「私、超絶天才美人豊乳ハイスペックホルダーマジシャンの山田奈緒子は、変っ態むっつり巨根学者の上田と共に、既に消えた『旧雛見沢村』に渋々赴く」
「ちょっと見て帰るところがなんと、私たちは昭和五十八年の村へタイムスリスリスキャットしてしまう」
「割と村ライフを満喫していた私たちだったが、綿流しが近付くにつれて起こる事件に巻き込まれて行く」
「しかしウルトラハイパーデラックスマジシャンの私はインチキ霊能力者の陰謀と、レナさんの凶行をまるっと解決してみせた。天才ですから」
「鬼隠しが起こる綿流しまで、あと二日。そして村の崩壊まで、あと四日……」
「私たちがタイムスキャットした理由、そして事件の鍵を握るのは、オヤシロ様を祀る神社の巫女である古手梨花と言う少女だった……」
業深し
──様々な逸話のある脱出王「ハリー・フーディーニ」だが、死後にももう一つ逸話が存在する。
彼は死の間際、妻のベスに一つの言葉を遺している。
「死後の世界があるのなら一年後、必ず連絡をする」
ベスは賞金を懸け、多くの霊媒師を召集し、彼の声を届けられる本物の霊能力者を探した。
本物だと信用されるには、生前にフーディーニが伝えた、「二つの合言葉」を当てなければならなかったが、約束の期日までにそれを言い当てられる霊能力者は出てこなかった。
しかしその更に一年後に、とある霊能力者がベスの元を訪れ、なんと一つ目の合言葉を正確に言い当ててしまった。
合言葉を伝えて信用させた霊能力者は、フーディーニがベスだけが交わした「九つの単語」さえも伝えてみせる。
更にはフーディーニとベスのみしか知り得ないであろう、彼女の結婚指輪の裏に刻印された「ROSABELL(ロザベル)」の文字さえ言い当てた。
霊能力者は九つの単語を唱え、それが導き出した答えである二つ目の合言葉を告げた。
「ROSABEL BELIEVE(ロザベル、信じなさい)」
彼はベスだけしか知らない合言葉と暗号と、その解読法を使用して暴いてみせた。
ベスは彼を本物の霊能力者と信用し、彼の言葉をフーディーニ本人からのメッセージだと認められ、こうしてフーディーニは死後の世界からこの世界へ、約束した期日の一年後に無事メッセージを伝えられた。
しかし、その霊能力者の力は嘘だと、とある女性記者が自身の記事で暴露する。
この記事でインチキだと判明し、ベスは彼が本物の霊能力者であるとする発言を撤回。
結局、フーディーニからのメッセージを届けられる霊能力者は、以降現れなかった。
なぜその霊能力者は、秘密の合言葉を答えられたのか。
そこには、あまりにも単純な理由があった。
それは──────
既に日付は翌日に変わった、深夜0時過ぎ。興宮市内の居酒屋から、赤ら顔の男が二人出て来た。
「ハッハッハッハッ!! なんだ、お前も歳だなぁ! あれぐれぇで酔っちまいやがって!」
「なぁ〜にを言いますかぁ! それを言っちゃあ、おやっさんこそ! 生まれたてのヒヨコみてぇにフラフラじゃないですか!」
「なんだと!? 生意気なぁ!」
「おとととと!?」
酔ってふらつき、掴み合って路上に転ぶ。落ちていたイチョウの葉が二人の服に付く。
なんとか支え合いながら、愉快に笑って立ち上がった。
「全く! お互い、いつまでも若くないんですからねぇ! おやっさんなんか、六月の二十日で晴れて還暦になっちまったじゃないですかぁ!」
「うるせぇ! そう言うお前こそ、あと数年もすりゃ定年だろぉが! このジジイめ!」
「んなはははは! もう定年のおやっさんには言われたくないですわな!」
肩を組みながら、ヨタヨタと夜道を行く。
もう夜も深い。路上を行き交う者と言えば、彼らのような酔い潰れたサラリーマンや、水商売の女ばかりだ。
寒さ運ぶ秋風を浴びながら、二人は肩を組みながら歩く。
街の明かりがポツポツと消える。
道路傍に並んだ水銀灯が、青白い光で照らす。
二人はその傍を通った。
照らされては暗がりに入り、また照らされては暗がりに、を繰り返す。
少し歩いた時、酒臭い息を吐きながら一方の男が、上機嫌に話し出した。
「なぁ! 俺ぁ、もう今年いっぱいで定年退職だ!」
「そりゃ、おめでとさんですなぁ! 長い間、ご苦労様でした!」
「それで相談なんだがなぁ。やっぱ隠居するとすりゃ、どこが良いと思う!?」
彼の話を聞いて控えめに笑う、もう一方の男。
「またその話ですかぁ? 定年が近くなった途端に……」
「あぁ! 俺ぁもう、人生の半分くらいをこの街で過ごした! 残りぐれぇ、楽しい場所に引っ越してぇもんだろ! ほら、刺激がねぇと人間はすぐボケるからなぁ!」
「そりゃ、寂しくなりますなぁ」
ガハハと笑い、大きな声で話しながら背中を強く叩く。
「別に死ぬ訳じゃねぇだろぉ! 一年に一遍は帰って来てやるし……そうだ! なんなら、お前も定年になったら来たら良い!」
「私もですかぁ〜!?」
「それが良い! 母親ももう、結構な歳だったろぉ! 親孝行って事で、一緒に引っ越してくりゃ良いさ!」
「いやいや、私ぁ、とても……」
「いいや! そうするべきだ! お前が引っ越して来る頃にゃあ、俺も向こうに馴染んでいる頃だしよぉ。また昔みてぇに、色々と連れ回して遊び方を教えてやるって!」
めちゃくちゃな提案に、思わず苦笑いしてしまう。
しかし胸中では、満更ではなかった。「ありだな」とも、思っている。
「……そうですなぁ。まぁ、考えておきますよ」
「おう! 考えとけ考えとけ!」
「ところで……あー。どこに行きたいって言っていましたっけ?」
顎を撫でながら、男は夜空を見上げつつ宣言する。
「北海道ッ! 北海道だー! 俺は、北海道に行くッ!」
「あーあー、そうでしたなそうでした! えー、家庭菜園をやるんですって?」
「それもそうだが、まずはパーッとススキノで遊ぶんだ!」
「あと、社交ダンスは始めるんでしたか?」
「社交ダンスぅ!? いや、言ってねぇぞ!?」
「んふふふふ! 私が始めたいんですよ!」
「いやいや! 似合わねぇ、似合わねぇよ!」
また暫く談笑しながら道を歩く。
段々と通行人が消えて行き、すっかり辺りからひと気がなくなった。
深夜の街には、二人の笑い声だけが響く。
「んじゃあ、俺ぁここで帰る!」
黄色信号が点滅し続ける交差点で、男は手を上げて去ろうとする。
「おやっさん、一人で帰れるんですかぁ?」
「何言ってやがんだ! 俺ぁどんだけ酔っても、絶対に家には帰れんだ!」
「はいはい、そうですかいそうですかい」
互いに「では、また」と一言交わしてから、二人はその交差点で別れた。
一方は角を曲がり、もう一方は交差点を渡り、帰路を急ぐ。
ふらふらと、少し頼りない足取りで歩く男。
アルコールが処理し切れないせいか、何度か呻いていた。
「うぅ〜……あー、ちと飲み過ぎだ」
さっさと帰って眠ろう。そう考えた彼は、近道をしようと考えた。
閉店後の酒屋と薬局の間にある路地裏。
街灯はなく、真っ暗闇の中だ。
だが、彼にとっては何度か通った道。彼自身も豪胆な人物でもあり、そんな暗闇に慄く事は決してしなかった。
進路を変えて、その路地裏へ入り込む。
口笛も吹く程度には、気分はまだ高揚していた。
しかし街灯の光の下まで来た時に、足が止まる。
光からあぶれた薄暗い中に、誰か座っていたからだ。
微かに視認出来る輪郭からして、頭を抱えてうずくまっているように見えた。
気になった男は、闇の中にいる者に話しかける。
「おいあんた? どした?」
「ッ……!?」
声をかけられた瞬間、相手は立ち上がってから後ろに転びかける。
ガシャンと、彼の背後にあった空き瓶の番重に凭れた。
「なんだオイ? 酔ってんのか?」
心配になった男は、ゆっくりと人影に近付く。
相手の顔はまだ見えないが、うっすらと伺える体格からして男のようだ。
「……怪我してんのか?」
男にとっては、ちょっとした親切心からの声かけだった。
彼は人情に厚い人物で、困った人間にはすぐに手を貸した。その性格は、歳を重ねた今でも変わっていない。
しかし、この時ばかりはそんな性格が災いとなった。
ゆっくり近寄る男。
闇に目が慣れ、相手の姿が見えて来た。
途端に彼は足を止め、愕然とした目で相手の着ているシャツを見る。
「……!? お前それ、血か……!?」
ベットリと、赤い血が付いていた。
相手は後ろ手に、番重から空き瓶を一本抜く。
「……返り血────うがッ!?!?」
視界が一瞬、真っ白になった。
世界が揺れて、思考が微睡みの中のように覚束なくなる。
顔の側面に広がる激痛と、冷たいアスファルトに倒れたと言う認識が、最後だった。
「ぁ……?」
地面に倒れた際に、痛む顔面を触る。
血だらけで、ガラス片が皮膚に刺さっていた。
空き瓶で殴られたようだ。
何とか動こうとした彼だったが、その前に髪を掴まれる。
「やめろ──ッ!!」
硬いアスファルト上に、顔面を叩きつけられた。
帰り道の途中、どこからか何かが割れる音が響く。
その音と共に聞こえた、聞き覚えのある声も。
彼はクルリと、振り返った。
「……おやっさん?」
あまりにも長い長い一日から、一夜明ける。
古手神社への階段の前で北欧人集団が、草で生い茂った大きなポールを立て、その周りで踊っていた。
「メイポール! メイポール!」
「メイポル! メイポル!」
「メイプルストーリー! メイプルストーリー!」
「サマーミッド! サマーミッド!」
あの後、山田と上田は古手神社に宿泊した。
梨花から聞きたい事もあったし、上田もシャネルNo.5石鹸を取り返したかったと言うのもあった。
山田は寝苦しい暑さの中で目が覚める。
部屋の中で寝ていたハズが、なぜか一階の廊下に倒れていた。
隣にオニ壱がいるが、まだ山田は首が無い事に気付いていない。
「うにゃ……あー、朝か……あっつッ!!」
ぼやきながらフラリと、彼女は立ち上がる。
同じタイミングで、部屋の中から寝起きの沙都子が出て来た。
「あ、沙都子さん」
「あら、山田さん。お早いですわね」
「いえ。今、ここで起きたところです」
「ここで?」
「なんか寝ぼけていたようで……廊下で寝ていました」
「はい?」
沙都子は天井を見てから、訝しげな顔で山田を眺める。
「山田さん、二階で梨花と一緒に寝ていたハズでは……?」
「みたいですね」
「……二階で寝ていた人が、一階の廊下で目覚めます?」
「稀によくありますんで」
「………………」
少しだけ思考停止した後に、沙都子は取り繕うように笑う。
「またまたぁ! 山田さん、朝からチョーゆにーくですわね! 夢遊病でもそんなのある訳ないですわ〜!」
「いやホント、稀によくありますんで」
「もー! 稀なのか、良くあるのか、どっちなのですわ〜?」
ホホホと山田の話を冗談と捉えて笑いながら、居間へと向かう。
彼女の背後で釈然としない表情をしながら、オニ壱を肩に乗せる。頭のあった部分を撫でていた。
居間に到着した二人はまず、二度見する。
ちゃぶ台に乗った次郎人形が、手を振っているからだ。
「ぃヨゥ」
下手くそな裏声で話しかけて来る。
何をやってんだと言いたげな顔をする山田と沙都子を見越し、座るように手を差し出して促した。
「……これなんなのですか?」
「なにやってんだ上田」
「上田ジャナイヨ」
腕をパタパタと動かして否定するも、二人の呆れ果てた目線に耐え切れず、すぐに次郎人形の背後から顔を出した。
「よ、よぉ。グッドモーニング!」
「……上田さん。何がしたかったんですか?」
「相変わらず冷ややかだなYOUは……昨日あんな事があっただけに、場を和まそうとしたんだ」
次郎人形を片付けながら、上田は物憂げな表情で呟く。
あの後、レナは安置された父親と共に、病院に泊まった。葬式はすぐには行えないらしい。
父親の死去により、レナの親権は離婚した母親へと移る。
連絡は即座にその母親へ渡ったが、遠方に住む彼女は諸々の都合を解決してから雛見沢に向かうと言い、二日ほど待って欲しいと頼んだ。
離婚原因となった浮気相手と、今や婚姻している母親だ。死んだ前夫の地元に行くだけに、複雑な問題が発生してしまうのだろう。
その間子ども一人が準備など出来るはずはなく、葬式は母親が来るまで待つ必要があり、その期間のみ病院で安置される算段となった。
色々な許可は、魅音が病院側に「園崎権限」で働きかけてくれた。火葬までのサポートを極力するとも約束した。
それでも、親族との突然の別れに遭ってしまった彼女への、真の慰めにはならないだろう。
様々な迷惑をかけた罪悪感もある。
誰がレナの心に安らぎを与えられると言うのか。
最悪の事態から回避出来たものの、虚無感と悲しさが延々尾を引く結末となってしまった。
「……私。レナさんの事を何一つ知らなかったのですわ」
沙都子は目を伏せながら、ぽつりと嘆く。
「いつも元気いっぱいで、裏表の無さそうなレナさんだっただけに……気付けなかった自分が情けないですわ」
「沙都子さん、自分を責めちゃ駄目ですよ。今回はあまりに、間が悪過ぎたんです」
山田の言う通りだろう。
レナの狂気は過去から現在までに至る、抑圧による爆発だ。
間宮律子の存在を発端とし、ジオ・ウエキらの三億円事件が更に拗れを生んだ。
更にヤケになった律子の凶行による父親の危篤からの死に、上田が落とした鷹野のスクラップ帳の存在やら、警察の介入に対する誤解などが積み重なってしまった。
特にスクラップ帳の内容と、レナが見たダム作業員の死体の状況が上手く合致してしまったのが決定的だろう。
あまりに運がない。
そうとしか言いようがない騒動だ。誰を責めても、どうにもならない。
「本当にとんだ事件だった……冗談にもならないな。あれほど翻弄したとは言え……一番の被害者が、竜宮レナだったとは……」
「私、学校が終わったらすぐに……レナさんの所に行きますわ。少しでも慰められたらなと……」
「………………」
すっかり、空気がしんみりとしてしまった。
全員が黙り込んだところで、沙都子は思い出した事でもあるのか手をパチっと叩く。
「……あっ! 梨花を起こして来なきゃっ!」
その言葉を聞いた途端、上田と山田は互いに目を合わせた。
次には上田が言いにくそうに、沙都子へ頼み込む。
「あー……り、梨花なんだがな。ちょっと、調子が悪そうだったぞぉ?」
「え?」
「まぁ、ほぼ二日間ほど、飲まず食わずで監禁されていたようですし……精力馬鹿の上田さんはともかく、梨花さんには大変な出来事でしたからね」
「誰が精力馬鹿だ」
恨めしく睨む上田を無視し、山田は諭す。
「だから今日は、ゆっくりさせてあげましょう」
「……山田さんが言うのでしたら……」
沙都子は梨花を心配しながらも、山田らを信用する事にした。
その後は上田が作った朝食を食べてから、沙都子のみが登校する。
神社の階段を下ると、謎の儀式を執り行う集団と鉢合わせしてしまった。
「ちょっと! ここはオヤシロ様を祀っているのですわよ! オヤシロ様以外の信奉は禁止ですわ!」
「オヤシロ……サマー?」
「そう! オヤシロ様ですわ!」
「オヤシロ・ミッドサマー」
「ミッドはいりませんですわ」
「メイプルストーリー」
沙都子が出て行った事を確認すると、残った二人は廊下の方を振り向く。
そこには神妙な顔つきの、梨花が立っていた。
「……言われた通り、沙都子だけ学校に行かせたぞ」
「……ごめんなさいなのです。嘘を吐かせるような事させて……」
「今までされた上田さんの嘘と比べたらなんて事ないですよ」
「おう?」
またしても山田を睨む上田。ちゃぶ台には、次郎人形と首のないオニ壱が並べられていた。
梨花は居間へと入り、まずは深呼吸をする。
今まで見た事がないほど、彼女は緊張しているようだ。
「……上田。山田……」
真っ直ぐ、二人の方を見やる。
山田と上田もまた、真面目な顔つきで梨花の言葉を待っていた。
「……今から、とても大事な話をします」
二人の前で、正座をする。ちゃぶ台一つを隔てた先にいる二人を、見通しながら。
「そして、これから話す事を信じて欲しいと共に……誰にも、話さないで欲しいのです」
前置きの後、梨花はもう一度だけ深く息を吸った。
それから静聴に徹する山田と上田へ、祈りに似た言葉として息を吐く。
「二人こそ、最後の一手……解き明かすのです、『ボクら』と共に」
外で折れたメイポールの鈍い音が、静かな境内に響き渡った。
どことなく雰囲気の変わった梨花に、山田と上田は少し慄いているようだ。
これまでも何度か、彼女の豹変した様を見た事はある。
その度に、纏う空気が子どもの物とは思えない梨花に、ある種の畏怖を感じてしまう。
「先に言いますのです。ボクは五日後、殺されるのです」
その上で繰り出された一言目で、二人は感情を畏怖から怪訝に切り替えた。
「……どう言う意味ですか?」
「そのままの意味なのです」
あくまで梨花の表情は真剣だ。
暫し呆然としていた上田だったが、気を取り直したように鼻で笑う。
「ハッ! 学校サボってまで、何を話すかと思えば! もう俺は騙されんぞぉ?」
「本当の事なのです。それに今年の綿流しでも、また二人が死ぬ事になるのです」
「誰がだ?」
「富竹と鷹野なのです」
「なぬ?」
小馬鹿にした風だった上田も、富竹と鷹野の名を聞いた途端に真顔となる。
山田はずっと梨花の表情などを観察していたが、どうにも嘘を吐いている様子には見えない。
「……トミトミさんとタンタカさん」
「お前わざと間違えようとしてないか?」
「そして梨花さんが死ぬと言うのは、どうやって知ったんですか?」
梨花は口元をキュッと結んだ後に、不安げな様子で話す。
「……ボクの予言、としか言えないのです」
「予言て……一気に胡散臭くなったな……」
鼻で笑い、身体を揺らしてリラックスする上田。
自分の話に興味を無くしたのだなと気付いた梨花は、食い気味に思いを伝えた。
「信じて欲しいのです。と言うか今更、こんな状況でドッキリ仕掛けようなんて、幾らボクでも考えないのです!」
「でもなぁ……山田?」
「さすがに予言ってのは……」
半信半疑の、疑が多め。そんな二人に業を煮やしたのか、梨花はやや責めるような口調で言い放ってやった。
「自分たちの状況を無視してボクだけ否定されるのは論外なのです! 二人だって未来から来たクセにっ!」
「いや、そうですけど……」
「それとこれとは話は違うだろ〜?」
鼻で笑う上田に、苦笑いの山田。
「そちらは予言で、こっちはタイムスキャットです。全然違いますよ」
「あぁ。正確には、タイムスリットな? ハッハッハ!」
「えっへっへのへ!」
それから山田と上田は小さく笑った後に、ニコニコと梨花を見やる。
三回くらい呼吸をして、首やら頬やらをポリポリ掻く。
お互い目を合わせてから、また同時に鼻で笑う。
また梨花へ視線を戻し、暫し見つめる。
じわじわと違和感が後追いでやって来た。
「ホワォっ!?」
「おぉう!?」
違和感の理由に気付いた瞬間、同時に叫ぶ。
なんと梨花は、二人が時間超越者だと看破していたようだ。
逢魔ヶ刻と言うのは、忘れられた者たちが暫し目覚める時間でもある。
荒れ果てた村にやって来た二人組。
面白半分で赴いた何も知らない有象無象の一つかと、目覚めた「彼女」は怒りを覚えた。
自分には、僅かばかりの力しかない。
信仰は忘れ去られ、畏怖だけが残った。
今や逢魔ヶ刻にやっと動けるほどに、弱々しい存在だ。
それでも「彼女」は信じ、待ち続ける。
既に亡くした「親友」を救ってくれる者を。
もはや「彼女」の存在は、漠然とした影に成り果てていた。
思考もなく、感情のみが形を成した存在。
絶望と憎しみと虚脱が、長い時を経て「彼女」を獣に貶めていた。
二人組の姿を感じ取った「彼女」は、死んだ目で顔を上げる。
木々を隔てた先で駄弁る、その二人組を睨む。
何を話しているのか、内容さえ頭に入らない。
近付いて来た人間に対する、野生動物のような反応に近い。
存在を知覚し警戒すれど、言葉なんて分かる訳はない。
今の「彼女」はそれほどまでに、貶められていた。
二人組は歩き出し、夕陽が照らす村の方へと向かう。
ただただ「彼女」はその背中を、木の後ろより顔を出し、睨み付けるだけ。
興味本位に村を汚しに来た余所者に、怒りをぶつけるだけ。
あまりにも込めた念が強かったのだろうか。
睨み付ける「彼女」の方へ、二人組の片割れがクルリと振り返った。