怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~ 作:余田 礼太郎
その“聖戦”は夕暮れ。
『団体』本部のあるセントラルシティタワービルの最上階、その屋上で行なわれた。
「……我々は、なぜ生きづらいのでしょうか」
集まった『団体』のメンバーたち、その視線が集まる壇上。その頂点に立ちながら、わたし:ミレヴィナ=ウェルーシファはこのように説法を始めた。
「わたしは、皆さんの苦しんでいる姿を見ていると、ときどき胸が痛みます。どうしてこの人たちは生きづらいのでしょう。どうして現代社会は、ヒトを苦しめるシステムばかりで動いているのでしょう。どうしてこの世界では、このような優しくて素晴らしい人たちばかりが苦しまなければならないのでしょう……と」
ちなみにこれは嘘ではないが本音でもない。たしかに『団体』の連中が苦しんでいるのを見ていると可哀想な気持ちになる。こいつらは自分の愚かしさや弱さ、矮小さにも気づかないし、気づいたところで改めようともせず平然と目を逸らす。そうやって死ぬまで地獄の人生を送り続けることになるのだろう。本当に哀れだ。
「本当に正しいのは我々のはずなのに、なぜ我々の方が生きづらいのか。なぜ我々ばかりが
しかし本当のところを言えば『救ってやりたい』と思ったことなど一度も無かった。胸が痛む、優しくて素晴らしい? そんなわけはない、鬱陶しく縋り付いてくるから相手してやってるだけ。むしろ『団体』の連中なんて、わたしにとってはどうなってもいいと思ってすらいるのだ。
「その答えは賢明な皆さんならばもう、おわかりでしょう。それは現代の人類文明が、不自然に不自然を重ねた“悪”だからです」
……まあ、わざわざ言うことでもないから敢えて言うこともないのだが。それを敢えて正直に教えてやる義理も価値も、こいつらごときにはないのだから。
そんな本音はおくびにも出さず、わたしはいつものとおり聖女らしい微笑みを浮かべながら説話を続けた。
「暴力、差別、貧困、環境破壊、そして戦争……この世界が如何に不自然な悪徳で満ち溢れ、そして歪められているか。真に知性ある皆さんにとってそんなことは自明、一目瞭然のことでしょう!」
ここでわたしは語調を次第に強くしていった。
言葉の中身、意味自体はどうでもいい。ここでのわたしの説話はこの『団体』の連中にとって、心地よい旋律と調和を持った美しい音楽でなければならない。
そして“力”のおかげで聞き手の心の機微を読み取れるわたしは、それを奏でることのできる素晴らしいコンダクターでもあった。
「人間が人間のため、家族のため、隣人のため、そしてより大いなるもののためでなく! たかだかカネだのイデオロギーだの組織だの国家だののために働かされ、無理矢理に生かされ、そして食い潰されているッ! この“不都合な真実”を暴きっ! 不自然な仕組みを打破しない限りっ! 真の幸福などあり得ないのです……ッ!!」
わたしが振るう熱弁、その効果は
熱烈な歓声と共に、満場一致の拍手喝采がわたしに降り注ぐ。
「おお……!」
「たしかに……!」
「流石は聖女様……!」
信者たちがざわめく。「ミレヴィナ様~!」と声を挙げて感涙している者までいる。
……まったくもって、馬鹿げている。
自分で言っておいて難だが、こんなのは問題の単純化、ただの詭弁だ。世の中こんな幼稚な料簡でどうにかなるというのなら誰も苦労はしないだろう。
だけどそんなことにも気づかない、こいつらは。
「そうよそうよ!」
「まったく仰るとおりです、聖女様!」
「俺たちは悪くない、国が、世間が、この世界が悪いんだッ……!」
『団体』の連中は揃いも揃って愚か者ばかりだから、この程度の猪口才な演出と薄っぺらな屁理屈でいくらでも騙されてくれる。あまりに上手く行きすぎるものだから、ついついこんなことも言ってやりたくなる……『そんなカスみたいな性根と頭の悪さだから、あなたたちは生きづらいんですよ』と。
まあ、そのような“不都合な真実”なんてものは絶対に教えてやらないが。わたしは素知らぬ顔で説法を続けた。
「ですが、我々は万物の霊長たるヒト型種族、そして魂を持った知性体です。我々は自ら考え、思い、そして選ぶことができる……」
そしてわたしは言葉を切り、神秘的に見えるように計算し尽くした微笑を浮かべながら告げた。
「……あとは、“思索”あるのみです」
わたしは微笑みながら『団体』を一瞥、その場を厳粛な緊張と静寂が支配する。
誰もが黙り込んだまさにそのとき、“儀式”の会場へと駆け込んできた者があった。
「聖女様ぁ~!!」
その場の視線が一点へと集まる。会場の扉を開けたその先、中から現われたのは、
「マルメス代表……?」
複数人のメンバーたちに取り押さえられた『団体』代表、マルメス=オオクボ。
“力”を使うまでもない。いつも人を喰ったような余裕の笑顔がトレードマークのような天性の詐欺師だが、このときばかりはそれらもすっかり剥がれ落ち、心から狼狽しきっているのが窺えた。
……いったい、なんの騒ぎでしょう? わたしが厳かに問いかけると、取り押えているメンバーの中心人物が声を張り上げた。
「マルメス代表は裏切り者でした! 我々『団体』の資産を根こそぎ持ち出そうとしていたんです!!」
その言葉が聞こえた途端、場内にいる『団体』のメンバーたちはいっせいにどよめいた。
なんですって、なんてひどい、あんまりだ……! そんな動揺が広まったのが、伝わってくる。
「ご、誤解ですゥ~!」
『団体』のメンバーの面前へ引っ立てられて、マルメス代表はなおも死に物狂いで言い逃れを試みていた。
「違うのです、皆さん! えっと、これは、これはですねェ……!!」
なにが違うというのだろう。まさに現場を押さえられたばかりだというのに。
状況はわたしもすぐに察しがついた。マルメス=オオクボは、『団体』内の不穏な空気を察知していちはやく足抜けするつもりだったのだろう。しかし余計な欲をかき、『団体』で荒稼ぎしたカネを少しでも回収しようとしたところを見つかってしまった。おおかた、そんなところだろう。
内心で呆れているわたしに、マルメス=オオクボは藁にも縋るような表情で助けを求めてきた。
「これは無実、そう誤解なのです! ホラ、聖女様からもなんとか言ってくださいよォ~!……」
……まったく、無駄な手間をかけさせる。マルメスの馬鹿め、逃げるなら黙ってさっさと逃げ出しておけば良かったものを。
それと同時に、こんな程度の低い小悪党風情から良い様に利用されていた自分自身にも腹が立った。マルメス=オオクボにはこれまでさんざん苦汁を舐めさせられてきた。それをいまさら。
けれど、仕方ない。
「……はあ」
如何にも幻滅したように、そして馬鹿でもわかるほど大仰にため息をついてから、わたしはゆっくり口を開いた。
「お金、ですか。皆さんは、我らが偉大なるマルメス代表が、そのような下劣な振る舞いを本気でするとお思いですか? その程度だったのですか、皆さんの献身の精神は」
「せ、聖女様……?」
恐らく予想とは裏腹であったろうわたしの言葉に、戸惑う『団体』のメンバーたち。何もわからぬ哀れな子羊どもを、わたしは導いてやることにした。
「まだわかりませんか、皆さん。我らがマルメス代表の真の御心、そしてそこに籠められた献身の精神が」
「我らがマルメス代表の、御心……?」
「ええ」
わたしは頷きながら、たった今しがた思いついたばかりの“真理”を話す。
「財産、地位、名誉……今更そのようなものにいったい何の価値がありましょう。これから巨神を中心とする価値の逆転、ニューワールドオーダー、新たなる時代が始まる。まさに今、救済と祝福の日が近づいているというのに!!」
わたしがそう言った途端、『団体』のメンバーは互いに顔を見合わせ、口々に言い合い始めた。
「た、たしかに……!」
「言われてみれば……!」
「そうかもしれない……!」
……たとえ口先だけのデタラメ、ウソっぱちでも、互いに真剣に語り合い、解釈し、信じ込む内にホンモノになる。そんなものだ、真理なんて。
穏やかに、だけど力を籠めて。まさに教え諭すかのような口調で、わたしは続きの“導き”を述べた。
「いいですか、我らがマルメス代表は皆さんを、そしてその献身の心を試しておられるのです。マルメス代表はその身を犠牲にして、わたしたちの怪獣へのリスペクトを惑わすものを取り除いてくださったのです……!」
「おおっ、なるほど……!」
わたしが声を張り上げた途端、『団体』のメンバーたちは一斉に感嘆の声を漏らしてどよめいていた。
……まったく、心底バカげた連中だ。いつもの作り笑顔を繕うまでもなく、笑いが込み上げてきそうになる。あまりに可笑しくて噴き出しそうになるのを懸命に堪えながら、わたしは告げた。
「それとも我らが偉大なマルメス代表がよもや、よもや! 本気でこのような利己的で、不埒で、身勝手で、穢らわしい、最低の裏切り行為に手を染めるはずがないではあーりませんか!!」
……少々やり過ぎたかしら。
わざとらしいくらい芝居がかった台詞だったが、『団体』のメンバーたちは面白いように反応した。
「そうか……」
「そうだったのか……」
「もしかして俺たち、とんでもない過ちを犯すところだったんじゃ……!」
縋り付いてくる『団体』のメンバーたちに、わたしは力強く頷いてみせた。
「ええ。その気づきこそが奇跡なのです。紛れもない、奇跡の証です!」
いったい何を言っているのかわたし自身さえわかってはいないけれど、そんなわたしの善導で、『団体』のメンバーたちは一斉に安堵の溜め息を漏らした。
「ああ、良かった……」
「危なかったなあ……」
「気づけたんだ、よかったなあ……」
さあ皆さん、とわたしは手をかざした。伸ばした指先で指した方向はただ一点、その場でポカンと間抜け顔を晒しているマルメス=オオクボだ。
「我らがマルメス代表のため、『献身』への道を開けて差し上げましょう。我らがグルのことですから、きっと皆さんの模範になってくださることでしょう」
「…………!」
『献身』。
今この場でそのフレーズが真に意味するところを理解できたのは、皮肉にもマルメス=オオクボだけのようだった。堂々と宣言したあとわたしはマルメス=オオクボの傍へ寄り、彼にだけ聞こえるようにそっと耳打ちしてあげることにした。
……これは今まで散々役に立ってくれたことへの餞別。これくらいの“ネタばらし”はしてあげてもよいだろう。
「……これがアナタの欲しかったものですよ、マルメス=オオクボ」
途端、マルメス=オオクボはこれまた面白いように反応した。目を見開き、顔色が真っ赤に充血したかと思うと、このあとの展開に思い至ったのか一気に血の気が引いて土気色になる。
「う、裏切ったな、ミレヴィナ……!」
『裏切る』? さぁ、何のことでしょうねぇ。
わたしは気にせず立ち上がると、素知らぬ顔で『団体』のメンバーたちに告げた。
「たとえどのようなことを言われようとも、我らがマルメス代表の真の心は皆さんと一つ、うわべだけの言葉や振る舞いに決して惑わされてはならないのです。さあ、今こそ試練の時です、皆さんで心を一つにして、献身の道へと進みましょう……!」
わたしの扇動で『団体』の連中は一斉にマルメス=オオクボの方へと押し寄せ、そしてまるで磔刑にかけられるメシアであるかのように彼を担ぎ上げた。
「献身だ!」「献身しよう!」「我らがグルの献身を讃えよう!……」
「い、イヤだ、よせ、やめろ、離せ、やめてくれェェ~~ッッ……!」
そしてマルメス=オオクボは『団体』メンバーたちに担ぎ上げられたまま、どこかへと運ばれていった。
……これで“儀式”の邪魔をする者はいなくなった。これでわたしは心置きなく計画を遂行できる、皆で『天国』に行く計画を。
わたしは静まり返った信者どもへと向き直り、真剣な表情で声をかける。
「さあ、皆さん。ただ祈りを捧げ、奇跡を信じましょう。『献身』の先に我らの偉大なる
如何にも厳かなわたしの言葉を受け、若い信者の一人が興奮気味に声を張り上げた。
「そうだ、祈ろう!」
途端、
「聖女様の言うとおりだ! 怪獣を、巨神を呼ぼう!」
「そしてこの腐った世界に死を!」
「我らに勝利を~っ!……」
どうもありがとう、名も知らぬ愚かな信者さんたち。
そして、わたしは信者どもに背を向け、祈りの祭壇に向けて
「Asmākaṁ, eksiphayā avagrahaṇena nivartya, tasya upadeśānusārī carāmaḥ……」
会場内に響き始めたわたしの聖詠。最初、信者たちは動揺していた。
「こ、これは……?」
「聖女様……?」
耳慣れない異国の言語に、信者たちは困惑していた。知らないのも当然だ、とっくのとうに消え去ったわたしの村の言葉なのだから。
けれど。
「……いや、聖女様のことだから、きっと意味があるに違いない!」
誰かがそう言った途端、皆口々に言い出した。
「そうだ、そうだとも! きっと巨神に捧げる祈りの歌なんだ!」
「だ、だよな! モスラだって歌で呼ばれるじゃあないか! きっとそういう奴だ!!」
「そういえば『インファント島の小美人は、実は日本人とルーツが同じ』って聞いたことがあるぞ! 護国三聖獣の
「皆、聖女様に合わせて祈ろう! 皆で力を合わせるんだ……っ!!」
そのうち誰かが見様見真似で、わたしの唱える聖詠を歌い始める。そして一人、二人と唱える声がコーラスで重なりはじめ、やがて全体を覆う大合唱となってゆく。
「……Rakṣottare bahuṣu, ucchatamāyāmī anantayāmī ca, ektre'pi anantatayā, suvarṇāyāmī antakāle asti, tasya śreyasā abhivardhanti tasya pūjakāḥ samagrāḥ suvarṇāyāmī antakāle vrajanti……」
この〈聖詠〉は、かつてわたしの村で語り伝えられていた古い教えがベースになっている。
……たしかに人間の世界は有限で、いつか滅んでしまうかもしれない。だが互いに助け合う心、『献身』の精神だけは決して忘れてはいけない。それこそがわたしたちの神、ひいては『天国』へと通じる道なのだから……村の教えはそう謳っている。
まあ『団体』の連中ごときカスどもにこの教えの尊さが理解できるとは到底思えないけれど、せっかくなので唱えさせてやることにした。わたしの村で信じられていた真の巨神こと高次元宇宙知性『一つにして無数』。全知全能、至高の存在たるわたしたちの神ならば、惨めで哀れな衆生の空っぽな祈りもきっとお聞き入れくださることだろう。
「……Sarvāḥ pathāḥ suvarṇāyāmī antakāle adhikṛtāḥ santi, asmākaṁ sahakāritayā saha sahacaryā samagraṁ pravartayantu, sa antakāle āgamis̱yati……」
かつて互いに助け合い平和に暮らしていた村、わたしが生きていたあのセカイ、村の人たちが恋焦がれ身命をも捧げた宇宙知性への合一。そこへつながる唯一の道、それこそがわたしの『天国』だ。
聖詠を唱えながら、わたしは信者どもから見えないよう密かにオルカを起動、あらかじめ決めておいたコマンドを入力した。起動したオルカは、ゴジラの生態音をベースにしたメロディを人間に聞こえない音域に乗せ、接続されたスピーカーがそれを全世界へと響かせる。
「……Tathāgatasya metaphīyasya śikṣaṇena anugṛhītāḥ santi, asmākaṁ sahakāritayā saha sahacaryā sahitaṁ, suvarṇāyāmī antakāle ātmasamarpaṇena saha abhyarhayiṣyāmaḥ……」
わたしたちの聖詠は一時間にも及んだ。
会場を異様な熱気と興奮が満たし、共に歌うその只中でわたしと信者どもは一体となる。その在り様こそまさにわたしたちが信じた宇宙知性:一つにして無数、その主たる
「……Gārbetriyamāyā mārgadarśanena astu.」
……そしてガルビトリウムの導きがあらんことを。
やがて聖詠が終わり、三分割の礼も済ませたあとわたしは信者たちへと振り返った。
「………………。」
見れば陽は完全に暮れ、もう夜になっていた。屋上から眺める風景は相変わらずの都市の夜景、眠らない大都会の闇でビルやクルマのライトが絶え間なく明滅しているのが見える。
……オルカは既に起動した、まもなく動きが起こるはずだ。そうやって待っていると、やがて“変化”が訪れる。『団体』メンバーの誰かが声をあげた。
「……おい、あれ!」
その声につられ振り返ると、遠くの空から一つの異質な“光”がゆっくりと現れ始めているのが見えた。
まばゆいばかりの光の塊が、遠く空の彼方からゆっくりと近づいてくる。まるで星が動き出したかのようにその光は徐々に大きく、そして明るくなってゆく。
やがて、光の正体が明らかになってきた。
「あれは、いったい……!?」
まるで銀色の鏡が夜空を漂うように静かに、しかし確実にこちらへと近づいてくる。その表面は滑らかで、一切の継ぎ目も見当たらない。何かしらの動力で浮かんでいるようだが、その動きは極めて滑らかで自然の法則を超越しているかのようだった。
やってきたのは怪獣ではない、頭上に舞い降りたその姿。わたしは呟いた。
「
『団体』が儀式を行う、数日前。
地球連合政府極東方面、CCI∶日本危機管理情報局のミヤサカ=シロウ博士は、極秘裏に日本海溝を調査中に“物体”を発見した。
「なんだ、コレは……!?」
……その“物体”は全長200メートル、重量は推定2万トン。シルエットそのものは亀の甲羅にも似ていたが、まるで台座のようなところへ鎮座しており、海底の隆起にしては極めて不自然で有り得ない構造を持っていた。
さらに調査を進めてゆくうちに、奇妙な事実がいくつも出てきた。
まずその表面を覆う堆積物は、今から6〜7千万年前のもの。それより先は未知の硬い物質で覆われておりサンプルを採ることは不可能だった。なんとか剥がした堆積物だがこれまた未知の分子が多く、辛うじて解析できた部分にも宇宙由来の成分が多量に含まれていた。
内部構造も奇妙だ。透過スキャナーでの検査によれば中身は空洞だったが、密度はあった。硬い岩盤の外殻、その内側は気体か液体か。いずれにせよなんらかの流体がたっぷりと満たされ、常時脈打ち蠢いているようだった。
こんなものが自然にできるわけがない。ミヤサカ博士は確信した。
「これは、宇宙由来のレアメタルかもしれない……!」
ミヤサカ博士が興奮するのも無理はなかった。
日本でCCIが設立され、ミヤサカ博士がその科学部門主任研究員として招聘されたのは最近のことだ。
世界規模の大戦『怪獣大戦争』では直接の被害を免れた日本。しかし数年前の『シン・ゴジラ動乱』においては新種のゴジラであるシン・ゴジラから良い様に翻弄されて対応がすべて後手後手に回り、続く『ワダツミ作戦』でも各国パワーバランスの関係もあって表立って動けず民間へ丸投げ、一度ならず二度までも亡国の危機に晒されたというのに日本政府はその力を発揮しきれなかった。
そういった経緯があってのCCIの設立、そして今回の“物体”の調査は設立以来初めての大仕事だった。CCIの活動範囲は天災・巨大事故・外敵の侵略・テロ・エネルギー問題・国土保全・環境保全など多岐に渡る。もしもこの“物体”が本当に宇宙由来のレアメタルならばまさに世紀の大発見、技術立国日本の面目躍如だ。いつもモナークやGフォースに助けられてばかりでは情けない、我が国も自分の身くらい自分で守れるよう、そしてその科学発展の一助になれれば……。
そんな想いがミヤサカ博士たち、CCIの面々にはあった。
「早速引き揚げて、より詳しく調べてみよう」
ミヤサカ博士の提言で“物体”の引き揚げが決定、CCIはその準備を急ピッチで行なった。
そして迎えた、引き揚げ作業当日。
「引き揚げ用ポッド、投下」
「“物体”へ着底、装着、浮上装置ブイを展開」
「浮上開始、これより引き揚げを開始します……」
……このとき不幸だったことは、3つある。
まず1つめは、“物体”の動力源が光だったこと。発見した探査艇のライト、透過スキャナーのX線、そして引き揚げ準備作業の電灯……“物体”は暗黒の深海をも照らすほどのまばゆい光を、長時間に渡って浴びせられ続けていた。そのために
次に2つめは、人間側の連携不足。功を焦ったCCI上層部は、モナークやGフォースにも独断で引き揚げを決行。このためCCIおよびミヤサカ博士はこの“物体”の正体が貴重なレアメタルなどではなく、実はモナークとGフォースにもデータが登録された“既知の脅威”であることを知らなかった。
そして3つめは、CCIが“物体”の引き上げ作業を開始したのと、『団体』でミレヴィナ=ウェルーシファが“儀式”を行なったのがほぼ同時だったことだ。もしもどちらかのタイミングがズレていたら、あるいはどちらかが行われなければ、きっとこのあとの展開も変わっていた
「浮上速度、急上昇! 予定より速すぎます!」
「浮上装置ブイ、急速な減圧により破裂しました!」
「ぶ、“物体”が、勝手に動いていますっ……!?」
なんだって!?
思わずミヤサカ博士が飛びついた監視モニター、そこにはたしかにブイを押し退けるほどの勢いで急上昇してゆく“物体”の姿が映し出されていた。
そうして浮上してゆく先は、
「ぶつかるぞっ、衝撃に備えろっ!!」
そう言うが早いか、“物体”はミヤサカ博士が乗るCCIの調査船へと衝突した。調査船は激烈な衝撃を伴って、まるで木の葉のように弾き飛ばされる。舞い上がった膨大な水飛沫を浴びながら、ミヤサカ博士たちは振り飛ばされぬように船体へと必死にしがみつく。
「……皆、無事か!?」
幸いにして、調査船はすんでのところで転覆を免れた。船員も無事だ、体を打ちつけて怪我をした者はいるようだが死人はひとりも出ていない。
そしてすれ違い様、ミヤサカ博士は“物体”が積もり積もった堆積物をふるい落としながら海面を発ち、空の彼方へと飛び出してゆくのを目にした。脱皮するように数千万年分の汚泥を脱ぎ捨てた“物体”。その正体は銀の光を帯びた美しい流線形の流体で、ミヤサカ博士にはこの世のものとは到底思えなかった。
それを見上げながら、ミヤサカ博士は呟いた。
「我々は、とんでもないものを引き揚げてしまったのかもしれない……」
けれど、そうやってミヤサカ博士が呆然としていたのは刹那のこと。聡明で堅実な科学者でもあるミヤサカ博士は、即座に気づいた。すっかり日が暮れた空の中、“物体”が向かった先は北北西。つまり日本本土の大都市だ。
日本が、危ない。
ミヤサカ博士はずぶ濡れになりながら通信機へすぐさま取り付き、CCIの本部へと連絡した。
「カタギリ局長ッ、例の“物体”が飛翔しました……!」
タイトルは大槻ケンヂと絶望少女達の楽曲『林檎もぎれビーム!』の基になった“合言葉”から。ベントラ~、ベントラ~。
おまけ:ミレヴィナ=ウェルーシファが唱えてた聖詠の訳文。
我ら、エクシフの啓示に帰し、その教えに従いて生きる者たちよ。
人間は終焉の時を迎えん運命にある。しかし、その前に尽くすことで、我らの文明は未知の怪獣を創り出し、その栄光を知り得ん。
怪獣の頂点には、高次元にして無限の存在、一つにして無数、黄金の終焉がおり、その尊き存在に捧げし者たちは究極の合一たる栄えある終焉を迎えんことができん。
黄金の終焉に身を捧げし者は、永遠の次元に満ち、絶え間なき宇宙知性となりん。これこそが我らの目指す至高の理。
一切の道は、黄金の終焉への献身に通じており、我らは互いに手を取り合い、共に歩むことでその時を待ち望むべきである。
他者に強制せずとも、心にエクシフの教えを宿し、自然の流れに身を委ね、黄金の終焉の導きに従いんことこそが真の道なり。
さすれば終焉の時が訪れんとき、我らは自然にその奇跡に導かれ、栄えある終焉を迎えんことだろう。
メトフィエスの教えに従い、心に秘めし黄金の終焉への愛を深め、共に歩み続けよう。
ガルビトリウムの導きがあらんことを。
次に読みたい話は?
-
ラストスタンドオブ・ジェットジャガー
-
魔法少女バトラちゃん
-
ゴジラ学会「エメゴジはゴジラではない」
-
新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任する
-
ポリコレ姫
-
カネゴンの繭リメイク
-
あの素晴らしい巨神世界をもう一度
-
ガメラのおねえさんとツンデレショタ
-
いいからラドンとガイガンの続き書けよ