TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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『結婚できない男』が13年振りに帰って来ます。楽しみですね。


祭具殿

 二人に同行する旨を伝えた上田は、また古手神社への階段を滑り落ちた後に、境内まで同行する。

 相変わらず閑散としており、人の気配はしない。

 

 

「誰もいないわね。やるしかGOよ!」

 

「やるしかGO……?」

 

 

 不法侵入にやる気な彼女に対し、富竹はまだ常識的であまり乗り気ではなかった。

 

 

「でも鷹野さん……強硬手段にしても、限度があるだろう? 法を犯すのはちょっと……」

 

 

 鷹野曰く、この村に来た時から祭具殿に入れて貰えるよう古手家に頼み込んでいたようだ。

 しかし歴史的に貴重な物が多い上、特別な理由のない者を入れる訳にはいかないと断られ続けていた。

 

 

「頼み込むのは諦めたわ。なら、忍び込むしかないでしょ?」

 

「祭具殿に入る事は諦めないんだね……」

 

「なかなかパッショーネな人だ、推せるなぁ……忍び込むって、どうするんです?」

 

 

 上田に手段を聞かれて、得意げに答える。

 

 

「ジロウさんが」

 

「私ですか?」

 

「僕ですよ」

 

 

 下の名を呼ばれたと思って目を輝かせる上田だが、鷹野は思い出したように手を叩き、ジロウとは上田の事ではないと訂正した。

 

 

「あ、そう言えば上田教授もジロウでしたね。ふふっ! 富竹さんの事です」

 

「なんだ……」

 

「メチャクチャ残念そうですねソウルブラザー」

 

 

 祭具殿の前までやって来る。

 初日以外、なかなか来る機会がなかった場所。こうして見れば、見事なお堂だと再確認出来る。

 

 

「富竹さん、実はピッキングができるんです」

 

「……なんで? カメラマンなのに?」

 

 

 富竹は困り気味な笑みを浮かべる。

 

 

「あはは……まぁ、カメラの手入れとかやりますから、変に器用になっただけですね」

 

「いや、それでピッキング出来るってのは……」

 

「とにかく、富竹さんが錠前をこじ開けてくれます。これでとうとう、念願の祭具殿よ……!」

 

 

 あくまでやる気な彼女を見て、説得は無理だと諦めたのか、富竹は渋々付き合う事に決めた。

 梨花たちは学校だから心配ないが、それでも参拝者に気を付けなければなるまい。鳥居の方に注意を払いながら、準備を進める。

 

 その間上田は辺りを憚りながら、鷹野に尋ねた。

 

 

「しかし、大丈夫ですか? ここは村にとっても貴重な場所ですし……もしバレれば、村外の我々は危ないのでは……」

 

「この日の為に色々と統計は取っているんですよ。この九時から十時の間は、比較的人が来ないハズですよ!」

 

「努力の矛先がズレているような……推せるなぁ」

 

「まぁ、別に何か盗む訳ではありませんし。写真を四、五枚撮ったら退散しますわ」

 

 

 首にぶら下げていたカメラを手に取り、期待に満ちた表情で祭具殿を眺めていた。

 

 とは言えやっている事は法に抵触している。

 乗り気ではない富竹は、彼女を何とか宥めさせようと今一度問いかけた。

 

 

「でも大丈夫なの? その、オヤシロ様とか……ほら、鬼隠しだって起きているのに」

 

「富竹さん、何を仰っているんですかぁ!」

 

「そうよ、ジロウさ……富竹さん!」

 

「露骨に言い直されると傷付きますよ?」

 

 

 祟りなんてまやかしですよ、と上田は続けようとした。

 しかし鷹野はニヤッと笑い、話し出す。

 

 

 

 

「何たって私、オヤシロ様の力を使えるんだから!」

 

「そうですよ!……おおう?」

 

 

 富竹と上田は、突拍子もない彼女の言葉に驚き、口をぽかんと開けて彼女を見やる。

 鷹野は懐からメモ帳とペンを取り出し、二人に渡した。

 

 

 

 

 

「私は、オヤシロ様と交信する事が出来ます」

 

「交信……?」

 

 

 なぜか上田は「交信」に反応し、変なポーズを取ろうとしかけた。

 左腕は上、右腕は横に広げる謎のジェスチャーだ。

 

 

「今から、ジロ……失礼」

 

「無理しなくて良いよ」

 

「無理して良いですよ」

 

「富竹さんの、好きな数字を的中させてみせますわ」

 

 

 本当にそんな事が出来るのかと、上田は富竹を見る。

 彼も困惑しているようで、どうやら初めて見せられる事らしい。

 

 

「まず、そのメモ帳に好きな数字を書いてください。勿論、私に見せないように」

 

「何でも良いの?」

 

「一でも千でも」

 

 

 富竹は訝しみながら、思い付いた数字を書く。

 

 

『34』

 

 

 上田が首を振る。

「三四さんの事好きなのは分かったが、バレバレだろ。リア充爆ぜろ」と言いたげだ。

 

 

 仕方なく、「3」に線を足して「8」にし、「84」とした。

 

 

「選んだよ」

 

「では、その前にオヤシロ様と交信する為、特殊な計算をします」

 

「特殊な計算?」

 

「上田教授と富竹さんで、1から9の間の数字を一つずつ選んでください」

 

 

 再び二人のジロウは顔を見合わせ、各々無意識に選んだ数字をメモ帳に書く。上田は「6」、富竹は「9」だ。

 

 

「その二つの数字を足して、二桁の場合は一の位と十の位を足して、数字を一つにしてください」

 

 

 6と9を足して15。

 更に1と5を足し、「6」にする。

 

 

「その数字に9を掛けて、二桁ならまた一の位と十の位の足してください」

 

 

 6と9を掛けて54。

 5と4を足せば、「9」。

 

 ここまでメモ帳に書き綴っているが、一回も鷹野にメモは見せていないし、数字を声に出してもいない。

 

 

「足したよ」

 

「これで準備は万端! では、最初にジ……富竹さん」

 

「もしかしてわざとだったりします?」

 

 

 上田の質問は無視された。

 

 

「富竹さんが最初に選んだ数字に、3を足してください」

 

 

 84に3を足して、「87」。

 

 

「次に、さっき出した数字を足してください」

 

 

 87に9を足して、「96」。

 

 

「最後に4を足してください」

 

「3と4……ふふ、『三四さんナンバー』ですね?」

 

「ふふふ……私の力が込められているのです!」

 

「オヤシロ様の力って言ってなかった?」

 

 

 タジタジになりながらも、富竹は96に4を足す。

 

 

「では、求められた数字を教えて?」

 

「『100』ピッタリだよ」

 

 

 鷹野は悪戯っぽく、微笑む。

 

 

 

 

「あなたの選んだ数字は、『84』ね」

 

 

 

 見事に彼女は、的中させた。

 驚いた富竹は鷹野を見た後、信じられないと言わんばかりの表情でメモ帳を何度も眺める。

 

 

「えぇ!? た、鷹野さん、どうやって……!?」

 

「うふふ、当たり?……これが、三四さんナンバーの力なのよ!」

 

「三四さんナンバー……可愛い。推せる」

 

 

 指で三と四を示し、してやったり顔の鷹野。

 何が何やら理解しかねている様子の富竹は、呆然と立ち尽くすだけだ。

 

 

 

「本当にどうやってメモ帳を見たんだい!? 何か、タネがあるんだろ?!」

 

「タネも仕掛けもないわよ?」

 

「…………」

 

「上田教授、どうでしょう? 信じてくださいます?」

 

 

 意見を求められた上田。

 真剣な表情でメモ帳を眺めていた彼だが、次には目を細めて「くっくっく」と忍び笑いの後に、高らかに笑う。

 

 

「はっはっは! 鷹野さん、なかなか面白い事を考えますねぇ!」

 

「あら。その様子じゃ、気付かれましたか〜……」

 

「え? じ、ジロウ、何か分かったんですか!?」

 

 

 次は上田がしてやったり顔を見せる番だ。

 富竹からメモ帳とペンを借りると、解説を始める。

 

 

 

「まず最初、我々は1から9の間で数字を選び、一桁になるまで一の位と十の位を足しましたね?」

 

「はい……その後に9を掛けましたが……本当にどうやって読めたんだろう……?」

 

「ジロウよ。これには、トリックがあったんですよ」

 

「トリック?」

 

「えぇ。誰が、どの数字を選んでも、最後の数字を言うだけで分かってしまうトリックが!」

 

 

 メモ帳に九の段を書いて行く。

 

 

「九、一が9。九、二18。九、三27……」

 

「……あれ?」

 

「気付きましたねジロウ? そう……九の段で求めた数字は、一の位と十の位を足すと『必ず9になる』特性があるんですよ!」

 

「……ああーっ!?」

 

 

 9、18、27、36、45、54、63、72、81。

 彼の言う通り、九の段の数字は全て、一の位と十の位を足せば9になる。

 

 

「最初に僕とあなたで選んで足した数字が、4になろうが8になろうが、9さえ掛ければ最終的に9になる」

 

「知らなかった……!」

 

「そうなれば、後は簡単だ。我々は必ず選んだ数字に9と、三四さんナンバーを足す事になる。3と9と4は、足して『16』……言われた通りに算出した数字に、その16を引いた数こそ、あなたの選んだ数字になるんですよ!」

 

 

 100から16を引けば、84。

 言い回しと遠回しな下準備によって巧妙に隠した、単純な数学パズルだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 パチンと鷹野は手を叩き、トリックを見破った彼を讃えた。

 

 

「さすがは上田教授です! こんなアッサリ解かれたのはちょっぴりショックですが……」

 

「いやいや! 九の段の仕組みを熟知していなければ思い付けないトリックですよ! 鷹野さん、なかなか聡明な方で!」

 

「良くこんな事を思い付けるもんだよ……」

 

 

 余興が終わった所で、鷹野は富竹の肩を叩き、ピッキングを急かす。

 やれやれと頭を振りながら、彼はヘアピンを取り出し、南京錠の鍵穴に差し込んだ。

 

 上田は人が来ないか見張りをしながら、また鷹野に尋ねる。

 

 

「しかし、鷹野さんがここまで雛見沢の風土に熱心だなんて意外でしたよ」

 

「前に持論を展開したのにですか?」

 

「なぁに。たまにいるんですが、本や他人の論文ばかりで知った気になっている人間もいるもんですから。こう、実際に足を運ぶ人は少ない」

 

「これは私の性格かもしれませんね。この目で見ないと、気が済まないタイプなんです」

 

「研究者気質なんですねぇ」

 

 

 扉を閉じる錠前の鍵穴をカチャカチャ弄り、暫くすると軽快な音と共に開いた。

 

 

「良し。開いたけど……本当に入る?」

 

「やっと入れるのね! ここまで来たら退くのは野暮よ」

 

 

 先に祭具殿の中へ入る富竹と鷹野。

 上田は少し躊躇した後、振り返り村を眺めて、山田たちに謝罪する。

 

 

「俺は一旦、平成に帰る。許せッ! シュワッ!!」

 

 

 祭具殿の中へ、彼も飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の山田は、暇だしレナでも探そうかと外に出ていた。

 

 

「本当にどこ行ったんだか……透明人間か?」

 

 

 夏の暑さと蝉の鳴き声に苛つきながら、肩に担いだ鬼人ミイラと一緒に畦道を巡る。

 

 

「お金があるって良いんだなぁ。心まで余裕が出来て、凄く穏やかな気持ちなんだよ〜?」

 

 

 百万円は上田に仕舞われたが、何とか三万円は勝ち取った。その気持ちを鬼人に語ってあげている。通りかかる村人の目も気にしない。

 

 

「三万円かぁ……プリン食べたい。寿司も食べたいんだよなぁ…………プリン食べてから寿司食うか」

 

 

 レナ探しよりも寿司屋探しに移りつつある。

 

 

「あー、お金は素晴らしい! 何だか何に対しても優しくなれそうな気がする!」

 

 

 笑顔で天を仰いだ彼女に、冷たい水がかかった。

 

 

「どぉ!?」

 

 

 林に向かって、蝉が一匹消えて行く。

 かかったものは、蝉の小便らしい。

 

 

「またやりやがったな虫風情がこのヤロォ!?」

 

 

 山田は怒り、殺意を剥き出しにして蝉を追いかけ始めた。

 畦道を走り抜け、「待てぇー!」と叫ぶ。肩の上にいる鬼人の首が、あり得ない方向に曲がる。

 

 

 

 

 ふと、何か声が聞こえた。

 

 

「……ん?」

 

 

 足を止め、良く聞こえなかった声と、その主を探そうと見渡す。

 林はさざめき、風が吹く。

 

 

 

『違う……』

 

 

 

 やっと聞き取れた声。

 その時、何者かの気配を感じて振り返った。

 

 

 

「……あ!」

 

 

 立っていた者を見て、山田は不意に声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祭具殿は、太陽が出ている時間帯にしては異様に暗い。

 古い建物にしては保存が行き届いており、内と外を繋ぐ穴は入り口だけではないかと思われる。

 

 

「とうとう入ったわよ、祭具殿!」

 

「暗いなぁ……一応、ライト付けよう」

 

「ほらほら、先に行くわよトミー!」

 

「分かった、分かったよ。だから落ち着いて……トミー?」

 

「……ところで上田教授、どうかなさったのですか?」

 

 

 上田は目を瞑り、左腕を上げて、右腕は横に広がる奇妙なポーズを取っていた。

 

 

「おぉ、ゴース……或いはゴスム……」

 

「あの〜?」

 

「……おかしい。なぜ、平成ジャンプ出来ない……!?」

 

 

 祭具殿に入れば平成に帰れるものと思っていたが、一向にその兆候が現れない。

 

 

「場所が違うのか……!?」

 

「今のは、何かのジェスチャーですか?」

 

「え? あ、あぁ! コレは『交信』と言いましてね……おっと、失礼! 行きましょうか!」

 

 

 場所が悪いのかと思い直し、上田は鷹野らと共に、祭具殿の奥へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「例の雛見沢分校、籠城爆破事件の犯人……竜宮礼奈」

 

 

 菊池は興宮署の、半ば物置き状態になっている窓際の部屋にて、これからレナが起こすであろう事件の顛末を秋葉と石原に説明してやっていた。

 矢部は「ソウゴくんソウゴくん」と呟きながら、にこやかな顔で隣の部署を彷徨っていた。

 

 

「学校丸々ドカーン!……と吹っ飛んだっちゅー、アレじゃの!?」

 

「その彼女が現在、行方不明だそうだ。しかし一度、我々は発見している。彼女は間違いなく、村に今も潜んでいるッ!」

 

「そもそもなぁ〜んであの子、そんな事やっちゃったんでしょうか?」

 

 

 秋葉の疑問に対し、菊池は資料を読みながら答えてやった。

 

 

「精神的に錯乱していたと言う記録もある。自分が寄生虫に蝕まれていると、本気で思っていたそうだ」

 

「寄生虫にですかぁ!?」

 

 

 鼻で笑った後につい後ろを見て秋葉は驚いた。隣の生活安全課から二人の刑事が、興味深そうに覗いていたからだ。菊池が使っているタブレットが気になるようだ。

 その二人に石原は手を振る。

 

 

「杉下警部になった気分やのぉ、亀山!」

 

「なんで僕が相棒の方なんだッ!! それよりほら、こっちを見たまえ!」

 

 

 液晶には、事件を纏めた資料が映し出されていた。

 そこに事件の経緯と、竜宮礼奈の動機と聴取の記録が載っている。

 

 

「事件は綿流しの数日後で、大災害の前日に起きた。またこの資料によれば、今年の綿流しにも事件が起きる。その事件の内容を過激に捉えた事が、竜宮礼奈の錯乱を引き起こしたとある」

 

「その事件って言うのが……?」

 

「そう! 通称、鬼隠しだ!」

 

 

 画面をスワイプし、そこにあった内容を読み上げる。

 

 

「死んだのは二人の男女。女の方は『ドラム缶に詰められ焼かれた』」

 

「何回聞いてもえげつないのぉ! 人間の踊り食いでもやりたかったんかのぉ?」

 

「そして男の方は自殺……『首を掻きむしって死んだ』とある」

 

 

 石原と秋葉は互いに見合い、自分の首を触りながら釈然としない顔で首を傾げる。

 

 

「……ええと……ちょっと想像つかないんですけどぉ〜……」

 

「首掻いて死んだってどう言うこっちゃ!?」

 

「フンッ。大方、科学捜査がまだ発展途上だった時代の資料だ。ナイフか何かで切ったのを、変に解釈したんだろ……実際、ナイフて自分の首を切って自死した女が、二日前に出たそうだぞ?」

 

 

 間宮律子の事だ。その事件の顛末は既に耳に挟んでおり、菊池も把握していた。

 その上で菊池はある主張をする。

 

 

「しかし、その事件の事は資料にないんだ」

 

「関係ないからじゃないんですか?」

 

「いいや。鬼隠しや、その前後一ヶ月に関する事件は全て資料で送られているから、漏れがある訳がない……もしその女が首を切った事件が鬼隠しと同様のものなら……明らかにこの資料よりも、『時間が早く起きている』!」

 

「それがどうしたんじゃ!?」

 

 

 菊池は呆れた表情を見せた後に、更に主張した。

 

 

 

 

「我々の知る時空よりも、『事件が前倒しして起こる可能性がある』と言う事だッ!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ええと。どう言う意味ですかぁ?」

 

「チンチンプンプンカンカンじゃ!」

 

 

 説明されても状況と考え方が高次元過ぎており、石原も秋葉も理解が出来ていない。

 一から説明しても仕方ないと踏んだのか、菊池は単刀直入に言う。

 

 

「明日か明後日にも竜宮礼奈が、例の事件を起こす可能性があると言う事だッ!!」

 

「た、タイムパラドックスですかぁー!?」

 

「ひゃーっ!? 学校が丸々ボンボーンじゃけぇのぉ!?」

 

「竜宮礼奈がもし、現在精神が錯乱している状態だとすれば……彼女を即刻、確保せねばなるまいッ!!」

 

 

 その内、三人の元へ大石がやって来た。彼は部屋に辿り着くと、開きっ放しの扉を叩いて全員を注目させる。

 菊池は大急ぎでタブレットを隠す。

 

 

「ここにいましたかぁ〜! お時間になりましたので、我々もレナさん探しに参ります?」

 

「グッドナイスだッ!!」

 

 

 大石が振り返るとそこにはニコニコ笑顔の矢部が立っていたので、驚きから身体を跳ねさせた。

 

 

 

 

 

 案内されて公安メンバーは興宮署のロビーに移動する。

 

 

「園崎を刺激せんように、雛見沢村へは私らが捜索しましょう……皆さん、こちらですよー!」

 

 

 大石が呼び掛けると、颯爽と三人の人物が現れた。男刑事が二人と、女刑事が一人だ。

 

 

「あ、あれぇ? な、なんか見覚えある人がぁ……」

 

 

 秋葉に既視感を覚えさせる一人の若い刑事から、皆へ自己紹介を始めた。

 

 

「初めまして! 生活安全部生活環境課の、『悠木(ゆうき)(まこと)』です!」

 

「龍騎さん!?」

 

「いやいや、『悠木』です」

 

「あなたも時空を超えたんですか!?」

 

「は?」

 

 

 次はその隣に立つ、凛々しい雰囲気の刑事。

 

 

「刑事部捜査四課の『内藤(ないとう)(れん)』です」

 

「ナイト?」

 

「内藤です。大石さんとは、暴力団対策の関係で親しくさせていただいています」

 

「『捜査四課』とか懐かしいのぉ!」

 

 

 最後はどこか、男勝りな雰囲気のある女の刑事。

 

 

「私は刑事部の捜査二課から。『羽生(はぶ)美帆(みほ)』と申し上げます」

 

「ファム?」

 

「羽生です」

 

 

 以上の三人含め、大石と公安メンバーの八人が雛見沢村に赴く事になった。

 

 

「既に谷河内には、残りの十人を向かわせていますんで」

 

「仕事が早いなッ!」

 

「んっふっふっふ……そりゃあ、人生の半分も刑事やってますからねぇ」

 

 

 また聞くところによれば、集めた十三人は署内でも検挙率に定評があるらしく、尚の事期待が高まる。大石の人脈と人選、更に人望には菊池さえも脱帽だ。

 

 

「これだけ揃えば鬼に金棒! 十三ライダー揃えば、すぐに見つかるぞッ!」

 

「ただ、園崎の連中も見つけられんかったと聞いていますのでねぇ、我々も一筋縄ではいかないかもしれませんよぉ」

 

 

 大石のネガティヴな発言に対し、召集された刑事たちは口々に自信の程を言ってのける。

 

 

「そんな、暴力団が警察の真似事して上手く行く訳ないじゃないっすか!」

 

「俺たちはプロフェッショナルだ。奴らとは違う」

 

「竜宮礼奈は私たちが見つけるわ。どんな手を使ってでも」

 

「ナイトとファムは覚悟キマっとるのぉ!?」

 

 

 助っ人の心意気を感じた所で、早速だが捜索に向かわなければならない。

 記憶喪失状態の矢部を引っ張りながら八人は、警察署から外に出る。

 

 

 出入口の前で、突然助っ人三人は横並びになり、警察手帳をガラス扉に突き出した。

 

 

「「「変身ッ!!」」」

 

 

 それぞれ別の、謎のポーズを取った後に警察手帳をスッと懐に入れる。

 

 

「シャアッ!」

 

「ハッ!」

 

「フッ!!」

 

 

 先に三人は興宮署を出て行く。一連の流れを呆然と、大石は見ていた。

 

 

「……今のなんですか?」

 

「ふぉぉお〜ッ!! 同時変身だぁーーッ!!」

 

「ファン歓喜じゃのぉ!」

 

 

 興奮気味な秋葉と石原を押し退け、菊池もまた扉を抜けた。

 

 

「我々も続くぞッ!! 戦わなければ生き残れないッ!!」

 

「寂しい時ぐらい大丈夫なんて言わないで、ちゃんと寂しいって言いなさいッ!!」

 

「いきなりなんだ貴様」

 

 

 突然お説教を始めた矢部に驚きながら、菊池に続いて二人もエントランスを出て行く。

 残った大石は完全に当惑した表情で立っていたが、ハッと我に返り、彼らに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴスム」

 

「ジロウよ。先程から、何を信奉しているんですか?」

 

 

 祭具殿に入り込んだ三人。鷹野と富竹にとっては始めてだが、上田にとっては久々に感じられる。

 中は相変わらず、御神輿、オヤシロ様と思われる木彫りの偶像に、「古手梨花」の名が書かれた書道作品が目に付く。

 

 

「なんでこんな所に娘の名前を書いたものを?」

 

「どうしてでしょうねぇ……案外、古手家の方はここを物置き程度に捉えていたとか?」

 

「そりゃなんだ……村人と古手家じゃ、信仰の熱に差があるんですねぇ」

 

 

 作品を見て語り合う富竹も上田の後ろで、興奮気味にシャッターを切る鷹野がいた。

 

 

「きゃー! ここが、オヤシロ様信仰の核! 想像以上だわ……!」

 

「不法侵入だけどね……」

 

 

 祭具殿の中を見渡し、上田は少し拍子抜けした様子だ。

 

 

「しかしまぁ、期待していた割には普通ですねぇ? これじゃ、一般的な神社の祭具殿となんら変わらないなぁ」

 

 

 彼の言葉を聞き、鷹野はピタリと動きを止める。

 

 

「……うふふ。本当にそうお思いで?」

 

 

 妖艶で、怪しげな笑い声。

 彼女の変貌に驚き、咄嗟に二人は振り返った。

 

 

「え? え、えぇ。なにか、こう、特別な物があるのかと……」

 

「キチンとありますわ……オヤシロ様信仰の、『正体』が……」

 

「……オヤシロ様信仰の正体?」

 

 

 祭祀用の小道具を退けた先に、布が被せられた、かなり大きな物が現れる。

 一見すればそれも、祭祀用の道具か何かだろうと気にも留めない。

 

 だが、鷹野はそれを、爛々とした目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 布を取る。

 姿を見せた「それ」に、上田と富竹は愕然とした。

 

 

 

「この村はかつて、鬼の住む村として神聖視されていました」

 

 

 彼女は何度も、シャッターを切る。

 

 

「外界との接触を断ち、独自の宗教、独自の文化を作り上げていました」

 

 

 撮影をやめ、二人の方へ振り返る。

 

 

 懐中電灯の明かりに照らされた彼女の横顔は、妖しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「……故に、外へ出る者には容赦をしなかった」

 

 

 

 

 

 爪剥ぎ台、内側にトゲのついた首輪、「アイアンメイデン」に似た等身大の桶に、何かを潰す為に用いる道具まで。

 

 

 何に使うかは直感で分かる。

 この悍ましい道具の数々は、明らかに「拷問器具」だ。上田は目を見開く。

 

 

「これは……!?」

 

「知っていました?……雛見沢村の祭具とは、『そう言う物』を差すんですよ?」

 

 

 

 即座に近付き、埃で少し汚れたその拷問器具を調べ上げる。

 

 

「……確かに、これらは物理の作用を引き起こす道具だ。剥ぐ、吊る、押し潰す……北欧でも散見される、拷問器具と同じ作りですよ!」

 

「なんでそんな物が!?」

 

 

 あり得ないと困惑する二人へ、鷹野はまるで台詞を読み上げるかのように、説明した。

 

 

 

「雛見沢村に於いて、オヤシロ様の存在は絶対。そして裏切り者に対し、強い敵意も向けられた」

 

 

 呆然とする二人へ、彼女は微笑みながら続ける。

 

 

 

 

「……裏切り者、村を出ようとする者を拷問していたんですよ。『オヤシロ様の名の下』に」

 

 

 過去に使用されたであろう、拷問器具。触れていた上田は大急ぎで、捨てた。

 

 

「『綿流し』……一年の厄を綿に込めて川に流すお祭りですが、起源がいまいち不明瞭なんです。オヤシロ様が伝えただの、鬼ヶ淵沼からの水に不思議な力があるだの。まるで、綿流しと言うお祭り自体に、村は興味が薄いような……」

 

「…………綿、流し……!」

 

「ご明察ですわ、上田教授。綿は、『(わた)』が変化したものなんですよ」

 

 

 拷問器具を撫で付ける鷹野の姿は、退廃的な美しささえ感じさせられた。

 

 

 

「裏切り者を処刑し、村人に見せ付ける催し、それこそが『綿流し』の起源。村人から裏切り者を出さないよう、恐怖で村を支配した……この説を裏付ける証拠が、これらの拷問器具です」

 

「………………!」

 

「オヤシロ様は村を救った守り神なんかじゃない」

 

 

 暗闇に佇み、三人を見降ろすように据えられたオヤシロ様の偶像。

 鷹野は逆に、見下すような侮蔑の目で、眺めた。

 

 

 

 

 

「……恐怖と暴力の神様なのよ!」

 

 

 

 

 

 

 途端、祭具殿に大きな音が響く。

 木の板を叩きつけるような、激しい音。

 

 

「な、なに!?」

 

「え……?」

 

 

 音はすぐに止んだが、明らかに自然が起こすようなものではなかった。

 辺りに懐中電灯を向け、音源を探そうとする富竹と鷹野。

 

 

「た、鷹野さん、冗談はやめなよ……?」

 

「私じゃないわ?」

 

「なら、一体今のは……!? ジロウ、何か……」

 

 

 

 上田が消えた。

 

 

 

 消えたと思ったら、床に倒れて気絶していた。

 

 

「ジロぉぉおおウッ!!」

 

「しっ! ジロウさん!」

 

 

 鷹野が富竹を黙らせる。

 

 音が止んだかと思われていたが、実は違った。

 今度は床を摺り足で歩くような、小さな足音が鳴っている。

 

 

「誰か……いるの?」

 

 

 ずりっ、ずりっと、何者かが近付く。

 懐中電灯を向け、鷹野と富竹は固唾を飲んで待つ。

 

 

 人影は見えない。だが、確かに気配がする。

 そしてその人物は、あっさりと、角から現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どもー」

 

 

 山田だった。肩には、首がデタラメな方向に曲がった鬼人が乗っている。

 顔を出した彼女を見て、富竹は驚きと安堵を織り交ぜたような声で話しかけた。

 

 

「山田さん!? なんでここに……肩に乗せているの、なんですか?」

 

「友達です。ちょっと、神社に寄ったら開いてたんで……なんで上田さん寝てるんですか」

 

 

 上田はまだ気絶している。

 その間、鷹野は初対面であろう山田に会釈し、自己紹介した。

 

 

「このような場所でするのも忍びないのですが……入江診療所で看護師をしています、鷹野三四です」

 

「あ、ど、どうも。山田奈緒子です……」

 

「山田奈緒子さん……あ!」

 

 

 鷹野は合点がいったようだ。

 

 

「梨花ちゃんや沙都子さんから聞きましたが……もしかして、東京のマジシャンさん?」

 

「あ、まさしく」

 

「一度会いたいと思っていたんですよ! 本物のマジシャンを見るのは、実は始めてで……」

 

「あ、あの、鷹野さん……せめて外で話さない?」

 

 

 富竹がそう提案するのも無理はない。こんな埃っぽく、ただでさえ立ち入り禁止の祭具殿で挨拶はキツイものがある。

 中の写真を撮り終え、更にはお目当ての物を見れたご満悦の鷹野は、出て行く準備を整えた。

 

 

「失礼しました……外で改めてお話ししませんか?」

 

「えと……いいですけど……てか、上田。なんで寝てんだ」

 

 

 気絶した彼を富竹に回収させ、祭具殿から撤収しようとする。

 去り際、何かを探している仕草を見せる山田へ、富竹が困り顔で話しかけた。

 

 

「あの……山田さん」

 

「なんですか富岡さん?」

 

「富竹です。忍び込んだことは弁明しませんけど……驚かすようなことはやめてくださいよぉ」

 

「……驚かすようなこと?」

 

「バタバタって、床を激しく鳴らしましたよね? 寿命が縮んだよ……」

 

 

 山田は首を傾げ、怪訝な表情だ。

 

 

「え? あの音、そっちでしょ?」

 

「へ?」

 

「私はこっそり入り込みましたよ。デカい音がしたんで、泥棒かなって……」

 

「いやいや、僕らじゃないですよ。もう……ドッキリは勘弁してください……」

 

 

 呆れた顔で上田を支えながら、彼は先に行った鷹野に続いて出て行く。

 

 

 残った山田は暫し、祭具殿中を見渡していた。

 一度だけ、この時代に飛んだ時に見た光景。片腕のない偶像や、墨の黒が綺麗な書道作品、見覚えのある物ばかりだ。

 

 

 

 

「……? 女の子の声が聞こえた気もしたんだけどなぁ……」

 

 

 不気味に思いながら、蟠る疑念を残しつつ、彼女も祭具殿を出ようとする。




・上田の絵は「TRICK3 四話・死を招く駄洒落歌」で、山田の絵は「TRICK劇場版・霊能力者バトルロイヤル」で拝められます。

・刑事部捜査第四課は、暴力団対策を担当していた部署で、「マル暴」と呼ばれていた。
 現在は暴力団に限らず、テロ組織や麻薬密売組織と言った反社会組織にも対応するべく「組織犯罪対策部」として刑事部から独立している。なので現在、四課のある警察署は殆ど存在していない。
 因みに「相棒」の特命係の隣にある部署こそが、その組織犯罪対策部。暴力団を担当していたので、第5課です。
「よっ、暇か?」
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