怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~   作:余田 礼太郎

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11、MOGERA Ready To Go ~『ゴジラVSスペースゴジラ』より~

 街に襲来した巨大円盤と、そいつが繰り出す触手攻撃、そしてそれらの脅威から僕を救ってくれた巨大ロボMOGERA。それを運転していたのは思わぬ人物たちだった。

 

「コージ、それにユウキのおっさん!?」

 

 MOGERAに乗って現れたのはGフォースの現役隊員であるシンジョウ=コージ、それからもうひとりはユウキのおっさんこと〈ユウキ=アキラ少佐〉だった。

 ユウキのおっさんは、かつての『怪獣大戦争』において僕とコージの上官だった人だ。ユウキのおっさんと言えば根っからの叩き上げ軍人だからまだGフォースにいるだろうとは思ってたけど、まさかこんなところで出会うとは。

 そんなユウキのおっさんは、往年と変わらぬぶっきらぼうさで不機嫌そうに答えた。

 

「おっさんじゃねえ。サトー、オマエもいい加減イイトシなんだから敬語くらい覚えろ」

「う、ウス、すいません……」

 

 僕との旧交を暖めるのも早々に、ユウキのおっさんはMOGERAの操縦席から遠くを睨んで言った。

 

「それにしてもいったいなんだ、ありゃあ。スピルバーグの『未知との遭遇』、『宇宙戦争』、それとも『ID4』の円盤か?」

 

 ユウキのおっさんの呟きに、副操縦席のコージが口を挟む。

 

「……どれも例えが古いですよ、ユウキさん」

「うるせえ。とにかく、ありゃ何だ?」

 

 大都市のど真ん中に聳え立つ高層ビル、街中でのたうつ触手、そしてセントラルシティタワーの頂上に鎮座する巨大円盤。それらを眺めながらのユウキのおっさんのぼやきに、MOGERAのコンソールから音声インターフェースが答えた。

 

「はい、ただいまモナーク・データベースを照合中、少々お待ちを……確認できました~。あの飛行物体は『怪獣黙示録』の最盛期、かつてトルコのイズミールで甚大な被害をもたらした古代怪獣オルガ=ミレニアンの類縁と推測されます」

「古代怪獣だァ~? バカ言え。あんなのどっからどうみても宇宙から来た空飛ぶ円盤、SF映画のUFOにしか見えねえぞ」

 

 ユウキのおっさんからの極めて率直なツッコミにも、AIは律儀に反論した。

 

「お言葉ですが、ユウキ少佐。古代怪獣ミレニアンについては不明点も多い怪獣ですが、今回の出現ポイントは日本海溝、モナークの見解によれば『遥か太古に地球へ飛来した、宇宙からの侵略者』だとする説が最も有力です。それにそもそもUFOとはUnknown Flying Object:未確認飛行物体の略称になります。正体が未確認かつ飛行している物体であれば、たとえ宇宙由来でなくても十二分にUFOかと~」

「……なるほどな、古代怪獣にして宇宙怪獣にしてUFOってわけか。これまたケッタイな野郎が来たもんだ」

 

 さらにAIの分析は続いた。

 

「リンケージ・トレーサーを使って、近隣で報告されている不正アクセスの履歴を解析しました。あのセントラルシティタワーを中心とした半径6キロ四方、ありとあらゆるコンピュータシステムが不正アクセスにより機能不全を起こしています。その発信源はいずれもあのセントラルシティタワー、おそらく古代怪獣ミレニアンはあのタワーのメインフレームへ侵入し、インターネットへアクセスして地球人類側の情報を集めているものかと~」

「へっ、怪獣のくせにハッキングかよ。宇宙から来た古代怪獣とかいうわりには、俺よりよほどハイテクじゃあねーか」

 

 まずは情報収集、古今東西における戦いの基本だ。宇宙怪獣だか古代怪獣だか、まあどっちでもいいが、とにかく侵略者ミレニアンは今も着々と僕たち人間世界への侵略準備を進めているらしかった。

 そんな現状を前に、ユウキのおっさんは忌々しげに吐き捨てる。

 

「ったく、古代怪獣だかインベーダーだか知らねえが、王様気取りであんなところにどっかり腰据えやがって……おい、AI」

「はい、なんでしょう~、ユウキ少佐」

 

 ユウキのおっさんは、ふと思いついた様子でAIに命じた。

 

「ランドモゲラーの操作系を、大戦当時の地底戦闘車モゲラと同じに出来るか? スターファルコンは別物だが、ランドモゲラーは昔のモゲラと同じだろ?」

「インターフェース系の調整ですね! かしこまりました、少々お待ちを~……」

 

 そうやって何事かを思いついたかのように、テキパキと準備を進めてゆくユウキのおっさん。

 ……この人は昔からそうだ。勘でガンガン仕事を進めてゆくもんだから、周りにいる部下の僕らはそれについてゆくのに必死だった。

 

「ユウキさん、いったいなにを……!?」

 

 怪訝なコージに構うことなく、ユウキのおっさんは何気ない調子で驚くべきことを言い出した。

 

「戦力増強だ。サトー、おまえ、まだモゲラに乗れるか?」

「……!」

 

 ユウキのおっさんによる、僕への問いかけ。ユウキのおっさんはこの僕に『一緒に戦わないか』と誘ってくれているのだ。

 僕は一瞬、下手な冗談でも言われてるのかと思ったが、ユウキのおっさんはそういう人じゃないことを即座に思い出した。怪獣との戦いにおいてこの人はマジだ、いつだって。

 しかし、そこですかさず口を挟んだのはコージだった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、ユウキさん! キヨ……じゃなくてサトーはもうGフォースを辞めた身、今は民間人です! それをいきなりMOGERAに乗せるなんて……!」

 

 コージの言っていることはGフォースの軍人として尤も、まさに正論だ。怪獣の脅威から民間人を守るはずのGフォースが民間人をパイロットにしようとするなんて前代未聞、まさに組織としての沽券にかかわる。

 

「知るか、んなもん」

 

 だけど、ユウキのおっさんは、そんなの些事だと言わんばかりにばっさり切って捨てた。

 唖然とする僕らに、ユウキのおっさんは言った。

 

「今回の相手は宇宙怪獣だ、AIなんかじゃあなくてもっと腕のいいホンモノの操縦士が必要になる。それにコパイロット(副操縦士)AIってのはどうも性に合わん。シンジョウ、おまえだってコパイロットAI導入には不満があったろ?」

「そ、それは、そうですが……」

「それになにより、このMOGERAの艇長である俺の判断だ。文句があるならオマエが降りろ」

「…………っ」

 

 コージを黙らせたあと、ユウキのおっさんは僕へと振り返って再び問いかけた。

 

「あとはサトー、おまえの意思次第だ。やる気があるなら乗せてやる」

 

 そう言われて僕は、ユウキのおっさんの顔を改めて見直した。

 僕を見定めようとするおっさんの目は――まぁ僕の知るかぎり怪獣との戦いでこの人が“そう”じゃなかったことなんて一度もなかったけども――まさに本気だった。これは僕への同情でもなければ、昔の(よしみ)なんて話でもない。ユウキのおっさんは本当にこの僕、サトー=キヨシの腕を見込んで頼ってくれているのだ。

 そんなユウキのおっさんからの申し出に、僕は、

 

「……わかりました、乗ります!」

「よし、そうこなくっちゃな!」

 

 はっきり答えたこの僕に、ニヤリと微笑みながら応えてくれるユウキのおっさん。相変わらず気持ちのいい人だ、この人は。

 かくしてMOGERAに乗り込み一緒に戦うことになった僕、サトー=キヨシ……と、その前に。僕にはやるべきことがあるのだった。操縦席に就くより先に、僕は隣の操縦席にいるコージの前へと立つ。

 そして、

 

「……悪かったよ、コージ」

「……!」

 

 思いきり頭を下げた。オトコとしてのケジメだ。これを済まさないまま一緒に戦うなんて、どだい無理な話だろうと思うしね。

 驚いた様子で息を呑むコージに、僕は言うべき言葉を続ける。

 

「コージ、おまえは僕のことを心配してくれたんだよな。僕が間違ってた。あの『団体』の奴ら、やっぱりおまえの言うとおり碌でもない奴らだった。おまえの言うことを素直に聞いとけばよかった。ミキちゃんにも今度謝らせてくれ。ホントにごめんな」

「…………。」

 

 僕は真っ直ぐ頭を下げているから、今、コージがどんな表情をしているのかなんてわからない。ただ、僕の謝罪を黙って聞いてくれていることだけはわかる。あとはコージが受け容れてくれるかどうかだけだ。

 ……そして僕はコージの返事を待った。それこそ10秒も、20秒も待ってみた。しかし、いつまで経っても返事がない。

 あまりに長すぎる沈黙に耐えかねて、僕がおそるおそる頭を上げたその時だ。

 

 ――パンッ!

 

 僕の頬に、鋭い痛みが走った。コージの奴が僕をビンタしたのだ。僕が見上げると、コージは鋭い目つきで僕を睨んでいた。

 

「……こないだおまえが押し付けていった喫茶店の代金、いつか絶対返せよ。それでチャラにしてやる」

 

 コージはそれっきり、僕に何もしてこなかった。このビンタがコージなりのケジメ、返事ということなのだろう。

 それからコージは口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべ、操縦桿を握り締めながら言った。

 

「さあ、いい仕事しようぜ、キヨ!」

 

 ……ああ、オーライだぜ、コージ!

 僕もそれに応えて隣の操縦席へ着き、操縦桿を握った。これで準備万端、戦う用意はオーケイだ。

 そんな中、ユウキのおっさんが不思議そうに口を挟んできた。

 

「なんだおまえら、ケンカでもしてたのか?」

 

 ……この人のこういう大雑把で無神経なとこ、本当に凄いよな。まあ嫌いじゃないけどさ。

 

「いや、あの、その……」

「ええ、まぁ、ちょっと……」

 

 至極答えにくそうにしている僕らを、ユウキのおっさんは怪訝な顔で見ていたけれど、「……まあいい」と気を取り直す。

 眼光鋭いその表情はただのおっさんの顔じゃない。百戦錬磨の勇士にしてスーパーロボットMOGERAの艇長、ユウキ=アキラ少佐の顔つきだ。

 

「気が済んだならさっさと仕事にかかるぞ、野郎ども」

「「了解っ!」」

 

 さて、MOGERAのカメラが捉えた映像へと意識を集中させる。高層ビルの頂上に君臨するミレニアンの円盤と、それを取り囲むようにのたうつ無数の触手たち。まるで巨大なタコの化け物が、大都市のど真ん中を占領しているかのようだ。

 そんな光景を目の当たりにしながら、ユウキのおっさんは「いいか、野郎ども」と僕らに言った。

 

「俺はスターファルコンであの鬱陶しいクソ触手どもを引き付ける。シンジョウ、サトー、おまえらはランドモゲラーで、ヤッコさんの足元に殴り込みだ。逃げ遅れた民間人を回収したうえで、あのクソ円盤を根こそぎ引っ繰り返してやれ」

 

 ユウキのおっさんからの作戦指示を受け、僕とコージも操縦桿を握り締め、声を揃えて堂々と答える。

 

「「了解っ!」」

 

 そしてMOGERAはセパレーションをスタート、つまり分離変形を開始した。

 流線型の各部部品が組み替わり、切り離された上下半身がそれぞれ別の役割に適した形へと変わる。

 下半身は宇宙空間だって飛べる無敵の宇宙戦闘艇、スターファルコン。上半身は往年のモゲラから進化した最強の地底戦闘車、ランドモゲラーに。

 

「いくぜ、キヨ!」

「オーライだぜ、コージ!」

 

 そしてコージと僕はランドモゲラーを駆り、地底を掘り進んでゆく。目指す先はミレニアンが鎮座するセントラルシティタワーだ。

 その最中、MOGERAのAIが僕に挨拶してくれた。

 

「申し遅れました~、サトー=キヨシ元曹長。改めましてワタクシはナラタケ=エンジン4.5ベースのMOGERA汎用目的戦術支援コミュニケーション・コパイロットAI:Omni-E-LY2A(オムニ・イ・ライザ)と申します。お気軽に〈オムライザー〉とお呼びください~」

 

 そう言いながら画面の中でちょこちょこ動き回る、デフォルメされたモグラのマスコット。見た目が可愛らしいのもあるが、言動もAIというわりにはとても剽軽で、なんだか憎めない雰囲気がある。

 

「へー、なかなか可愛いじゃん」

 

 僕は素直に感想を述べるのだけれど、隣のコージは不満げな顔でぶつくさぼやいていた。

 

「Gフォースがスカウトしてきたノジマとかいうハッカーに作らせたらしいんだが、こいつがなかなかクセ者でな……」

「なにを仰います、シンジョウ少尉!」

 

 コージが文句を垂れた途端、オムライザーは反論した。

 

「ワタクシはただお役目を果たしているだけではありませんか! なにが問題で?」

「ああ、問題はオマエの余計なおしゃべりを黙らせる方法がないことさ」

「そんな、ヒドイです! ワタクシのようなスバらしい高性能AIを悪く言うと呪われますよ~!」

「AIのくせに呪いとはえらく前時代的だな……具体的にはなんだ?」

「具体的には(しゃく)、夜泣き、(かん)の虫、冷え性……など?」

「なんでそこ疑問系なんだよ」

「そりゃ呪いですから。何が起こるかわからない方が恐ろしいでしょう~?」

 

 『スバらしい高性能AI』と謳うわりには、やけに小物臭い文句を並べたてるオムライザー。その見苦しくもどこかユーモラスな振る舞いを目の当たりにしながら、コージは肩をすくめていた。

 

「……とまぁ、こんな感じでピーチクパーチク口答えしやがるんだ」

「あはは、面白いじゃん」

 

 と、雑談している最中のことだった。

 不意にランドモゲラー車内に警報が鳴り響き、即座にオムライザーがアラートを通知した。

 

「日本ゴジラ予知ネットから通達! 太平洋公海上、日本沿岸にてゴジラ出現を検出! 進行方向を予測中……向かっているのはセントラルシティタワーです~!」

「ゴジラ、だと!?」

 

 キングオブモンスター、水爆大怪獣ゴジラ。『怪獣黙示録』が始まって以来、ずっと僕たち人類を脅かし続けてきた恐るべき脅威。

 それが今、ここに向かってきている。

 

「Gグラスパーがゴジラを捕捉、今、映像に映します~!」

 

 そう言ってオムライザーがモニターに映した映像、それは海上で迎撃部隊と戦うゴジラの姿だった。身長50メートル、体重1万トン。骨の髄まで焼け焦げたかのように真っ黒な、ゴツゴツの岩肌。何年もかけて育った牡蠣(かき)の殻のように層を成す、三列の背鰭。大蛇を思わせる長い尻尾に屈強な体格。

 ……だけどこのゴジラ、なにかが違う。そう直感した。

 太平洋の大海原、そのド真ん中でボカスカ撃ち合うゴジラとGフォースの大艦隊。見慣れた光景ではあるはずなのだが、このゴジラについてはかつて『怪獣大戦争』で出会ったゴジラともどこか違う、そんな禍々しい雰囲気があった。というかまるで別人だ。

 他方コージはというと、このゴジラについてなにか思い当たる節があったらしい。

 

「あの顔の傷、まさか……おいオムライザー、あのゴジラの個体識別を頼めるか?」

「少々お待ちを、シンジョウ少尉~!」

 

 コージの要請を受け、オムライザーがデータを検索し始める。

 

「……はい、確認できました~。あのタイタヌス=ゴジラはモナーク・データベースにおける個体識別名〈ゴジラ=スカーフェイス〉と身体的特徴が90.1パーセント一致しています」

「スカーフェイス?」

 

 オムライザーとコージの会話を踏まえて見直してみると、言われてみればこのゴジラの身体のところどころには焼け爛れたような傷跡があった。

 特に酷いのは顔の左側だ。左目は完全に潰れて白濁しており、その下の頬は奇形のような牙が無数に生え、深く抉れたグロテスクな様相になってしまっている。傷のある顔、まさにScar face(スカーフェイス)である。

 オムライザーによるデータ解析は続いた。

 

「顔を始め、全身の形態が9パーセントから10パーセントにかけて変化していますが、これはオペレーション=ワダツミでの負傷が未だ癒えておらず、再生プロセスを完了していないことによる修復エラーと推測されます。その他の身体的特徴は過去に確認されたゴジラ=スカーフェイスのデータと完全に一致、同一個体です」

「やっぱりそうか……っ!」

 

 オムライザーから回答を受け、コージは固唾を呑んだ。そんなコージの様子からすると、このスカーフェイスと呼ばれるゴジラにはなにか()()()でもあるのだろうか。

 

「おいコージ、あのゴジラは何なんだ? 怪獣大戦争のとき、ゴジラにあんな顔の傷は無かったはずじゃ……?」

「……ああ、キヨは大戦のすぐあとにGフォースを辞めたから知らないんだったな」

 

 そのように前置きしてから、コージは僕に説明してくれた。

 

「〈ゴジラ=スカーフェイス〉は大戦のあとに見つかったゴジラの別個体、それもとびきりに凶暴でGフォースですら手に負えなかったヤバイ奴だ。民間主導のワダツミ作戦で撃退されてからは地下空洞の巣穴で大人しくしていると聞いてたが、まさかまた上陸してくるとは……っ!」

 

 民間主導のワダツミ作戦、そういえば『団体』での『活動』のときに会ったシキシマ=コウイチが参加していた奴だ。してみると、かつてシキシマが撃退したというゴジラはこのスカーフェイスのことだったのかもしれない。

 

「ゴジラ=スカーフェイスは現在Gフォースの即応チーム、スーパーXⅡを旗艦とする無人ドローンメーサー部隊が迎撃中です。しかし突破されるのは時間の問題かと~……」

 

 ……ミレニアンばかりじゃなくて、ゴジラもやってくる。そうなればまもなくここは戦場になるだろう。そうなる前に、街の人たちを救出しなくては。

 そうこうしているうちに、僕らのランドモゲラーは目的地へと到着した。

 

「まもなくセントラルシティタワー直下、地下フロアへ到達です!」

「キヨ、衝撃に備えろ、このまま突っ込むぞ!」

「わかったッ!」

 

 オムライザーのアラートに僕らが応えたその直後、僕らのランドモゲラーをズシンと衝撃が襲った。

 僕らを乗せた地底戦闘車ランドモゲラー。それがとうとう、セントラルシティタワーの地下フロアへと辿り着いたのだ。

 

「地下フロアへ到達、熱源を探知! 逃げ遅れた市民と推定されます!」

「キヨっ、ビルを崩さないように気を付けろっ、中には人がいるんだからなっ!」

「オォーラーイッ!」

 

 コージの指示に従い、僕はランドモゲラーを操縦した。ドリルの回転速度、グラインダーの振動数、キャタピラの回転スピード、それらが巻き起こす衝撃と伴って崩れ落ちるであろうビルの瓦礫たち……ランドモゲラーを中心として巻き起こるそれら全てをイメージし、僕は細心の注意で操作してゆく。

 そして地下フロアに到達した刹那、僕は即座にランドモゲラーを停車。ビルを崩してしまうギリギリのところで動きを停めた。

 ……ふー。久々だからどうなるかとも思ったけど、昔取った杵柄だ、なんとかなった。

 そんな僕の操縦を見て、コージが呟いた。

 

「この巧みな制動……相変わらずイイ腕してるぜ、キヨ」

「そりゃどーも。就活じゃ全然役に立たなかったけどね」

「ぶつくさ言うな、褒めてんだから」

「へいへい」

 

 そして後部貨物エリアのハッチを開けて降り立つと、地下フロアの隅に縮こまっていた人たちが駆け寄ってきた。地表の一階はどうやらミレニアンが着陸した拍子に崩れて塞がってしまい、已む無く地下まで逃げてきたらしい。

 

「た、助けてくれぇ!」

「怪獣が、宇宙怪獣がぁ!!」

 

 悲鳴を上げながら我先にとばかりに次々と駆け寄ってきたのは、『団体』の人たちだった。皆『団体』で見知った顔ばかりだ。つい先ほど僕を仲間外れにして『団体』から叩き出したことなんか、皆すっかり忘れてしまったらしい。

 ただその一方で、此処にいるべき人が足りないことに僕は気づいた。

 

「ミレヴィナちゃん……聖女様はどうした?」

 

 『団体』の中心人物でありリーダー格であるはずの“聖女様”、ミレヴィナ=ウェルーシファ。ここに居合わせた『団体』の人たちは一人残らず知り合いだったけれど、ミレヴィナちゃんの姿だけはどこにも見当たらなかった。

 僕が問い詰めた途端、『団体』の連中は後ろめたそうに渋々答えた。

 

「聖女様は、『宇宙知性に合一する』とかなんとか言って宇宙怪獣と……」

 

 ……宇宙知性への合一。さっきミレヴィナちゃんが言ってた奴だ。無学な僕にはよくわからないが、ミレヴィナちゃんによればそうやって怪獣を呼び寄せることで『天国』に行けるのだという。

 そしてミレニアンがこのビルの上に現われたのだって、きっと偶然なんかじゃない。ミレヴィナちゃんが『団体』のオルカを使って、ここまで呼び寄せたものに違いなかった。

 ってことは、つまり。

 

「あんたたち、ミレヴィナちゃんを見捨ててきたのかよっ!?!?」

 

 僕からの詰問を受けて、『団体』の人たちは途端に言い訳めいた口調で捲し立て始めた。

 

「ち、ちがう! 聖女様、いや、あの女が自分から残ったんだ!」

「怪獣が来たのだって俺らじゃない、あのイカレ女が勝手に呼び寄せたんだ!」

「そーよそーよ! まさか本当に宇宙怪獣を呼び出すなんてっ……!!」

 

 ……なあなあ、おいおい。あんたたちこそ怪獣至上主義団体じゃあねーのかよ。たしかにオルカを使ったのはミレヴィナちゃんだが、そもそもそれを手に入れたのはあんたたち『団体』だ。なのにミレヴィナちゃんに全部なすりつけるとか、ホント好いご身分だなクソどもが。そんなイヤミも出掛かったけど、今はそんなのどうでもいい。

 僕らが内心で呆れている中、『団体』のメンバーたちの不満の矛先は僕らへと向いた。

 

「そんなことよりさっさと助けろよ、Gフォース! おまえらを税金で喰わしてやってるのは、俺たち一般市民だぞ!!」

「あんなイカレ女なんか放っといて、いいから早く市民の俺たちを避難させろ!!」

「そーよそーよ! 何のために、アンタたちみたいな血に飢えた役立たず暴力人間の野蛮人どもを生かしてやってると思ってるのよっ!?」

 

 そうやって僕らを悪し様に罵りながら助けを求める『団体』のメンバーたち。その浅ましい醜態を眺めながら、僕は思った。

 

「……ミレヴィナちゃんの言ったとおりじゃねーか」

 

 最初の頃は親切で、優しくて、素敵な理解者の集まりのようにさえ思えた『団体』の人たち。

 けれど実のところその本性は、一皮むけばミレヴィナちゃんの言ったとおり『視野狭窄の自己中』でしかなかった。そうやって自分たち以外の世の中を逆恨みして、勝手に絶望して、周りのすべてを巻き込んで怪獣を呼び寄せた挙句、いざ本物の怪獣が来たらこの有様。こんな下劣なクズどもからチヤホヤ持て囃されて喜んでいたかつての自分が、僕はなんだかとっても恥ずかしい。

 そんな僕よりも先にキレたのは、コージの方だった。

 

「おい、おまえらっ……!」

「コージ」

 

 あまりの身勝手さにコージがカッとなりそうだったので、僕はすかさず止めた。

 ……シンジョウ=コージ。一度は喧嘩別れした僕なんかのために、こいつは此処まで怒ってくれている。コージは本当に善い奴だと思う。

 だけどね。僕は言った。

 

「やめとけ。おまえはGフォースの隊員、こんな人たちでも守るのがおまえの仕事だろ?」

「で、でも……」

 

 そこで僕は、いつかどこかで誰かさんから聞かされた言葉を、そっくりそのまま口にした。

 

「こんな奴ら、おまえが殴ってやる価値もねえよ」

 

 かくして逃げ遅れた『団体』の人たちをランドモゲラーの貨物エリアへなんとか詰め込み、避難の準備を整えた。貨物エリアはぎゅうぎゅう詰めで窮屈そうだが、背に腹は変えられないしこれくらいは我慢してほしい。

 その片手間で、僕はオムライザーに訊ねた。

 

「なあオムライザー、こいつにはバイクとか積んでるか? 空を飛べるホバーバイクだとなおイイんだけど……」

 

 僕からの質問に、オムライザーは意気揚々と答える。

 

「はいもちろんですとも、サトー元曹長! 本機には局地偵察用の設備として『ホバートライク』を積載しております~」

 

 そう言ってオムライザーがコンソール画面に映し出したのは、前二輪の三輪車(トライク)に似たシルエットの航空偵察艇だった。かつて大戦当時によく使われていたホバーバイクによく似ているけれど、こちらは二人乗りが可能なようだ。

 オムライザーは言った。

 

「旧式のホバーバイクから若干の仕様変更はありますが、基本的な操作感は同一になります。具体的な操縦のご支援に関してはワタクシ、オムライザーにお任せを~!」

「ホバーバイクと一緒か……よしっ、じゃあ僕でも乗れるな!」

 

 必要な情報を確認した僕はシートベルトを外した。席を立ちながら、コージへ告げる。

 

「コージ、おまえはこの人たちを連れて先に逃げろ。僕はあとから追い掛けるよ」

「おい、何を言って……!?」

「たのむ、コージ。どーしても、助けに行かなきゃいけない人がいるんだ」

「……!」

 

 この僕、サトー=キヨシがどうしても助けに行かなければならない人。その一言で、コージはすぐさま勘付いた。

 

「それ、まさかあのミレヴィナ=ウェルーシファとかいう……?」

「……ああ、そうだよ。悪いか?」

 

 信じられない、という顔をするコージ。

 だけど僕ははっきり答える。かつてコージとはミレヴィナちゃんのことを巡って仲違いすることになったけれど、今度という今度は言わせてもらう。

 

「……ミレヴィナちゃんはなぁ、スゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子なんだ」

 

 そう、ミレヴィナ=ウェルーシファという人は、バカでアホでマヌケな僕なんかにも優しくて、いつもニコニコ聖女スマイルで受け容れてくれる。本当に優しい女性(ひと)なんだ、あの人は。

 

「だけどたまに弱いところもあるから、僕みたいな奴が支えてあげないといけないんだ」

 

 だけど、そんなミレヴィナちゃんだって完璧超人の聖女様ってわけじゃない。

 『天国』に行こう、としきりに言い張っていたミレヴィナちゃん。きっとあの人の心のどこかにも危ういところや弱いところがあって、その苦しみが彼女をあそこまで追い詰めてしまったんだ。

 だから。

 

「ミレヴィナちゃんは僕の心を救ってくれた。だから次は、僕が彼女を助ける番なんだ」

「おまえ、そこまで……」

 

 僕の真剣な様子に唖然としていたコージだけれど、すぐに気を取り直してこう言った。

 

「……いいか、キヨ。ミレヴィナ=ウェルーシファは、カルトの教祖なんだぞ? 助けたところでまた騙されるだけかもしれないんだぞ? それに……」

 

 ……ったく、相変わらずわかってねーな、コージ。僕は即座に言い返した。

 

「世間を気にして、好いた惚れたができるかよっ」

「……!」

 

 口にしてしまってから気づいたけれど、そういえばこれ、コージ自身が言ったセリフのパクリなんだよな。

 “上司を気にしていい仕事ができるかよ”

 かつての『怪獣大戦争』でGフォース上層部の意向に逆らって怪獣へ立ち向かおうとしたとき、怖気づいちまった僕をコージの奴はこう啖呵を切って尻を叩いてくれたのだ。

 ちょうどそのとき、コンソールの通信機から豪快な笑い声が聞こえてきた。

 

〈……ガハハハッ!〉

 

 僕らの会話に割り込んできたのは、またしてもユウキのおっさんだった。心底楽しげに笑いながら、ユウキのおっさんは言った。

 

〈いい根性してるじゃあねーか、サトー。おまえ、いつの間にそんなオトコになった?〉

「……盗み聞きとはなかなか良い趣味ですね、ユウキさん」

 

 眉間に皴を寄せて皮肉るコージだが、豪放磊落、あるいは無神経の権化みたいなユウキのおっさんは気にもとめない。

 

〈聞こえちまったんだから仕方ねえだろ。それに悪いのは、公開チャンネルで通信をオンラインにしたまま青臭え言い合いしてるおまえらだろうが〉

 

 そうやってひとしきり気持ち良く笑ってから、ユウキのおっさんはコージにも言った。

 

〈行かせてやれよ、シンジョウ! 男一人が惚れた女を助けに行くんだろ? おまえだってまったく身に覚えのねえ話じゃあるまいに?〉

「そ、それは……」

 

 ユウキのおっさんの言葉を受け、コージは咄嗟に口籠った。

 言われてみれば、たしかにそうだ。かく言うコージも、かつてミキちゃんを助けるために命を張ったことがある。コージの野郎だって、とても僕のことを言えた立場じゃねえのである。

 

「…………。」

 

 コージは少し考え込んでから僕へと向き直り、やがて重い口を開いた。僕を見つめるその目つきは、強い覚悟が籠ったもので。

 

「……絶対生きて帰ってこいよ。おまえの葬式なんかゴメンだからな、キヨ」

 

 口では悪し様に言いつつも、なんだかんだで心配してくれるコージだった。

 ……僕ってば、ホント良い友達を持ったよな。そんなふうに心の中で感謝しつつ、僕もサムズアップで応えた。

 

「オーライだぜ、コージ!」

 

 別れの儀を終えた僕はそれからMOGERAの後部荷台、格納スペースへと移った。そこで格納されていたホバートライクを引き出し起動、座席にまたがりながらMOGERAの後部ハッチをオープン、プラズマエンジンを吹かしてホットスタートをかける準備を整える。

 ……向かうべき目的地はわかってる。目指すはこのセントラルシティタワーの頂上、ミレニアンが占拠している屋上階。そこにミレヴィナ=ウェルーシファは今も取り残されている。

 そして僕はヘッドギアを被り、ゴーグルをかけながら急発進。ホバートライクをブッ飛ばすと同時に、僕はオムライザーに声をかけた。

 

「行こうぜ、オムライザー!」

「はい、行きましょう、サトー元曹長!」




オムライザーは大槻ケンヂ率いるバンド「特撮」の楽曲『オムライズ』から。好きな曲なのでいつか使おうと思ってました。

次に読みたい話は?

  • ラストスタンドオブ・ジェットジャガー
  • 魔法少女バトラちゃん
  • ゴジラ学会「エメゴジはゴジラではない」
  • 新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任する
  • ポリコレ姫
  • カネゴンの繭リメイク
  • あの素晴らしい巨神世界をもう一度
  • ガメラのおねえさんとツンデレショタ
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