TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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明かす

 神社から出た上田は、階段を滑り落ちる。

 すぐに立ち上がり、先に降りていた沙都子と梨花に約束を交わした。

 

 

「山田を見つけたら、放課後には学校へ行く。それまで暫しのお別れだ」

 

「では暫しのさよならですわね」

 

「おう、勉強頑張れ。俺のようなジーニアスを目指してな」

 

「みぃ。上田のようにはなりたくないのです」

 

 

 相変わらずな梨花の毒舌を受けて絶句している隙に、二人は通学路を走って行く。

 見送ってから上田は拗ねたように小石を蹴った。

 

 

「……可愛くないガキめ! いつぞやの少年みてぇだ……」

 

 

 梨花たちとは反対の道を進む。神社から聞こえた怒号の正体が気になったからだ。

 

 道なりに進むと、「ダム建設現場」を示す看板が見えて来て、それを覆い隠そうとするかのように「建設反対!」の看板が並んでいる。

 

 様子を見に入ろうとしたが、彼が来た頃には解散していたようで、ゾロゾロ雛じぇねのメンバーらが「ムダムダ」「ダムダム」唱えながら去って行く。

 

 

 

 その人混みの中に、山田と圭一を見つける。

 

 

「おい! 山田と……君は昨日の少年じゃないか!」

 

「上田さん?」

 

「あ、上田先生!」

 

 

 圭一は慌てた様子で上田に近付く。

 

 

「どうした? なんでここに?」

 

「上田先生、聞いてくださいよ! さっきここで、雛じぇねの指導者が霊能力を披露してたんすよ!」

 

「霊能力ぅ? 何を言ってんだ、バッカバカしい……」

 

 

 自身が超常現象に巻き込まれている事は置いておき、上田は小馬鹿にするように笑いながら否定する。

 

 

「この世に霊能力なんて物は存在しない。少年、俺の本を読むか? 今まで俺が暴いて来た霊能力者たちとの鮮烈なる戦いを克明に書き記したベストセラー『どんと来い超常現象』だ。是非、読みたま」

 

「山田さんも、見ましたよね!?」

 

「……はい」

 

 

 後続の山田が、いつになく神妙な顔つきで近付いた。

 割と久々に見た彼女のその表情。とてつもない事が起きたのかとすぐに悟り、取り出しかけた「どんと来い超常現象」を鞄に仕舞う。

 

 

「何があったんだ?」

 

「さっき、ダム建設反対派グループの指導者と会ったんです。不思議な力があるとか、鬼の生まれ変わりだとか言っていましたんで……トリックでもあるのかと暴きに行ったんです」

 

「そしたらあの、ジオ・ウエキって女の人、三連続で不思議な事を起こしたんすよ!」

 

「なに? ジオウ? 仮面ライダーか?」

 

 

 ジオ・ウエキが起こした現象を、山田と圭一は出来るだけ事細かく説明する。

 

 

 

「まず最初は、トランプを使った現象……」

 

「何もない、普通のカードを並べたり置いたりしただけで、山田さんの選んだカードを的中させたんです!」

 

 

 聞かされている情報を頭の中で咀嚼しながら、上田は尋ねた。

 

 

「昨日やったYOUのマジックじゃないのか?」

 

「……いえ。シャッフルも特別な物ではなかったですし……ずっと手元に注目していましたが、すり替えるだの隠しておくだのもしていませんでした」

 

「三連続と言ったな……次は?」

 

 

 圭一が説明を入れる。

 

 

「ジオ・ウエキが開けた缶ジュースが、ひっくり返してもコーラが出なかったんです! その後、俺にくれたんですが……中身はちゃんと入ってたし、飲み口から飲めましたし……」

 

「三つ目は、ダム建設の責任者が書いた文字を、少しの間もなく言い当てたんです」

 

「鏡を使ったとかは?」

 

 

 山田は首を振った。

 

 

「……絶対にありません。開けた場所でしたし、辺りには反射物も無かったですから……」

 

 

 

 

 不可解な現象の数々。突破口やトリックが読めず、三人は唸りながら押し黙ってしまう。

 その内、圭一が不安げに呟いた。

 

 

「……もしかして……ほ、本当に霊能力じゃ……?」

 

「ある訳ないだろ少年……絶対に何か、トリックがあるんだ」

 

 

 すると山田が、何かを思い出したかのように声をあげた。

 

 

「……あ」

 

「山田さん、なんか思い付いたんすか!?」

 

「いえ、そうじゃなくて……」

 

 

 山田が見ていたのは、上田が左手に嵌めている腕時計。

 時間超越によってズレていた針を、キチンと合わせていたようだ。

 

 

「ん? 時計か? 俺のクォーツの三万円もする時計がどうしたって?」

 

「上田先生すげぇ!」

 

「いや、単純に今の時間の話ですよ……圭一さん、学校大丈夫なんですか?」

 

 

 時刻は既に、八時五十分に差し掛かろうとしていた。学校が九時過ぎからだとすると、遅刻寸前の危ない時間だ。

 現時刻を把握した圭一は案の定、慌て出す。

 

 

「や、やっべぇ!? あ、あの、山田さん上田先生、俺、もう行きますね!?」

 

「あ、圭一さん!! 魅音さんに、あの事を伝えといてくださいね!」

 

「伝えるに決まってんじゃないっすか!」

 

 

 教材の入った鞄を抱え、大慌てで圭一は走り去って行った。

 

 

 

 

 後に残された二人。上田はさっき山田が言った「あの事」について質問する。

 

 

「……あの事? それだけじゃ、無いのか?」

 

「……上田さん。もう一つ大事な話があるんですけど……絶対に、誰にも言わないって約束してください」

 

「なんだ急に」

 

「良いから……約束出来ます?」

 

「かったるいな……」

 

 

 上田は手をピョコッと上げ、宣誓。

 

 

 

「日本科技大の教授であり、天っ才物理学者の上田次郎は、ド貧乳の相棒山田奈緒子の話を誰にも話さないと、約束するのだった」

 

「なんであらすじみたいに言うんだ……誰が貧乳だコラァ!?」

 

「ツッコミ遅いな」

 

「……まぁ。上田さんはそこんとこ、信用出来ますし」

 

「だろ?」

 

「現状、誰に何を言っても狼少年になりそうですし」

 

「人を嘘つきみたいに言いやがって……」

 

 

 ともあれ三億円強奪の宣言と、魅音との約束の通り、昨夜彼女から託された「お願い」と鬼隠しについてを歩きながら話し始める。

 

 とりあえず聞いた事は、包み隠さずそのまま彼に伝えた。

 歩きながら話しを続け、古手神社前の階段下まで戻ったところで、魅音から聞いた「鬼隠しの被害者」についての情報を共有する。

 

 

 

 

「……なんだと!?」

 

「殺されたのは当時、ダム建設に賛成していた『沙都子さんの親族たち』と、中立派だった『梨花さんの両親』なんです」

 

「それじゃ、あの二人……同一犯に親を殺されたかもしれないのか!?」

 

 

 上田の語気荒い口振りから、あからさまな怒りが滲んでいた。彼は何だかんだ言って、人並みに正義感は持っている。

 

 

「だとすれば……酷過ぎる」

 

「同一犯なのかはまだ断定出来ませんが……一年目、一九八◯年は沙都子さんのご両親。旅行先で、崖から転落したとか。旦那さんの遺体は見つかりましたが、奥さんは今も未発見だそうです」

 

「……それだけなら不幸な事故としか言えないか……二年目のは?」

 

「古手夫婦の怪死と失踪……旦那さんが心臓発作で倒れ、その後に奥さんが後追い自殺をしたとか……ただ、奥さんの死体は発見されていないそうです……」

 

「……一方が消え、一方が死体……図書館の爺さんが言っていた、『オヤシロ様の祟り』まんまじゃないか」

 

 

 山田は続けて、三年目である一九八二年の事件についても共有をする。

 

 

「……三年目の被害者は、沙都子さんを引き取った親族の女性と……一緒に引き取られた、沙都子さんのお兄さんです」

 

「兄貴がいたのか……」

 

「そのお兄さんが行方不明になって……死体で見つかったのは、沙都子さんの叔父夫婦の奥さん……撲殺だそうです」

 

「明確な殺人事件はそれだけか……しかしまた一人が消えて、一人が死んでいる……」

 

「どれも、六月十九日……綿流しの日に発生しているとか」

 

「……偶然にしては出来過ぎだ」

 

 

 上田も、綿流しに起こる不可解な事件は聞かされていた。しかしまさか、今朝朝食を共にしたあの二人の親類ばかりだとは思わなかった。

 

 両親に親戚や兄弟が突然消えて、その傷が癒えるに三年は短過ぎる。それなのに二人はその過去を打ち明けず、明るく接していた。

 その事実と二人の心遣いに思わず胸が苦しくなり、上田は俯く。そしてまた山田も同じ胸中だった。

 

 

「……上田さんは、どうお考えですか? 村の人は、『オヤシロ様の祟り』だと……」

 

「……ダム建設に受容的な人々の死に失踪……何らかの陰謀があるに決まっているだろ」

 

「……上田さん。もしかしてですけど……今年の綿流しは……あの二人が……」

 

「…………」

 

 

 山田が呟いたその、不吉な想像。

 それは、古手梨花と北条沙都子の死と消失。あまりにも残酷だが、今までの流れを考えればあり得る予測だ。

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 二人が見上げると、古手神社の、苔が生えかかった、石造りの鳥居が見下ろしていた。

 堂々と立ち、村を俯瞰し、でも何も出来ない傍観者。

 

 そんな己を鳥居が嘆くかのように、蝉鳴が辺りに響き渡る。

 

 

 

 

 

「……帰宅は延期だ」

 

「上田さんなら言うと思いました」

 

「俺たちが守るぞ」

 

「ええ……必ず、鬼隠しを暴いてみせます」

 

 

 日の光を浴び、色彩を増して行く鳥居と、上田と山田は視線を合わせた。

 決意からか、それとも日本人的な信仰心からか、二人は手を合わせて礼をする。

 

 

 

 

 

「手を叩け! それ以前に、二回お辞儀しろッ!!」

 

「この状況で言うか!?」

 

「お辞儀をするのだッ!!」

 

 

 どこかへ飛び去ったカラスを見てから、二人は別の話題へと移り変わる。

 

 

「それよりまずは……園崎家の三億円だな……しかしあの子、ヤクザの娘とはな……」

 

「何をするのか、分かった物ではありません。とりあえず園崎家に注意勧告しておくのが良いでしょう……話はそれからです」

 

「あぁ。まずは、ジオウのトリックだな」

 

「もっと詳しく説明しますね」

 

 

 ジオ・ウエキがやったカードの並べ方、切り方、印の方法まで、上田に伝えた山田。

 それを聞いた上田は最初、難しそうに眉を寄せていたものの、違和感に気付いて険しい表情となる。

 

 

「待て。その霊能力者は、カウントダウンで、カードに書かれた数字が一致するまで並べたんだな?」

 

「同じ要領で四列。十から一までにカードが一致しなかったら、残った山のカードを一枚加えてやり直していました。四列出来たら、置いたカードの最後と同じ数字の枚数だけ、山を作っていました」

 

「最初、お前が選んだカードはどうなっていた?」

 

「九枚から選ばされました。私が取ったら残りを纏めて、その纏めた上に置いて……更にその上に山を乗せました」

 

「……列を作る時、どうやっていた?」

 

「どうも何も、その一つにした山の上から一枚一枚です。同じ枚数の山を作る時も同様で……」

 

「……ハッ! なんて単純なんだ!!」

 

 

 険しい表情がパッと緩み、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 説明がやり易いように手帳を出してそこに図を書きながら、山田に説明を始めた。

 

 

 

 

「良いか? 確か、最後に置かれたカードは左より、『五』『一』『八』『六』だったな?」

 

「はい」

 

「つまり並べたカードの枚数は……カウントダウンだからそれぞれ、『六枚』『十枚』『三枚』『五枚』」

 

「え? なんで五で六枚?」

 

「指で数えろ! 十からカウントダウンすると、五は『六番目』に来るだろ」

 

「ええと、十、九、八、七、六、五……ホントだ」

 

「まぁ、人間は『図』を重視するからな。後々、記憶を撹乱するにうってつけか」

 

 

 しかしそれがどうしたと言う表情。

 慌てるなと手で制しながら、上田は続ける。

 

 

「そして次は、最後に置いたカードと同じ枚数で山を作るんだろ?」

 

「そうです」

 

「そこが、このトリックのミソだったんだ。最後のカードの数字と同じ……つまり左から、『五枚』『一枚』『八枚』『六枚』……」

 

「…………ん?」

 

「そして列にしたカードの本来の枚数は、左から『六、十、三、五』……山を置いた枚数と足すと、全て『十一』になるだろ?」

 

「……あ! ホントだ!!」

 

 

 感心する山田に対し、上田は最後の謎解きに移る。

 

 

 

 

「カウントダウンで決めた数字は何であれ、必ず十一になるように仕組まれていた。例え全ての列が二枚だけだとしても、カードの数字は『九』だからその枚数だけ山を作る事になる。だからどうやっても、十一になるんだ」

 

「じゃあ四列全て足したら、四十四……」

 

「そして選んだカードは最初、九枚から選んだろ? それを、束ねた八枚の上に置き、元の山の下に置くと……君の選んだカードは絶対、『上から四十四番目』に置かれる事になる」

 

「……あ、なるほど!」

 

「ああ、そうだ! 印だの何だのはただの騙くらかしだ! 重要なのは、怪しまれずに手元の山から四十四枚のカードを抜く事にある。そうなれば! 君の選んだ『四十四番目のカード』は必ず、上から抜いていけば『四列目の山の上』に来る仕組みだったんだ!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 上田はメモ帳をペンで叩きながら、結論付けた。

 

 

「印やら何やらは、ただの騙くらかし……」

 

「これは確かにタネも仕掛けも必要ない……が、結局ただの数学的な手品だ」

 

 

 昨日、山田が披露したマジックと少し似ていた面がある。

 置いた場所さえ分かれば、後はそれが必ずやって来るように導くもの。やはりジオ・ウエキの超能力はインチキだと証明された。

 

 

 

 

「カードの仕掛けは分かりました。でも、液体を止めた方法と、メモ帳の文字を読み取った方法が分かりません……」

 

「それは俺にも、まだ分からん……しかし、カードの超能力が、ただのマジックと判明した今……そのジオウの霊能力には全て、トリックがあると分かったような物だ」

 

「多分、カードの事を言ったとしても……その二つが解けていないと言われたらぐうの音も出ませんね……全て解かなくちゃ」

 

「焦るな。君の話だと、綿流しまでにだろ? まだ九日もある……それに。一連の事件はジオウが指示した可能性も見えて来たな」

 

「何とか、あいつの出鼻挫いてやりますよ!」

 

 

 

 二人は再び、歩き出した。

 

 

「それで……これからどうしましょ」

 

「放課後まで暇だな……しかしな。十二時から『哲!この部屋』がやるんだよ……見たい」

 

「それなら、私の家に行きます?」

 

「……なに? い、家?」

 

 

 唖然とする上田。

 

 

「雛じぇねを解散させてくれるなら、綿流しまで自由に使ってくれって、魅音さんが家を与えてくれたんですよ」

 

「…………は?」

 

「お菓子とテレビもありますし。えへへへへへ!」

 

「お前……そんな、美味しい思いしていやがったのか!?」

 

「上田さんが先にどっか行ったのが悪いんじゃないですか」

 

「………………ぐうの音も出ない」

 

 

 二人は一旦、園崎家の別宅に向かって歩き出した。

 陽はまだ、昇ったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に辿り着き、遅刻の事で知恵先生からお説教を食らった後、圭一は急いで魅音の元へと向かった。

 

 

「魅音!」

 

「あるぇ〜? めちゃくちゃ遅かったじゃん。もしかして知恵先生に絞られてたの?」

 

「い、今良いだろンなこと!……山田さんから、魅音に言っといてくれって、話が……」

 

 

 山田からと聞き、ピクリと瞼が震えた。まさか話しちゃったのかと思ったが、杞憂のようだ。

 

 

「実は朝に……山田さんが、雛じぇねのリーダーの超能力を暴くって言う所に遭ってさ……」

 

 

 圭一の話し口から、自分を責めるような雰囲気は感じられない。

 山田は約束通り鬼隠しの事を話していないようだし、寧ろ彼女が早々にジオ・ウエキと接触した事は吉報だ。

 

 

「へ、へぇ! 山田さんがねぇ!」

 

「俺も見たけどさぁ……カードを当てたり、液体を止めたり、心を読んだり……ま、マジに霊能力かもって……!」

 

「落ち着きなよ圭ちゃん! 霊能力とか無い無い!」

 

 

 その点については、魅音は山田らを信じている。

 今は霊能力だとかの話よりも、圭一が言いたいのは例の件だ。

 

 

「それより魅音! 落ち着いて聞いてくれ……!」

 

「…………どうしたの?」

 

「……そのジオ・ウエキが……お前の家から、三億円を盗るって言ったんだ……!」

 

 

 魅音の表情が、険しくなった。

 今の彼女は圭一の友人としてではなく、「園崎の人間」として聞いている。

 

 

「……分かった、圭ちゃん。こっちも婆っちゃとかに話しておくから」

 

「な、なぁ……大丈夫かよ?」

 

「大丈夫だって! おじさんの家、天下の園崎だよぉ? 完全に要塞だから! ネズミ一匹入れないからさ!」

 

「ゴキブリ出たって言ってなかったか?」

 

「アレはどう頑張っても無理だわ」

 

 

 すぐにいつもの、「クラスメイトとしての魅音」に戻った。

 まだ学校だし、圭一も動揺している。無闇に話を重くしても仕方がないと判断したからだ。

 

 

 

「それで……ジオ・ウエキって、それ以外に……何か言ってた?」

 

 

 鬼隠しや綿流しの事件について、圭一に溢してやしないかと、これとなしに聞く。

 遠回しに聞いた彼女の質問だが、彼は普段通りの様子で答えた。

 

 

「いいや。なんか、タマシーは時代を超えるとか、鬼の生まれ変わりだとか、危ねー事言ってたけど」

 

「そ、そうか。ふーん」

 

 

 単なるあいつの戯言かと、ホッと一息吐く。

 

 

 

 だが直後、圭一が尋ねた一言によって、安心はまた霧散してしまう。

 

 

 

「……なぁ。魅音……レナもだけどさ……なんか、隠してねぇか?」

 

「……!?」

 

「ほら、昨日言ってた、鬼隠しとか! 何か、あるんだろ?」

 

 

 どう嘘を吐くか、どう鎮めるか、どう話題を逸らすか。

 そんな急な事を、魅音はパッと思い付けなかった。

 

 

 

 

「…………無いよ。本当、本当だから」

 

 

 精一杯気持ちを抑え込み、それだけ言い切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おおい! 来ないなんてあんまりだろーっ!』

 

 

『哲!この部屋』が終わり、ご満悦の上田。

 二人は園崎から当てられた離れにいた。

 

 

「哲さん若かったなぁ……これが伝説のドタキャン事件……!」

 

「ぐぉー……かぁー……」

 

「……寝てやがる」

 

 

 涅槃姿でイビキをかいて眠る山田が隣に。

 だらしない姿に呆れ果てながらも、ここから暇な事は確かだ。

 

 

「……思えば。殺人を防いでも、この村は滅ぶんだったな……」

 

 

 とは言うが、この村からは滅ぼした原因である火山性ガスや火山の気配は感じない。

 尤も、自然現象とは人間の想定の外からやって来たりもする為、一概に断定は出来ない。

 

 

「しかし村人全滅と言うのは怪しいな……見たところこの村は高台が多いし、ガスが蔓延しても被害を受けない場所があっても良いハズだが……」

 

 

 鞄を開き、現代で借り入れた雛見沢村の概説本を取り出した。

 村全体の地図が載っており、地理情報は把握出来る。

 

 

 

 

「……『ニオス湖』のような事もあるのか……」

 

 

 雛見沢村は渓谷に位置している村。

 その渓谷を作った水源は山奥にある、『鬼ヶ淵沼』と呼ばれる沼だそうだ。

 

 

 

 

 運動がてら、そこを見に行くのも良いと考え、上田は立ち上がる。

 寝ている山田が寝言を言った。

 

 

「むにゃ……消臭力と長州力が一つに……」

 

「どんな夢見てんだ……」

 

 

 革靴から、あらかじめ持って来ていたスニーカーに履き替え、資料を入れた肩掛け鞄と共に、鬼ヶ淵へと歩き出した。

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