大石らの登場には大高のみならず、魅音さえも驚いた。
彼らの役割は興宮に来る梨花の保護。山狗からのマークを受けていないと言う利点を使った役割だ。
作戦通りならば、大石らはここへは来ないハズだ。興宮は無線の範囲外なので村の状況も分からないハズ。
様々な疑問が魅音の中で巡るが、そんな彼女をよそに大石は部下の熊谷を引き連れ、県警らの前に立ち塞がる。
「……これはなんの騒ぎですか?」
動揺を必死に押し隠すような震え声で以て尋ねる大高。
対する大石はいつものニヤケ顔で話し出した。
「それはこっちの台詞ですよぉ。園崎の家宅捜査なんざ我々でも出来なかった案件……なぁんで事前に伝えてくれないんですか?」
「ひ、雛見沢連続怪死事件の関連が疑われたので……」
「あー! そうでしたかぁ! これは大変、失礼致しました!」
誤魔化せたか?、と大石の様子を伺う大高。彼はいつも通り、鬱陶しいほど飄々としている。
「ところでまだ家宅捜査の途中ですかね? 押収品はまだ集まってなさそうですが?」
「あ……あ、あぁ! まだファンタスティックに途中ですとも! だからこう邪魔立てされては困るんですよ!」
「いやぁ、こりゃ失敬!……ところで園崎のモンが逮捕されとるのはどう言うアレで?」
「分かるでしょう……公妨ですよ。今から事情聴取です。だから興宮署で準備していてくれませんか?」
大石は納得したように手を叩いた。
どうやら誤魔化せたようだと、大高はホッと胸を撫で下ろす。
「では! 園崎のモンは我々が連行しましょうかねぇ!」
大石のその一言に、大高の表情は固まる。
「へ?」
「だって家宅捜査の途中なんでしょう? ならお忙しい県警様に代わって、暇してる我々興宮署が責任を持って連行致しますとも!」
大石が目配せすると、すぐに熊谷が
すぐにその前に、大高はオロオロしながら立ち塞がる。
「べ、べ、べ、別に! それには及びませんとも!」
「なぜ?」
「いや、あの……」
「別に興宮署に連れて行くだけでしょう? なにをそんな嫌がる事がぁ?」
ねっとりした大石の追及に、言い訳が浮かばずしどろもどろになる大高。
その間、突然の展開に混乱し、魅音を連行している県警刑事の気が緩んでしまう。
その隙を突き魅音は、身体を揺さぶって刑事の手を離させる。
「あっ!? オイッ!?」
刑事らが気付いた頃にはもう遅い。そのまま彼女は大高の脇を擦り抜け、熊谷らに保護されてしまった。
それを確認してから大石は、ニヤッと笑って言う。
「では! 我々が責任を持って、連行致します!」
ピシッと敬礼する興宮署刑事一同だが、もはや大高にとっては煽っているようにしか見えない。
スッと背を向ける大石に対し、大高は怒鳴って制止させた。
「待ったらんかいッ!!」
「なぁんですかぁ?」
うんざりした顔で振り返る大石。その顔が大高の神経を逆撫でする。
「私は県警のみならずッ!! 警察庁からの任命も受けているんですッ!! つまりこの場では私が誰よりも上……バレエで言うところのプリマドンナですよッ!?!?」
「バレエの喩えはちと分かりませんがね」
「私の命令が絶対と言う意味ですッ!! 従わないのなら……捜査妨害と言う事で懲戒免職もあり得るッ!!」
大石はクッと、口角を固く結んだ。
それを動揺と捉えた大高は、更に捲し立てる。
「あなたは来年で定年退職……戦後の混乱期から勤め上げたあなたです。満額で支給される退職金も結構なモノでしょう?」
「……えぇ。満額でなら」
「それが全部、フイになるんです。この、一つの行動で」
大高は部下に目配せし、一歩、興宮署刑事らに詰め寄らせた。全員、なぜかパッセやルルジェ、アラベスクなどバレエのポーズを取って構えている。
「園崎魅音を引き渡しなさい。であれば、この職務違反見逃して差し上げましょう」
「…………」
「どうします? 悠々自適な老後か……全部、手放すか……?」
熊谷や悠木の他、興宮の刑事らは心配そうな目で大石を見ていた。
一度彼は、魅音の方を見た。真っ直ぐ、決意の込められた眼差しをしていた。
ふと大石は思い出す。彼女のこの目、前にも見たな、と。
沙都子を救う為、北条鉄平の犯罪を暴いて欲しいと頼み込んで来た魅音の姿。
羨ましいと思えるほど、真っ直ぐ、そして優しい目をしていた。そんな目で彼女は頭を下げたのだった。
大石は大きく息を吐く。
そして魅音のその目に応えるように微笑むと、また大高に向き直る。
「……わざわざ選択肢を用意していただき、誠に感謝致しますとも。大高警部殿」
大高は余裕に満ちた顔で、その言葉を受け取った。
「……しかしぃ……うーん……」
その余裕の表情も、大石の次の言葉で霧消した。
「あなたはもう少しぃ……上手い交渉術を身につけるべきですなぁ。そんな感じじゃあ、誰も落とせやしませんよ?」
「……は?」
「悠々自適な老後か、全て手放すか、ですか……ふふっ……残念ながら私にゃあ、選択肢がもう一つあるんですよぉ。あんたはそれを読めなかった」
大石は腕を組み、またニヤッと笑って言う。
「選択肢その三──刑事魂のねぇボンクラを分からせる」
彼の後ろには、その彼を慕う興宮の刑事たちが一同に並ぶ。
「我々とあんたらじゃあ、背負ってるモンが違う。なによりも大事で守るべきものがある……そう言うこったですよぉ、大高くん?」
嫌味ったらしい「大高くん」の言い方に、とうとうブチギレた。
「……興宮署による捜査妨害だッ!! 無理矢理にでも園崎魅音を連れ戻せッ!! わんだふるに遂行しろォーーーーッ!!!!」
「「いっしょにあそぼォーーッ!!!!」」
大高の命令を受け、県警刑事がピルエットを決めた後に飛び掛かる。
しかしそれで引くほど、興宮署の刑事らは軟弱ではない。
「雛見沢の住人二千人分の命がかかっているんですッ!! 全力で応対しなさいッ!!」
「「刑事ダマシィーーッ!!!!」」
大石の檄に呼応するように、興宮署刑事らが壁となって県警を押し留める。
ギャーギャーと両者が戦っているその後ろで、魅音は熊谷と悠木、内藤に連れられていた。
「ヒューっ!! やるじゃん大石っ!! 今度めちゃくちゃ良い焼酎送ってあげるからっ!!」
興奮気味に叫びながら、用意されていたパトカーの後部座席に乗る。
そこには見知った人物が既に座っていた。
「……あれ!? お爺さん、確か……」
ぺこりと頭を下げるその老父は、梨花を連れて興宮まで行く任務を背負っていた者だ。
「魅音さん……作戦を実行出来ず、申し訳ありません……」
「彼が教えてくれたんですよ」
運転席に座りながら、熊谷が訳を話す。
「彼が興宮まで大急ぎで車を飛ばして、僕たちに伝えてくれたんです。上田先生らが捕まった事、それを助ける為に梨花ちゃまが車を降りてしまった事も全部」
「そうだ……! 圭ちゃんたちが捕まっているのっ!! すぐ助けに行かなきゃっ!!」
「でも……どこに向かえば?」
「えーっと……確か無線でぇ〜……古手神社に来るよう言ってたけどぉ〜……」
その時、魅音が腰にぶら下げていた無線機から声が流れた。
『こ……こちら……上田次郎……』
上田の声だ。全員がその声に注目する。
『我々は無事だ……梨花も前原くんも無事だ……お……おぉう……!!』
──無線を手に上田は、ひょっこひょっこと走って話し続けていた。
隣を走る圭一共々、股間を押さえて悶えている。
「我々は今、裏山にいる……!! 敵も恐らく、ここに大挙して来るだろう……ぞ、増援を求む……!!」
そして思い出したように付け加えた。
「あぁ、それと……敵に暗号の解読法がバレている模様……ッ……! 今後は会話に注意されたし……うぉおおぉ……ッ!!」
「上田っ!! 普通に喋るのですっ!!」
「誰のせいだと思ってんだぁあ……ッ!!」
情け無い走り方で走る二人の前を、梨花が元気いっぱいに先導している。時折、元気が有り余ってシャドーボクシングもしていた。
「めちゃくちゃハッスルなのですっ! ハッスルするなのですっ! 略してハッするなのですっ!!」
「り、梨花ちゃん……頼むから俺たちより後ろにいてくれ……んほぉお……ッ……!!」
忠告する圭一。小刻みに跳ねながらなにかを降ろしている。
すぐにその忠告を受け入れ、梨花は上田の側に行く。次に先導するのは圭一だ。
「山の反対に、田んぼの方に続く抜け道があるんス! レナと沙都子が待っているハズですんで……とりあえずそこまで行きましょう!」
そう言って、辺りを警戒しながら案内を始めた。まだ股間が痛いのか、腰をタンタンと叩いている。
そんな彼に付いて行く上田と梨花だが、途中ふと梨花が上田に尋ねた。
「山田はどこなのです?」
上田の表情が曇る。
「……あ、あぁ……園崎家の地下ではぐれちまった。多分まだあそこでウロウロ彷徨ってんだろ」
なんとか取り繕ったものの、一瞬見せた彼の不穏な表情に、梨花が気付かない訳はない。
なにが起きたのか悟り、顔を歪め、圭一には聞こえぬよう声を落として話した。
「……本当の事を言って欲しいのです」
上田は驚き、それでも誤魔化そうと口を開く。
しかし梨花の聡さを思い出し、上手い嘘も思い付かず。少し口をはくはくさせた後に、上田は観念したように本当の事を語った。
「……山狗が地下で榴弾を発射した。その榴弾の爆発で地下は崩れ……山田はその、下敷きに……」
その時の光景を思い出し、上田の目が潤む。
一方の梨花も山田が死んだ事実を聞かされ、悔しそうに、或いは悲しそうに下唇を噛んだ。
「……そう、なのです……か……」
自責の念が梨花の心を痛め付ける。
彼女が死んだのは、自身を守る為に他ならない。「自分の為に死んだ」と言うその事実が、梨花に重くのし掛かった。
きつく目を閉じ、顔を伏せさせる。そんな彼女の痛ましい姿を見て、上田は言葉をかけた。
「自分を責めるんじゃない。こうなったのは敵の執念を見誤った……発案者たる、俺たちの責任だ」
「……ボクは……誰にも死んで欲しくなかったのです……」
俯き、垂れた長い髪がその横顔さえ隠す。
その下よりポタリと、涙が一つ落ちたのを上田は見た。居た堪れない気持ちになる。
「山田……っ……」
彼女とはたった、十三日ほどの関係だった。部活メンバーや村人たちと比べたらほんの瞬きのような期間だ。
だが既に梨花にとって山田は、かけがえのない存在となっていた。部活メンバーや、自身を慕う村人たちと同じく、大切な存在だった。
深く彼女を信じられず、利用したり試すような事もしたりした。
それでも彼女はここまでやってくれた。「私たちを信じて」と言ってくれた……酔っ払っていたが。
彼女はそう。自分一人では出来なかった事を、成し遂げてくれた。
しかしその恩は、返せなくなった。
裏表のなさそうな性格に反し、山田はあまり自分の事を進んで話さない人だった。
もっと色々と、彼女の事を知りたかった。得意なマジック、生い立ち、東京での暮らしの事──父親の事も。
全てが終わった後、もっとゆっくり話がしたかった。
梨花が抱く悔しさは、そこから来ていた。
そんな彼女の背を、上田はポンッと叩く。
「山田は最後まで……後悔なんか口にしていなかった。俺たちが勝つ未来を信じ……魂となって、その未来に行くと言っていた」
顔を上げた梨花の涙目には、凛々しい上田の横顔が写る。
「挫けるんじゃない。君の命は、村人全員と繋がっている……山田を思っているのなら、あいつに報いる為に……自分が助かる事に集中するんだ」
「…………」
「負けて無駄になるのが……何よりも最悪だ。一緒に生き残り……未来であいつを待つぞ!」
およそ超常現象を否定して来た上田らしからない発言だった。
しかしそれが、ただ慰める為だけに誂えたものではないと、梨花は分かっている。
上辺ではない。真に山田を思っているからこそ、上田はこう言えたのだから。
梨花は涙を拭い、真っ直ぐ前を見る。
必ず勝つんだ。勝って、みんなと未来に行くんだ。
山田に報いる為には、それしかないのだ。
そんな時、三人の前にザッと、武装した山狗が現れた。
人数は四人。驚き、足を止める上田らの前で、彼らは所持していた拳銃を向ける。
「動くなッ!! 撃つぞッ!!」
「古手梨花を引き渡せッ!!」
たじろぐ上田と圭一だが、梨花は二人の前に立って庇う。
「銃なんか使ってボクに当たったら、たいちょーさんに怒られるのですよ!」
確かに山狗らの任務は、無傷で梨花を確保する事だ。
発砲して流れ弾がターゲットに当たりでもすれば、大目玉を食らう羽目になる。
山狗らは拳銃を仕舞うと、コンバットナイフに持ち替えた。白兵戦に持ち込むつもりだ。
銃を使わないとは言え、相手は戦闘のプロ。常人が敵う相手ではない。
「どいてろ」
梨花の前に、上田が立つ。
「さっきは不意を突かれたが……そうでないならば、俺はなろう主人公レベルにチート級ッ!」
「向こうは武器持ちっスよ!? 上田先生丸腰じゃないッスか!? あと、なろう主人公ってなんスか!?」
圭一にそう忠告されるが、上田は一切たじろぐ様子はない。
足を開き、腰を落とし、太極拳のように右手をスゥっと出して構える。
「目覚めよ……その魂…………行くぞッ!! トゥアッ!!」
上田の掛け声を合図に、山狗ら四人もナイフを構え、両者同時に飛び掛かった。
──梨花たちを助けに向かった詩音、富竹、公安メンバーもまた、裏山に到着していた。
ひとまずさっきの上田の無線で、何とか助かった事は確認済み。
しかし山狗が大挙するとあり、予断は許さない状況だ。早く彼らと合流しなければ。
足場が悪い中、必死に駆ける六人。
そんな彼らの前に、複数の男が立ち塞がった。
「なにやつっ!?」
「んん!?……おぉ? なんや、お前らやないかい!?」
警戒する詩音だが、矢部含む公安メンバーにとっては見知った人物たちだった。
男たちは五人。急に変身ポーズのような格好を取って自己紹介を始めた。
「刑事部捜査共助課、『
「シザース!?」
「交通部……『
「王蛇!」
「警備部警備企画課、『
「ライア!」
「同じく警備部警備企画課、『
「ガイ!!」
「刑事部第三課……『
「ゾルダ!?」
更にもう五人が、矢部たちの後ろに現れる。
「生活安全部保安課、『
「タイガ!」
「刑事部捜査共助課。『
「ベルデ!」
「刑事部捜査一課、『
「インペラー!!」
「交通部……『
「オーディン!?」
「ストマック社仕入れ担当……ジープ・ストマック」
「誰やお前」
総勢で十人。それが一向を囲むようにして姿を現す。
しかし最後はともかく、内九人は興宮署の刑事たち。つまりは味方だ。菊池の頬が安心から綻ぶ。
「おぉ!! 応援に来てくれたのだなッ!? これは心強いぞッ!!」
意気揚々と近付く菊池や公安メンバーだが、何か良からぬ気を悟った富竹がそれを手で制す。
「……君たちの役目は、興宮で梨花ちゃんを保護する事。なぜここに?」
「梨花ちゃんが捕まった事を、彼女を運ぶ役目を担ったお爺さんが教えてくれたのです」
そう説明する志座。確かに間違った事を言っていない。
しかし彼らから発せられる殺気が、富竹を警戒させる。
「県警が興宮署を乗っ取るのにも……事前に情報は必要だ。それに鬼隠しの隠蔽工作も……僕はもしかして、興宮署に『内通者』がいるんじゃないかと疑っていたんですが……まさか……」
「な、内通者ぁ!? ほじゃけんのぉ!! こんの人らはワシらと一緒にレナちゃん探しもしたんじゃ!! 祭りの警護もやっとったんじゃがのぉ!?」
石原はそう擁護する。
しかしそれを聞いた詩音は「あっ!」と声をあげ、彼らを指差した。
「思い出したっ!! この人たち……私が鷹野さんを追っ掛けている途中にぶつかって来た人たちです!!」
綿流しの途中、鷹野の側にいた詩音だったが、その「ぶつかって来た人たち」のせいで見失った事を思い出す。
あれは偶然で、自分の不注意のせいだと思っていた。しかし、富竹の提示した可能性を聞いて「もしや」と思い立つ。
問答を繰り広げる事を面倒に感じたのか、男たちは不気味に笑い、正体を悟らせた。
そして志座が最初に、口を開く。
「……その通りです。我々はスパイとして、『東京』から興宮署に配属されました」
次に王田が口を開く。
「俺たちの任務は、興宮の捜査状況を山狗に流す事……イライラするなぁ……」
次に対屋が続ける。
「そうやって興宮署が鬼隠しの全貌を明かさないよう、情報操作をした……俺の隠蔽工作は必ず当たる」
次に甲斐。
「勿論……祭りの日、そのガキが鷹野さんを見失うよう、ぶつかったのも作戦だ」
その次に左右田。
「それに気付かなかったなんて……君たち、警察失格だよ」
その次、雑賀。
「興宮署の刑事を誘導する為、神社の祭具殿に写真を貼り付けたのも僕たちさ。僕は英雄になりたいからね」
その次、照辺。
「県警にも情報を流した。事件の事も……富竹さん。あなたの事も」
次、井寺。
「しかし内通者を疑っていたと言うのは本当らしい……この作戦の事、僕らには伝えられていなかった。あの大石刑事、かなりのやり手だよ」
次、大手院。
「戦え……戦え……」
最後にジープ。
「赤ガヴ……絶対に許さない……!!」
「こいつとオーディンだけ目的ちゃうやろ」
矢部がツッコむ。
とは言え、この目の前にいる十人は敵だと発覚した。
対屋が富竹と詩音を見やる。
「俺たちの任務は、富竹ジロウの始末……そして古手梨花並びに園崎詩音の確保だ」
「わ、私……? なんで?」
甲斐が続ける。
「人質だ。古手梨花と仲の良いお前を捕らえれば、良い人質になる……実際、それで本当に捕まえられるくらいまで行ったからな」
まぁ、失敗したがと吐き捨てる。
そして王田が一歩、前に出た。
「ほら、小娘……さっさとこっちに来い。もう囲まれてんだ……お仲間まで殺しちまうぞ」
「……アレ? あなた……圭一くんのお父さん?」
「ちげぇよ。誰だよ。イライラするなぁ……」
正体を明かした十人が、囲んだまま円を縮めるようにして詩音らに詰め寄る。
一斉に臨戦態勢に入るものの、明らかに多勢に無勢、しかも囲まれている状況。負ける事は明白だ。
「これは……非常にマズイ……!!」
「何とか……何とかならないんですか……!?」
富竹と詩音は焦燥感に駆られている。
慌てているのは公安メンバーもだ。
「や……矢部さぁん! スゲーイヤベーイ状況ですよぉ……!!」
「信じて送り出した刑事たちが内通者じゃったーーッ!!」
「お、落ち着くのだ『東京』の諸君ッ!! みんなで東大に行こうッ!!」
狼狽える秋葉、石原、菊池。
矢部もまた、髪を押さえながら緊張から、生唾を飲む。
「
「『万事休す』ですよ先輩ぃ〜!」
秋葉が情け無い顔で訂正する。
六人の周りで円を描き、クルクル回る偽刑事らを、ただ睨む事しか出来なかった。
「「待てぇーーいッ!!!!」」
その時、どこからか声が聞こえて来る。
偽刑事たち含め、全員が「誰だ」と辺りを見渡す。
「あそこだッ!!」
井寺が指差した先を全員が見る。
山の傾斜面。そこからこちらを見下ろす、幾人の人影。
「何者だッ!!」と聞く照辺の声に応えるように、ポーズを決めながら一人一人名乗り始めた。
「生活安全部生活環境課、『
「龍騎!」
「刑事部捜査四課、『
「ナイト!」
「刑事部捜査二課……『
「ファム!」
「刑事部捜査一課ッ!!『
「クマちゃん!」
「園崎家次期頭主候補っ!!『園崎 魅音』っ!!」
魅音の登場には、詩音が「おねぇっ!?」と反応する。
全員かと思いきや、もう一人ボンヤリ立つ者がいるなと矢部が目を凝らす。
そこには青白い光に包まれた暗い顔の幽霊が、右手を謎にユラユラさせて立っていた。
「『
「う、うわぁぁあーーっ!! もはや春映画だぁぁあーーっ!!」
興奮する秋葉。
「何だお前たちは!!」
左右田が聞くと、まず悠木が口を開く。
「何だお前はってかッ!? 正真正銘、興宮署のデカだよッ!!」
内藤が続く。
「まさかお前たちが内通者とはな……」
次に羽生。
「大石さんの指示通り、作戦の情報を一部だけに伝えたのは正解だったようね」
その次、熊谷。
「大石さんから教わった刑事魂……それを今からお前たちに叩き込んでやるッ!!」
右手だけになった握池はただユラユラするだけ。
しかし冷静に人数を確認した雑賀がほくそ笑む。
「ふっ……十対十一……一人多いぐらいで、『東京』で訓練を受けた僕たちに勝てると思ってるの?」
「アンク省かれとるな」
矢部が同情心で握池を見やる。まだユラユラしている。
そう雑賀に指摘された魅音だが、彼女はニヤリと笑って腕を掲げる。
「……残念。私らだけじゃないん……だ、なっ!!」
魅音はフィンガースナップを響かせた。
それに合わせ、更に偽刑事らを取り囲むように、六人の興宮刑事らが顔を出す。人数差を一気に覆され、今度狼狽えるのは彼らの方だ。
「……ええいッ!! 人数差がなんですかッ!! 仮面ライダーは人数差を物ともしないッ!! やっちまえーーッ!!」
志座の号令に合わせ、とうとう偽刑事らと興宮刑事らがぶつかり合う。
入り乱れる戦闘の最中、斜面を滑り降りた魅音が詩音の元に寄る。
「詩音っ!! 平気っ!?」
「は……はいっ! 無事です!」
「良かった……じゃあ、早く梨花ちゃんたちを──うわっ!?」
警棒を持って二人に襲いかかる大手院だが、寸前で阻止したのは富竹。
「二人とも早く行くんだッ!!……矢部さんッ!! お願いしますッ!!」
「ま、任せとけッ!!」
矢部が二人の手を引き、戦線から離脱させようとする。
人数差を覆したとは言え、戦闘術の練度は偽刑事らが上。並の刑事は彼らに敵わず、人数差を感じさせない戦いっぷりに苦戦を強いられていた。対抗するには、同じ練度の高さを誇る富竹が残るべきだ。
「富竹さんっ!!」
詩音の呼びかけに、富竹は余裕のある笑みで応える。
「梨花ちゃんを……この村を……救いましょうッ!!」
彼の勇姿を見届けながら、魅音と詩音は公安メンバーに連れられ、山の奥へと消えて行った。
彼女らが逃げ切った事を確認すると、富竹は大手院を蹴り飛ばし、叫ぶ。
「全ての悪意を駆逐するッ!! かかって来いッ!! アウトサイダーズッ!!」
富竹は勇猛果敢に突撃して行った。
その姿、さながら暴走列車。
・『仮面ライダー龍騎』で王蛇こと浅倉威役を演じた萩野 崇さんは、ドラマ版ひぐらしで圭一の父、前原伊知郎役を演じている。
・『仮面ライダーアウトサイダーズ』で仮面ライダーゼインの声を担当されているのは、富竹役の大川 透さん。