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『【3巻重版出来記念SS】かくして少年は迷宮を駆ける『Lesson1 ~白王陣の造形美について~』/あかのまに』のエピソード「Lesson1 ~白王陣の造形美について~」の下書きプレビュー

【3巻重版出来記念SS】かくして少年は迷宮を駆ける『Lesson1 ~白王陣の造形美について~』/あかのまに

Lesson1 ~白王陣の造形美について~

作者
MFブックス
このエピソードの文字数
2,124文字
このエピソードの最終更新日時
2025年6月5日 19:30

 本格的な毒花怪鳥ポイズン・ガウチョ討伐対策が進んだ時の話。


「どうすっかねえ……」


黄金鎚おうごんつい】倉庫内部にて、ウルは悩ましそうにうなっていた。

 怪鳥の討伐に向けて慌ただしい日々が続いている。

 だが、常に何かしらの作業で埋まっているわけではない。

 どうしても、作業と作業の合間に隙間時間というのが発生するものだ。


 今日の予定では、もう少ししたら学園からシズクが戻ってくる。

 そうすれば、現在建設途中の戦車の試運転作業を行う予定ではあるのだが……。

 その作業はもちろんシズクがこの倉庫の中にやってくるまではできない。


 さりとて今から迷宮に行くほどの時間もない。

 まさに隙間時間だ。


 この半端な時間を、ウルはひとまず「休み時間」にあてることに決めた。

 身体を休めるというのは大事だ。

 今、特に立て込んでる時期だからこそ、休めるときに休むことが必要だ。

 本番で潰れてしまっては意味がない。


「うーん……」


 しかしジッとしていると、それはそれで考え事ができてしまうものだった。

 ウルが腕を組んでいると、同じく少し時間を持て余していたロックが首を傾げた。


『うんうんとやかましいの、どしたんじゃい』

「……いや、そろそろ日用魔術、新しいの覚えたいなってな」


 問われ、ウルも口にした方が悩まずに済むかとロックに今考えていることをそのまま告げた。


「ああ、お掃除そうじ魔術みたいなヤツじゃの」

「【浄化】な。あれはかなり便利な魔術で、それ自体には満足しているんだが……」


 身体や服、物品の汚れを取り去る【浄化】は大変に便利な魔術だ。

 迷宮に潜る際だけでなく、ただ日々を過ごすだけでも色々と汚れていくものだ。

 それを魔術一つで綺麗きれいにできるというのは本当に便利で、ウルはありがたく使っている。

 他にも大気中に水を集める【集水アブル】などもウルは身につけており、どちらも便利な魔術ではあった。……のだが、


「もう一つくらい、普段使いで便利なヤツ覚えようかなって」


 ヒトのさがというべきだろうか、魔術の便利さを覚えると、更なる利便性を追求したくなってしまった。

 今後も、何か問題なければ旅は続くのだ。

 新たにまた魔術を一つ覚えればそれだけで、快適さは随分ずいぶんと変わってくるだろう。


「とはいえ、あんまり習得に時間もかけていられないしなあ。簡単に覚えられて、かつ、凄く便利な魔術とかねーかなーと、めたこと考えてたわけだ」

『カカカ、魔術師が聞いたら怒られそうじゃのう……ま、そんなら』

「そんなら?」

『ちょうど良いヤツがおるじゃろ? 魔術学園の単位を全部とった、秀才殿しゅうさいどのがのう?』


 ロックはそう言いながら、学園もサボり、怪鳥退治のための準備を進める小人コロポの少女を指さした。


         ◆◆◆


 というわけで、ウルはリーネに話を聞いてみることにした――その結果、


「ではこれより、【白王陣】の基礎講習をはじめるわ」

「なんかはじまったな」

『どっからもってきたんじゃい、その黒板と机』


 ウルの希望からかけ離れたなにかがはじまった。

 いつの間に用意された教壇きょうだんと黒板の前に立ちながら、リーネは輝く眼鏡めがねをくいっとかけ直した。


「白王陣を学びたい――殊勝しゅしょうな心がけね。素晴らしいわ」

『日用魔術どこいったんじゃ?』

「もしかしたら俺とは違う言語を使ってるのかもしれん」


 間違いなくウルは「片手間で習得するのにちょうど良い、簡単な日用魔術はないか?」とたずねたはずだ。

 しかし、何をどのように言葉が変換されて彼女の耳に届いたのか、まったく分からなかった。


「ではLesson1,白王陣の造形美について」

「魔術の習得どこいった?」

「物事には順序がある。まずは美しさを知り、崇拝すうはいの像を心に宿す事が大事なの」


 既に発言がそうとうあやしかった。

 だが、これで途中離席したら殺されるような気がしてならなかったので、ウルはひとまずお茶をにごすために挙手し、質問を投げかけた。


「……で、その美しさとはどういう所なんで?」

「ここよ」


 そう言ってリーネは、足下の先ほどまで自身が描いていた白王陣の筆跡を杖で示した……のだが、示されたとて、それの何がどう美しいのかウルにはサッパリだった。

 ロックも、カタカタと首をななめに傾けている。


「……えっと、どこって?」

「この線の描く角度よ!!」

「角度」


 想像をはるかに超えて胡乱うろんな話になってきたことに、ウルは頭を抱えそうになった。


「陣を描く上での角度!! これを定めるのにレイライン歴代当主は心を悩ませていたわ……!!」

「難儀な一族がすぎる」

『大変そうじゃのー』

「造形の美しさと、実用性、相反する二つの要素の衝突コンフリクション……!! その極限の果てに起きた融合がこのラインにあるのよ……!」

『歴史があるのー』

「まだ序章にすぎないわ。Lesson1は二週間の開催予定よ」

『賞金首倒す時間なくなるのう』

「さすがに勘弁かんべんしろ」


 その後もリーネのLesson1初回講義はシズクが来るまで続いた。

 そして、ウルとロックは彼女が何を言ってるのだかわからない状況のまま、ひたすら話を聞き続けるハメとなった。

 すっかりと時間を無駄にしてしまったな……と、後悔していたいのだが――


「【ライヒ】……できるようになったな。なぜか」

「白王陣は全てに通ずるのよ」

『すんごいのぅ白王陣……』


 ――授業のあと、明かりをともし、しばしの間光源として機能してくれる【ライヒ】の魔術をウルは習得していた。なぜか。

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【3巻重版出来記念SS】かくして少年は迷宮を駆ける『Lesson1 ~白王陣の造形美について~』/あかのまに
作者
MFブックス
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