昨日見た夢




小さな頃の経験の記憶というものは、常に虚ろ。
その記憶は、実際に経験したことか、それとも夢で見たことか、区別がつくものではない。
また、そういった記憶は決まって、ある日突然脳裏によみがえるもの。
だけど、私は思い出したくなんか無かった。




忍者アカデミーに入学したての頃だった。
私と同じ色の眼をした、あのひとを講堂で見たとき。
一目でわかった。
「分家の、ひとだ。」
父から、日向家の構成については教わっていた。
だけど、実際に分家の人間と会うのは、それが初めてのことだった。
「あ。」
向こうも私に気付いたようだ。
どうしよう。
親戚なんだから、話し掛けるべきかしら。
だけど、初対面だし、何やら分家のひとは、私たち宗家にあまり良い感情をもっていないそうだし。
もじもじとしているうちに、とうとう彼が近付いてきてしまった。
「ヒナタ様・・・ですね。」
一瞬、年上であるひとに”様”の敬称で呼ばれ、驚いてしまったが、すぐにこれが日向家の事情であることはわかった。
「はい、えっと・・・。」
「お久しぶりです。大きくなられたんですね。」
彼は優しく微笑んだ。
「え、久しぶり・・・?あの、以前お会いしたこと、ありましたっけ・・・?」
そう言った時、彼の表情が一変した。
「まさか・・・覚えていないのか?」
「・・・あ、幼少の時に、会ったことあるのかもしれません。私、覚えていなくって・・・。」
とっさに取り繕ったが、彼は驚いた表情のままだった。
そして、黙り込んでしまった。
「・・・あのぅ・・・・?」
「やはりアナタも、宗家の人間か・・・。」
「え?あ・・・」
一言呟くと、彼はそのまま行ってしまった。


なんだったんだろう。
まるでわけがわからない。
確かに、彼と私は初対面だと思っていたのに。
幼少の頃、会っていたなんて、全く知らなかった。
「何か、悪いことでもしたのかしら。」


彼の名前は、日向ネジ。
一つ上のクラスの、優等生。
情報は、それだけ。
講堂で会った以来、彼は私を見かけても声をかけてこない。
目を合わそうとすらしない。
いぶかしげに思って、父に聞いてみても、何も教えてはくれない。
だからかえって、彼は私の興味の対象となった。
彼に少しでも近付きたいと思った。
しかし、私の内気な性格ときたら、彼を目で追うのが精一杯のことだった。


それは、雨の日に起こった。
二回目の、彼とのコンタクトが成功した。
アカデミーの玄関で、傘を持っていなくって、困った顔で立っていると、彼がやって来たのだ。
「あ。」
彼に気付いた私は、つい声を出してしまった。
きっと、嫌な顔をされるのかな、と思ったのに、突然彼に話し掛けられた。
「傘がないのか。」
「あ、だけど・・・家、近いし。」
「そうか。」
そう言うと、そのまま彼は玄関を通り抜けて行ってしまった。
仕方なく、傘なしに帰ろうとすると、門の傍に、見覚えのある傘が置いてあった。
「これ、あのひとのじゃあ・・・。」
まさか、傘を持っているのに捨てては行かないだろう。
もしかして、期待してもいいのだろうか。
この傘を、私が使っても・・・。
とりあえず、その日はその傘をさして帰った。
「ちゃんと、返しに行けば、大丈夫よね。」


今覚えば、あの傘は使うべきではなかったのにね。







昨日見た夢2につづく

初めてエロでも、詩でもない、原作に近づけたネジヒナを書いています。
結構話が膨らんできているので、これも長編になりそうです。
傘ネタは、アリガチで自分でも嫌なんですが、考える時間が惜しかったのです。
思いつきで書いてるから、いつも。
この話のネタは、これまた自分のことが。
本当に、小さな頃の記憶が、虚ろなんですよ。
夢だったか、現実だったか、わからない。
むしろ、現実よりも小さな頃に見た夢の方がはっきりと覚えているのです。
ボーっとした子供だったからな・・・。

















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