怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~   作:余田 礼太郎

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16、Gの決意 ~『ゴジラ2000 ミレニアム』より~

 侵略者ミレニアンと怪獣王ゴジラ。

 二大怪獣が対峙する中、ユウキのおっさんが怒鳴り声を上げた。

 

「おいAIっ、MOGERAの駆動システムはまだ回復しねえのかあ!?」

「ただいま自立回復シークエンス実行中です、完了まで三十秒程度お待ちを~!」

「三十秒だァ!? あと十秒でやれっ、じゃねえとテメェをアンインストールしてやる!」

「そんな御無体な~!」

 

 僕らがしっちゃかめっちゃかしているあいだに、ゴジラとミレニアンはそれぞれ動き始めた。

 まずミレニアンはマンデルブロ集合というフラクタルを基にした奇怪な無限曲線立体、マンデルバルブを形成した。

 ミレニアンは、またしても重力波のビームを放つつもりだろう。それもとてつもなくドデカくて、ケタ違いにイカれた威力の、凄まじく強力な奴を。

 

「ミレニアンの野郎、ゴジラとやり合うつもりか……!」

 

 対するゴジラも負けてはいない。眼前のミレニアンを威嚇するように雄叫びを上げて全身の背鰭を逆立てると、そのままゴジラは大口を開けて放射熱線を放つ構えをとった。狙った先は見据えた真正面、ミレニアンだ。

 その最中、オムライザーが報告を上げた。

 

「大変お待たせしました~! システム回復、これより駆動可能です!」

「おせぇよバカAI!」

 

 オムライザーに悪態をついたあと、ユウキのおっさんは僕らへ的確に指示を下し始めた。

 

「奴ら、重力波ビームと放射熱線で殴り合う気だ! シンジョウ、サトー、回避しろっ!」

「了解っ!」

 

 即座に操縦桿を操作する僕とコージ。

 ボロボロのMOGERAは僕らの操縦でなんとか動き出し、ぎこちなくブースターを展開してよろよろとその場から飛び立った。

 そして僕らがその場から避けたのを合図にしたかのように、ミレニアンとゴジラは同時に攻撃を仕掛けた。

 

 ――ブゥんッ!!

 

 破局をもたらす重力波ビームと、核爆弾級の放射熱線。絶大な破壊力を誇る二つの光の迸りは、周りの大気を焼きながら真正面ですれ違い、そして放った自分自身たちへと向かった。

 

「―――――――ッ!!」

 

 重力波のビームを撃ちながら、ミレニアンは新たな変形を見せた。

 ドラゴン曲線、レヴィのC曲線、ミンコフスキー曲線……ミレニアンは変幻自在の身体で様々なフラクタルを形作ったあと、巨大な雪の結晶のような形――コッホ雪片、内部の面積が有限なのに外周が無限になるというフラクタルだ――へと変化した。

 そして放射熱線が直撃、するはずだった。

 

「曲がった……!?」

 

 本来だったら真っ直ぐ撃ち抜くはずだった、ゴジラの放射熱線。

 けれどミレニアンへ直撃しようとした刹那、ゴジラの放射熱線はその手前でくっきり折れ曲がり、ミレニアンへ命中する代わりに周りのビル街を真っ二つにぶった切ってしまった。

 まるで()の字に折れ曲がったみたいだ。

 

「重力波の異常値を検出、物理センサー上においては直進、各種データに不整合が生じています。これらの矛盾から、おそらくミレニアンは高次元操作でバリアーを形成し空間を捻じ曲げたものと推測されます~」

「空間を捻じ曲げたァ!?」

「ミレニアンの奴ぁ、どこまでデタラメな科学力なんだ……!?」

 

 そして怪獣同士のビーム対決において、最終的に押し負けたのはゴジラの方だった。ミレニアンは咄嗟にバリアーで直撃を回避したけれど、ゴジラの方は真正面から受けることになってしまった。

 最初はまっすぐ放射熱線を撃っていたゴジラだけど、その姿勢が徐々に崩れてゆき、やがて膝をついて、ついにはその場へ引っ繰り返った。そしてそのまま思いきり吹っ飛ばされ、ゴジラは背後にあった高層ビルへと突っ込んでしまった。

 

「ミレニアンの野郎、ゴジラを殴り倒しやがった……!」

 

 宿敵ゴジラが一本取られる。そんな光景を目の当たりにしたユウキのおっさんは、どこか悔しげに唸っていた。

 けれど、ミレニアンの方もまた無事では済んでいなかった。

 

「……おい、見ろよ」

 

 僕はモニターから見たまま、ミレニアンの様子を口にした。

 

「ミレニアンの奴、あっちの方がダメージが大きくない?」

 

 高次元量子流体の身体を持つミレニアン。ゴジラとやり合う前は光り輝く美しい流体だったのに、今やその色がどす黒く濁ってすっかりくすんでしまっていた。まるで全身に大怪我でも負ったみたいだ。

 すぐさまオムライザーが解析する。

 

「ミレニアンの体表ダメージを解析中……損傷率33.7パーセント、人体で言えば重度の熱傷に相当する大ダメージです。ゴジラが受けたダメージと比較しても互角以上、ミレニアンが負ったダメージは極めて大きいものと推定されます」

「なんで、ミレニアンの方は防御したはずなのに……?」

 

 そんな僕の疑問に答えるかのように、コージが声を挙げた。

 

「……そうか! きっと“負荷”があるんだ! いくら高次元量子流体だろうが所詮は生き物、あんなイカレた威力のビームを撃ったり、空間を捻じ曲げるようなエネルギーを高次元から吸い出して、無茶をやっていないわけがない」

「仰るとおりです、シンジョウ少尉!」

 

 コージの思いつきを、オムライザーが後追いで肯定した。

 

「放射熱線を受けた被弾率に対して、ミレニアンのダメージ規模が大きすぎます。ゴジラの放射熱線による破壊よりも、ミレニアンの高次元操作に伴う重力波の反動によるダメージと推定されます。シンジョウ少尉が推察されたとおりかと~」

「な、なるほど……」

 

 そうこうしているうちに、ユウキのおっさんが声を張り上げた。

 

「おい、科学談義をしてる場合かっ! ゴジラの野郎が起き上がるぞっ!」

「っ!!」

 

 すぐさま僕らが振り返ると、ユウキのおっさんが言うとおりビルの瓦礫を吹っ飛ばしながら立ち上がるゴジラの姿が見えた。

 ビルの瓦礫を突き崩し、地鳴りのような唸り声をあげながらゴジラはゆっくり立ち上がる。

 

「~~~~…………っ!」

 

 ……ミレニアンが放った重力波ビーム、それを真正面から喰らったゴジラは全身が酷く焼け焦げていた。

 けれどゴジラは一向に恐れない。侵略者ミレニアンを睨みつけるゴジラの瞳、その視線に籠った闘志と殺意はちっとも怯んじゃあいなかった。

 

「ゴジラ細胞内の形成体(オルガナイザー)G1活性化を確認、活性率27.6パーセント。オルガナイザーG1の作用により、ゴジラ体表の再生が進行中。ゴジラ自身は、次の放射熱線発射シークエンスへと移行しつつあります」

 

 オムライザーが解析したとおりだ。

 重力波ビームで受けたゴジラのダメージが、メキメキミチミチと音を立てて再生し始めていた。ボロボロだったはずのゴジラの体表が迅速に繕われ、真新しい傷跡へと変わり、ひいては元通りの姿へと回復を遂げてゆく。このスピードなら、もうしばらくすればきっと傷跡すら残らないだろう。

 そしてそんなゴジラの姿を、ユウキのおっさんはどこか楽しそうに見つめていた。

 

「へっ、相変わらず元気なヤローだ。全身黒焦げだってのに、もう次のケンカを始める準備をしてやがる……!」

 

 ……長きに渡ってゴジラを追い続け、戦い続けてきたユウキのおっさん。そんな彼にとってゴジラは長年の宿敵、好敵手、ライバルみたいなものだ。その最高のライバルが、どこの馬の骨とも知らない宇宙怪獣なんかには負けていないのがきっと嬉しいのだろう。

 僕らが戦いの趨勢を見守る中、ゴジラは背鰭を光らせながら雄叫びを轟かせた。

 

「―――――――ッ!!」

 

 そしてゴジラは再び放射熱線をぶちかます。大気を貫く覇道の放射熱線、爆熱の奔流がミレニアンへと襲い掛かる。他方、ダメージから立ち直れないミレニアンはぎこちない動作でバリアーを張り身を守ろうとする。

 しかし、今度はダメだ。支えきれない。

 ミレニアンのバリアーはとうとうゴジラ渾身の放射熱線に押し切られ貫通、その奥にいたミレニアンへ多大なダメージをもたらした。

 

「――~~~~~~ッっ!?」

 

 ミレニアンは放射熱線で正中から撃ち抜かれ、甲高い悲鳴のような高音を響かせながら身をよじった。高次元量子流体の身体が燃え上がり、台座にしていたセントラルシティタワーまるごと青白い炎に包まれる。

 今度のビーム対決は、ゴジラの勝ちだ。まるで一本とり返してやったのが得意とばかりに、ゴジラはすかさず自慢げな雄叫びを響かせた。

 

「――――――――ッッ!!」

 

 じたばた藻掻きながらその身で燃える炎をなんとか揉み消したミレニアンは、続いて思わぬ行動へと出た。

 

「おい、ミレニアンの野郎、ゴジラの方へと向かってゆくぞ……!?」

 

 全身がすっかり焼け焦げ、どす黒く濁り切ったミレニアン。燃え盛るビルの玉座からドロドロ蠢いて滑り落ちると、今度は総身を拡げてゴジラへと飛び掛かった。

 その動きはまるで、素早い動きで獲物を捕らえて飲み干そうとする大蛇のようだ。ミレニアンは手負いとは思えぬ俊敏さでゴジラへと覆いかぶさり、高次元量子流体の体でゴジラの巨体をすっぽり包み込もうとする。

 

「…………ッッ!!」

 

 ゴジラはというと驚きも怯みもしない。逃げも隠れもしない。むしろ望むところだと言わんばかりに力強く踏み出すと、ゴジラはミレニアンの体内へ真正面から突っ込んでいった。

 かくして、ゴジラはミレニアンに頭から丸呑みにされてしまった。

 

「ミレニアンは、いったい何をしようと……?」

 

 めくるめく超展開の連続。予想がつかない怪獣プロレスで、ただただ翻弄されるばかりの僕ら。

 その傍らで、オムライザーが解説した。

 

「ミレニアンはゴジラの細胞に含まれる高次元因子:アーキタイプを取り入れることで、この次元における高次元システムとして自身の安定稼働を目指しているものと推測されます」

「……つまり?」

「ミレニアンはゴジラになろうとしています」

 

 オムライザーの説明を受けながら、僕はミレニアンの変化に気づいた。

 

「おい、あれ……!」

 

 おぞましいながらもどこか美しさを放っていたミレニアンの高次元量子流体、その身体が(いびつ)に変化し始めていた。

 不定形だった身体にメキメキと手足が生え、尻尾が伸び、ゴジラを思わせる凶悪な顔や背鰭のようなものまで形成されてゆく。

 美しい流体から醜い化け物へ、急速に変わり果ててゆくミレニアン。その姿はまるで、

 

「〈悪鬼(オルガ)〉……!」

 

 

 夢現(ゆめうつつ)を漂う。

 ゴジラと合一を果たし、宇宙怪獣オルガと化してゆくミレニアン。その最中の意識が、半覚醒状態のわたし:ミレヴィナ=ウェルーシファにも流れ込んできた。

 

「偉大なもの……ゴジラ……最強……無敵……合一……至上……永遠……幸福……」

 

 初め、ミレニアンは喜んでいた。

 今まで何者でも無かった自分たちが、やっと確固たる“何か”になれる。偉大な怪獣王ゴジラと合一し、その存在に取って代われる。ゴジラになりさえすればなんでも出来る。きっとそう思ったのだろう。

 けれど、それはぬか喜びだった。

 

「不明のエラー……恐怖……破綻……停止……不可……できない……」

 

 ミレニアンが取り込んだゴジラという絵の具はすべてを塗り潰す濃厚な黒、まさに暗黒の闇だった。かつて千年王国を築き上げた叡智も、それを再建しようとする野心も、そして魂さえも、高次元宇宙知性ミレニアンとしてのすべてが“ゴジラ”へと塗り潰されてゆく。

 そのことに気づいたオルガ=ミレニアンは慌てて合一を取り止めようとしたが、その時点では取り返しのつかない事態に陥っていた。

 

「合一……助けて……合一……嫌だ……合一……怪物……嫌だ……合一……幸福……合一……幸福……合一……合一……合一……」

 

 最強無敵の高次元量子流体だったミレニアンだけれど、それも後の祭り。今のオルガ=ミレニアンに残されているのは『偉大なものへの合一』、つまり『ゴジラへ同化する』という本能だけだ。

 ……先ほどはわたし:ミレヴィナ=ウェルーシファを取り込んで、その存在を塗り潰そうとした侵略者ミレニアン。皮肉なことに、今度はミレニアン自身がその恐怖と苦痛を味わうことになった。

 

「合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一、合一……」

 

 かくしてゴジラと同化することしか出来なくなってしまった怪獣オルガ=ミレニアン。

 その最中のことだ、ゴジラの様子が変わり始めたのは。

 

 ――どくん……っ。

 

 それはまるで、萎れていた風船を一気に膨らませてゆく様子にも似ていた。

 まずオルガ=ミレニアンの意識を通じて、わたしはゴジラの体内で底無しのエネルギーが膨れ上がったのを感じた。

 

 ――どくん……どくんっ……ドクン……ッ!

 

 鼓動がうねり、脈を打つ。

 その加速と同調するかのようにゴジラの背鰭が逆立ち、青い光を発しながらメキメキと競り上がった。

 

 ――バ、キィ……ッ!

 

 それは、脈動するたびに。

 ピストルの撃鉄でも起こすかのように、でなければ断罪のカウントダウン、処刑台のメロディを奏でているかのように。

 青い焔を灯したゴジラの背鰭が、音を立てながら次々と浮き上がってゆく。

 

 ――バキッ……メキッ……ゴキィ……ッ!!

 

 そうして総ての背鰭を逆立てたゴジラ、その姿勢は今や臨戦態勢。ゴジラの憤怒の矛先は不遜にも自分に成り代わろうとしたゴジラもどきの侵略者、オルガ=ミレニアンだ。

 ゴジラの背で、激しい稲妻が迸るのが見える。

 

 ――ジジジッ、バチバチバチッ……!!!!

 

 湯気が沸き立つ。陽炎が揺れる。そして周りの大気が燃え滾る。ゴジラによるエネルギー・チャージは、なおも止まらない。

 ゴジラが背負うチェレンコフ光、青白い輝きはやがて灼熱の赤へと変わり、ゴジラを丸呑みしている宇宙怪獣さえも丸ごと呑み込んでゆく。

 

「…………ッ!?」

 

 オルガ=ミレニアンは恐怖を感じたが、生存本能さえもゴジラ細胞のそれへと塗り替えられてしまった今、もはや逃げ出そうと考えることすら出来なくなってしまっていた。

 かつて高度宇宙知性ミレニアンだったものの名残が、絶望の悲鳴をあげていた。

 

「バ、バカな……たった一匹の獣ごときに我々が……なんだ………なんなのだおまえは……ゴジラ……!」

 

 そしてエネルギーチャージが最高潮に到達したその刹那、たしかにわたしは“神の声”を聴いたのだ。

 

 ――光あれ(Fiat lux)、そしてくたばれ、このクソ野郎。

 

 プライマリ点火、爆縮、そして炸裂。

 刹那、怒涛の勢いで押し寄せてきたのは、精神の回路を全ショートさせてしまうかのような核爆発の衝撃。

 その余波を受け、わたしとオルガ=ミレニアンのあいだにあった精神感応の経路、そのパスが瞬時に焼き切られる。

 

「…………っ!」

 

 それと同時にまばゆいショックで意思を吹っ飛ばされ、わたしはその場で意識を失った。

 

 

 オルガ=ミレニアンに呑み込まれながら、放射熱線の発射準備を始めたゴジラ。

 

「退避だっ、退避しろっ!」

 

 ユウキのおっさんに言われるまでもなく、僕らは即座に反応した。遠巻きに眺めていた現状からさらに離れ、ゴジラとミレニアンから可能な限り距離を稼ぐ。

 逃げる僕らに、オムライザーによるカウントが始まる。

 

「ゴジラの体内放射電磁パルス、臨界点を突破! まもなく起爆します……!」

 

 5,4,3,2,1,ゼロ。そして炸裂する、爆熱の閃光。

 宇宙怪獣オルガ=ミレニアンの体内から発射された、ゴジラの放射熱線。その威力はかつてないほどのものだった。

 

 ――――――――――…………ッ!!

 

 天まで巻き起こる灼熱の爆風と壮絶な爆炎。巨大なキノコ雲が立ち上がり、膨大な噴煙を巻き上げながら辺り一帯を根こそぎ吹き飛ばす。

 その後辺りに立ち込めたのは、数メートル先さえ見通せぬほど分厚い粉塵のベール。大爆発の余波で、東京の街が闇へと落ちる。

 

「おいAIっ! ゴジラは、ゴジラはどうなったんだっ!?」

「ただいま観測中です、少々お待ちを……!」

 

 せがむユウキのおっさんにオムライザーが答えた直後のことだ。

 

 

 濃厚な闇の奥。明滅している、茨の背鰭。

 

 

 その光に薙ぎ払われるように粉塵の濃霧が晴れてゆき、徐々に見慣れた立ち姿が浮かび上がってくる。長い尻尾に逞しい手足。獰猛、凶悪、破壊の権化を形にしたようなシルエット。

 その名を誰かが呟いた。

 

「ゴジラ……!」

 

 ゴジラと宇宙怪獣による高次元怪獣プロレス、その最後に立っていたのはゴジラの方だ。

 それはいわゆる体内放射。きっとミレニアンの体内から、放射熱線のエネルギーを破裂させたのだろう。ゴジラは全身傷だらけだったが、それでも力強くその場に立っていた。

 ゴジラがやったことを端的に言い表すなら、コレだ。

 

「なんて無茶苦茶な野郎だ……わざと自分から喰われて、敵の腹の中からブチかましやがるとはな……!」

 

 そしてゴジラの足元、深く抉れたクレーターの中心で倒れ込んでいるのは宇宙怪獣オルガ=ミレニアンだった。

 ……力無く大地に伏せている恐るべき宇宙怪獣、オルガ=ミレニアン。その巨体は今や隅から隅まで真っ黒焦げ、上半身は深々と抉りとられ、頭部に至っては根こそぎ吹き飛ばされて喪われてしまっている。

 怪獣王ゴジラが繰り出したゼロ距離からの放射熱線発射、その破壊力は言うまでもない。宇宙怪獣オルガ=ミレニアンは即死していた。

 

「……フンッ」

 

 そうやって不機嫌そうに鼻を鳴らしたゴジラは、もはや動かぬオルガ=ミレニアンの死骸を足蹴にして踏み砕いた。

 それからゴジラは空を見上げ、その裂けた口を大きく開きながら、全世界へと向け勝鬨(かちどき)の咆哮を轟かせた。

 

「――――――――――ッッ……!!!!」

 

 天地を揺るがすゴジラの雄叫び。

 あまりに威風堂々としたその覇気にあてられたものだろうか。ゴジラの足元で灰と化したオルガ=ミレニアンの死骸は儚く崩れ、風に吹かれて塵へと消えてゆく。

 そんな光景を目の当たりにしながら、コージの奴はこう呟いていた。

 

「……皮肉なもんだな。ゴジラそのものになろうとして、ゴジラそのものに命を絶たれるなんて」

 

 ……まったく同感だ。

 怪獣至上主義カルトの偽聖女:ミレヴィナ=ウェルーシファが取り憑かれたカルト思想、『偉大なものへの合一』。その妄執の行き着いた果ては、遅かれ早かれきっとこんなものだったのだろう、と僕には思えた。

 それと同時に、背筋に冷たいものを覚える。もし僕が助けに行かなかったら、ミレヴィナちゃんはこんなふうにオルガ=ミレニアンの巻き添えで吹っ飛ばされていたのかもしれない。そう思うと、ぞっとするような心地だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんてことに思いを馳せていたのだが。

 

「……おい、サトー、シンジョウ!」

 

 ユウキのおっさんの怒鳴り声で我へと返った。

 

「おまえら、なにを全部終わったような顔してやがるっ! ゴジラの野郎、()()()()()()()()!!」

 

 それと同時に響き渡る、地鳴りのような壮大な足音。ユウキのおっさんの言うとおり、ゴジラ=スカーフェイスは僕たちMOGERAの方へと向かってきていた。

 バチバチと目の眩むような背鰭の明滅、ひくひくと憎しみで引き攣った獰猛な顔つき。わざわざ言うまでもないかもしれないが、ゴジラ=スカーフェイスは明らかに僕たちMOGERAと戦うつもりのようだった。

 

「ちきしょーゴジラのヤロー! ミレニアンを始末したんだから、素直に帰れよなあ!」

「ゴジラがそんな物分かりの良い奴だったことなんて、今まで一度もねーだろーがよ!」

「たしかになあ!!」

 

 文句を言いながらガチャガチャ操縦桿を動かす僕らだけれど、MOGERAはうんともすんとも動かなかった。

 ミレニアンの重力波ビームをぶち込まれた上に、今のゴジラ=スカーフェイスの放射熱線が引き起こした電磁パルス。それらによる波状攻撃で、駆動制御系が完全にイカレてしまったようだ。

 

「おいAIっ、MOGERAの状態はどうなってる!?」

 

 半ギレ気味に怒鳴りつけるユウキのおっさんの言葉に、オムライザーは電子音をピーピー鳴らしながら懸命に答えた。

 

「ただいま自動修復シークエンスに移行中……修復完了で動けるようになるまで最低でも30分はかかります! 現時点における戦闘続行は不可能です。総員、脱出を推奨します~!」

「脱出だァ~!? バカヤロー、今ここで俺らが逃げたらゴジラは街を踏み潰すぞっ! なんとかしろっ!」

「そんな~、無理なものは無理です~!!」

 

 ……ああ、もう、まったく! MOGERAよう、だらしねえなあ~おまえはっ!!

 心の中で悪態をつくけれど、だからといって状況は好転しやしない。その場に棒立ちすることしか出来ない僕らのMOGERAに向かって、ゴジラ=スカーフェイスの野郎が大地を揺らしながら突進してくる。

 

「衝撃に備えてください、ゴジラと衝突します~!」

 

 オムライザーが悲鳴のような警告を上げた直後、僕らは文字どおり天地が引っ繰り返った。身長50メートル、体重1万トン、ゴジラの巨体が全速力で真正面からぶつかってきたのだ。

 

「「「どわあァァ~ッ!!」」」

 

 受け身も取れずに吹っ飛ばされるMOGERA、そしてコックピット内の僕らも悲鳴を上げながら一緒に引っ繰り返る。

 直後、響いてくる衝撃と超合金装甲のひしゃげる音。

 ゴジラ=スカーフェイスはというと、倒れたMOGERAを足蹴に踏みつけながら背鰭を再び光らせ始めた。そして耳まで裂けたスカーフェイスの大口が、いま再び開かれる。動けない僕らに放射熱線を撃ちこむ気だ。

 

 ――バ、キィ……ッ!

 バキッ、メキッ、ゴキィッ……!!

 ジジジッ、バチバチバチッ……!!!!

 

 ……ああ、死ぬんだ。そう思った。

 そしてごめんよ、ミレヴィナちゃん。結束バンドのライブ、約束したのに行けそうにないや。だけど絶望なんかしないでね、君はせっかく生き残ったんだからさ。君の人生には僕なんかいなくてもきっと素晴らしいことが沢山待ってるんだ……まあこれから死ぬ奴が何言っても、って話かもしれないけどさ……。

 そんなふうに、心の中で詫びていた時のことだ。

 

 

 遠くの空から、飛行機の音が近づいてきた。

 

 

「何の音だ……?」

「はい、レーダー解析中……解析出ました、ドッグファイターです! 機体コード不明、機種名は……『震電(シンデン)』です!!」

「震電だとぉ~?……」

 

 震電(シンデン)という名前に、僕はうっすら聞き覚えがあった。

 ドッグファイター=震電。かつて『大戦』のときに開発されたドッグファイターの新型機で、大戦後のワダツミ作戦で使われたきりで結局実戦配備はされなかった“幻の機体”だ。

 そしてその独特な駆動音に、ゴジラ=スカーフェイスもまた反応した。

 

「…………!」

 

 ゴジラ=スカーフェイスは地鳴りのような唸り声を上げながらゆっくり踵を返し、空飛ぶ震電の方へと振り返ってじっと睨みつけた。つい今しがた殺そうとしていた僕らのことは完全に放っぽったままだ、まるでどうでもよくなったみたいに。

 

「どうなってやがる……!?」

 

 僕らが訳も分からずにいたそのとき、MOGERAのコンソールの通信機から声が聞こえてきた。

 

〈……聞こえますか、MOGERAのパイロット。こちら震電パイロットです〉

 

 その声を、僕は知っていた。その名を思わず声に出してしまう。

 

「シキシマ=コウイチさん……!?」

 

 かつて『団体』の活動で一触即発の騒ぎを起こしかけたワダツミ作戦の英雄、シキシマ=コウイチ。まさか今、震電に乗っているのはあのシキシマなんだろうか。

 僕の言葉に、震電のパイロットも答えた。

 

〈はい、こちらシキシマです。MOGERAの方、大丈夫ですか? だいぶ手酷くやられましたね〉

「シキシマ、だと……?」

「まさか、ワダツミ作戦の……!?」

 

 コージとユウキのおっさんは、流石にシキシマ=コウイチのことを知っていたようだ。さっそくシキシマは話を切り出してきた。

 

〈ノダさんから話は聞きました。ゴジラ=スカーフェイスは()()()()()()

 

 ゴジラ=スカーフェイスを、シキシマが? 思わぬ提案に、僕らはまたしても驚いてしまった。

 ……震電はたしかに凄い戦闘機かもしれないし、シキシマも凄い英雄なのかもしれない。しかし相手はゴジラだ。たった一機の戦闘機ぐらいで、とてもどうにかなる相手ではない。

 

「やる、っていったいどうやって……!?」

〈そこはわたしから説明します!〉

 

 そのとき無線通信に割り込んできたのは、別の男だった。

 モニターに映ったのは白髪の目立つもじゃもじゃ頭に、いかにも人の善さそうな学者風の眼鏡顔。先日の『団体』の活動のときにシキシマと一緒にいた仲間の一人であることに僕は気づき、咄嗟に緊張してしまった。

 とはいえ向こうの方は僕のことに気づいてないか、もしくはどうでもいいのか、気にもしなかった。もじゃもじゃ頭の男は、切迫した表情のまま話を始めた。

 

〈申し遅れました、わたし、巨大生物研究所“巨生研(キョセイケン)”のノダと申します。挨拶は抜きに、ゴジラ=スカーフェイスはシキさんが海まで連れてゆきます!〉

「どーゆーこった?」

 

 ユウキのおっさんの質問に、ノダは答えた。

 

〈ゴジラ=スカーフェイスはかつてワダツミ作戦で、シキさんの乗った震電に倒されました。ゴジラ=スカーフェイスはしぶとく、そして執念深い奴です。ヤツがそのことを覚えていれば、今度は人間の街ではなくシキさんの震電を狙うはずです!〉

「なるほどな……で、やっこさんを海まで連れていったらどうする?」

〈Gフォースの無人(ドローン)部隊がヤツの気を惹きつけ、沖合まで誘導します! ゴジラ=スカーフェイスは宇宙怪獣との戦闘で既に疲弊しています、そのまま無人部隊の物量で押せば引き下がるでしょう……!〉

「……わかった」

 

 ノダの説明をユウキのおっさんは了承しつつも「……だがなシキシマさんよ、」と付け加えた。

 

「くれぐれも無理はするんじゃあねーぞ。俺たちが不甲斐ないせいで死人が出たなんて言ったら、たまったもんじゃあねえからな」

〈…………。〉

 

 しばしの沈黙のあと、シキシマは答えた。

 

〈……大丈夫です。俺にも妻と子供がいますから〉 

 

 そう言って通信を打ち切るシキシマ。そのタイミングを待ち構えていたかのように、ゴジラ=スカーフェイスも動き出した。

 

「―――――――ッ!!」

 

 歪に抉れた口元を獰猛に歪めながら、おぞましい雄叫びを轟かせるゴジラ=スカーフェイス。その視線の先は、空を舞う震電だ。

 

「あいつ、やっぱり震電のことを……!」

 

 もはやゴジラ=スカーフェイスの眼中に、シキシマの震電以外のものはないようだった。MOGERAも街ももはや興味なし、狙うはただ一点、頭上を挑発するように飛ぶシキシマの震電だ。

 逞しい腕を伸ばし、長い尻尾を振り回して暴れるゴジラ=スカーフェイス。その一撃一撃がビルをも突き崩す破壊力。もしも直撃すれば、ドッグファイター一機なんて羽虫を潰すように叩き潰されてしまうだろう。

 

〈…………っ!〉

 

 けれどそんなゴジラ=スカーフェイスの爪も牙も、シキシマの震電には届かなかった。

 シキシマの操縦は、まさに猫をからかう蝶や蜂のよう。目と鼻の先、脇の下、尾の隙間、それらのスレスレへと肉薄し、それでいてつかず離れずの距離を保つ。

 ゴジラ=スカーフェイスも放射熱線を使うタイミングを探っているようだが、距離が近すぎて使いあぐねているようだ。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

 再びゴジラ=スカーフェイスが、雄叫びを挙げた。

 ゴジラ=スカーフェイスの尾が思いっきり振り上げられ、地面へと叩きつけられた。激烈な衝撃波が広がり、アスファルトが波打つ。まるで苛立ちを爆発させたかのようだ。

 その衝撃を避けるように、シキシマの震電が華麗に空を舞う。空中で急旋回しながらシキシマの震電は低空飛行へと移行、ゴジラ=スカーフェイスがその巨体を引きずるようにして追いかけ始める。

 そんな光景を眺めがら、ユウキのおっさんは呟いた。

 

「……シキシマさんとやら、なかなかイイ腕してるじゃあねーか」

 

 ユウキのおっさんが言うとおりだ。飛行機については素人である僕から見ても、シキシマの操縦スキルは卓越したものだった。

 放射熱線を使わせない程度の接近戦を維持しつつ、それでいてゴジラ=スカーフェイスをさりげなく海の方へと引き寄せてゆく。並大抵のウデで出来る技じゃあない。

 まさに息ぴったり、まるでダンスみたいだ。

 そんなシキシマとゴジラ=スカーフェイスの熾烈な攻防を眺めながら、僕は呟いた。

 

 

「すげえ、これが本物の英雄(ヒーロー)……!」

 

 

 そうやって海へと帰ってゆくゴジラを、僕らは静かに見送っていったのだった。

好きなキャラクター

  • サトー=キヨシ
  • ミレヴィナ=ウェルーシファ
  • シンジョウ=コージ
  • サエグサ=ミキ
  • マルメス=オオクボ
  • シキシマ=コウイチ
  • ユウキ=アキラ
  • ミレニアン
  • ゴジラ=スカーフェイス
  • オムライザー
  • 弁護士
  • マリ=カエラ
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