ぐんまけん
「どせいさん……?」
奇妙な看板を通り過ぎ、山田と圭一は廃墟に辿り着く。
改めて見ると酷い荒れ模様だ。柱は折れて、窓は全部割られ、壁は穴だらけ。
「ここに、レナさんがいるんですかね」
「とにかく探してみましょうよ」
「……そうですね」
山田は立ち入り禁止を知らせるロープの前に立ち、上から跨ぐか下から潜るか迷う。
跨ぐにしても足が上がらず、潜るにしても腰が曲がらない。
「……侵入は無理そうですね」
「我が女王! ロープ外しました!」
「ウルトラマンナイス!!」
廃墟に侵入する。
一階建ての小さな家だ。全ての部屋を見て回るのには大して、時間はいらない。
壊れたちゃぶ台の上に、電気のカバーが落ちていた。
山田はそれを持ち上げ、下に挟まっていたトランプ数枚を回収する。
「そう言えばトランプタワー、壊されてたんだった。回収しとこ」
「レナー! おい、レナ! いるんだろぉッ!?」
瓦礫やガラス片を蹴飛ばしながら圭一は呼び掛ける。
しかし声は虚しく響き、蝉の声に混ざって消えた。応答はない。
「……いない。クッソォ……外れかよ……!」
当てが外れ、悔しげに柱を殴る圭一。
トランプを回収し終えた山田は、あるものに気が付いた。
「……いや。そうとも言い切れない、かもしれないですよ」
「……え?」
部屋の隅にある物を、オニ壱に指差させて示してやる。
そこにあったのは、古ぼけた人形やら、ぼこぼこにひしゃげた小物入れなど。
乱雑な状態の室内に比べ、それらのガラクタはいやに、規則正しく並べられていた。
「これ……私たちが泊まっていた時には無かったものですよ」
「……これは……!」
そのガラクタから、圭一は一つを取り上げた。
「……公衆電話の受話器……」
いつしか二人でやったお宝探しで、圭一が見つけてレナに渡したもの。
これがここにある、と言うことは、レナはここに来ていた証拠だ。
「これ、俺が前にレナに渡した奴っす! やっぱ、レナはここに……!」
「待ち伏せしていれば来るかもしれないですね」
「でも……じゃあ、今はレナ、どこ行ったんすか!?」
「それは……分からないですけど」
場所を変えた可能性もある。
レナの痕跡を見つけたからと言って、ここに戻る保証はない。
「まだ近くにいるかもしれません。なら探しに行きますか?」
「…………それも、そうっすね」
考える時間はなさそうだ。
二人は急いで、廃墟を出る。
外れた戸をズラして外へ戻った時、誰かとぶつかる山田。
「にゃあー!?」
「ネオスッ!!」
珍奇な悲鳴が二つこだました。
「山田さん!? 大丈夫っすか!?」
「いってぇなぁ!? 誰だ!?」
圭一に立たされながら、山田はぶつかった相手を睨む。少し頭を地面に擦ったであろう、オニ壱を撫でて慰めてやる。
睨んだ先にはスーツ姿の男がいた。
「大丈夫だった?」
「ちゃんと前見て歩いてくださいよ!?」
「大丈夫そうだね。僕は英雄になりたいんだ」
「なんだこいつ」
男の仲間だろうと思われる、もう一人が走って来て平謝りする。
「すみませんすみません! 俺から言い聞かせますから!」
「あなたたち、誰なんですか」
二人が懐から出したものは、警察手帳だった。
「自分は、警部補の『
「ゾルダ?」
「左右田淳一です」
「ダビットソン?」
「淳一です」
山田にぶつかった男も名乗る。
「僕は、『
「タイガ?」
「雑賀です。夢は、英雄になる事です。どうしたら英雄になれますか?」
「警察にしてはヤベーぞこの人」
だがこんな真昼間に警察が村にいるとは、あまりない事だ。
圭一は気になって、二人に話しかけた。
「あの、なんか事件すか?」
「事件と言うほどの事件じゃないんですけど……少し、急いでいまして」
左右田ははぐらかそうとするが、なぜか雑賀は喋る。
「竜宮礼奈の居場所が分かったんです」
愕然とする山田と圭一の前で、左右田は雑賀を叩く。
「バカっ! なんで話しちゃうの!?」
「英雄は正直者ですから」
「英雄失格だよ君っ!!」
「あ、あ、あの! レナのいる場所が分かったって!?」
食いつく圭一に左右田は困ったように頭を掻き、その内隠しても仕方ないと踏んだのか、渋々と話してくれた。
「はぁ……何でも、『園崎家に幽閉されている』とのことで」
「はぁ?!」
「魅音のところに!?」
山田と圭一は驚きと共に訝しんだ。園崎家に幽閉されているなんて、到底信じられる話ではないからだ。
「それでちょっと揉め事が……って、君ぃ!?」
居ても立っても居られなくなったのか、左右田を無視して圭一は一人駆け出す。行き先は勿論、園崎屋敷だ。
「圭一さん!?」
「と、とにかく僕たちは行くんで!!」
「僕は英雄になるネオス」
「安易な語尾はやめろっての!」
一気に走り去る三人の後ろ姿を、呆然と見る山田。彼女もまた、レナが園崎に捕まっているとは信じてはいなかった。
「どういう事なんだ……!?」
「どういう事なんでしょうか」
「うおぉ!?」
いつの間にか隣に、男が立っていた。
「え!? 誰!?」
「興宮署の、『
「ベルデ?」
「照辺です」
その刑事の顔に妙な既視感を抱き、山田はまじまじと見つめた。
「……あれ? あなた、『神ヶ内村』にいませんでした?」
「はい? どこですそれ?」
「裂けてーーッ!!」
茶番をしている暇はないと我に返る。
山田はオニ壱を労わりながら、照辺と共に園崎邸へ走り出した。
警察が皆、続々と園崎邸に向かっている。
後に続くように、別行動を取っていた秋葉と石原が必死に走る。
「矢部さんどこ行っちゃんたんですかーっ!?」
「兄ィィィイ!! 待っとれよ兄いィイッ!!」
「アッー! 靴が脱げたぁあーッ!!」
あまり舗装されていない田舎道で、秋葉がすっ転ぶ。
不憫に思った石原が彼を起こしてあげる最中、彼らの隣をガラガラと、布を被せた農具をリアカーで運ぶ老人が通る。
「こんにちオキティー!」
挨拶をする石原に対し、ドン引きしたように顔をタオルの頭巾で隠して会釈だけする。
「アキちゃん! はよぉ、起きるんじゃ!」
「足首を挫きましたーっ!!」
「イタティー!」
二人の隣に、車が寄せられた。
「トヨペット・クラウン」。昭和の覆面パトカーと言えばこの車だ。
「なにやってんですか、お二人とも」
運転席から顔を出す人物。見覚えがないので、名前を尋ねた。
「えと、どちらさまで?」
「僕ですか?『
「あ、インペラーさん!」
「ちょっと無理がありません?」
「そのパトカーは?」
「手配してもらいました。はやく乗ってください」
「
石原のよく分からないギャグと共に、二人は井寺のパトカーに乗り込んだ。向かう先は、園崎屋敷。
圭一は必死の思いで、園崎邸まで休みなく走る。
一方の山田と刑事たちは、ゾンビのような顔で後を追う。
「速いっつの……!」
「歳は取りたくないですね……!」
「二人ともそんな体力じゃ、英雄になれないよ」
「……一番遅れてる奴が言うなっ!……てか、あのベルデって刑事さん消えたし! 透明になれるのか!?」
とうとう先行く圭一をそのままに、二人はヘトヘトに疲れて足を止める。
山田は肩に乗せていたオニ壱を撫でながら、顔を上げる。そこは山の麓だった。
「この山……確か、この向こうが園崎さんの屋敷ですよね? ここ通って近道しましょうよ」
「あー、やめた方がいいですよ」
「なんでですか。道もあって、通れなくもないですよ」
「いやぁ、そうなんですけどね」
困ったように眉間を掻く左右田。
熊でも出るのかと聞こうとする前に、やっと追いついた雑賀が説明する。
「この山は『トラップ』だらけなんだ」
山田は怪訝な顔をした後に、納得したように口を開く。
「あぁ。菅原文太の」
「それは『トラック野郎』です」
左右田が訂正するものの、山田は止まらない。
「やもめのジョナサン」
「トラックじゃないですって」
「御意見無用!」
「だからトラッ、プっ!」
「これですか?」
「それは『トランプ』ッ!」
左右田の指摘を受けながら、取り出したトランプをオニ壱に握らせる。
ひと段落したところで雑賀は説明を続けた。
「村の子供が山のあちこちにトラップを仕掛けていてね。これがなかなか凝った作りで、大人でも痛い目に遭うんだ」
「たかが子供の遊びじゃないですか」
「ラビットホーン」
「ら、ラビットホーン? ビルドのフォーム?」
「兎に角ってことだよ」
「なんでわざわざ英語にするんだ」
「
体力が回復したのか、刑事二人は目配せした後に、警察手帳を突き出して変身ポーズを取ってから走り出す。
山田も改めて走り出そうとした時、山の木々の中で何かを見つけた。
『ひいたらダメダメなのですわ♡』
文字が彫られた小さな板にロープが括り付けられ、それが近くに立つ木の上から垂れている。
好奇心に駆られた山田は、誘われるように、そのロープの方へ。
「………………」
オニ壱にロープを握らせ、目を固く瞑る。
そしてそのまま、一思いに引いた。
「御意見無用ーーッ!!」
ロープはスルスルと落ち、
「んにゃーーッ!!??」
……間髪入れる間も無く、上から大量の大きな枝と葉も落ちて来た。
枝と葉に押し潰されるように、山田は地面に平伏す。
彼女の姿が枝と葉に埋もれた後、遅れて来た照辺が立ち止まり、警察手帳を突き出して変身ポーズを取ってから通り過ぎた。
「一発成功ッ!!」
山田たちが立ち止まっている内に、圭一は息を切らしながら園崎邸前に到着。
門前には数人の黒服と、矢部が言い争いをしていた。
「だからね? ツクヨミちゃんを返して欲しいんですぅ」
「なんやワレェ!? ツクヨミって誰じゃあッ!? てか令状あるんか!?」
「ソウゴくんとゲイツくんも誘拐してますよね?」
「令状用意せぇ言っとるんじゃ!!」
「なんか……アレだね? その、丸刈りの頭を見てると……何か怒りが湧くんですよねぇ……」
「おのれも隠しとるだけで丸刈りじゃろッ!?」
「これは地毛じゃボケェッ!?……あれ? 疲れてるのかなぁ……」
およそ、おしくらまんじゅうのような攻防が続く。
圭一も息を整えつつ近付こうとした時、一人の男が先に、いつの間にか到着した。
「やめるんだ」
「どちら様ですか?」
「警部補の、『
「オーディン?」
「大手院だ」
大手院が矢部を引き止めるものの、構成員たちの怒りは収まらない。
罵声を飛ばしても、矢部はそれをフワフワした物言いでかわしてしまい、また怒りを誘う負のスパイラルとなっていた。
引き止めたと思った大手院もいきなり、「戦え」と扇動しはじめ、暴力沙汰一歩手前の状況に陥る。
「あ、あ、あのぉ!!」
あまりの迫力に身を縮めていた圭一だが、意を決して二つの陣営に割って入って仲裁に入る。
「なんね坊主?」
「み、魅音の友達です!」
「次期頭首の……!?」
一斉に黒服たちは左胸に拳を当てはじめる。
園崎の者ではないにしろ、次期頭首の友人にまで手を出したらどうなるかしれないと判断したようだ。
「それ調査兵団ですよねぇ? 叔父さんもアニメは観るからね〜?」
「ええと……あれ? あんた、ソウゴくんっての探してた変質者?」
「ソウゴくん!?」
「……え。あんた、刑事さんだったんスか……?」
「いえ。時計屋です」
「??????」
訳の分からない事を言う矢部に困惑しながらも、彼に質問するのはやめて園崎の方に質問をした。
「あの……レナがここに幽閉されているって、どういうことですか!?」
勿論の事だが口々に否定する。
「このヅラ刑事がのぉ!!」
「地毛ゆうとるやろがい!?」
頭を押さえながら怒鳴る矢部。あまりの豹変具合に圭一は恐怖を覚えていた。
「なんの証拠もないのに、竜宮レナを攫っているとか言うんじゃ!」
「こっちも魅音さんの命令で探しとるって言ってんのによぉ!!」
「ミツカリマセンデシタ!」
「なんの成果も得られませんでしたッ!!」
「戦え……戦え……」
もちろん、圭一もまさか魅音たちがレナを拉致しているとは疑っていない。
何かの間違いではないかと、矢部に別の質問をする。
「その情報ってのは、誰から聞いたんですか?」
矢部は姿を思い出そうと、頷きながら話し出す。
「女の子だったねぇ」
「女の子……?」
「ちょうど、君ぐらいの歳かな? なんでもその子が、竜宮礼奈ってツクヨミちゃんが、黒服の男たちに連れ去られたって言っててね?」
「……竜宮礼奈ってツクヨミちゃん??」
とは言え自分と同じくらいの歳の女の子、と聞いて胸騒ぎがした。
「自分も命からがら逃げて、廃墟に隠れていたってさ。何だか……泣けるねぇ叔父さん……」
「その子はどうしたんですか……!?」
「他の刑事がいる所を教えてあげてね? で、僕も助けに来て……」
「その……」
恐る恐る、問い掛ける。
「……赤毛で、おとなしそうな感じの子でした?」
顔を顰めて、矢部は告げた。
「そうだったね……あ! そうそう! そんな感じの子!」
圭一の目が見開かれた。
この刑事はレナを見つけていたし、レナは彼に嘘を吐いている。その二つの事実に混乱し、暫し言葉を失った。
「おおーーい!!」
後からゾロゾロと、矢部の報告を受けた刑事たちがやって来た。
その中に菊池と、大石も含まれている。
「あらら? 圭一さんもですか!?」
「あ……あん時の刑事さん……って、魅音も!?」
大石と菊池と、更に対屋と甲斐も来ていた。
彼らの後ろには、従者の黒服と魅音が。
「圭ちゃん!? 圭ちゃんまで嘘吹き込まれたの!?」
「嘘吹き込まれたって……やっぱり、レナ幽閉とかは誤解なんだよな!?」
「当たり前じゃん!! 幽閉したのは山田さ──ゲフゲフッ! なんでもない!」
ポロッと山田と上田を幽閉した件を言いかけ、何とか誤魔化した。
その内に圭一に置いて行かれていた左右田、照辺、雑賀の三人も到着する。大所帯となり、魅音はすぐに問い詰めた。
「ちょっとちょっと大石!? 何人引き連れてるの!?」
「な、なははは……いやぁ、魅音さん。だから我々もレナさんを捜索しているって言ったじゃないですかぁ!」
「……この人数で無線機全員に持たせてて、やけに本気じゃん」
懐疑の目を向ける魅音。大石は苦笑いをして、目を逸らすだけに留めた。
魅音の姿を見た矢部が、指差し叫ぶ。
「もしかして君!? ツクヨミちゃん!?」
「さっきから魅音魅音呼ばれているの聞いてなかった?……てかあんた!? 私が成敗した変質者じゃん!?」
「いやだから、僕はただの時計屋で……」
更に三台の覆面パトカーもやって来る。
一台目には悠木、内藤、羽生が乗っていて、二台目には知らない二人の刑事が乗っていた。
三台目には井寺、石原と秋葉がいる。
「矢部さぁーん! どういうことですかぁー!?」
「おぉ!! 兄ィ!! 乙姫様は見つかったんかのぉー!?」
「あ、乙姫って言うのは多分、『竜宮』からきていると思いますよぉ」
最後に遅れて来たもう一人の刑事がやって来て、捜索にあたっていた全員が集合した。
多くの刑事が現れたとあり、場は物々しい雰囲気に陥る。
「み、皆さん来ちゃったんですかぁ〜……」
「……大石。レナを探してくれていることは感謝するけど、色々と違和感しかないんだけど。なんでレナ探していて、ウチに喧嘩売りに来る訳?」
「どこで間違えちゃったんですかねぇ〜?……なははは!」
大石も笑うしかないほど、間抜けな光景だった。
ここまで怒り心頭だった魅音も、呆れ果てて何も言えなくなっている。
「魅音!」
状況が飲み込めないが、圭一は考えるよりも先に魅音に告げた。
「け、圭ちゃん?」
「レナ幽閉だのは嘘だ……だけど、この嘘を流したやつが分かった」
圭一の発言を聞いて、その場にいた者全てが矢部を見やる。
「ぼ、僕ぅ?」
「やっぱ一番悪いのはこの変質者? もう一回殴られたい?」
「だから僕は時計屋なんだけど……」
急いで圭一は否定し、大声で告げた。
「嘘を流したのは、レナなんだよ!! レナがこの刑事に、嘘言ったんだ!!」
「時計屋なの? 刑事なの?」
その後、矢部から詳しく話を聞くと、レナと特徴の合致した少女から助けを求められたと分かった。
警察がなぜレナを大捜索しているかについては、怪しまれながらも「捜索依頼が出たから」と大石が押し切る。彼からすれば、鬼隠しの主犯と疑っている園崎に「レナが鬼隠しの犠牲者になっているのでは」と言って刺激したくなかったからだ。
菊池は矢部を問い詰めた。
「どうして竜宮礼奈を保護しなかったッ!?」
「叔父さん、顔が分からなくてねぇ?」
「だが君、一回見ているハズだろッ!?」
「黒髪ロングでちょっと男勝りな女の子しか思い浮かばないなぁ」
「誰だそれはッ!?」
「ツクヨミちゃん」
二人がぎゃーぎゃー口論しているさなか、大石はまず魅音に弁明を済ませておく。
「お騒がせしましたなぁ!! まぁ、こちらも騙されたと言うことで、水に流してもらえんですか?」
「……婆っちゃには黙っててあげるからさ。これだけ人数いるなら早くレナを探してよ。村にいるのは分かってるんだから!」
「それはそれは、もちろん!」
答えの前なのに、足踏みして進めないもどかしさに圭一は苛つきさえ現れていた。
「レナ……どうしたんだよ……!」
なぜ、レナはそこまでして逃げようとするのか。ただ怯えているだけなら、こんな事はしないハズだろう。
訳が分からず、圭一は一人パニック寸前にまで陥っていた。
彼の心情を察してか、魅音が話しかけてくれた。
「大丈夫だよ、圭ちゃん。寧ろ、レナが無事って分かったからいいじゃん!」
「……でも、レナの行動が分からねぇんだよ……」
何とか慰めてやろうと言葉を続ける。
「レナも驚いて、咄嗟に嘘吐いちゃったんだよ! それが上手い具合に、毛抜け……間違えた」
「今、毛抜けゆうたか!?」
「毛抜け刑事を騙せただけだって」
「言い直せてへんがな!?『間抜け』やろ!…………誰が間抜けやッ!?」
「ねぇ? その刑事さん二重人格なの?」
魅音に喧嘩を売ろうとする矢部を、大石含めた刑事総出で制止させる。すぐに常盤と言う叔父さんに戻ったので問題はなかったが。
とは言え焦ったレナの口から出まかせが、記憶喪失状態で頭フワフワな矢部を上手く騙せただけ。そこに深い意図はないだろう。
しかし圭一は腑に落ちない。
「騙すにしたってさ……」
「え?」
「なんで……ここなんだ?」
「ここって、ウチってこと?」
魅音もなぜなのかを考察した。
「そりゃあ……咄嗟に浮かんだのが私だからかな? ほら、部長だしさぁ!」
「咄嗟に浮かんだんなら、『あっちにいた』とか『向こうの道で見た』とかで良いだろ。なのにわざわざ、『魅音の所に捕まっている』なんて指定したんだ?」
「……あー。言われてみれば……」
思えば確かに、違和感だ。その場凌ぎで言うのならば、変なストーリーを付けずにデタラメな方向を言えば良い。
なのにレナは、かなりリスキーな嘘を吐いた。あまりに奇妙だ。
無いと思われていた意図が、存在しているかのようだ。
「…………」
魅音は何か思い立ち、圭一に質問する。
「……レナがいた場所って、あの廃墟だって言ってたっけ?」
雛じぇねに潰される前に、山田らに貸していた別宅だ。
即座に彼女の頭の中には、村の地図が展開される。
「え? あ、あぁ……実を言うと、俺もそこにいるんじゃないかって思っててさぁ……」
「廃墟の場所は……ウチとは真逆の方か」
「……なんか、分かったのか?」
「…………」
魅音は、集まった刑事たちを見渡す。
この状況、とても「見覚えがあった」。
それは屋敷内で起こった、ジオ・ウエキたちによる大掛かりなトリック。
人を、左から右へ誘導させ、金庫を交換する時間を作る。
まさに自分たちが騙されたトリックと、似ている気がした。
「……レナはもしかして……警察の捜査網を撹乱したかった、とか?」
もちろん、確証はない。
だがこの状況があまりにも、あの時の状況と似ていた。
「撹乱?」
「廃墟の方って、そのまま村の出口側じゃない?……もしかしてレナ、今度こそ村から逃げるつもりかも……」
「…………!!」
溢れる焦燥感。圭一は即座に、刑事たちに報告しようと振り返った。
しかしその必要はない。二人の話に聞き耳を立てていた大石が、無言で承諾してくれた。
「皆さん!! パトカーを使って、すぐに村の出口へ向かってください!!」
彼の命令に、十三人の刑事たちは意を決した目付きに変わる。
「ところで一人一人、改めて名乗ってくれまいか?」
突然自己紹介を求めて来る菊池。その暇はないだろと大石が言う前に、本当に一人ずつ自己紹介をはじめた。
「生活安全部生活環境課、『
「龍騎!」
「刑事部捜査四課、『
「ナイト!」
「刑事部捜査二課……『
「ファム!」
「刑事部捜査共助課、『
「シザース!?」
「交通部……『
「王蛇!」
「警備部警備企画課、『
「ライア!」
「同じく警備部警備企画課、『
「ガイ!!」
「刑事部第三課……『
「ゾルダ!?」
「生活安全部保安課、『
「タイガ!」
「刑事部捜査共助課。『
「ベルデ!」
「刑事部捜査一課、『
「インペラー!!」
「交通部……『
「オーディン!?」
「草加 雅人」
「草加ぁ!!」
名乗りを終え、一斉に変身ポーズを取った後、ある者は走って、ある者はパトカーに乗って村の出口へと急行する。
「ふおわあぁ……! 十三ライダーだぁ!!」
「一人だけ違うのおらんかったかのぉ?」
「我々も負けていられないッ!! 行くぞーーッ!!」
そのまま矢部一行も、目的地へ向かった。
後に残った大石も、やれやれと頭を掻きながら歩き始める。
「ねぇ、大石」
それを魅音が、呼び止めた。
「……どうかしました?」
「……どうせあんたの事さ。園崎疑って、鬼隠しと関連してるからってだけで、動いているんでしょ」
図星を突かれ、大石は苦笑いを見せた。
「んなははは! 魅音さんには敵いませんなぁ!」
「……そうやって、鬼隠し解決のためだけにレナの捜索を利用するつもりじゃ」
「魅音」
問い詰めようとする魅音を、圭一が止める。
ただ止めるだけではない、彼もまた言いたかった。
「……鬼隠しの解決には、俺は賛成しますよ」
「………………」
「……だが、そのために俺たちを利用できるなんて、思わないでください……あんたが俺に鬼隠しのことを吹き込んで、魅音たちと不和を起こそうとしたようにさ」
「……言い掛かりは止してくださいよぉ」
手をパタパタ振り、彼は背を向けて去って行く。
その姿が角で消えるまで、二人は目を逸らさなかった。
「……私たちはどうする? 車なら、ウチも出せるけど」
「行くに決まってんだろ!」
「……だよねぇ!」
圭一の肩を叩き、車の場所まで案内する。
それについて行く途中、圭一はやっと気付いた。
「……あれ? 山田さん?」
山田奈緒子が、いなくなっている事に気付く。
「…………ふごっ!?」
山田の目が覚めた。自分を生き埋めにした葉っぱや枝を掻き分けて、何とか日の光の中へ這い出る。
「ひぃ……ひ、酷い目に遭ったぁ……トラック野郎、恐るべし……!」
服に付いた砂汚れや葉っぱを払いながら、道に出る。
その時に横からバタバタと誰か向かって来る音が聞こえ、そっちへ視線を移した。
やけに見覚えのある二人組だ。
「兄ィ! またみんなとはぐれてもうたのぉ!?」
「こっちにツクヨミちゃんがいそうだねぇ?」
「おるとええなぁ!? ツクヨミちゃーーんッ!」
二人組の姿が鮮明になるほどの距離にまで近付く。
山田が唖然としている時、二人もまた彼女の姿を見て唖然としていた。
「や、や、矢部ぇ!?」
「山田の嬢ちゃん!?」
「ツクヨミちゃん!?」
「誰だよ!」
山田は、矢部と石原と遭遇した。
ギターを背負った上田次郎は森の中で、逆さ吊りになっていた。
「こ……これは、どう言う事だ……!?」
彼のズレかけた眼鏡の先には、信じられない人物が立っている。
その人物とは、多くの人が今の今まで探していた、行方不明者。
「なぜなんだ……!?」
あどけなさの残る顔付きと、憂いを帯びた表情。
所々が煤けた、白のワンピース。
木々の隙間を吹く風が揺らす、彼女の髪。
後ろに手を組み、彼女はニッコリと笑いかけた。
「……どうして上田先生なのかな」
上田はチラリと、地面の方を見た。
白い紙が落ちている。その紙に書かれてある文面を読み、後悔したように目を瞑った。
「…………かな?」
・「トラック野郎」は1975〜1979年の間に東映が上映した映画シリーズ。今でもたまに見る「デコトラ」のブームメントを作り出した伝説的作品。「ゴーオンジャー」に出てきた怪人エンジンバンキが言った「最終作は故郷特急便」とはまんま、トラック野郎最終作「故郷特急便」の事を指している。
・「仮面ライダー龍騎」で仮面ライダーベルデこと、高見沢逸郎を演じたのは「黒田アーサー」さんで、「TRICK 3」のスリット美香子の回にも村役場の職員役で登場している。