TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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トラップ

 掘っ建て小屋に軟禁されている、上田と梨花。

 お互いに手足を縛られ、頑丈なパイプに繋がれた状態だ。とても逃げ出せない。

 

 

「ライブキング」

 

「グ……グモンガにするのです」

 

「結構コアなの知ってんだな…… ガだから、ガボラ」

 

「ラルゲユウス」

 

「ウルトラQも出せるのか……スペクター」

 

「タッコング」

 

「タイラントで来ると思ったが……グ、グ、グワガンダ」

 

「ダンガー」

 

「ガギ」

 

「そんな怪獣いないのですよ。出鱈目言うのはやめるのです」

 

「おっと。これはお前にとって、未来の怪獣、でしたね?」

 

「思い付かないからってゴチャゴチャうるさいのですよ。負けを認めるのですか?」

 

「厳しいな……ガマス」

 

「ガマスは超獣で、怪獣じゃないからアウトなのです」

 

「細けぇ!!」

 

 

 ウルトラ怪獣のみ限定のしりとりで、夜を明かしていた。

 それまでも何度か趣向を変えてしりとりをしていたようだが、梨花からしたら飽きて来る。

 

 

「最初はゴジラ怪獣で、その次はライダー怪人で……次は東映ヒーローシリーズで行くか」

 

「もうしりとりは良いのですよ……虚しいだけなのです」

 

「だからって、このままじゃ暇でしょうがないだろ」

 

「なんで逃げる方法を話し合うって発想にならないのです?」

 

 

 しかし縄はきつく結ばれ、更に自由に動けないよう、繋がれ固定されている。

 これらの状況から脱出するのは、かなり難しい。

 

 

「両手が空いていたら、ギター弾いてやれたのに……」

 

 

 すぐ横の壁に立て掛けられたギターを眺め、悔しそうにぼやく。

 

 

「たかがギターがなんの役に立つのですか……」

 

「お前、たかがギターだと!? これは『グレッチ』のアコギだぞッ!『丸の内サディスティック』にも出て来る!!」

 

「だからなんの役に立つのですかって言っているのですよ」

 

「眺めていると………………安心する」

 

「はい、役立たずなのです〜。上田二世なのです〜」

 

「このやろぉッ!! グレッチを上田二世と言いやがったなッ!?」

 

「役立たずは認めるのですか?」

 

「認めねぇッ!!」

 

 

 この状況でも、いつも通りの口喧嘩は止まらない。

 ただこの口喧嘩のお陰で、極限状態を乗り切っていられている。

 

 

「……沙都子。今頃、心配しているのです」

 

「学校サボって、俺たちを探していそうなもんだな」

 

「ありえますのです……いや。絶対にしていますですよ」

 

 

 その通り、沙都子は学校を休んでまで、二人を見つける為に奔走していた。

 梨花にとっては知るよしもないのに、彼女の事は良く良く分かっている。

 

 

「ったく……誰か、俺たちを目撃していやしないもんか?」

 

「これに関してはレナが上手(うわて)なのです。多分、『みんな』も知らないのですよ」

 

 

 梨花の言う「みんな」のニュアンスに、上田は妙な含みを見出した。

 

 

「みんな? 部活のメンバーか?」

 

「違うのです」

 

「じゃあ誰だ。村人か?」

 

「これが解決したら教えるのです」

 

「お前はなんなんだよ……」

 

 

 上田は、隣にいる梨花に対して若干の不気味な印象を抱いていた。

 目を覚ました時に見せた、やけに大人びた横顔と口調。とても子どもには見えなかったからだ。

 口達者で、人を小馬鹿にしたガキンチョ、と思っていたばかりに、その印象を抱く事は必然だった。

 

 

「……なぁ、梨花」

 

「なんですか?」

 

「ちょっとぐらい教えても良いだろ。何を知ってんだ?」

 

 

 彼の質問に対し、饒舌だった梨花は突然黙り込み、俯いた。

 顔が影に隠れ、怒っているのか悲しんでいるのかも伺えない。

 

 

「…………良いだろう。俺の方から、真の目的を言ってやる」

 

 

 沈黙が続き、上田は半分自棄になる。

 自分は村の崩壊を止める為に動いていると、告白するつもりだ。もしかすれば彼女は何かを知っているのではと、反応を見るつもりでもある。

 

 

「俺の目的は」

 

「村で美人を口説くですか?」

 

「そうだッ!……いや、違うッ!! 真面目に聞けッ!! 俺の目的」

 

 

 

 

 しかし、叶う事はない。

 言い切る前に、小屋の扉が開かれる。

 

 

 

 レナが姿を現した。

 

 

「聞こえていたよ……上田先生の目的って、なにかな?」

 

 

 レナに聞かれ、上田はしおらしく話す。

 

 

「……あわよくば、鷹野さんを富竹さんからゲッチュしたいです」

 

「寝取りはクズなのです! 地獄に堕ちるのです!!」

 

「うるせーッ!! 知らねーッ!! ファイナルファンタジーッ!!」

 

「ファイナルファンタジー……?」

 

 

 勿論、ごまかす為についた嘘だ。色々と上田の株が下がった気もするが、レナは気にせずに二人の前に立つ。

 

 表情こそ明るいが、その目は暗い。人間は微笑むと瞼が下がるので、瞳に光が入らなくなる。

 普通の事だが、今の彼女の微笑みが場違いに思え、光のない目が恐ろしく感じた。

 

 

「そうだね……今から私も、目的を話してあげるね──」

 

 

 

 

 

 彼女が梨花と上田に話した「目的」とは、二人を戦慄させるのに十分な内容だった。

 レナは誰の指図も意見も説得も通用しない、と言いたげな鋭い目を見せる。

 

 

 上田はまず、彼女が何をしに来たのかを聞く事に決めた。

 

 

「なんで……それを、俺たちに……?」

 

「二人は謂わば、エサだからね。邪魔する余裕もないし、出来ないし。暇そうにしてたから」

 

「レナ……! お願いだから、やめるのです!!」

 

 

 対して梨花は、レナを止めようと叫んだ。しかし当の本人は片耳を塞いで、うるさそうに顔を歪めただけだった。

 今の彼女にとって、説得は雑音。それを示しているようだ。

 

 

「………………」

 

 

 上田は必死に頭の中を回転させ、どうすべきかを考える。

 

 

 

 そして一つの、「方法」に至った。

 

 

「……れ、レナさん」

 

「ん? 上田先生、どうしたの?」

 

「………………」

 

 

 彼女が聞き入れてくれなければ、この方法は早々に崩壊する。

 運を天に任せ、レナに「頼み事」をした。

 

 

 

 

 

「ど、どうせなんだ。ここ、『言伝』を、頼まれてくれないか?」

 

 

 緊張で乾いた口で、何とか付け加える。

 

 

「………………山田に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶらっくらぐーんっ!!」

 

 

 独特なくしゃみをかました山田。

 既に眼前には裏山が見え、道端で待つ沙都子と合流した。

 

 

「すみません、お待たせして」

 

「いえいえ、今来たところですわ!」

 

「嘘つくな」

 

「それじゃ……行きますわよ」

 

 

 沙都子に先導され、山田は裏山へ足を踏み入れる。

 何か見つかるのか、何があるのか。二人は緊張した面持ちで、林に入って行く。

 

 

 

 

 山中に入る出入り口の辺りまで来た。

 ここは山田も見覚えがあり、また苦い記憶もある場所だ。

 

 

「昨日、そこで罠にかかりましてね」

 

「え? どの罠でしょうか?」

 

「ほら、あれですよ」

 

 

 ロープを引っ張り、上から木の枝やら薪やらが落ちて来た。山田はそれの餌食となり、丸々半日意識を飛ばしていた。指差した場所は、その跡地だ。

 

 

「……え? あれに引っかかったのですか……?」

 

 

 信じられないと言いたげな表情を浮かべる沙都子。

 

 

「はい。あの、引っ張れって札があって」

 

「え。それを見た上で、引っ張ったのですか……?」

 

「なんでちょっと引いてんですか。引っ張るだけに?」

 

「普通の人は引きませんわ」

 

「私が普通じゃねぇって言いたいのかっ!」

 

 

 何はともあれ、山田が被害を受けた箇所を通り越し、森の中へ入る。

 森と言っても木と木の間が離れており、日光が差し込んでいた。鬱蒼とした感じではないが、やはり拓けた場所よりは木が影になっている為、幾分か薄暗い。

 

 

「山田さん。ここ、迂回しますわよ」

 

「なんでです?」

 

「落とし穴を掘った場所ですから」

 

「そんな子ども作った落とし穴なんてたかが」

 

 

 そのまま真っ直ぐ進んだ山田は、一瞬で姿を消した。

 大人一人が丸々埋まるほどの深い穴だった。

 

 

 

 

「大丈夫ですの?」

 

「なんて物作ってんですか!? ドッキリ番組の奴より深いっすよ!?」

 

「こんな程度、まだまだ朝飯前ですわ。もっと凄い物もありましてよ!」

 

「ここ戦場なんですか?」

 

 

 沙都子の助力も加えて、何とか這い上がる山田。

 オニ壱を心配しながら、服に着いた土や葉を払う。

 

 

「ここまで罠だらけとは、予想外でした……」

 

「ムムッ!?」

 

「え? 川平慈英?」

 

 

 沙都子が何かに気付いたようで、森の奥の方へ走って行く。

 山田も彼女に続くが、ぴったり彼女の後を追っていたのに落とし穴へ自分だけ落ちる。

 

 

「山田さん! 見てくださいませ!」

 

「沙都子さんちょっと地面から浮いていたりしません?」

 

「私の仕掛けた罠が作動していますわ!」

 

「こっちも作動しましたけど」

 

 

 不自然に木の上から吊るされ、垂れ下がったロープが見て取れた。

 ロープは二本。罠は二つ作動している。

 

 

「おかしいですわね」

 

「え、何がですか?」

 

「こっちの罠は私が仕掛けた物ですけど……もう一つは知りませんわ」

 

「覚えているんですか?」

 

「をーっほっほ! 私や梨花が引っかからないように、ノートに設置場所と日付も記録していますわ! この山の事は誰よりも知っていましてよ!」

 

「凄いけど、すげぇ凄くない……」

 

 

 ともあれそんな彼女が「記録にない」と言う罠が一つあり、自分の罠と一緒に作動していた。

 この事実に沙都子はきな臭さを感じている。

 

 

「裏山は基本的に、私たちしか入りませんわ。他の人は罠を恐れて、なかなか入りませんもの」

 

「じゃあかかっていたのは子供たちか、その事を知らない人間……」

 

「上田先生の可能性もありますわね!……ムム?」

 

「博多華丸?」

 

 

 沙都子は何かを見つけ、ちょうど切れたロープの真下辺りに跪いた。

 草を掻き分け、キラリと鈍く光るガラス状の物を取り出す。

 

 

 山田は彼女の方へ行こうとした時、掛かっていたタコ糸を踏み、また罠を作動させた。

 木の上にあったパチンコを引っ張るつっかえが取れ、丸石が発射。オニ壱に命中。

 

 

「これは……お注射ですわ!」

 

「ああああああああああ!!??!!」

 

「どうしてこんな場所に……」

 

「オニ壱ぃいぃいッ!! オニ壱ぃいいいぃいッ!!」

 

 

 地面に寝そべるオニ壱を回収しに行った所に、また落とし穴。

 山田だけがまた落ちた。

 

 

「……待ってくださいまし」

 

「おおぅ」

 

 

 その注射が落ちていた辺りから、轍が出来ていた。

 轍は山を下るように続いているが、的確に罠の位置を避けている。

 

 

「私のトラップの位置を把握しきっている人がいたのは間違いないですわ」

 

「深いんですけどー!」

 

「トラップを知らない人と、知っている人が同時にいたって事ですわね」

 

「この……よっこいショーイチッ!!」

 

 

 落とし穴から這い上がる山田。

 

 

 

 

 その時に彼女もまた、何かを見つけたようだ。

 

 

「……ん? メモ帳……?」

 

 

 A6サイズほどの物だ。

 自分の物ではないし、最初は沙都子の物かと思い、何気なしに拾い上げる。

 

 中を開くと、飛び込んで来たものは図と絵だ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 そこにはまんま、「上田」の名前と、見覚えのある下手くそな絵があった。

 間違いなくこれは上田が所持していた物だ。

 

 

「ぶ、ブルース……野原ひろし?」

 

 

 メモ帳とオニ壱を拾って落とし穴から脱出し、沙都子に報告をする。

 

 

「沙都子さん、見てください!」

 

「なんですの……なんですかこの下手な絵」

 

「言ってやるな言ってやるな」

 

「上田先生の物ですか?」

 

「このメモ帳がそうなのかは分かりませんが……えぇ。この絵と文字は上田さんの物です」

 

 

 そもそもこの時代にはまだ公開されていない映画のキャラクターだ。

 上田の物で間違いないだろう。

 

 

「これを落としたのが上田さんだとすると……」

 

「やっぱり上田先生はここにいたのですわ!……でもこの、お注射が良く分かりませんわ」

 

「注射?」

 

 

 沙都子が見つけた注射は、良く見るタイプの物だ。

 だが良く見るとは言え、そんなおいそれと落ちている物ではない。

 このような森の中にある事自体が奇妙だ。

 

 

「中に液体が残っていますけど……」

 

「ひとまず、回収しておきましょう。針が危ないので沙都子さんのランドセルの中に」

 

「あまり傷を付けたくないですけど……」

 

「じゃあオニ壱に持たせましょう」

 

「分かりましたわ………………んん?」

 

 

 注射をオニ壱に持たせ、二人は次に轍を辿ってみた。

 轍は途中、土の薄い場所で見えなくなってしまったものの、その経路は沙都子の罠を巧妙に回避している。山の事を熟知している人間なのだろう。

 

 

 

 

「こうは、考えられないでしょうか」

 

 

 山田が一つの推測を立てる。

 

 

「上田さんは、多分誰かに誘われたか何かで、自分からこの山に入った。山の事を知らないので、ほぼ無警戒で入ったのでしょう」

 

「最初の山田さんのように?」

 

「うるせぇ。もし連れ去られたのなら、もっと抵抗の跡があっても良いハズですので」

 

「山に入って……それからは?」

 

「みすみす沙都子さんの罠に引っかかって、身動きが取れなくなったところを気絶させられたのでしょう。恐らくこの注射の中の液体は、麻酔か何かのハズです。力のない人間でも、打ち込めれば簡単に大の男を気絶させられますから」

 

「気絶させられて、リアカーか何かに乗せられて、そのまま連れて行かれた訳ですわね?」

 

「えぇ……それで問題なのが、誰が犯人なのか。罠の場所を把握していて、利用も出来た人物となると……」

 

 

 今現在、行方不明中のレナか、梨花と言う事になる。

 

 

「それに知らない罠が一つありますわ! 私から作り方を教わった人ですので…………」

 

「どうしました?」

 

「……その二人のどちらかと言うなら、恐らくはレナさんですわ。木登りも満足に出来ない梨花が、一人で作れるハズないですもの。レナさんはあー見えて、凄く運動神経が良いですから」

 

「では、レナさんが実行犯……だとしたら、なんでこんな……?」

 

「上田先生がレナさんに誘拐されたなら、もしかしたら梨花も!?」

 

 

 罠は二人ぶん作動している。

 一人が上田だとすると、もう一人は梨花とも言えるだろう。

 

 

「断定は出来ませんが、可能性は限りなく高いです……けど、梨花さんが同伴していたなら、罠にかかるなんて事はないハズ……」

 

「……こっそり付いて行った、とか?」

 

「ひとまず、見つけた事を調べましょう……この注射が、良い進展ですよ」

 

 

 オニ壱に握らせている、注射を見せつけた。

 

 

「この村で注射が手に入る場所と言えば……」

 

「……監督の所しかありませんわ」

 

「確か、診療所のお医者さんでしたね。間違いなく、これの出所はそこでしょう」

 

 

 そのまま山田は推測を続ける。

 

 

「上田さんのあの、デカい身体を隠して運ぶなら、リアカーで間違いないと思いますね。ほら、あの異世界転生したみたいな老夫婦が」

 

「異世界転生したみたいな老夫婦……?」

 

「リアカーを盗まれたって言っていました。となると、警察がてんやわんやになっていた時に、荷台を隠したリアカーを引いていた人物がいないかを聞き込めば、もしかすれば」

 

「や、山田さん……」

 

「……え? どうしました?」

 

 

 ひとしきり喋り続けていた山田だが、ふと沙都子の方を見れば唖然としている彼女の表情に気付く。

 

 

「あの……凄い、ですわね……探偵さんみたいで……」

 

 

 僅かな痕跡からここまで推測を立てられる山田に、羨望の視線を向けていた。

 沙都子は徐に、被っていた御釜帽子を取って差し出す。文字通りの脱帽だ。

 

 

「これは……お譲りしますわ」

 

「いらないです」

 

「しかし……山田さん、マジシャンのハズですわね? どうしてそんな色々と思い付けるんですか?」

 

「あー……」

 

 

 少しだけ言い辛そうに顔を歪め、沙都子から視線を逸らす。

 なんて言おうか迷った挙句に、結局はぐらかしはやめようと決めた。

 

 

「……こう言うの、初めてじゃないんですよね。以前からも上田さんに色々と巻き込まれて、その都度事件を解決していた……」

 

 

 途端に、山田の表情に影がかかる。

 

 

「……みたい、でして」

 

「……みたい?」

 

 

 やけにあやふやな物言いの彼女に、沙都子は訝しがる。

 山田は顔を上げ、鼻から息を吐き出してから、決心したように話し出した。

 

 

 

 

「……私、記憶喪失だったんですよ」

 

「え!?」

 

「今は何とか、色々と思い出して来ていますけどね。お医者さん曰く、強烈なショックによる心の問題だって言われていまして。でもそれでも……まだまだ人生の半分以上も忘れたままです。子どもの時の事とか、もうほぼ分からないですね〜」

 

 

 二人は山を降りようと、歩き出した。

 その間も山田は、身の上話を続ける。

 

 

「一番最初に思い出したのが、母と父について。次に上田さん。その次に警察の人とか、知人とか」

 

「大切な人たちを思い出したのですね」

 

「ハゲとか、おっかぁ様とか、バンサンケツマとか、アダモちゃんとか、大家のクソババァ一家とか」

 

「!?」

 

「その中で上田さんから、私が解決したって事件を聞かされて、段々と思い出して行ったんですよ。この村でも一つ、大事な事を思い出せましたし……なぜベストを尽くしたのかとか」

 

「それ大事な思い出なんですか?」

 

「お医者さんは、過去の経験と同じ体験をしたら良いって言っていました。だから上田さん、無理な所は別として、私と旅をした場所を巡ってくれたり。その都度いつもなぜか、すき焼きか寿司か餃子を奢ってくれたり」

 

 

 山田はバツの悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「……上田さんには恩を感じていますよ。なんか昔も、色々助けて貰っていたみたいですし」

 

 

 思った以上に重い彼女の話にやや気圧されながらも、沙都子も沙都子なりに考えてくれたようだ。

 

 

「……山田さんは凄いですわね」

 

「やっぱそうっすよね! 自分でもそう思うんです!」

 

「少し謙遜して欲しかったですわ」

 

「申し訳ナイス」

 

「……私にはとても、難しいですわ」

 

 

 表情こそ微笑んでいるものの、その目はどこか悲しげだ。

 

 

「いつもいつも私は、誰かと一緒にいたくて、構って貰いたくて、色々と恥ずかしい事をして来てしまいましたわ」

 

「………………」

 

「今だって、自分でやるんだって思っても……結局、助けられてばかりで、私もそれを望んでしまっていたりで……だから、記憶喪失でも逞しく、自分らしさを失っていない山田さんが羨ましいです」

 

 

 過去の事を不意に思い出してしまったのか、涙目になった。

 山田にその目を隠そうと、そっぽを向いて拭う。

 

 それを気付かないふりしつつ、山田はあっけらかんと答えた。

 脳裏には、上田や魅音たちから聞かされた、彼女の境遇が巡っている。

 

 

「……沙都子さんだって、強みはあると思いますよ」

 

 

 その言葉に驚き、再び山田の方へ視線を向ける。

 

 

「基本的に人は、言われるまで自分の強さに気付かないもんですから。マジックの仕掛けみたいに」

 

「……そうでしょうか?」

 

「それに今だって、沙都子さんのお陰で分かった事もありましたし……」

 

 

 少し山田は、息を吸い込んだ。

 

 

 

 

「もう少し自信持って良いと、私は思いますよ?」

 

 

 

 

 思わず沙都子は頰を赤らめる。

 感動と、救いを受けたような気分だ。

 

 自分には報いだらけの人生かと思っていた。でもこの一週間の内に、彼女は既に救われていたのかもしれない。

 

 

「……山田さん……」

 

 

 もう涙目ではない。

 最後にもう一度だけ拭ってから、山田と笑顔で目を合わす。

 その笑顔は溌剌とし、決意に満ちている。

 

 

 

「ありがとうござ」

 

「ワッツァファックっ!?」

 

「!?」

 

 

 山田は落とし穴に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山を出た頃には、山田の服は泥と葉まみれのボロボロだ。

 確かにこうなるハメになるのなら、誰も山中に入りたがらないだろう。

 

 

「二度と入らねぇ」

 

「これからどうしますか、山田さん?」

 

「リアカーの件を聞き込みましょう。それでこの注射についても調べましょうか」

 

「………………」

 

 

 心配そうな彼女の気持ちを察し、出来る限り安心させてやろうと声をかける。

 

 

「……今日中に、この騒動を終わらせてやりましょう」

 

「……はいっ!」

 

 

 気持ちを新たに、二人は道を歩き始めた。

 まず向かったのは、入江診療所。注射の事を聞く為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからが戦いだ。

 

 

 これは過去最大のワガママだ。

 

 

 どうせ狂って終わるのなら、狂ったように終わってやる。

 

 

 みんなおかしくなるのなら、せめて………………

 

 

 

「……待っててね」

 

 

 

 

 

 

 竜宮レナは、公衆電話の前にいた。




ダイ・ハードとブラック・ラグーンのクロスオーバー「DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.」も、よろしくお願いします

https://syosetu.org/novel/208235/
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