TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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部活動

 二人が案内されたのは、校内の一教室。

 細長の木板を敷き詰めた昔懐かしい床に、チョークの跡が見える黒板に学校机など、この光景を見れば強いノスタルジーに襲われてしまうだろう。

 

 部屋の横にはボードゲームやオモチャの入った段ボールが置かれており、恐らくそれが部活で使用する道具入れなのだろう。

 

 

 

 

 謎解きゲームの結果を聞き、レナはパチパチと手を叩いて魅音と圭一を称える。

 

 

「魅ぃちゃん圭一くんチームの勝ち! 答えは停留所でした!」

 

「レナってスゲーな。あんな凝った暗号考えてさぁ」

 

「えへへ……ありがと圭一くん! 授業そっちのけで考えた甲斐あったよ!」

 

「いや授業は聞け」

 

 

 答えを聞き、尚更トンチンカンな事をしていた上田を恨めしそうに沙都子は睨む。

 

 

「まさか五十音順を数字にしただけでしたとは……誰ですの。ザヒョーだとか言って山奥に入ろうとした方は」

 

「はっ! 私は未来ある若者の君たちを試しただけだ……メモを見た瞬間に、謎は解けていたさ!」

 

「その割には顔が本気でしたわよっ!」

 

「まぁまぁまぁ! そ〜れ〜よ〜り〜……もっ!」

 

 

 魅音はロッカーから道具箱を漁って、使い古しでくたびれたトランプを取り出した。

 

 

「今日はまだ時間あるし! 二人の歓迎会も兼ね、部活恒例『ジジ抜き大会』するよ!」

 

 

 魅音の提案に部活メンバーは手を挙げ、「賛成!」と声を揃える。

 しかしなぜか全員が、意地悪そうな笑みを浮かべていた。何かあるなと山田は察知する。

 

 

 部長である魅音が取り仕切り、上田と山田が何か言う前に話を進めた。

 

 

「今日は七人だからねぇ……うん! 最初四人、次三人でやろっかな」

 

「上田さんと山田さんは、それぞれのグループに入って貰いますわよ!」

 

「はぅ! 楽しくなって来たよぉ!」

 

「ボクの実力、見せてやるのです!」

 

「……これはワンチャン、やっと俺も勝てるな……」

 

 

 二人の返答を待たずして、参加しなきゃならない雰囲気に持ち込まれた。

 少し面倒臭そうな顔をする山田に対し、上田はノリノリだ。

 

 

「良いだろう! ババだろうがジジだろうが、俺に抜きで挑もうなんざ、片腹痛いぜ! 俺はラスベガスの名だたるディーラーから『上客』と呼ばれた男だぞぉ?」

 

「……それ『カモ』って事じゃないんですか?」

 

「どうする? YOUから行くか?」

 

「……じゃあ上田さん、お先にどうぞ」

 

 

 上田が勝負に乗る。対戦相手を志願したのは、彼のせいで謎解きゲームを負かされてしまった梨花と沙都子だ。

 

 

「自信だけは立派な人ですわね……では、私がギャフンと言わせてあげますわ!」

 

「ボクも憂さ晴らしするのです。にぱ〜☆」

 

「ふっ……青二才どもがッ! その言葉、神に返しなさい!」

 

 

 三人は一つに固めた学校机に付くと、ディーラーの魅音が即座にカードを配る。

 

 そして均等に配り終え、残った一枚が裏向きで置かれる。その一枚が、ババ抜きで言うところのジョーカーだ。

 

 

「よぉし! そんじゃ三人とも頑張ってね〜! あぁ、あと上田先生。負けたら罰ゲームだけど大丈夫?」

 

「罰ゲームでもなんでもどんとこ〜い! 今の俺はなぁ、負ける気がしねぇ!」

 

 

 

 

 

 ジジ抜きが開始され、数分後には、上田は一人残りで負けた。

 

 

 

「を〜ほっほっほ! 私たちの勝ちですわよ!」

 

「おととい来やがれ!……なのです!」

 

「………………」

 

 

 呆然と、最後に残ったジョーカー役であるダイヤの五を眺める上田。

 向こうでハイタッチする梨花と沙都子を前に、目を瞬かせている。

 

 

「まさか、共同でイカサ……いや。他の子供たちは二人の後ろにいた……俺のカードを教えるなんて、到底出来っこない……! なぜだ……なぜだ……!?」

 

 

 あれこれイカサマの可能性を疑う上田だが、魅音は無慈悲に指を突き付け、宣告する。

 

 

「上田先生の罰ゲーム、けって〜い!」

 

「……ひでぶッ!!」

 

 

 ショックで倒れる上田。

 大の大人のかっこ悪い姿を見ながら、山田はほとほと溜め息が止まらない。

 

 だがそんな山田も、ゲームに参加させられる事になるのだが。

 

 

「さぁて、次は山田さんだよ! 相手はこの常勝、園崎魅音!」

 

「レナも参加しますので……えっと。お手柔らかに?」

 

「きょ、今日こそ! 今日こそ俺はッ!! 今日から俺はッ!! 罰ゲームから解放されるッ!!」

 

「……やるんですか……」

 

 

 最初のグループ同様、席に座ってカードが配られ、二回戦開始だ。

 

 ニヤニヤと高みの見物に洒落込む梨花と沙都子は、山田と反対側の位置にいる。彼女の手札を見て他に伝えると言った事は出来ないだろう。

 

 

 そして相手は、余裕の笑みを浮かべた魅音に、穏やかに微笑むレナ、緊張気味の圭一。どうやら罰ゲームの常連は彼らしいと、山田にも分かる。

 

 

 

 配られた手札の中から、まずは同じ絵柄を抜く。

 手に持って見ると、トランプは酷くシワシワでボロボロだ。

 

 

 各々が手札から揃ったカードを抜き終えると、とうとう本格的にゲームが始まる。

 

 

「ふっふっふ……只今五連勝中の魅音様を止められるかなぁ?」

 

「むぅっ! 今日こそは負けないよっ!」

 

「クール……俺は、クールだ……ミスター・クール……!」

 

「…………じゃあ始めますよ」

 

 

 山田から時計回りに、ジジ抜きは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

 

「はい。一上がり」

 

「…………え?」

 

 

 山田奈緒子が最初に抜けるという、番狂わせが起きた。

 場にいた全ての人間が、この異常事態に湧く。

 

 

「う、嘘だぁ……!? ま、まさか、山田さん……!? あの一戦で!?」

 

「はうぅ……山田さん、お手柔らかにって言ったのに……」

 

「え? あれ? は? お?」

 

 

 驚く魅音、肩を落とすレナ、脳が停止している圭一と、反応は様々だった。彼女らの後ろで見ていた沙都子と梨花が、手を叩いて賞賛している。

 

 山田は調子良さそうに背凭れに身体を預けると、床に倒れていた上田に向かって口元を綻ばせた。

 

 

「これで私は罰ゲームから逃れられましたね」

 

「お、おい……YOU……? どうやった……?」

 

 

 顔を上げた上田が質問する。

 彼女はまず、真ん中に集められたカードを指差した。

 

 

「皆さん知っているようですので、タネ明かしは構いませんよね?……カードの裏。使い古しで傷だらけじゃないですか」

 

「……なに?」

 

 

 上田は立ち上がり、カードを拾い上げた。確かに彼女の言う通り、無尽蔵に傷や皺がある。

 

 

「いたってアナログなやり方ですよ。『マーキング』と言って、こっそり付けた印で柄を当てるやり方です。この場合は、カードの傷や皺の付き方ですね」

 

「………………」

 

「原理はそれと同じですので、後は分かりやすい傷のカードと、皆さんがどの絵柄のカードを避けているのかだけを覚えておけば……まずビリになる事はありませんから」

 

「……俺を先にさせたのは……まさかお前、俺を咬ませ犬に……!?」

 

「まぁ。まさか一上がりになるなんて思っていませんでしたけどね。えへへへへへへ!!」

 

 

 奇妙な山田の笑い声が響く。

 完璧な彼女の説明を聞き、魅音もレナも「降参だ」と示すように天を仰いだ。

 

 

「ひぇ〜! まさか一発で見抜かれるなんて思わなかった! 圭ちゃんでも七回目までかかったのに!」

 

「レナでも一回で覚えられなかったのに〜……」

 

 

 対する圭一は非常に焦った様子で抗議する。

 

 

「お、おい! このカード、前使ったのと別のだろ!?」

 

「お馬鹿ですわね! 日替わりで変えなきゃ、誰だって勝てますわ!」

 

「凄いのです! 上田と違って頭が回るのです!」

 

 

 山田の看破があったとは言え、勝負はまだ途中。

 数分後には魅音が抜け、そして最後の一騎打ちを制したのは──

 

 

 

 

 

「ごめんね圭一くん?」

 

「あああああああああああああ!!??」

 

 

──大体の予想は付いていたが、やはりレナだった。よって二回戦のビリは圭一。

 

 

「お前らズルイぞぉ!? 俺の知らないカード混ぜやがって! ノーカンッ! ノーカンッ!!」

 

「でも本当に初めての山田さんは勝ちましたわよ?」

 

 

 沙都子に論破され、「ぐぬっ!?」と押し黙る。情け無い彼に向け、魅音は指差しトドメを刺す。

 

 

 

 

「園崎家にはこんな言葉がある……『騙された奴の負け』……はい、バーツゲぇームっ!」

 

「……あべしッ!!」

 

 

 上田同様、圭一も床に倒れ伏し、負け組は揃って寝込んでしまった。

 そんな二人を、レナはキラキラした目で見守る。

 

 

「はぅ! 負けて落ち込む二人……親子みたいでかぁいいよぉ!」

 

「やられ役の敵みたいなのです」

 

 

 魅音はケタケタ笑いながら、笑い泣きによる涙目のまま山田に質問する。

 

 

「あー面白かった……それより山田さんって、なかなか観察眼の鋭い人と見たね! 東京で何かやっていたの?」

 

「……まぁ。これでも現役のマジシャンですけど」

 

「マジシャン……へぇ!『沢浩』とか『マギー司郎』とかの!? 道理で!」

 

 

 山田がマジシャンと聞き、レナの目が輝いた。

 パッと近付き、山田の手を取る。

 

 

「あのあの! どんなマジックが出来るんですか!?」

 

「ど、ど、どんなと言われても……色々? カードにコインに、紐抜けにリングに……」

 

「……よぉし!」

 

 

 魅音が笑う。

 彼女が笑うと何か巻き込まれるなとは、山田には分かって来ていた。

 

 

 

 

「おじさん、興味出て来たよぉ! 山田さん! 是非、マジックを披露して欲しいねぇ!」

 

 

 今日だけで色々こき使われるなと、彼女は静かに溜め息を吐いた。

 仕方ないと考え直し、片手間に取り出したのは自前のトランプカード。

 

 

 

 

 山田奈緒子のマジックショーが始まる。

 

 

「あのカードはボロボロで、どの絵柄か分かっちゃいますので……このカードを使いますね」

 

「……お前。いつも持ち歩いているのか?」

 

「マジシャンですから……てか、仕事の後すぐに連れ出されたんですから、片付けられなかっただけです」

 

 

 寝転がりながら質問する上田を黙らせ、箱から出したトランプの束を半分程度割る。

 使うのはその、割った片方の束だ。

 

 

「マーキングされたカードではない事を、確かめてください」

 

 

 カードの束は二十枚程度。

 差し出され、受け取った魅音は部活のメンバーらと共に一枚一枚見て行き、特殊なトランプではないか確認する。

 

 

「ん〜……無いね。新品同様。これじゃジジ抜きも真剣勝負になっちゃう」

 

「スベスベしてて、綺麗なカードですこと」

 

「裏にこっそり書いてある……と言うのもないね?」

 

「みぃ。普通のカードなのです」

 

 

 確認作業を済ませた後に、カードをまた束にして山田に返却する。しょげていた圭一も興味を示したようで、のっそりと立ち上がった。

 

 再びカードを手にした山田は、それを指差しながら宣言する。

 

 

 

 

「私はこの、何の変哲も無いカードで、この中の誰かが選んだ絵柄と、数字を……見ずに当てる事が出来ます」

 

 

 その宣言には全員がどよめく。

 新鮮な子どもたちの反応に気を良くしながら、山田は彼女らに話しかける。

 

 

「どなたかそのカードを一枚、選んでいただけませんか?」

 

「では、私が参りますわ」

 

 

 名乗り出たのは沙都子。

 

 

「沙都子さんでしたね」

 

「はい」

 

 

 山田はまず。二十枚のカードの束を切る。

 

 独特な切り方で、カード一枚一枚を右手から左手に飛ばして移すようなもの。

 その映える切り方がまた、全員の目を奪った。

 

 

 カードを切り終わると、裏返しのままの束を、沙都子の前に突き出す。

 

 

「では、好きな段から一枚引いて……私に見せないように、カードの絵柄を皆さんに見せてください」

 

 

 沙都子は山田の言う通り、適当に束を割って、中から一枚のカードを抜いた。

 それを山田に見せないように気を付けながら、後ろに集まっているメンバーにだけ表面を見せる。

 

 絵柄は「ダイヤのエース」だ。

 

 

「確認しましたね。ではまた、私に見せないように、束の上に置いてください」

 

 

 割ったカードをまた一つ戻し、その束の一番上に選んだカードを裏向けで乗せた。

 勿論、沙都子は山田へは裏面しか見せていないし、協力者に成り得る可能性の高い上田は地面に倒れたまま、見る事が出来ない。

 

 

「戻しましたわ」

 

「ではもう一度切ります」

 

 

 最初と同じ動作かつ、見事な手捌きでカードを切る。

 切り終わると一度ピタリと止まり、山田の目線がゆっくり手元からレナの方へ移る。

 

 

「では次に、レナさん」

 

「え? レナですか?」

 

「これから、束の下から順番にカードを抜いて行きますが……沙都子さんが選んだカード、何枚目に出して欲しいですか?」

 

 

 山田の質問に、また子どもたちは騒ついた。

 

 

「で、出来るの、そんな事が!?」

 

 

 魅音の驚きを聞きながら、山田は自信満々に頷いた。

 

 皆が口々に懐疑と好奇の声をあげる中、レナは何枚目にしようかと、左手の指を折って選んでいる。

 そして数字が決まり、おずおずと指定した。

 

 

「えっとえっと……じゃあ、『八枚目』!」

 

「八枚目ですね。分かりました」

 

 

 山田の指が、カードの裏側に移る。

 それから慣れた手つきで、束の下から順番に一枚一枚カードを抜いて行く。

 

 

「一枚目……二枚目……三……四……」

 

 

 抜かれたカードは机の上を滑って、中心で上手く停止。

 カウントダウンのように増えて行くカードを、固唾を飲んでメンバーは見守る。

 

 

「五……六……七」

 

 

 七枚目を抜いた。

 置かれていたカードが投げられたカードに当たって、僅かに弾かれた。

 

 

 そして問題の八枚目を、山田は引いた。

 

 

「沙都子さん」

 

「は、はい!」

 

 

 全員の注目が机の上から、山田の持つカードに集中する。

 

 

「あなたの選んだカードは……」

 

 

 裏向けだったカードが、ぴらりとひっくり返された。

 

 

「これですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイヤのエース」。

 的中だ。

 

 

「せ、正解ですわ……」

 

 

 沙都子の宣言の後、場がワッと湧く。拍手と賞賛、興奮の声だ。

 

 

「うおおお!? す、すげぇ!? どうやったんすか、山田さん!?」

 

「下から七枚出したのに……え? ど、どう言う事ですの!?」

 

「うはぁ……こりゃおじさん、驚いた……おったまげー」

 

「カードが動いたの!?……ど、どうやったのかな? かな!?」

 

「凄いのです! べりーまっちなのです!」

 

 

 予想以上の反響に、山田は思わず驚いた。

 この場にいる者全員が山田のマジックに魅せられ、驚き、歓喜している。

 

 

「うぉ……な、なんか……い、良いな……」

 

 

 数十年間、「売れないマジシャン」の看板を背負わせ続けられた彼女にとって、彼女らの声は素直に嬉しかった。

 灰色な上京生活を送って来ただけに、ちょっと報われた気がした。

 

 

 

 

 

「……これで金になればなぁ……学校側に請求でもして」

 

「このゲス外道めッ!」

 

「んなぁー!?」

 

 

 ぽつりと零した山田の愚痴に、いつの間にか横にいた上田が頭を叩いて突っ込む。

 

 

「それで、どうやったんですか!?」

 

 

 圭一の質問に、山田は叩かれた頭をさすりながらタネ明かし。

 

 

「誰でも出来る、簡単なマジックです。私のカードの切り方、覚えています?」

 

「確か……変わった切り方だったね。こう、手から手にピュンピュン飛ばすみたいな?」

 

 

 魅音の言った通りに、また山田は同じ切り方をしてみせた。

 

 

「これ、『オーバーハンドシャッフル』って言いましてね。切っているように見せて、実はこれ…………」

 

 

 山田は四枚だけカードを手に取り、そのオーバーハンドシャッフルをしてみせた。

 一番上のカードだけを裏面ではなく絵柄のある面にし、カードの動きを分かりやすくする。

 

 

 

「……あ!?」

 

 

 思わず声をあげる沙都子。

 不思議な事に一番上のカードが、一番下に来た。

 

 

「上から一枚一枚手に乗せて、順番を逆転させただけなんですよ」

 

 

 切ったカードをもう一度オーバーハンドシャッフルすると、元通りの順番になる。

 

 

「沙都子さんが選んだ一番上のカードを、これで一番下にする。これなら絵柄が分からなくても、選ばれたカードが必ず下にあるって、私は知る事が出来ます」

 

「でもでも! 最後、レナが言った枚数を、束の下から出してましたよね!? 最初に抜いたカードがダイヤのエースだったら分かるけど……」

 

「それも、簡単ですよ」

 

 

 マジック中と同じように、二十枚の束を手に取る。

 カードの束を持つ手を上げ、全員に手の甲側が見えるようにした。

 

 少し人差し指を動かすだけで、一番下のカードは後ろへ微かにズレる。

 

 

「下のカードだけ、私の方へスライドさせたんです。はみ出た分は手で隠しておいて……後は一番下を抜く振りをして、その一つ上のカードを言われた枚数分出すだけです」

 

 

 三枚のカードを同じ要領で抜いて行くが、一番下のカードは彼女の手中に残ったまま。

 

 

「オーバーハンドシャッフル自体、日本じゃあまり見ない切り方で、怪しまれる可能性があります。ですので、最初のシャッフルで見せ付けておいて、『この人のシャッフルはこうなんだな』と思わせ、違和感を消しておくんです」

 

 

 解説が終わり、子どもたちへ顔を向ける。

 全員圧倒されてしまい、ポカンとしていた。

 

 

 

 

 彼女たちのそんな顔を見ながら、山田は得意げに言った。

 

 

「どうでした?」

 

「すげぇ……は、ハマりそう……」

 

 

 カードを手に取り、オーバーハンドシャッフルを辿々しく真似る圭一。

 彼だけではなく、全員が山田のマジックを、タネ明かしをしてなお讃えた。

 

 

「ほ、他はどんなマジックが出来ますことっ!?」

 

「山田さんのマジック、もっと見たいです!」

 

「ボクもボクも!」

 

 

 更に山田へマジックマジックとねだる沙都子とレナ、梨花に押されてタジタジになる。あまり求められる事に慣れていないからだ。

 

 

「ちょ、ちょっとちょっと、待って待って……上田さん、落ち着かせてくださいよ!」

 

「チヤホヤされやがって……まぁ! 精々君は子どもの相手レベルが丁度良いって事だな! はっはっは!」

 

「……悔しいんですよね?」

 

「……いや全然? 全く? 悔しさの『く』の字もないよ!」

 

 

 上田の目から「羨ましいビーム」がダダ漏れだった事は、今更言うつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けばもう日が落ち始めていた。橙に染まる空を、カラスが飛んで行く。

 魅音は手を叩いて全員を注目させ、部活終了を言い渡した。

 

 

「それじゃあ、今日はお開きにしよっか。上田先生と圭ちゃんの罰ゲームはまた明日ね!」

 

「くっそぉお……!! 俺は結局……! 駄目人間なのか……ッ!」

 

「……一体何をされるのか……穴に落とされるのか、裸吊りなのか……」

 

 

 絶望顔のまま俯く圭一と上田。

 そんな二人を心底から面白がった後に、沙都子は梨花の腕を引いて帰路につこうとする。

 

 

「では、私たちは先にお暇しますわ。山田さん、上田先生、また明日お会いしましょう!」

 

「みぃ。二人といると退屈しないのです。特にむっつり上田」

 

「物理だつってんだろッ!!」

 

 

 皆にお辞儀をし、それからバイバイ手を振って梨花と沙都子は帰って行く。

 合わせて帰り支度を始める残りのメンバーだが、ふと圭一が山田へ宿泊先について聞いた。

 

 

「上田先生と山田さんは興宮に戻るんですか?」

 

「え? この村、旅館ないんですか?」

 

「あー、ないない。観光事業は全くなんですってさ。てか、やるほど目立つ物もないですし」

 

「過疎ってんなぁ」

 

 

 圭一は宿泊施設がない事を忠告してくれた。確かにバスはおろか、電車も通っていない上に、道路と言ったインフラも最低限と言った感じだと山田は思う。

 焦った上田が山田を急かして学校を出ようとする。

 

 

「仕方ない。暗くなる前に興宮まで戻るぞ」

 

「……戻るんですけど、戻ってないんですよね」

 

「……だったら野宿でもするのか。蚊に噛まれて死ぬぞ!!」

 

 

 魅音とレナが支度をする最中、一足早く済ませた圭一が思い出したかのように話し出した。

 

 

「そう言えば俺も昨日、興宮でおっちゃんに話しかけられたっけ……あっ!」

 

 

 そして魅音とレナの方を向き、一つ質問をする。

 

 

 

 

 

 

「二人とも、『鬼隠し』って知ってるか?」

 

「……!!」

 

「え……?」

 

 

 圭一の質問に、二人の顔色が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オニゴーリ?」

 

「それはポケモンだ」

 

 

 山田のボケも落日に消える。




・沢浩は、マギー司郎とミスターマリックの師匠に当たる名奇術師。
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