TOP
§4
日曜の夜は好きじゃない。
笑う自分、食べる自分、頭を下げる、名刺を貰う。
明るいレストランでは、誰もがとても優しい。
いつからそんな風に思うようになったのか、因果な商売だ。
戸惑って、感謝して、いつか当たり前と思うようになって。
そしてなにも感じなくなる。
舞台でお返しすればいい、なんて本当に思っていたのか。
思わないとやっていけなかったんだ。
押し寄せる善意と好意の波に、溺れないように。
だからお金を使う。
纏わりつく思いが、染み込まないうちに。
こんな時間なのに、246はまだ混んでいる。
行き交うヘッドライトがとても疎ましい。
明かりの消えたショーウィンドウのディスプレイはいつかの自分なのかもしれない。
見栄と体裁と、努力でここまで来た。
とりつくろう自分を映す鏡のような彼女だから楽だった。
虚像が結ぶように、面白いほどうまくいった。
そして二人とも、とても似ていて似ていないことを知っていた。
自分の心のあるべき場所を、彼女は分かるほどに大人だった。
彼女の心のあるべき場所を、私は分かるほどに大人だった。
取り乱すことの無い、唯一の人だった。
誰でもいいから、一緒に溺れて欲しい。
誰でもいいわけない、好き嫌いが激しい。
携帯を額に当てる。
もう寝てしまったろうか、時間を見て思う。
どうにもこうにも気が合わない、だけど腐れ縁の同期と良く似ている。
枕元で携帯が震える。
ぼんやり画面を見る。
いつもかけるだけの番号に、いきなり覚醒する。
「あ、はい」
「寝てたね。」
必死で声を戻す。
「かけなおす。」
「い、だ、大丈夫」
携帯に顔を寄せすぎて、きっと聞きにくい。
いつも寄せられない分を取り戻すように、それでも顔が離れない。
「あのさ、楽の後、時間ある?ニ泊三日くらい。」
予約していたレッスンも、同期との飲み会も吹き飛んだ。
「うん。あ、あります。」
妙な早口のせいだ、低く笑うのが聞こえた。
「どっか、行こう。
まだ、生きてるよね、パスポート。」
「ちゅ、中国のとき確か、数次っていうのとった。」
「ん、じゃあ手配しとくから。」
自分の声はどう聞こえたのだろう、少しは可愛らしく聞こえたのか。
そんなしょうもないことばかりが、回る。
電話と分かってはいても、笑顔を作る。
「じゃ、明日。
あ、と、これオフレコね。」
音が消える。
言わなければ、分からない程、私は子供なのか。
気付いてしまい目をつぶる。
大人なら、気付かない。
浅い眠りはまだ来ない。
← Back Next →