怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~   作:余田 礼太郎

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6、偽聖女ウェルーシファのセカイ

 わたしの遠い先祖には、他人の気持ちがわかる特別な“力”があったという。

 

 わたしは、小さな村で生まれた。

 わたしが生まれたのは南アジアの小国セルジナの僻地、地図にも載っていないほどの辺鄙な村だ。

 青い空と雄大な山並、広がる草原で放し飼いにされた山羊と牛たち。豊かな自然に恵まれ、都会から隔絶された田舎の山村。

 その村にはある“伝承”があって、眠る前の寝物語に母がよく話してくれたのを覚えている。

 

「ねえ、ミレヴィナ。わたしたちの村は“星の旅人”様の『献身』によって拓かれたのよ……」

 

 ……遠い昔に天から降りてきたという“星の旅人”たち。遥か彼方の世界からやってきたという彼らは『献身』の精神でもって素晴らしい信仰と数々の叡知を授け、当時未開人だったわたしたち地上の人間を導いてくださった。

 そんな星の旅人たちのことを地上の人々は“天の御使い”として崇めた。そして星の旅人たちは村の女たちと交わり、子を()して、村をここまで発展させてくださったのだ……と、わたしの生まれた村で古くから伝わる『エクシフの宗教』ではそのように謂われていた。

 

 そんな歴史があったので、わたしたちの村では『献身』が大事な価値観として扱われていた。

 特に素晴らしいとされたのは『偉大な者への献身』だ。エクシフの宗教においては、身命を尽くして献身を果たした先でわたしたちは偉大な者と合一し、より上位の存在へと進化できるのだと教えられていた。だから世のため人のため『献身』して毎日を精一杯生きよう、そうしていればちゃんと『天国』に行けるからね……と。

 ……無論こんなのは言い伝え、ただの御伽噺だ。もっと小さい頃はわたしも信じていたけれど、もし事実だったらわたしのルーツは宇宙人とのハーフということになってしまう。

 

 まぁ、そんな話が関係したわけではないのだろうが、わたしは幼い子供の頃からよく『他人の気持ちがよくわかる子だ』と言われてきた。自分自身ではよくわからないのだが、どうもわたしは周りの人の気持ちを読み取るのが他の人よりとても上手いらしい。

 わたしが周りの人たちの気持ちを“読んで”行動する度に、みんな口々にこう言って褒めてくれた。

 

「いつもありがとう、ミレヴィナ」

「とても気が利くね、ミレヴィナ」

「本当に優しい子だね、ミレヴィナ……」

 

 ……特別、優しくしあげているつもりなどはなかった。

 幼いわたし:ミレヴィナにとって、他人の気持ちは“わかる”のが当たり前。周りに都合良く立ち振る舞えばわたしにも都合が良いし、なにより皆から褒めてもらえて(こころよ)い。

 これがわたしなりの『献身』の在り方。幼いわたしにとってはただそれだけの話だったのだが、周りの人にとってそんなわたしの有り様は『とても素晴らしいこと』だったようで、わたしのことを村の人たちは心から大切に愛してくれた。

 今にして思えば気味悪がられるのが当然であろうわたしの“力”も、この地方では極めて珍しいはずの金髪紫瞳のこの容姿のことも、村の人たちはちっとも迫害しなかった。

 

 「ミレヴィナ、おまえの“力”は素晴らしいものなんだよ」牛飼いのおじさんは褒めてくれた。

 「ミレヴィナ、それを正しく使えるおまえは本当に優しい子だよ」近所のおばさんも撫でてくれた。

 父と母に至ってはむしろ「ミレヴィナはきっと“星の旅人”様の先祖返り、生まれ変わりに違いない!」などと言って喜んでいたくらいだ。

 ……愚かで、ちっぽけで、馬鹿げていて、けれど今でも夢に見るわたしのセカイ。わたしのセカイはただひとつ、わたしにあるのは今でもあの場所だけだ。

 

 

 だけど幸せは、失って初めて気がつくものだ。

 終わりの始まりは、外の世界から“兵隊”たちがやってきたことだった。

 あの兵隊たちはある日突然わたしたちの村へと踏み込んできて、こう言った。

 

「我々は地球連合政府のGフォースです」

「対怪獣作戦指揮のため、どうかこの村を拠点とさせていただきたい」

「突然のことで御不安でしょうが、どうぞご理解とご協力のほどをよろしくお願いします……」

 

 メーサー戦車にメーサーヘリ、ミサイル戦車、そして二十四連装砲……対怪獣特殊戦闘制圧軍:Gフォースの兵隊たちは平和だったこの村へ数々の超兵器を運び込み、拠点を築いて陣取った。

 いわく、近いうちにこの村の傍で怪獣との戦いがあるらしい。村からも見える山の峰々、その向こう側では今でも人類と怪獣の激戦が繰り広げられていて、その足掛かりとするためにGフォースはこの村を使わせてもらいたいのだそうだ。

 そんなGフォースの要請に対し、村の人たちは、

 

「急にそんなことを言われても……」

 

 戸惑うのは当然だろう。怪獣との戦いがあるというのは聞いていても、所詮は山を越えた向こう側の話。戦争が起こっていると言われてもまるでリアリティの無い話だった。

 けれど結局、村の人たちは折れた。

 

「今こそ、わたしたちの『献身』が試されるときだ」

 

 わたしたちには『献身』の信仰がある。『世のため人のため』と言われれば、結局折れざるを得ない。だってそれがわたしたちの村の“信仰”だから。

 村の大人たちは互いに、こんなふうに言い合っていた。

 

「大丈夫だよ、ミレヴィナ。あの人たち、Gフォースの人たちはわたしたちの村を守りに来てくれたんだから」

「ええそうよ、ミレヴィナ。いざというとき、Gフォースの人たちがわたしたちのことを守ってくださるはずよ」

「なんてったってGフォースの人たちは、わたしたち皆の平和を守る“ヒーロー”なんだから!」

 

 そして村長は声高に、村人たちへと告げた。

 

「さあ、村の皆! 我々もGフォースの皆さんのため、そして世界の平和のために精一杯『献身』しよう……!」

 

 ……けれど“力”があるわたしだけはわかっていた。皆、本当は不安だったのだということを。

 

 

 わたしたち村人たちの予想に反して、Gフォースの駐留部隊は誰もが親切な人ばかりだった。

 Gフォースの兵隊たちは、争いや人殺しが好きな野蛮人というわけでは決してなかった。困っている人がいれば手を差し伸べて助け合い、仲間同士で楽しく笑い合い、弱い人たちのことを思いやる。そんなわたしたちと同じ、ごく普通の人たちだった。

 むしろGフォースの兵隊たちこそ、『献身』の信仰から至れり尽くせりで支えてくれる村人たちの姿に面食らって警戒していたくらいだ。

 

「な、なんだ、この村の人たちは……?」

「なんでこんな皆ニコニコしてるんだ……?」

「てっきり、基地反対運動でもされるかと思っていたのに……」

 

 それまでわたしは知らなかったが、どうやら外の世界ではわたしたちのような『献身』の信仰を持つ人は殆どいないらしい。Gフォースの兵隊たちも毛嫌いされたり冷たくされることはあっても、こんなふうに手厚く歓迎されるとは思っていなかったようだった。

 だけどそれも最初だけのこと。

 

「……でも、まぁ、いいか!」

 

 この村の人たちの親切さが本当に信仰心から来るものであること、そして村人たちが本当にその信仰へ真摯に尽くしているだけの誠実な人たちなのだということ。

 それがわかってからは、むしろGフォースの兵士たちからも心を開き、まるで最初から村の一部であったかのごとく接するようになってくれていた。

 そんなある日。

 

「おはようございます、兵隊さん」

「おはよう、ミレヴィナちゃん。今日はいつにも増して楽しそうだね。どうしたんだい?」

 

 気さくに話しかけてくれた顔馴染みのGフォースの兵隊に、わたしは心からの笑顔でもって答えた。

 

「ええ。今日はわたしの誕生日。“洗礼名”をいただける日なんです」

「洗礼名?」

 

 そう、その日はわたしの誕生日。13歳を迎えたわたしは、村のしきたりで司教様から“洗礼名”をもらえることになっていた。

 不思議そうなGフォースの兵隊に、わたしは説明する。

 

「ええ。わたしたちのエクシフの宗教では皆洗礼名を貰えるんです。洗礼名を貰うのは大人になった()()()、一人前と認められた証なんです」

 

 わたしの説明で、Gフォースの兵隊は心から嬉しそうに喜んでくれた。

 

「なるほど、元服、成人式みたいなものか。よかったねえ~」

「ええ!」

 

 このとき貰える()()だった洗礼名は『ウェルーシファ』。太古の昔に村を拓いた“星の旅人”に因んだ素晴らしい名前で、彼女にあやかって素晴らしい『献身』を果たせるように……というのが司教様の命名意図であったらしい。

 それに今日はもうひとつ、重大イベントがあるのだ。わたしは言った。

 

「実はわたし、これから生まれて初めて村を出るんです」

「村を出る? どこか行くのかい?」

 

 どこかわざとらしく驚いてみせるGフォースの兵隊に、わたしは得意気に説明した。

 ……わたしがこれから向かう先は、山を下りた麓の街だ。小さな村で『花よ蝶よ』と育てられた箱入り娘のわたしだけれど、洗礼式の前に街への御遣いを頼まれたのである。

 

「なので、御遣いのついでに少し遊んでこようかと思っています。『いつまでも狭い村のことしか知らないのも良くない』とエンダルフ司教様からも言われていますし」

「ふーん、そうかあ……まぁ楽しんで!」

「はい!」

 

 そして出立のとき、両親をはじめ村の人たちはわたしのことを喜んで送り出してくれた。

 

「楽しんでおいでね、ミレヴィナ」

 

 そう言って笑顔で手を振る父と母。

 ……実のところ、わたしはその“裏”のからくりを知っていた。村人はおろか、Gフォースの駐留部隊をも巻き込んで浮足立っているこの空気感。“力”を使うまでもなく“何か”があることはわかっていた。

 ヒントは今日の夕飯、その献立だ。

 

「日が暮れる前に帰ってらっしゃいね、ミレヴィナ。今日は、あなたの好きなビリヤニよ……」

 

 今日の夕飯は特別なときに出る御馳走、ビリヤニだという。

 つまり今日はお祝い、その主賓はこのわたしミレヴィナだ。適当な理由をつけてわたしを村の外へといったん追い出し、出掛けているあいだに村総出でお祝いする準備をして、ちょうど帰ってきた頃合を見計らってサプラーイズ! ……おおかた、そんなところだったのだろう。

 種も仕掛けも見え透いた手品、けれどわたしは敢えて“見ないフリ”をしていた。どんな手品だってタネはあるもの、けれどそれを分かった上で敢えて楽しむのが手品の醍醐味だ。なにより、素直に驚いて喜んであげた方がお互いに幸せになれるから。

 ……それが今生の別れになるとも知らずに。

 

「……行ってきます!」

 

 かくしてわたしは一日一回だけ来るバスに乗り、麓の街へと赴いた。

 初めて赴いた麓の街は、とても面白かった。

 

「わぁ、すごい人……!」

 

 ……今から思えばこの街だってまだまだ辺鄙な田舎町でしかなかったけれど、当時のわたしはまだまだ世間知らず。それに、辺鄙な山奥にあるわたしの村に比べれば、そこは賑やかな大都会に違いなかった。

 村の限られた人間関係とは違う、雑多な人間が入り混じった都会。活気がにぎわう街の市場、見たことも無いほどの交通量の道路。そして数え切れぬほどの人、人、人……平和だけどどこか退屈でもあった村とはまったく違う刺激的な空気を、わたしは五感でもって堪能した。

 そうして街で一通り楽しく遊んでいれば時間はあっという間に過ぎて、すぐに日が傾き始めた。

 

「もうこんな時間……そろそろ帰ろう」

 

 そう思って、残ったお小遣いで村の皆へのお土産を買い、帰りのバス停へ向かったときのことだった。

 

「……雨?」

 

 急にぽつりと肌へ落ちた、冷たい感触。空を見上げてみると、ついさきほどまで晴れ渡っていたはずの空がいつの間にか真っ黒な黒雲に塗り潰されていた。

 ……夕立だろうか、こんな季節に? そういえば、出るときも天気が良かったので傘を持ってこなかった。傘を買って帰らなきゃ、じゃないとわたし自身は勿論せっかく買ったお土産も濡れてしまう。

 ……そんなことを思っていた、()()()()()()()

 

 ブウゥゥ――――――――ン……

 

 続いて聞こえてきたのは、耳を通じて骨身へと響く重低音。

 遠くの空から巨大な飛行機が接近してくるかのような、重たい音。空の彼方を見上げれば、天まで上る巨大な龍の巣のような積乱雲が、徐々にこちらへ近づいてくるのが見えた。

 そのとき、通行人の誰かが声をあげた。

 

「怪獣だ、怪獣が来るぞオォーッ!!」

 

 無数の稲妻を伴う超巨大積乱雲、その正体は巨大な怪獣の巣だった。空を飛ぶ大怪獣が、発達したサイクロンを引き連れてこの街へと迫ってきたのだ。

 そのことがわかった途端、街の人たちは一斉に駆け出した。

 

「怪獣、怪獣だって!?」

「皆逃げろぉーっ! さもないと死ぬぞぉー!」

「ままぁー、ぱぱぁー!……」

 

 巻き起こったのは蜂の巣をついたような凄まじい大パニック。逃げる先はどこかわからない、ただ迫る怪獣から逃れられればそれでいい。街の誰もがただひたすにら、そして闇雲に逃げ惑っていた。

 そんな中、わたし独りだけは皆と違う方向を目指した。

 

「……村が!」

 

 わたしは逃げる人混みを逆方向に掻き分けながら、懸命に村を目指した。

 もはやバスなんか待たなかった。わたしには二本の足がある。足を痛めたら這ってでも進むまで。怪獣によって巻き起こされた激しい風雨が吹きすさぶ中、わたしは何よりも大切な自分のセカイ、故郷の村へと急いだ。

 けれど。

 

「そんな……」

 

 泥のような雨にまみれて故郷の村へと帰り着いたとき、わたしの村は完全に踏み潰されていた。

 いつも皆に恵みを与えてくれた豊かな自然も、皆が日々の暮らしを営んでいた田畑も、せっかく細々と整えた街並みも。わたしたちの暮らしていたセカイの何もかもが、山崩れに呑まれていた。

 それと同時に火災も起こったのだろう。土砂降りの雨に打たれているというのに、辺り一帯は鼻を突くほど焦げ臭かった。山の崩落から逃れた家屋もあったが、それらは代わりに山火事ですっかり燃え落ちてチリチリと残り火が燻っている。

 そのときわたしは、真っ先に思い至った人たちのことを探した。

 

「Gフォースは、Gフォースの人たちはどうなった……!?」

 

 そう、わたしの村にはGフォースの兵隊たちが駐留していたはずだ。あの人たちはきっとわたしの大切な人たち、村の人たちを避難させてくれたはずだ。そう、わたしの村は潰れたかもしれないが、村の人たち、そしてお父さんお母さんは無事なはず。きっとどこか安全なところに隠れているに違いないのだ……。

 そう信じて、わたしは廃墟と化した村中を一晩中彷徨い歩き、豪雨の中を懸命に村の人たちを探した。

 

「おとうさぁーん、おかあさぁーん……!」

 

 ……けれど、村の人たちはどこにもいなかった。懸命に声を張り上げ、辺りを隅から隅まで散々探し回っても結局何も見つからなかった。

 あれだけいたメーサー戦車も、二十四連装砲も、朝に挨拶していたはずの顔馴染みのGフォースの兵隊すら影形も無い。怪獣と戦って潰されたわけでもない、もしそうだったら死体や残骸が残っているはずだから。

 そこでわたしはようやく理解した。

 

 

 わたしたちの村は、見捨てられたのだ。

 

 

 ……それはきっと『戦略的撤退』、あるいは戦線の後退という奴だったのだろう。何らかの戦略的判断によって、Gフォースの兵隊たちはこの村に築いた拠点を捨てて移動してしまったようだった。

 前線の兵隊がいくら親切でわたしたちのことを大切に気遣ってくれていたとしても所詮は下っ端、司令部の命令があれば従うしかない。今にして思えば、きっとそういう事情だったのだろうということは想像がつく。

 けれど、当時のわたしにそんなことは関係なかった。泥にまみれるのも構わず、わたしは膝から崩れ落ちた。

 

「どうして、信じていたのに……」

 

 そうやって愕然としていたときのこと、空に立ち込めた黒雲の彼方から、巨大なシルエットがゆっくり降りてくるのが見えた。

 ……濃厚な雷雲の闇、波打つ大気。そしてそれらを潜り抜け、キロキロと奇怪な唸り声を上げながら現れたのは、黄金の輝きを纏った三本首のシルエット。

 

「あれは……?」

 

 わたしは、その怪獣を知っていた。“怪物ゼロ”の異名でも知られる、宇宙超ドラゴン怪獣。つい最近Gフォースの兵隊たちが、雑談がてらにその猛威にまつわる噂話を語っていたはずだ。

 わたしは、その名を口にした。

 

王たる(キング)ギドラ……!」

 

 遠い宇宙からやってきたという黄金の超ドラゴン怪獣キングギドラは、轟く雷鳴と嵐をベールのように纏いながら、わたしが見上げる山の上へゆったりと舞い降りた。そしてその山頂に降り立つと、つい先ほど巻き添えで潰されたわたしの村を見下ろしながら、優雅に腰を据えて翼を休め始める。

 ……まるで自分の玉座に腰掛ける王様、まさに宇宙の帝王だ。

 そんなキングギドラの姿をぽかんと眺めていたわたしは、ふとあることに気がついた。

 

「頭がひとつ、ない……?」

 

 Gフォース兵士たちの噂話が正しければキングギドラと言えば3本首、大蛇のような3つの頭が特徴のはずだ。

 しかし今わたしが見上げた先にいるキングギドラは、頭が2つしかなかった。残りの1つはまるで力ずくで毟り取られたかのように手酷いダメージを負って、半ばのところでぶつりと千切れてしまっている。

 よく見れば頭だけじゃない。黄金に光輝くその全身はところどころが傷だらけ、如何にも激しい戦いを終えたばかりという風体だった。

 

 ……このときのわたしの直感が実は当たっていた、というのはあとで知った話だ。

 飛来した宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラは、このときちょうど地球の怪獣王ゴジラからの迎撃を受けた直後だった。

 宇宙怪獣と地球怪獣、その両トップであるキングギドラとゴジラによる死闘。二体の王者が繰り広げた死闘は熾烈を極め、天変地異さえも巻き起こすほどであったという。

 

 そんな経緯(いきさつ)など露知らぬわたしには、キングギドラの奴が今にも死に掛けであるかのように思えた。

 自慢の三本首の一つが失われ、その他の部分も満身創痍。さしもの宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラも、このままゆけば力尽きて死んでしまうのではないだろうか。そのときのわたしにはそんな風に思えた。

 けれど、事態は急変した。

 

「ピロピロケタケタ……」

 

 ゆっくりと巨体を起こしたキングギドラは、金属音と雷鳴の入り混じった笑い声のような(いなな)きを響かせた。

 それと同時にキングギドラが受けた全身の傷が、ひいては半ばで切断された首の断面さえもがゴボゴボと泡立ち始めた。

 

「なに、これ……!?」

 

 全身が泡にまみれてゆくキングギドラ。やがて各部の膜が垢や瘡蓋のように剥がれ落ちると、そこに現われていたのは掠り傷一つない綺麗な黄金の体だった。

 身体だけじゃない。千切れた首から筋肉が盛り上がったかと思うと、続いて骨がせり上がり、髑髏が形作られて、ひいては元の形を取り戻してゆく。

 

「頭が、生え変わってる……!?」

 

 そして数分も経った頃にはキングギドラの全身の傷はすっかり癒え、失われていたはずの頭さえもが完全に新品へと造り変えられていた。

 ……トカゲの尻尾やタコの足、サメの歯は、いちど失ってもまた新しいものが生えてくるという。けれどキングギドラの場合は頭が再生したのだ。こんなの、地球の生き物では有り得ない。

 あまりに常識外れな光景にわたしが呆気にとられるしかない一方、状況はさらなる段階へと移行した。

 

「……――――――――――――ッ!!!!」

 

 完全再生を遂げたキングギドラは身を起こし、新品に作り変えたばかりの頭も含めた三本首を空へと向け、声高らかに遠吠えを始めた。

 ……いいや、ただの遠吠えじゃない。これは『宣言』、全世界へ向けた声明。そしてこれから地球を侵略し己の手中に収めるのだという、キングギドラなりの『決意表明』でもあるかのようで。

 そんな光景を、ちっぽけなわたしはただ黙って見守ることしか出来なかったのだ。

 

 

 ……このあとの話だが。

 かくして地球の怪獣王ゴジラをも追い落とし、新たな怪獣の(キング)へと就任した宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラ。

 この出来事を合図にしたかのように、世界中の怪獣の活動が一斉に活発化。目を覚ました怪獣たちはキングギドラの影響を受け、わたしたち人間へ牙を剥くことになった。

 他方、一度は敗れたゴジラだったが、キングギドラのアルファコールを受けて即座に復活を遂げ、再びキングギドラへ戦いを挑んだ。

 ゴジラとキングギドラ、真の怪獣王の座を巡る二大怪獣の覇権争いは、やがて全世界の怪獣たちを二分した一大戦争へと発展してゆくこととなる。

 

「ピロピロケタケタイヒヒヒヒアーッヒャッヒャッヒャッヒャッ……!!!!」

 

 全世界へと響き渡るキングギドラの大号令:アルファコール、まさにこのとき、この瞬間。

 後に『怪獣大戦争』と語り継がれる、壮絶な世界大戦がはじまったのである。




タイトルは筋肉少女帯の楽曲『詩人オウムの世界』から。

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