§15
猫足のバスタブ。
籠には一杯の花びら。
これをいれて使えってことだよね。
昔見た映画みたいにして、わたしは花びら一杯のバスに入る。
ぐるぐる頭にはりかさんが回ってる。
こんなに二人きりで。
二人きりになりたかった。
でもいざそうなると、どうしていいかわから無くなる。
それを見透かされている気がする。
顔が赤くなってるのは、湯あたりのせい?それとも見透かされたせい?
甘すぎるほど甘いバスジェルの中で、身体を洗う。
シャワーでながしても、香りが残っちゃうくらい。
子供っぽく香るのではないかとか、そんなことすら気になってしまう。
りかさんにわたしがどう映るのか、わたしらしくないほど気になる。
本当はかなり、ゴーイングマイウェイな性格。
人は人、自分は自分な性格なはずのわたし。
なのに、いとも簡単に崩れてしまう。
人を好きになることも、初めてなわけじゃないのに、
どうしてこんなに自分が気になるんだろう。
それはあの人との距離があまりに遠すぎるから。
わたしが追いつこうとしても、微笑んで見られてる気がしてしまって。
背伸びしても、見透かされている気がしてしまって。
結局、ありがちな自己嫌悪に陥ってしまう。
わたしって、本当は暗いのかなあ。
頭をふって、バスから上がる。
しゃっしゃと拭いてバスローブはおる。
「おかえり。」
りかさんが呟くように言う。
まだバスローブのまんま、ベッドに猫みたいに柔らかく横になってる。
ベッドサイドの窓からは、降るような星空。
りかさんの目はそちらを向いたまま。
わたしはチェストからパジャマをさがす。
白いリネンの涼しそうなパジャマ。
「着替えるの?」
いきなりあっち向いたままのりかさんが言う。
「え・・・」
「そのままでいいでしょ。」
「だって」
「どうせ脱いじゃうんだし。」
さらりと言う言葉に、心臓が跳ね上がる。
「早くおいで。」
「は・・・はい」
もそもそとレースの天蓋にもぐりこむ。
ダブルベッドの端に横になってみる。
「何してんの?」
りかさんあっちむいたまま。
「えと・・・せまいかな、と思って。」
「なわけないでしょ、もっとこっち。」
枕もって、りかさんの背中にくっつく。
レースを通してみる夜空は、ぼんやりと紗がかかったようで、
「ほら。」
いきなりりかさんがベッドサイドのランプを消す。
紗の向こうに、星が降るように浮かび上がる。
「うわぁ。」
くるんとりかさんがこっちを向く。
「気に入った?」
「はい。」
「じゃなくて、うん。でいいの」
「うん。」
「よくできました。」
そういって軽く啄ばむようなくちづけを。
「かおる、目がまんまるよ。」
りかさんがくしゃっと笑う。
「だって、びっくりしたんだもん。」
「そうね・・・・その調子。」
りかさんなんとなく面白そうに、わたしを抱きしめる。
わたしは面白いどころじゃなくて、必死に抱き返す。
なんか親にしがみついてるサルの子供みたいだ。
全然恋人ってカンジじゃないことだけは、自覚する。
抱き合ったままりかさんの唇が、わたしの耳元へ。
「ねえ・・・かおる。
さっき言ったのは、ほんとう?」
「さっき・・・?」
「好き、って。」
わたしはこくこく頷き返す。
「そっか。」
りかさんの声はそっけない。
この答えがどんな意味をもっているのかすら、わたしには分からない。
そんなこと考えているうちに、わたしのバスローブははだけられる。
りかさんの甘い香りと柔らかい肌に、わたしは情けないほど夢中になってる。
唇が柔らかく胸に埋まるたびに、背中に甘く震えが走る。
時折りかさんは歯を立てる、わたしは我知らず声を漏らす。
その度にりかさんはわたしを見て、くすりと笑う。
わたしは羞恥に、赤くなり、なのに身体が熱くなる。
わたしたちのローブはいつのまにか床下へ。
ぼんやりとした星空の中に、りかさんの身体は浮かび上がるように真っ白で。
吸い付くような肌の感触に酔っていると、ふっと引き離す。
そして思いもかけないような処に触れて。
わたしはどうかなってしまいそうな、快感が押し寄せては千切られる。
何度も名前を呼ぶ。
時には甘えたように、時には切ないように。
そしてりかさんの胸に届くように。
りかさんはわたしの名を呼ばない。
じっと見つめて、わたしの身体中をかきまわすように。
その瞳は、冷たいようでもあり寂しいようでもあり。
切ないようでもある、気がする。
りかさんは唇付ける。
わたしの唇に、首筋に、胸に、そして身体に。
わたしもつたないながら、唇を返す。
りかさんの唇に、首筋に、胸に、そして。
柔らかく、転がすように、びろうどのようなりかさんの中にはいる。
甘い香りはバスジェルだけじゃない。
りかさんの身体が持っている香り。
動物としてわたしたちみんなが持っているはずなのに、りかさんの香りは何故こんなに甘いのだろう。
りかさんの甘い息が乱れてくる。
髪の間に、細くて長い指を感じる。
もうすぐ、大きな波に飲まれそうな蠕動を感じる。
「か・・・おる。」
搾り出すような声がする。
「だめ・・・」
あたしは顔を上げる。
「ごめんなさい・・・・・痛かった?」
「違うけど・・・・だめ。」
そういって、いきなりりかさんはわたしを押さえつける。
わたしを後ろから抱くようにして。
「かおるは、あたしが・・・するの。」
そして前に回る手が、円を描くようにして下がってゆく。
「だって・・りかさん。」
「だめ、こうするの。」
りかさんの顔が見えなくて、でも息遣いだけ耳元に感じる。
それだけでわたしはどうして身体が火照るのだろう。
細い指はわたしの周りを擽るようにして回る。
耳元にひやりと舌が触れる。
わたしは我慢できずに、背中が反れる。
りかさんの含み笑いの声がする。
恥ずかしいのに、頭がぐらぐらになるほど気持ちいい。
なにに自分を預けてよいのかわからなくなる。
ただ、身体が震えるほどに反応してる。
「かおるは、素直ね。」
細い指は、今はもう滑らかにわたしをかきまわす。
こんなに柔らかな部分がわたしの一部だなんて信じられないほどに。
頬が寄せられる。
わたしは涙が零れそう。
なぜだかわからない、だけど身体の芯から熱いものが止めど無く溢れている。
頬が柔らかな舌で触れられる。
「どうして・・・・泣いているの?」
「わか・・・ん・・ない」
それしかいえなかった。
わたしはいきなり仰向けにされて、りかさんに痛いほどに吸われる。
それまでの柔らかな刺激に慣れ切っていたわたしの下半身は、叫びを上げる。
身体中の血液が集まってゆくみたいに、頭がぼうっとなる。
そして、また甘く柔らかく舌が転がされ、激しくかかき回されて。
わたしは声にならない声をあげるように、口が開く。
それはりかさんを求める必死の叫びのように。
「かおる・・・」
言葉と共に、背中まで快感が走る。
頭が白くなる。
身体が動かない。
「眠りなさい。」
そっとシーツをかきあげ、わたしはりかさんの甘い香りに包まれる。
そして子供のように、首に腕を回しさらさらとした肌を感じながら、
深い眠りに落ちる。
南十字星の下、二人きりの夢を見る。
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