TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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相見え

 園崎屋敷から出た山田は村をぶらぶらし、何となく古手神社に来ていた。

 見上げた先には石の鳥居がこちらを俯瞰している。

 

 

「……神様か……思えばこの時代に来てから、きっちりお参りしてないよなぁ」

 

 

 そう思い立つと階段を登り、鳥居を潜って拝殿の前へ。

 

 落ち着いた状態で、また明るい時間帯に見た境内はとても神聖に思えた。

 厳かに建つ拝殿は、古来から永劫まで村を見守り続けていた。寂れていても、威厳は確かに放たれている。

 雨風に少し傷んだ姿を含めて、疲れ切った老父のようにも見える、番人のような凛々しさがあった。

 

 

「……私がこの時代に飛んだのって、神様のせいだったりするのか?」

 

 

 超常現象は信じない癖に、幽霊や宇宙人とかは信じている山田。

 神様は人並み程度に信じてはいるが、関心はあまりない。どれだけ願ってもお金は増えないし、胸も大きくならないからだ。

 いつかの上田の言葉を借りるなら、「アベレージな日本人」のタイプだろう。

 

 

 

 その上で語るにしても、オヤシロ様が廃墟になった後もいて、自分に何かを伝えたくてタイムスキャットさせたのではとボヤボヤ考えていた。

 

 

「あの一円玉が効いたかなぁ」

 

 

 現代で賽銭箱に入れた自分の一円玉を思い出す。改めて賽銭しておこうかと考え、財布を開ける。

 

 

「あ、そうだった……オウシットっ!」

 

 

 一円玉と五円玉が一枚ずつ、十円もない。ここに来た時、チューペットを買わされたせいで懐が寂しい状態だ。

 マジックに使っていた千円だとか小銭は、全て富竹や詩音に借りた物ばかりで、もう返しているので今はない。

 

 

「まぁ、夜には百万なんだ。うひょひょひょひょひょ!」

 

 

 お金の当てが出来たと言うのに、一円玉と五円玉なら、一円玉を摘むケチな山田。

 

 

 

 一円玉を親指に乗せ、ピンッと真上へ飛ばす。

 

 

「オーズ! オーズ! オーズ! オーズ!」

 

 

 空中でくるりくるり回るそれを、大袈裟な動作で掴んだ。

 

 

「カモンッ!! おいエージッ! これを使えーいっ!」

 

 

 掴んだそれを、えいやっと賽銭箱目掛けて投げた。

 軽快な音を立て、中へ上手く入る。

 

 何度も上田に言われたのに、一回手を叩くだけで一礼もなし。

 

 

 

 

「……おっぱいが大きくなりますように……」

 

 

 そして何よりもまず自分の願望を唱えた。

 

 

「……てか、この村の巨乳率高いんだよ……オヤシロ様って、おっぱいの神様なのか……? だから巨乳が多いのかこの村……!? やった!」

 

 

 願いを込めた後、山田は振り返って家に戻ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰がおっぱいの神様なのですかっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 山田は瞬時に、再び拝殿へ振り返る。

 

 

「え!? 違うの!?」

 

 

 少女の声が聞こえたハズなのに、誰もいなかった。

 

 

「あ、あれ?……あら?」

 

 

 境内にはいつも通り、蝉の声だけが木霊する。

 梨花と沙都子は学校にいるだろうし、誰もいないハズ。

 

 

「…………疲れてんのかな。そういや、ここ最近、腰がキツイからなぁ……」

 

 

 気のせいだと思い直し、腰を撫でながらまた拝殿に背を向ける。

 

 

「……あ。腰の事も願っとこ」

 

 

 そしてもう一度、振り返る。

 

 

 

 

 

「医者でもないのですよ!」

 

「え!? ちが…………うの?」

 

 

 

 

 賽銭箱の前に立つ、小さな人影。

 見間違いではない、確かにいる。

 

 

 

「……え?」

 

 

 その者は山田と目が合う。

 向こうもまた、信じられないと言わんばかりに目を丸くしていた。

 

 

「……嘘……!?」

 

 

 山田も山田で、突如現れたその人影に、反応が追い付いていない。

 

 

 

 

「ボクが……視えるのですか……!?」

 

 

 

 良く見ようと一歩、拝殿の方へ歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 顔に、冷たいものがつく。

 

 

「どぉっ!?」

 

 

 思わず顔を伏せ、頰を触ると、水。

 次に空を見上げると、一匹の蝉が飛び去って行く様を眺められた。

 

 どうやら蝉に小便を引っ掛けられたようだ。

 

 

「あ、引っ掛けやがったこの野郎ッ!? ぜってぇ許さねぇッ!!」

 

 

 蝉を追おうとするも、既に遠い空の彼方に行ってしまった。

 

 

「虫の癖に小便垂らしやがって……! 駆逐してやるーっ! バッチクショーッ! バッ駆逐ショーッ!」

 

 

 たかが蝉相手に吠える山田。

 一頻り怒りを発散したところで、ハッとなってまた賽銭箱の方へ。

 

 

 

 

 見えたハズの人影も、聞こえたハズの声も消えた。

 

 

 

「あ、あれ? いない……?」

 

 

 拝殿へ駆け寄り、賽銭箱の裏や柱の裏を見やる。しかしやはり誰もいない。

 

 

「……気のせい? に、してはメチャクチャリアルだったような……」

 

 

 悶々と考えていた山田。

 暫し待ってみても、誰も現れる事はなかった。諦めて、今度こそ境内から去ろうと踵を返す。

 

 

「……疲れてんのかな。百万入ったら温泉行こ……最近、膝もヤバいんだよなぁ……」

 

 

 ぶつぶつ呟きながら、鳥居を潜って階段を下り、神社を去る。

 時折やはり背後から誰かの視線を感じたものの、振り返れど誰もいやしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃の興宮署には、四人ほどの集団不審者が連行されて取り調べを受けさせられていた。

 内、三人を前にした大石は、呆れた表情で聴取を開始する。

 

 

「それでぇ……なぁんで東京の刑事さんがこんな辺境の村にいらっしゃるんですかねぇ?」

 

 

 三人は口々に主張を始めた。

 

 

 

 

「幻想入りですぅ!」

 

「タイムフライヤーじゃけぇのぉ!」

 

「ソウゴくんに会いたいなぁ」

 

 

 応接室のソファに、秋葉、矢部、石原が並んで座っていた。

 彼らの持ち物が置かれたテーブルを挟み、向こう側に座る大石は面倒そうな顔付きになる。

 

 

「だから僕ら、警視庁から来たんですってぇ〜」

 

「ほうじゃ! 警視総監直々の、ドリームメンバーじゃ!」

 

「僕は時計屋なんだけどねぇ〜?」

 

 

 尚も刑事だと主張する彼らだが、大石は疑念を払う事はなかった。

 

 

「警視庁の刑事ってねぇ、あんたたち……」

 

 

 テーブルに置いていた三人の警察手帳を手に取り、まじまじと眺める。

 

 

 

 

「……良く出来たオモチャですねぇ。こ〜れのどこが……手帳なんですか? 紋所じゃないですから……」

 

 

 昭和の時代と、平成とは警察手帳の形状が違う。大石は未来の警察手帳を、偽物だと思っている。

 誤解を取り払う証拠は何もないのだが、何とか三人は言葉を尽くして弁明する。

 

 

「いや、本当なんですよぉ〜! 信じてくださぁ〜い!」

 

「あそこで調査しとったんじゃろぉ! のぉ! 兄ィ!」

 

「クジゴジ堂に帰してくれるかなぁ?」

 

 

 アクの強いメンバーに頭が痛くなって来たのか、コメカミを押さえてソファに身体を沈める。

 次に、明らかに様子のおかしい矢部の頭を指差し、大石は指摘する。

 

 

「さっきから言っている事、おかしくないですか? その『カツラ』の人」

 

「あ」

 

「お?」

 

「ん?」

 

 

 目を丸くして大石を見つめる矢部。

 

 

「あのぉ〜……今、なんて言いました?」

 

「いやまぁ、私より若そうなのに、お気の毒とは思いますがねぇ」

 

「お気の毒?」

 

「カツラでしょ?」

 

「カツラ?」

 

「カツラ」

 

「いらっしゃ〜い」

 

「桂じゃなくて、ヅラです」

 

「今ヅラゆーたなお前?」

 

 

 朗らかな叔父さんと言った表情から一変、殺意剥き出しの表情で立ち上がる矢部。

 秋葉と石原は咄嗟に押さえつけながら、歓喜の声をあげる。

 

 

「兄ィ!? 戻ったんか!?」

 

「や、矢部さ〜ん! やっぱり、頭のソレは忘れないんですよねぇ!? 感動ですぅ……!!」

 

「………………ハッ!? 疲れてるのかなぁ?」

 

 

 再び座り、また元の叔父さんの笑顔に戻る。途端に石原と秋葉は床に崩れた。

 

 

「駄目じゃあ〜! トキワっちゅうのに戻ってもうた!」

 

「で、出た〜〜! 自分を王様の大叔父だと思い込んでいる警視庁刑事奴〜〜! 戻って来てくださ〜〜い!」

 

 

 疑いこそはしているものこ、さすがの大石も哀れに思って来たようだ。

 

 

「……病院の手配しましょうかね」

 

「それには及ばないですから! お金、ないですし……」

 

 

 病院への搬送を断る秋葉。彼らもまた、この世界では平成のお札が使えない事を理解していたようだ。

 

 

 奇妙な三人組に疲れつつも、大石は聴取を続行。

 腕時計を見れば、既に時刻は午後六時。

 

 

「……雛見沢分校の方で通報がありましてねぇ。通学中、道行く児童に『ソウゴくんはどこ』って聞いて回る不審者がいると……」

 

「ソウゴくん!?」

 

「まぁ、間違いなくこの方でしょうな」

 

「そもそもソウゴって誰なんじゃろな?」

 

 

 大石はまた言葉を続けた。

 

 

 

 

「で、問題は、あなたがた……別室のもう一人含めて四人で、竜宮さんの家の前で何やっていたんですかぁ?」

 

 

 メンバーは竜宮家の前で張り込んでいた最中に、通報を聞きつけた警察によって連行されたと言う流れだ。

 必死に秋葉は誤解を解こうと、弁明する。

 

 

「不審な女の子を見かけたんで、追跡したんです!」

 

「そりゃストーカーですね」

 

「違いますよぉ! 凄くこう、血相変えて逃げ出したんで……」

 

「……ふぅん?」

 

 

 大石は何か心当たりがあるのか、顎を撫でて唸る。

 

 

「年恰好は中学生くらいで、髪は肩までの子じゃありませんでした?」

 

「え? は、はい。確かぁ、そうですけど……」

 

「今も村に潜伏しとる……と、いう事か」

 

「やっぱり、事件ですか?」

 

「ん? いや、こっちの話ですよぉ?」

 

 

 まだ疑われていると思っている石原が、ムッとして突っかかる。

 

 

「まだワシらを疑っとるんか!?」

 

「疑うのが警察の性分ですからねぇ。刑事なら良ぉくご存知ではぁ?」

 

 

 矢部を挟み、秋葉と石原は目配せし合い、疲れたように肩を落とした。

 

 

 

 

 その時、応接室に大石の部下である熊谷が入室する。

 

 

「失礼します」

 

「どうしたの熊ちゃん?」

 

「あの……もしかしたら、本当に本庁からの人かもしれないですよ?」

 

 

 大石が彼へどう言う事かを聞く前に、もう一人の人物が自信満々に飛び込んで来た。

 

 

「諸君ッ! この菊池愛介が東大理三パワーで誤解を解いたぞッ!!」

 

 

 そこにいたのは菊池。いつもは彼を疎ましく思っているものの、その時ばかりは輝いて見えた。

 

 

「キクちゃあん!」

 

「う、うわぁ! 菊池が攻めて来たぞぉ!」

 

 

 石原と秋葉は手を合わせて拝んでいる。

 一方で大石は意味が分からないようで、菊池を見やりながら熊谷に尋ねた。

 

 

「熊ちゃん……これは、どう言う事なんですか?」

 

「それが、大石さん……この人、例の件を色々知っていまして……」

 

「大石……君が大石蔵人かね?」

 

 

 会った事もない菊池から名前を呼ばれ、驚きと懐疑から顔を顰める。

 

 

「……失礼ですが、あなたは?」

 

「僕は警視庁公安部の参事官ならびに東大理三卒の超絶エリート、菊池愛介だ!」

 

 

 参事官と聞き、更に顔を顰める大石。キャリア組の上に態度が鼻に突いたからだ。

 ただそれよりも彼の関心を引いたのは、公安部の肩書き。

 

 

「……公安部」

 

「赤坂衛はご存知かな?」

 

「……その名前が出るとは。本当に本庁の方で?」

 

「まぁ、無理はない! 近々、警察手帳のデザインを変える手筈だからなッ! 我々のコレを偽物と思って貰っても構わんよ!」

 

 

 嘘を言っているような、嘘じゃないような。実際、旧デザインから新デザインには変わるものの、それは平成の、それも二◯◯二年の話。

 とは言え大石がそんな事を知っている訳はないので、菊池の自信満々な態度も合わさって「本当か?」と思ってしまう。

 

 

「熊ちゃんが言っていた例の件ってのは……」

 

「雛見沢村での連続怪死事件だよ。特に昨年の事件か? 北条家の人間が撲殺され、少年が失踪」

 

 

 熊谷は首肯し、訝しげながらも信じる態度を見せながら説明する。

 

 

「あれは秘匿捜査指定がかかっています……警察でも、知っている刑事はピンキリですよ」

 

「だから本庁の人間だと信じた訳ですか……こんな事、村の人間か我々しか知り得ませんからねぇ」

 

 

 二人が納得を見せた段階で、菊池は畳み掛けるように大石へ話を続けた。

 

 

「それだけじゃあない」

 

「それだけじゃ……?」

 

「連続怪死事件『以前の事件』についても聞かされているし……君の事も聞いているぞ?」

 

「ッ!?」

 

 

 驚きと懐疑がニュートラルな状態だった大石の表情だったが、その話を聞いて完全なる愕然を見せた。

 なんとかすぐに顔を引き締め、菊池を見据え直す。

 

 

「……あなた方が公安部としましても、こんな日本の辺境にわざわざ赴くとは思えんのですがねぇ?」

 

「お、大石さん……!?」

 

 

 本物の参事官かもしれないと止めようとする熊谷を手で制し、大石は菊池の返答を待つ。

 エリート然とした、自信満々な表情はそのままだ。

 

 

「我々は公安の仕事の一環として、監視対象組織の調査をしに来た」

 

「それは……園崎ですか?」

 

「御明察だ。まぁ色々と混み合った問題ばかりなんだ。我々を刑事だと信じ……怪死事件解決の調査に、参加させて欲しい」

 

 

 彼の発言に対し、ひっくり返りかけたのは秋葉と石原だった。即座に菊池の元に行き、大石らに聞こえないよう部屋の隅まで引っ張り込んだ。

 

 

「ちょちょちょちょ、菊池さん!? す、するんですかぁ〜〜!?」

 

「この状況は全く理解出来ないが、我々は職務に忠実であるべきだッ!」

 

「じ、時間溯行してまで、お仕事はするモノなのかなぁ〜? ほむらちゃんかなぁ〜?」

 

 

 石原は首を傾げた。

 

 

「じゃが、大丈夫なんかのぉ?『鯛とブルドッグ』が起きたとか言われんかのぉ?」

 

「『タイムパラドックス』だ!……まぁ、来たなら帰れるだろうし、何とかなるだろ。それよりも諸君、誇れッ! 我々は人類史上初めて……歴史を変える……ッ!」

 

「キクちゃんの発想のスケールがデカ過ぎるぅ!」

 

 

 クルリと再び振り返り、菊池は大石へ手を差し伸べた。

 

 

「信じていただけるかね?」

 

「………………」

 

 

 暫し考え込んだ後、彼はその手を握る。

 

 

「……分かりました。信じましょう」

 

「話が早くて助かる! ハッハッハッハッ!!」

 

「ゲイツくんとツクヨミちゃん帰って来ないかなぁ〜?」

 

 

 東京からやって来た、奇妙な公安カルテット。

 彼らの存在を怪しく思いながらも、大石は協力を選んだ。

 

 

 事件を終わらせる為に。殺された「おやっさん」の仇を討つ為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別宅に帰った山田。

 

 

「帰ったぞ〜い……あれ。上田さん」

 

「よぉ?」

 

 

 上田は居間に寝っ転がりながら、テレビを見て寛いでいた。

 

 

「どこほっつき歩いていたんですか?」

 

「なんだその言い方は。完全にニートと化したYOUと違い、有意義に時間を過ごしているのだぞ?」

 

 

 本当は今の今まで診療所にいて、鷹野の出待ちをしていたなんて口が裂けても言えない。

 相変わらず不遜な態度の上田に、山田はカチンと来た。

 

 

「私だって有意義に過ごしましたよ」

 

「何したんだ?」

 

「神社で祈願です」

 

「ハッ! 片腹痛いわ! どうせYOUの事だ! 金が欲しいだとか、私利私欲で願ったんだろ!」

 

「違いますよ! ちゃんと、清らかな心で、村を思って」

 

「なら、胸が大きくとか願ったんじゃ」

 

「チェケラッ!!」

 

 

 空の湯呑みを手に取り、立ち上がった上田の股間に投げ当てる。

 彼は膝から崩れ落ち、酸欠の魚のようにパクパク口を開け閉めしていた。

 

 

「……あ、そうだ。上田さん、そろそろ準備してくださいよ」

 

「ぉッ……おぅ……ッ」

 

「園崎さんが、私たちにお礼だとかで宴会だそうですよ」

 

 

 上田はとても彼女の話を聞ける状態ではないが、無視して話す。

 

 

「しかも金封百万円っすぜ! えへへへへへへへ! 園崎様万歳! もうこの村に住もっかなぁ」

 

「がはッ……! か、金が入るってんなら、金の事は願うまい。やっぱり願ったのは胸に違いな」

 

「ソイヤーッ!!」

 

 

 ふらふら立ち上がった彼の股間に、テレビのリモコンを投げ付けた。

 今度は痙攣し始めたが、山田は無視。

 

 

 

 

 直後、戸を叩く音。

 軒先に出てみれば、黒服と共に、詩音も立っていた。

 

 

「準備はよろしいですか!」

 

「あれ? 詩音さん?」

 

「今日は私もお邪魔しますんで。オネェは準備で忙しいので、私がお出迎えに参りました〜!」

 

「あぁ、そうなんですか。上田さ〜ん、行きますよ〜」

 

 

 イモムシのように這いながら、虫の息状態で表に出る。

 家の前には車が停められ、黒服たちが乗車を促してくれた。

 

 

「……今日は、大丈夫なんですか?」

 

 

 車に乗れる人数を考慮して来たか、と言う問いだ。山田の質問に、黒服は自信ありげに答えた。

 

 

「詩音さん合わせて、今日は四人です! きちんと一人減らして来ました!」

 

「今日は上田さんもいるんですけど……」

 

 

 山田、詩音、上田、黒服三人。やっぱり人数オーバーだ。狼狽える黒服たち。

 

 

 

 

 

 

 

 くじ引きで負けた一人がフロントに、謎の器具を顔につけられた上で、カカシのように括り付けられる事になった。

 走行中の車内で、山田はドン引きした様子で詩音に聞く。

 

 

「……顎の所に器具つける意味はなんですか?」

 

「舌噛んだらかわいそうですから」

 

「その妙な気遣いはなんだ」

 

 

 車の中で揺られながら数分。小さな村だから、あと三分もしない内に到着するだろう。

 間を保たせる為か、上田が口を開く。

 

 

「まさかなぁ。園崎氏からまた呼ばれるとはなぁ」

 

「今回ばかりはお二人を見直さなくてはなりませんからね。お詫びも兼ねての労いの宴会、との事で」

 

 

 上田は満足げに踏ん反り返る。

 

 

「やっと向こうも、俺の頭脳明晰さに気が付いたか! まぁ、天才は大器晩成型だからなぁ。理解されるまで時間がかかるもんだ!」

 

「お母さんも言っていましたけど、ぜひ上田先生には園崎の専属ガードマンになって欲しいそうです!」

 

「理解されるまでまだ時間がかかるな」

 

 

 続いて山田は思い出したように、詩音へ尋ねた。

 

 

「前、私たちに貸してくださった別宅はどうなったんですか?」

 

「酷く荒らされましたし、元々あまり使っていなかったんで、リフォームより壊した方が安いって事で……今は放置です」

 

「あんだけメチャクチャにされればなぁ……」

 

「本当に昨日は大活躍でしたね!」

 

「まぁ、慣れっこですよ。慣れたとは言え、もうゴメン被りたいっすけど」

 

 

 詩音も山田同様に思い出したように、パチリと手を叩いて話し出す。

 

 

「そう言えば上田先生!」

 

「俺か?」

 

「上田先生って、本を出版されているんでしたっけ?」

 

 

 ボソッと隣で山田が毒を吐く。

 

 

「有名になったのになぜか全然売れないんですよね」

 

「黙れッ!……そうなんだ! なぜ、私が人生を勝ち抜いて来たか……その秘密を、余す事なく書き綴っているッ!」

 

 

 嬉しそうにカバンから、「IQ200 どんと来い超常現象5」を出す。

 

 

「わぁ、凄いです!」

 

「ハッハッハッ! もっと褒めたまえ!」

 

「上田さんが本出してるの、どうでも良くないですか?」

 

「俺の事を好きにならない奴は嫌いだ……」

 

 

 なぜ上田の著書の事を聞いたのかと、詩音は苦笑いを浮かべながら訳を話した。

 

 

「それがですね……上田先生の事、園崎家の中で話し合われたみたいでして」

 

「俺の事をか?」

 

「ケジメかな?」

 

「喋るなYOUはッ!……不安になるからやめて」

 

 

 詩音は続ける。少し表情に不機嫌さが滲んでいた。

 

 

「上田先生に、雛見沢村の事を書いて貰えばとか何とか」

 

「雛見沢村の事をか? なんでまた……」

 

「実は鬼婆さん……あー……頭首が、村を開くべきだと言われてて。ずっと閉鎖的で、村の事を知らない人間が多いから国に舐められるとか何とか」

 

 

 全てを悟ったように上田はしてやったり顔を浮かべる。

 

 

「なるほど……偉大なる俺のネームバリューを使おうって魂胆か」

 

「自分で言うな!」

 

「どう言う風の吹き回しかは知りませんけどね……あ、これ内緒にしてね!」

 

 

 黒服らに念を押し、「サー・イエッサー!」と快諾させてから詩音は声を潜めて続けた。

 

 

「余所者嫌いの癖に……利用はするんですね。ちょっと虫が良過ぎるとは思いませんか?」

 

「まぁ、俺たちも見て回ったが、この村は良い所じゃないか! ダムで消すには惜しい所だ。この村は、もっと知られるべきだろう」

 

「良い人ですね、上田先生」

 

「絶対金が目的だろ」

 

「お前とは違うッ!」

 

 

 園崎屋敷が見えて来た。

 突然、運転席と助手席の黒服が懐からスプレーを取り出し、口に吹きかけ始める。

 

 

「何やってんだこの人たち。ウォーボーイズ?」

 

「口臭ケアですよ」

 

「だからなんだその気遣い」

 

 

 もはや見慣れた園崎家の門。

 段々と近付いて行くにつれ、改めて豪勢な門構えだなと圧倒される。

 

 

「山田さん、上田先生」

 

 

 詩音はぽつりと、呟いた。

 

 

 

 

「……お二人は、鬼隠しを暴けますか?」

 

 

 彼女のその質問に、つい顔を見合わせて困惑してしまう。

 二人はずっと、その事件を考え続けている。しかしこの件を突然詩音から持ち出された事が驚きだった。

 

 

「ええと、あー……こ、この話はやめにしないか?」

 

「信用してくださるんですか?」

 

「おーい!」

 

 

 上田は鬼隠しは、園崎家の仕業と解釈している為、挙動不審になっている。

 だが山田は薄々、違うと思い始めていた為、落ち着いて話が出来た。

 

 詩音は少しだけ目を伏せた後、縋る目付きで山田を見やる。

 

 

「前にも話した事あったじゃないですか……何だか、山田さんは信じられるって」

 

「俺は知らないぞ」

 

「お前水鉄砲で遊んでいたからな」

 

「今回の件で確信したんです。沙都子を救ってくれた上田先生も含めて……お二人は、大きな事をしてくれると」

 

 

 山田は三億円の無事を確信し、動いていた。偶然とは言え圭一に教えた縄抜けが、三億円奪還の突破口となり、実際に取り戻せた。

 

 上田は沙都子を助ける為に、園崎家に談判しに行くほどに奔走してくれた。魅音が大石に掛け合ったとは言え、沙都子の本心を引き出し、大事な事を説いてくれた。

 

 

 間違いなく二人は、村と人に影響を与えている。鬱屈の霧の中にある雛見沢村に、松明を掲げて現れたかのようだ。

 

 

「……あと五日」

 

 

 詩音が呟いたのは、綿流しまでの日数だ。

 鬼隠しが起こる、忌まわしき日となった六月十九日までの、限られた日数。

 

 

「……止められるのでしょうか」

 

「止めるに決まってるじゃないですか」

 

 

 山田はあっさり宣言する。

 園崎の人間が前にいるのに大丈夫なのかとオロオロする上田だが、それでも山田は続ける。

 

 

「そもそも止められないのは……人が死んでいるってのに、誰も動かないからじゃないですか」

 

「…………!」

 

「やろうと思えば……みんなと協力して三億取り返せるんです。殺人が止められない訳ないですよ」

 

 

 挑戦的、挑発的。彼女のその言葉に驚く詩音と、心臓バクバクの上田と、口臭スプレー吹きかけて聞かないフリの黒服。

 

 

 その内車は止まり、園崎屋敷前に到着した。

 車外に出てフロントを見ると、括り付けられていた黒服は消えていた。




・蝉の小便は体内に溜まった水分で、飛翔する時に身体を軽くする為に放出する。人間と違って尿素だとかアンモニアは含まれず、飲んでも問題はない(水溜まりを飲むようなものなので、衛生上おすすめはしない)。
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