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 §6










目まぐるしくライトが流れる中を、追い立てられるように駆け回り、
そして一日が過ぎて行く。





化粧前で、せわしなく同期と喋る。
鏡に張った宴会の写真を見て笑い転げる。
元気だね、と上級生が茶々を入れる。
取り柄、それしかないっすから、とまぜ返す。
化粧前の下に差し入れが溢れる。
好きなの持ってきな、と下級生を呼ぶ。
差し入れられた弁当や、売店で買ったパンが並ぶ。



専科部屋は閉まったまま。
楽が見えてきて、疲れも溜まる頃だろうな。
一瞬、箸が止まる。
「ダイエット?」
あかねが覗きこむ。
「まっさかあ。
どれにしようか、考えてたの。それだけ。」
「なら、いいけどさ。」
すえことあかねが目を合わせる。
必死で、煮物を口に詰めこむ。





向かいの下級生達が見える。
ピクニックまがいにじゃれ合う姿に、同期のいない自分が少し寂しくなる。
彼女に夢中になっている間に、色々な事が変わってしまった。
いつのまにか梯子を取られて、追い立てられる立場になっていた。
こういう時に限って、バウが舞い込むなんて、マーフィーの法則だねと笑ってしまった。
言ってどうなるものではない、だから言わない、我ながらひねくれてる。
そのくせ、酔った勢いで電話する自分に二日酔いしている。
久しぶりに背中を叩かれ、赤面するしかなかった。
それどころじゃ、ないはず。
子分だから、何となく感じてしまう。
人様の恋愛沙汰はクリアに見えてしまう処まで似ているのか。
「ゆうひさん、どれがいい?」
大樹がプリンの箱を出す。
「うーんと、今日は、なめらかプリン。」



プリンを口に運びながら、下級生を眺めてみる。
稽古場でも、楽屋でも、あれじゃあかえってわざとらしい。
緊張して話してる時も、気が抜けたとき視線が飛ぶ時も、
なんて思ってもいないのだろう。
あんなに必死な目にりかさん気づかないのがかえって、分かりやすい。
組替え以来、一番憧れて、でも自分は違うことは痛いほど分かっていた。
分かっていたから、求めてくれた人に答えた。
何もかも、手に入れる星があるのかもしれない。
なめらかなはずのプリンが喉に詰まる。








袖の鏡で化粧を直す。
早替り仲間が、通りかかる。
「タぁニ、今日時間、ある?」
下級生が断れないのは分かっていながら声をかける。
「知りあい人のね、お呼ばれあるから、来られる?」
ゆうひの珍しい無理に、戸惑っているのがよく分かる。
少し困った顔は、わざと気付かない。
「あ、よろしくおねがいします。」
微笑む礼儀正しい後輩、すぐムッとする私とはえらい違いだ。
「一つ営業片付けたいから、9時ごろ電話して、六本木あたり。」
お断りする相手に、フォローする時間をあげる。
意地悪な先輩じゃないよね、私。







さあ、りかさんの歌が聞えてきた。











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