§5
車はやっと青山墓地にさしかかる。
初めてあたしの役をやったんだっけ。
自分とは違う道を行く子なのだと、思い知らされた。
泥を飲み泥を吐き、吐き続けてもまだ飲んだ。
それでも昇りたかった、それしかない自分だった。
あの子はそんなものは飲まなくていいと、そう思っていた。
何を飲もうと決して吐かない、その強さに気付かなかった。
杜さんのファンなんだっけか。
私は、板の上でどう見えているのだろう。
街灯に墓地がぼんやり浮かぶ。
度重なる組替えで、少しは処世術も身についたのだろう。
上級生ぶって、ゆうひ達をかまった。
もがく昔の自分を見るようで、いつになく世話を焼いた。
レールがかろうじて見える綱渡りの辛さは、自分の辿ってきたそれだった。
レールに追い立てられそれでも走り続ける辛さは、自分のそれではなかった。
すこし遠慮がちに、時たまこちらをよぎる眼差しに気付きたくなどなかった。
あの子に教えることなど、自分の引出しにあるわけが無い。
稽古着が段々、タイトになっていくのもあの人の影響かと苦笑いさえした。
新専科になっても同期との腐れ縁は続いた。
電話すらめったにしない仲なのに。
ゼンダで彼女が渋々世話を焼いたと聞いて、苦く笑った。
熱血で気が合うのだろうと、妙に納得した。
別の世界に住まなくてはならないはずの道が、交錯した。
携帯が鳴る。
ったく、若者は元気だ。
「りかさあん。今どこですかあ?」
「車。」
BGMとざわめきの中、張り上げる声が聞こえる。
「えー、飲みなおしましょうよー、私達、あざぶうー」
いつもの彼女にしては、かなり飲んでる、分からないでもないが。
「だーめ、年寄りは寝るの。」
「えー、残念ー。」
すぐ引く辺りが、結構シラフじゃない。
確かに今回は、ちょっと辛かったよね、でもよくあること。
恥かく位、はまっちゃったら、後は抜け出すしかないんだよ。
彼女に飛び込んじゃったのは自分なんだから。
「ま、がんばって。」
人様の恋愛沙汰はクリアに見ている自分に笑う。
明日は久しぶりに背中を叩いてやろう。
「あ、次の信号、右。」
仕方ない、薬飲んで、寝るか。
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