【三日間限定公開】2025/6/9-6/22 呼吸は世界とキスすることだ(或いは入院前後の記録)
6/9
自宅にて作業諸々。
黒沢清監督『cloud』医療機器からゲーム機、フィギュアまで、あらゆる商品を組織的に転売することで生計を立てる男。彼にたまったネットのヘイトが自警団となり、人里はなれた彼の自宅を襲う。何か起きそうで、何か起きたけど、結局何も起きない90年代日本映画のこの感じを愉しめるかどうか、なのか。
ショーン・ダーキン『アイアンクロー』プロレスラーの父に育てられたフォン・エリック・ファミリーは、五人中一人が幼少期に亡くなるも、全員が英才教育を施されたレスラー一家だ。それぞれ鍛錬しタイトル獲得のために汗を流すが、三男の病死をきっかけに雪崩を打つように次々に事故に見舞われる。やがて自死を選び一人また一人とリングから人生から離脱していき、最後は次男だけがなんとか踏み止まる。これが実話で、なんなら実話のほうが悲惨であるとのこと。デミアン・チャゼル『セッション』のように過度なコーチングがPTSDを引き起こすタイプの話だが、そこに家庭や父性、敬虔な信仰なども絡み合っており、子供たちはがんじがらめになっている。しかし家族愛はというと、親たちはときに「兄弟で話し合って」と彼らを見放すのである。
6/10
曲作り諸々。
三島由紀夫『午後の曳航』読了。横浜で洋品店を営む寡婦とその息子の前に一人の船乗りが現われる。海や船が好きで最初は船乗りに憧れる息子であったが、母と船乗りが再婚するという段になって彼への失望、怒りが目覚めていく。大人になることを憎みながら死に耽溺し猫を殺すなど小さな罪を重ねていく少年たちの組織は『恐るべき子供たち』もしくは『ライチ☆光クラブ』のようだが、彼らは「いずれ自分も大人になる」という矛盾に常に引き裂かれている。「世界は単純な記号でできている」と宣うも、単純な記号=死と同一化できない彼らの葛藤。そして母=女への憧憬と嫌悪。
6/11
一曲形になってきたような?
冨永昌敬『白鍵と黒鍵の間に』原作はジャズピアニスト南博の自伝的エッセイとのことだが、映画はそれをマジックリアリズム風の物語映画に変換している。銀座のドンと言われるヤクザからしかリクエストできない『ゴッドファーザーのテーマ』を刑務所帰りのチンピラからのリクエストで誤って弾いてしまった「博君」と、それをきっかけに高級クラブのピアニストになるも今夜でその職を辞しジャズの勉強のためアメリカへ発とうとしている「南君」。『ゴッドファーザーのテーマ』がスイッチとなって、彼の銀座での夜が時を超えて交差する。全編を彩るバブル時代の銀座の空気が南国調の夢幻的脚本に拍車をかけており、酔いどれていて気持ちいい。
6/12
アーバンギャルド三人編成リハ。大阪から新たに四曲ほどラインナップに加わるのでこちらを中心に。
6/13
明日からの遠征に向けた準備。
ジョギングに行ってしまおうかとも思うが、本番前に調子悪くしてしまうかもと思いとどまる。その代わり歌の自主練を一通り。ツアーが終わったら即入院、からの手術だ。
6/14
新幹線で大阪。僕とミワさんは七時台ののぞみにいち早く乗り込み、九条シネヌーヴォへ。関西万博の影響だろう、新大阪駅も地下鉄もいつにもまして混雑している。そして溢れるミャクミャクグッズ。全体的に批判の多い万博だが(思えば2005年の愛地球博もそれは同じだった)ミャクミャク人気の一点張りで乗り越えよう、という運営からの気迫も?感じられる。辿り着いたシネヌーヴォは名前とたがわずアールヌーヴォー風の鉄の植物様式で覆われたエントランス、暖色ライトアップのロビーなど、かなり雰囲気のある映画館。島田監督、奥井さんと舞台挨拶登壇。大阪上映初日は満席。監督が解禁前情報を次々と暴露。ネットに書いて!とネットに書かないで!が交錯し合う。物販してすぐにライヴハウス移動。難波ヨギボーホーリーマウンテン。ここはかつて難波ロケッツがあった場所で、三月のサーキットライヴでも隣のライヴハウス(メタバレー)を使わせて頂いたが、新品ぴかぴか。照明も音響もバキバキで素晴らしい。ロケッツ時代と変わらないのは一点だけ、高架下にあるので電車が通るたび轟音が鳴り響くことぐらいか。会場も満員、「都会のアリス」は演奏できなかったが熱いライヴになったのでは。三人編成が段々仕上がってきた。大阪王将にて少し打ち上げ。
6/15
ホテルをチェックアウトし、タクシーで梅田ラテラルへ。本日はFCイベント「病喫茶アーバンギャルド」半年ぶりにメイド服を着用しチェキや自撮りやtiktokを撮る四十二歳異常男性。大阪で初開催となるファンクラブイベントは、MBTI診断、カラオケミニライヴ、おな病み相談など。MBTI診断、最初に流行ったのは数年前だが今回改めて回答し直しても前回同様指揮官(ENTJ)になった。おおくぼさん建築家(INTJ)浜崎さん仲介者(INFP)というのも何となく頷けるのではないだろうか。因みに仲介者は日本人で最も多い性格タイプであるとのことだが(すごく大雑把に言うと優しくて共感性が高く、繊細)アーバンギャルドのファンもこのタイプの方多い気がする。そして浜崎がINFPであるということが我々が持てる唯一の大衆性であるような気もする。指揮官との相性は悪いそうですが(?)。
新大阪にて蕎麦を食べて帰京。ここで飲んだビールが手術前最後の飲酒となった。
6/16
午後一時に病院を訪れ、明日の慢性副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症、下鼻甲介鼻閉手術に向けて入院。検温、血圧測定など簡単な検査を済ませ時間も有り余っているのでデスクワーク。自宅からシャンプーを持ってこれなかったので下の売店でメリット(令和のキッズは知らないかもしれません。昭和に一世を風靡したリンスインシャンプーで大抵おばあちゃんの家にあります)、飲料水、そして明日カテーテルを使用する際に着用するT字帯(いわゆる、褌です)を購入。病院食の想像を覆す夕食を頂き、21時絶食前に少しオレオなど食べて、シャワーを浴びて二十二時には消灯。眠れず何度か起きてしまうのでナースステーションにてマイスリーをもらい服用。
6/17
病室のテレビの中では、若者たちがアルミ皿を前に涙を流していた。連続テレビ小説『あんぱん』やなせたかしとその妻の伝記的ドラマは今まさに終戦間際。従軍中の中国の村では食糧がなくなり、日本の軍人たちも乾パン一枚程度しか支給されなくなっている。歯を食いしばる若き日のやなせ。この経験が後に「食」を支えるヒーロー、アンパンマンを生み出すことになるのだが、それを画面の外から見つめる自分もまた、これから始まる手術に向け、覚悟を決めていた頃だった。大袈裟かもしれないが、人生初の全身麻酔、執刀手術である。既に一日半にわたる絶食は開始している。水も飲めない。先ほど下着を脱ぎ、T字帯を装着した。全身麻酔時の血栓予防のため、着圧ストッキングも穿く。先ほど打たれた点滴針が左腕にどうもおさまりが悪く、今すぐ抜き取りたい気持ちをおさえ平常心を心掛けていると「松永さん、手術室へ」と看護士からお声がかかる。エレベーターで地下へ移動。昭和のSFに登場する宇宙ステーションのような、金属の扉や格子が張り巡らされた部屋へと通される。執刀医の先生から朝の御挨拶。よく読むと仰々しいことが書いてある誓約書にサインし、先生に戻す。先生から改めて手術内容の説明を受けながら、青いペンで顔に幾つかのマークを書きこまれる。まず両の鼻の穴から内視鏡を通し、メスなどで鼻腔内のポリープなどを切除。また鼻粘膜を切開し、軟骨の一部を鉗子やノミをつかって切除して取り出し、再成型して再挿入。この場合血漿分画製剤と呼ばれる血でできた接着剤を使用する場合がある。更に下鼻甲介という部分にある襞状の余計な骨を切除し、鼻腔の通りを良くする。最後に切除面の粘膜を電気メスで焼き、止血を行う。リスクとして、万に一度ぐらいの確率ではあるものの視神経が切れたり髄液が漏れたりすることがある。また、鼻の一部が陥没してしまうことがある。更に声質がやや変化する可能性もある。たかが慢性副鼻腔炎と高を括っていたら意外に大掛かりな手術だったという感想を持つ人も多いのではないだろうか。自分もそうだった。僕は声がれなど職業上の問題を取り除きたくてこの手術を受ける訳だが、他の仕事をしていたらここまでしっかりやるかは分からない。ただ、息苦しいのはもうこりごりだった。人生とは、生とは即ち呼吸である。自由に息が吸えれば、より自由に生を謳歌できるだろう。飛躍しすぎだろうか?僕はそうは思わない。
いよいよ手術台のベッドの上に寝かせられる。やや肌寒いのでそれを伝えると、足元に毛布をかけてくれた。耳をすませると、小さな音でクラシックが流れている。昨日「手術中の音楽は患者様がリラックスできるよう、ご指定頂けますがどうされますか?」と聞かれたのを思い出した。「バッハの『主よ、人の喜びよ』でお願いしますと答えたが、あろうことか流れているのはオーケストラ編成だった。僕が聞きたかったのは夏エヴァの実写シーンで流れるピアノ一本のやつなんだけどと思ったが、今更訂正することは出来ない。人工呼吸器のマスクを付けられ、今から全身麻酔が始まりますと言われ目を閉じる。感情は意外なほどに少なく、ただ映画のエンドロールを眺めているような気分で、暗転。転換、スポットライトを浴びて、そして。
小鳥の鳴き声がする(本当にしたんです)。暖かな朝日に包まれているかのようなまどろみの後「松永さん」と声をかけられ目を覚ます。「手術が無事終わりましたよ!」ああ、そうだったと思い出す。手術室からベッドのまま、エレベーターに乗り込み病室へ移動。まず感じたのは喉のあたりの気持ちの悪さだ。マスクを外しますので血を吐き出して下さいと言われその通りにしようとするも、なかなか血が喉まで下りてこず、下りた瞬間反射的に飲み込んでしまう。飲み込んだらダメですなるべく吐き出して下さいと言われ、力なく昭和の時代におじさんたちがしていたように痰切りを頑張るが、我々の世代ですらしたことがない行為である。昔は駅のいたるところに痰壺があって、おじさんたちはそこで痰を吐いていた。なんて不潔な行為なのだと子供ながらに思っていたが、今は懸命にそれをしている。赤黒いゲル状の血痰を何度かに分けて吐き出す。そして思い立って自撮り。血まみれの鼻は隠しています。
下腹部もまた鈍い痛みがあるのでカテーテルを外して良いかと聞くが、あと一時間待って下さい、今も出せますので出せるなら出して下さいと言われるがどう力んでいいかも分からず微睡み、また訊ね、を繰り返すこと数回。もう外していいですと言われ外してもらい、点滴と胸につけられた器具をひきずり何とかトイレまでいくが、うまく出ず。しかも少し息んだだけで激痛が走るので、痛み止めを点滴してもらう。一時間後に再度挑戦し、尿道の痛みを感じながら放尿。少しだけ楽な気持ちになって汗まみれのままベッドに横たわる。血を吐く。手術着の防水加工された素材のためか、横たわっていると何とも暑苦しく、しかし部屋のクーラーを強めると寒い。どうしたものかと思いながら血を吐き続ける。両鼻はガーゼなどで完全に密封されており、口呼吸しかできない。また鼻が密封されている影響で涙がとまらず、常に目元がうるんでいる状態。テレビはつけっぱなしにしておいてもらった。テレビの中で、財津和夫のインタビューが始まり、終わり、みんなのうたが流れ、着ぐるみたちがディスクジョッキーのラジオ風番組が始まり(今の子供番組はなんてハイカラなんだろう)、そして天才てれびくんの中で、テレビ戦士たちが紅白歌合戦でおなじみのけん玉チャレンジを試みている。これは…Eテレだ!(とここで気づくぐらい意識が朦朧としている)。
夜は痛みと気持ち悪さ、手術着のむし暑さでよく眠れず。疲れはあり眠りたいと思っても、鼻呼吸が全くできないので口を開かねばならず、舌が下がってきたタイミングで鼾が出そうになり目が覚める。またそうしているあいだにも血はどんどん喉に下がってくる。口腔内はずっと血でべとついている。ペットボトルの茶を飲み、うがいをするが、不快感は消えず。点滴針を力づくで引きちぎりたい衝動にかられるが勿論そんなことはしない。一時間ごとに自分の鼾で目が覚める、を繰り返し、ようやく日の光が差し始める。
6/18
朝。退院日だが一人ではとても電車に乗って帰れそうもないと思っていたところ、柴田さん難波さんが車で迎えに来てくれるとのこと。有難い…。出された朝食はパン、紅茶、牛乳、ほぐしたチキンの入ったサラダなど。ホテルと見まがうかのような朝食だが、食欲は全くない。しかし薬が飲みたいので口をつけはじめる。嚥下は当たり前にしづらい。一日経って『あんぱん』では軍人たちが涙を流しながら茹で卵を殻ごと頬張っていた。現地民の老婆からもらったものだ。彼らの飢餓感を分けて欲しいと思いながらこちらも一生懸命食べ、なんとかほぼ完食。手術着から部屋着に着替え、歯をみがいて少しすっきりし、仮眠。起こしてもらい、会計など退院の説明を受け、いよいよ点滴針を外してもらう。下で先に支払いを済ませて病室に戻る。お二人も到着し、荷物を手伝ってもらいながら車へ。飲食物なども差し入れて頂き、マンションまで送ってもらい、なんとかエレベーターで部屋まで上がる。さて、ここから週末までどのように過ごすか。土曜のガーゼ抜去までは相変わらず鼻は完全に密封され、昨日よりは減ったものの血痰は出続ける。涙腺は相変わらずガバガバで、立っていてもふらつく状態。頭の奥に異物がたっぷり詰まっているので、常に世界の中心に鈍痛があり、その痛みは目や鼻や頭にも及ぶ。従って、とても本を読んだり物を書いたりはできない。映画を見るのも辛そうだ。意味のないテレビの情報番組などを流しっぱなしにして気を紛らすことしかできない。あとは時制なく永遠と流れ続けるかのような、数時間に及ぶプレイリストの気怠いボサノバ。積極的にできるのは御飯や八ツ時を食べ、薬をしっかり飲むこと。眠れなくてもなるべく寝ること。しかし横になると息がつまって眠れないので、ソファに深く腰掛けながら目を閉じることしかできない。
6/19
あと二日。まだ二日。辛いながらもソファに横たわりながら映画を見る。そんなことしかできないので。
空音央監督『HAPPYEND』。坂本龍一を父に持つ(という言い方はどうか?という御意見もあるでしょうが、父の最後のヴィデオコンサート映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』でデビューした氏のことですから、その出自に対しては或る程度意識的でしょう)日米を拠点とする監督の長編劇映画デビュー作。テロ事件も多発する近未来日本。中庭に置かれたモニターによって常に校内を監視されている高校で、生徒たちがデモ活動を試みる。運動に傾倒する在日韓国人の主人公と、彼を脇目に音楽だけに触れていたい親友。薄暗い画作りや余裕ある編集の切り方に無国籍映画感があり、題材は古典的ながら、なんだか新しい感性を垣間見たかのような作品。
『密輸 1970』七十年代の韓国。密輸に関わる海女たちの活躍をスパイ映画タッチで描いており、なかなか面白かったのだが頭が朦朧としていて人間関係を途中まで把握できず。沢山血が出るシーンでは自分の手術を思い出して目を伏せてしまった。自分がそんな体験をするとは。
相変わらず疼痛は続く。カロナールは一日三度まで服用できる。はじめて向精神薬やCBDのお世話になりたいとさえ思ってしまった。そして心身が不安定な時期に一人きりはこたえる。独り暮らしの孤独感を二十数年ぶりに感じる夜。ボサノバを流そう。
6/20
結局劇映画は疲れてしまうので、アマゾンプライムのFODチャンネルを契約し『古畑任三郎』を一気見することにした。本は開いてみるものの、文字を追えば目が痛くて断念。
少し歩けるようになった気がするので外へ。スーパーで総菜を買い、ドラッグストアで綿球を購入。鼻の奥にあるガーゼから血が染みて垂れて来るので、術後は綿球を両鼻に詰め続けている。これが血で汚れて赤くなれば取り換える。大体一、二時間ごとに取り換えなければならないので消費が激しく、病院からもらったものも少なくなっていたので外で買い物できて一安心。いよいよ明日、という気持ちを胸に秘めながら古畑を見る。血が大量に流れるシーンでは目を伏せる。
6/21
朝の八時半に病院で受付をとのことだったのでほぼ眠れなかったが、勢い込んで電車に乗り込み通院。意を決してチェンソーマンのロゴTシャツを着用し、流血の覚悟は出来ている。一刻も早く鼻呼吸がしたい。ここ数日口呼吸だけで過ごして、鼻で呼吸ができないというのは半分息していないのと同じではないかという感慨を持った。身体もなんとなく怠くなり、思考はまどろみ、口内は常に渇き、半分死んだゾンビのような生き心地だ。早く鼻で世界の空気を吸いたい、世界と繋がりたい、そして生者として甦りたいと思う。三十分ほど待ち合いでぼうっと過ごし、いよいよ診察室へ。体調について色々聞かれ、頭痛などを訴えるものの「大丈夫です、そういうものです」と先生。じゃあちょっと痛みますからね、と両鼻から綿球を抜き取り、鼻腔に麻酔のスプレーをふりかけてから細いピンセット様の器具で右鼻の奥のガーゼをつまみ、ゆっくりと引き出した。痛みと涙が噴出したが、これが終われば絶対良くなる、という光明を感じながら耐える。ぬるり、という擬音に全て濁点が付いたかのような音をたてながら、女性用タンポンのような細長い止血綿が左右の鼻から二本ずつ取り出され、血がどくどくと音を立て流れる。終わった…と感慨に耽っていたらすぐさま新しいガーゼを詰め始める先生。「まだ血が出ますから、これを何度か繰り返す必要があります」一度横になっていて下さい。そういわれ診察室の奥にカーテンで仕切られたベッドへと通され、三十分休憩。と、このルーティンをこの後二回繰り返すことになる。ようやく最後に少し前に入れたガーゼに加え、奥の奥にあった巨大なこんにゃくのようなガーゼを左右から摘出。これがなんとも言えない感覚だった。鼻の奥というか、もはや後頭部のあたりから固い太めのところてんをむりやり押し出しているような感じ。濁音を重ねた擬音が鼓膜と脳に鳴り響き、赤黒く染まった棒が二本、体外へと排出された。涙と涎と血にまみれながら、少しずつ取り戻される鼻呼吸。今日は一日鼻血が出続けると思うので、これで止血して下さいねと追加の綿球を渡され、処方箋を書いてもらい診察終了。会計を済ませ薬を貰い、出口へ。病院の外はすっかり夏、梅雨は何処へやらといったレベルのかんかん照りだ。まだ塞がっているものの、綿球の隙間からわずかに世界の息吹が感じられる。そして血と鼻水にまみれてはいるものの、既に以前より「通りの良さ」は体感できている。最寄りの駅にあるレストランでカツカレーを注文。まだ嗅覚は取り戻せていないので味はいまひとつだが、嚥下しやすいぶん食欲はしっかり回復している。
自分への快気祝いにと映画館へ。チョイスしたのはダニー・ボイル監督『28年後…』人を凶暴化させるウィルスによるパンデミックが起こった『28日後…』『28週後…』シリーズの二十年ぶりの新作だが、冒頭は取り戻した鼻呼吸の心地良さにより夢うつつで観賞。意識を取り戻すと、イギリス本土から故郷の島へ戻ろうと父子が潮が満ちつつある海を走って渡っていた。そして追いかけてくるアルファ種と呼ばれる巨人ゾンビ。満点の星空。何故か流れる感動的な音楽。何を観させられているのだと思いながらも、久しぶりに甘い眠気を味わいながら作品全体に流れる謎のテンションを体感する。万感の思いで、電車に乗って帰宅。綿球を変える。少しだけ本が読めるようになってきた。デザイン関係の仕事を少し。
6/22
なるべく日の光を浴びよう。外出し、都議会議員選の投票へ。嚥下しづらい時期はなんとなく控えていた拉麺を食べる。まだ嗅覚が一切戻っていないので、塩辛さを強く感じる。
鼻血が止まり、綿球なしでも生活できるようになった。鼻うがいを再開。まだ体内には水溶性の医療用綿が詰まっているとのことで、鼻を洗浄するたびにこれがドロリと零れ落ちる。血痰はほぼ無くなった。古畑は菅原文太を逮捕し、第一クールが終了といったところ(全クールを通じて桃井かおり回演じるディスクジョッキー回が一番好きだ)。来週からは、なるべく通常営業でいきたい。再来週末にはツアーも再開、手術前より歌いやすくなっていたら嬉しい。
孤独感はまだ埋まりそうもない。四十代の孤独ほどみすぼらしく、見苦しいものは無いだろう。そんな情けない想いを言葉や音にまき散らしながら生きていく。
※今回の日記は一時的に全体公開とします(三日後に「月刊松永天馬」会員限定記事になります)。入院時、沢山の励ましのお言葉を頂き誠にありがとうございました。この仕事を続けていくために受けた手術です。この機会を歌い続けていくための、新たな決意表明の代わりとさせて下さい。今後とも。
”『呼吸は世界とキスすることだ』とかつて書いたが、鼻呼吸で世界と繋がり合えることを大きく実感した”松永天馬 拝
●
ライヴがございます。
■松永天馬とデコテン・ツアー
【大阪・禁断のソロ2マン】
📅7/20(日)📍大阪・堺東ゴイス
🕐開場17:30/開演18:00
出演:松永天馬(バンド編成)
ゲスト:浜崎容子
5000円(税込)
※ドリンク代別 ※スタンディング
https://urbangardefc.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=2405000&csid=3
【東京・生誕ワンマン】
📅8/12(火)📍渋谷スターラウンジ
🕐開場17:30/開演18:00
出演:松永天馬(バンド編成)ワンマン
5000円(税込)
※ドリンク代別 ※スタンディング
https://urbangardefc.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=2405000&csid=3
バンド(松永天馬と自殺者たち)
松永天馬(VO)/高慶智行(G)/ダディー直樹(B)/おおくぼけい(Key)/樋口素之助(Dr)
【深夜生誕イベント】
■松永天馬脳病院vol.32 バースデースペシャル~朝まで生天馬2025~
トーク、映像、ライヴなどなど…。
今年もやってきた生誕深夜イベント「朝まで生天馬」。
朝までどうかお付き合い下さい!
📅8/12(火)📍渋谷LOFT9
🕐OPEN24:00/START24:30(28:00終演~特典会)
🎫前売¥3500/当日¥4000(飲食代別・要1ドリンク)
https://t.livepocket.jp/e/s633c
■アーバンギャルド TOKYOPOP TOUR 2025
7月5日(土):北海道・札幌「SPACE ART」
7月21日(月祝):愛知・名古屋「CLUB UPSET」
7月26日(土):石川・金沢「gateBlack」
8月30日(土):宮城・仙台「誰も知らない劇場」
9月27日(土):福岡「LiveHouse秘密」
10月24日(金):東京・高円寺「高円寺HIGH」
チケット:前売り¥5,500(税込)
https://eplus.jp/urbangarde/
いいなと思ったら応援しよう!
お手紙を送れます。短文になってしまいますが、お返事書かせて頂きますね。

