて服をびしょ濡れにしながら、夢中で亀をかまっている弟達。
お義母さまから見たら、俺ってこいつらとそう変わらないんだよな。
目新しい玩具に夢中になってはしゃいでいる、
そんなふうに見えているのかな。
お義母さまに子供はいないはずだから、だから、
珍しくてお相手してくれたのかな。




でも、俺は、そろそろ大人になりつつあって。
縁組が持ち上がる年になっていて。
そういうものとして、考えられる姫君は、
俺の背中を押してくれる、ともに手を携えてくれる人。




そして、俺は運命に出会ってしまった事に、
まだ気がついていなかった。












苦虫を噛み潰したような大王の前で、コウが畏まる。
自慢の世継ぎも、そろそろ年頃に。
あの頑なさに、このお方もほとほと参っているらしい。
このお方と張り合える頑固さは、なかなかどうして大したものだ。

「・・・・・・なにを、笑っておる。」
「い、いえ笑ってなどと・・・・・・・・、滅相も御座いません。」


「そういえば、もうすぐあれの誕生日か・・・」
「はい、なにか御趣向でも。」

しばし考えに耽り、やがて大王は面白そうに微笑んだ。
「今年は盛大に、祝ってやろうではないか。」
「と、申されますと?」
「近隣の、そして遠方の国々からも、選りすぐりの美姫をかき集めよ。」
コウは不安げに、言葉を待つ。
「一人くらいは、あれの心に叶う者もおるであろう。」
「・・はあ。」


「后選びを。」







「海に臨む大広間で、世継ぎに相応しい、盛大な宴となるように。
 金はいくらかかっても構わん、準備は任せたぞ。」









← Back   Next →








SEO