怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~ 作:余田 礼太郎
そして翌日、僕はミレヴィナちゃんに言われたとおり、『団体』の本部へと赴いた。
『団体』の本部があるのは都心オフィスビル街の一等地、セントラルシティタワーの最上階。
本当なら僕みたいな下っ端なんて到底来られないはずなのだけれど、ミレヴィナちゃんからあらかじめ渡された入館証とセキュリティカードを使えばいとも簡単に入れてしまった。
……それにしても。
「ミレヴィナちゃんは、僕に何を見せたいんだろ……?」
ミレヴィナちゃんの“とっておき”って、いったいなんだろう。果たしてそれが何なのか僕には皆目見当もつかなかった。
むしろ思い返してみると、巧い具合に言いくるめられただけのような気がしないでもなかった。僕が『団体』に来なくなってしまったのを気にして、適当な理由をでっち上げて来させただけなんじゃあないか……?
そんな心持ちがしないでもない中で赴いた『団体』の本部。僕の内心など露知らぬ様子で、ミレヴィナちゃんはいつもと変わらぬニコニコ聖女スマイルで出迎えてくれた。
「お待たせしました、サトーさん。どうぞ、こちらへついてきてくださいね……」
それから人目を憚るようにこっそりと案内されたのは、『団体』本部の片隅にある小さな物置だった。
まず僕が先に入ったあと、ミレヴィナちゃんはそっと扉を閉め、ガチャリと内側から鍵をかけた。これで僕とミレヴィナちゃんは、埃っぽい物置で二人きりだ。
そしてその最深部、奥の棚へと案内された。
「……はい、サトーさん。これがわたしの“とっておき”です」
「これは、いったい……?」
誰もいない物置の倉庫、その一番奥にあったのは黒いラップトップ型コンピュータだった。
大きさは小さなトランクケースほど。見た目は古く、それも随分と年季が入っているようだ。極地での使用を想定した設計のようで頑丈そうな特別製ケースに入っていたが、それでもところどころに汚れやひび割れが目立っていた。
そのコンピュータをそっと撫でて、ミレヴィナちゃんは操作を始めた。
「見ててくださいね」
そう言ってミレヴィナちゃんがボタンを押すと、コンピュータは特徴的な電子音と共に
その古ぼけたコンピュータを指先で愛おしげに撫でながら、ミレヴィナちゃんは語り始めた。
「……これは『オルカ』。モナークの科学者エマ=ラッセル博士が開発した、対怪獣用の生態音響発生装置。かつて宇宙怪獣キングギドラを呼び寄せ、世界中の怪獣を呼び覚まし、ひいてはゴジラとキングギドラの『怪獣大戦争』の引き金にもなった禁断の発明」
「オルカ……?」
オルカのことは初めて聞いたけれど、怪獣大戦争の“きっかけ”については僕もこんな“都市伝説”を耳にしたことがあった。
……ゴジラとキングギドラの覇権争いに端を発した世界大戦、怪獣大戦争。しかし実は怪獣大戦争は自然に起こったものではなく、ある科学者の“発明品”によって人為的に引き起こされたものだという。眠れる怪獣を目覚めさせ、宇宙怪獣も呼び寄せるその“発明品”はブラックマーケットを通じて闇の世界へと出回り、今もなおこの世のどこかに存在しているのだという……。
……聞いたときは「んなワケあるかい、陰謀論かよ」と思ったし、こうしてその実物を目にしてもにわかには信じられなかった。
けれど、ミレヴィナちゃんは言った。
「オルカさえあれば思うがまま、どんなことでも出来るんです。たとえばゴジラをはじめ世界中の怪獣を一斉に目覚めさせて暴れさせることも、キングギドラのような宇宙怪獣を呼び寄せることも……そしてそれらすべてを思いどおりに操ることも」
怪獣を思い通りに操れる装置? そんな馬鹿な。
そう思うけれど、かといって今のミレヴィナちゃんが嘘を吐いているとも思えなかった。ミレヴィナちゃんは本気だ、そもそも冗談や酔狂でこんな話をする人ではない。
「だ、だけど、どうしてそんなものが……?」
「マルメス代表ですよ」
僕の疑問に、ミレヴィナちゃんはニコニコしながら滔々と答えた。
「代表は『団体』のさらなる勢力拡大のためにオルカを手にしたはいいものの、実際には使いあぐねていました。おかしな話ですよね、あれだけ日頃から怪獣を崇め奉る怪獣至上主義を掲げているくせに、いざ本当に怪獣を思い通りにできる手段が手に入ったら途端に及び腰になるなんて、宝の持ち腐れもいいところ。愚かですよ、まったく」
そうやってマルメス代表のことを、いつになくボロクソにこき下ろすミレヴィナちゃん。さらにその鋭い舌鋒の矛先は、今度は他の『団体』メンバーへと向けられた。
「口先だけの及び腰、それはマルメス代表だけじゃあない。ここの『団体』の人たちは『人間は愚か』だなんて周りの人たちを平気で見下しているけれど、あの人たちがやっていることなんて本当はただの逆恨み。あの人たちこそ正真正銘、愚かな人間そのものです」
呆れた溜息まじりにそう語るミレヴィナちゃん。その口振りは相も変わらず穏やかだったけれど、まるで心からの軽蔑が籠められているかのように僕には思えた。
「そしてわたし、あるとき気がついたんです」
ミレヴィナちゃんは話を続けた。
「ここの人たち、『団体』の人たちは互いの傷をナメ合えるような居心地の良い『居場所』が欲しいだけで、ホントは世の中のことをより良くしたいなんて微塵も思っていないし、真剣に考えたことさえない。この人たちは怪獣に大切なものを踏み潰された人たちの気持ちがわからない、ただのバカなんだ、って。本当に頭悪いですよね。そんな視野狭窄の自己中だから、くだらないカルトなんかに食い物にされるんですよ」
「なっ……!」
いつもニコニコ聖女スマイル、誰にも優しく慈悲深い聖女様、ミレヴィナ=ウェルーシファ。
だけどその仮面を一枚めくった下、その裏に潜んでいたのは辛辣な本性だった。僕は、ミレヴィナ=ウェルーシファという人の根底に巣食っている強烈な人間不信を見せつけられたような気がした。
……あるいは、これもこの人の“素”なのかもしれないとも思った。慈悲深くて、誰にでも優しくて、ちょっと天然のゆるふわな可愛い聖女様。
そんな風に見えるのは周りが勝手に思っているだけで、実際はニコニコ聖女スマイルで優しいことを言うのと同じように、こうしてシニカルに他人のことを見つめてきたのかもしれない。誰にでも優しくしてくれるのは、本当は誰のことだってどうでもいいと思っているからかもしれない……そう思うと、僕はなんだか心の底からぞっとするものがあった。
愕然とする僕に、ミレヴィナちゃんはニコニコ笑いながらこんなことを言い出した。
「……ねえ、サトーさんは『エクシフの宗教』って知っていますか?」
エクシフの宗教。そんなもの聞いたことがない。
僕が首を左右に振って答えると、ミレヴィナちゃんは教えてくれた。
「エクシフの宗教、その教義は『献身』。他者への献身を通じ、高次元存在への合一を果たすことで魂の救済を主是とする宗教。要は『他人へ親切にしましょう、そうすれば神様のいる天国へゆける』っていう教えなんです」
「す、素敵な教えだね、ミレヴィナちゃん……」
いったい何の話をしてるんだろう。戸惑いつつも僕が当たり障りのない生返事をすると、ミレヴィナちゃんはズズイと迫ってきた。
「そうでしょう、そうでしょう! 素晴らしい教えですよね! ……だけど、誰もわかってくれる人はいなかった」
表情はいつものニコニコ聖女スマイル、だけど目つきがなんだか怖い。どこか常軌を逸した夢見心地で、ミレヴィナちゃんは語った。
「……ねえサトーさん。人は死んだらどうなると思います?」
これまた突拍子もないことを言い出すミレヴィナちゃん。『人が死んだらどうなる』って? そんな小難しい話、僕にはよくわからない。
「えっと……天国、とか?」
「ええ、そうです。天の国、極楽浄土、フィルダウス、エリュシオン、アアルの楽園……あるいは、そういうところに行ける人もいるのかもしれませんね」
僕は適当なことを答えただけなのだが、ミレヴィナちゃんは構うことなく喋り続けた。
「けれど、全ての人が行けるわけでは無い。いいですか、サトーさん。エクシフの宗教ではこう言っています……『永遠など存在しない』と。宇宙は有限であり、すべては滅びて消えてゆく。命とは恐怖の連続、そこからの解放と
「さ、さあー……?」
僕にはもはや、ミレヴィナちゃんが何を言っているのかわからなかった。
今のミレヴィナちゃんは間違いなくヤバい領域に踏み込んでいる。マジで電波、モノホンのカルト一歩手前だ。これ以上は本当にヤバイ。本能的にそう思ったが、なぜか僕はそのまま逃げ出すことも出来なかった。
ミレヴィナちゃんは語り続けた。
「そうです。より偉大なもの、神への献身、それこそがわたしたちを『天国』へと連れて行ってくれる。より望ましき献身とは何か、本当に身を捧げるべき神とは何か。遥か太古の昔、ヒトの歴史が始まるよりも以前この地球を支配したもの。宇宙知性。人知を超えた上位存在……」
「それって、まさか……」
予感した僕の言葉を継ぐように、ミレヴィナちゃんは力強く頷く。
「そうです。怪獣こそが最初の神なのです」
怪獣こそが、神?
突拍子もない表現であったが、一方で腑に落ちるものもあった。『団体』で常々耳にしていた『献身』というキーワード、『団体』のメンバー全体に広まっていた怪獣至上主義思想、そしてその背後に潜んでいたエクシフの宗教……きっとすべては繋がっていたんだろう。
そしてそれらすべての繋がりを辿った先、その根源にいたのは聖女、ミレヴィナ=ウェルーシファだ。ミレヴィナちゃんは人知れず計画し、種をまき、芽吹くまで待ち続けてきたんだ。ずっと、ずっと、この日のために。
「『団体』の連中なんて、大事なことを何もわかっていない」
そして僕の方へと振り返り、ミレヴィナちゃんは真顔で言った。
「そしてサトーさん、あなただけは違っていた。目の前の人のために自らの犠牲を厭わない、それこそまさに理想的な『献身』の姿でした。小手先の頭の良さやお金、地位や名誉なんて関係ない。あなたの有り様はまさにわたしが夢見た英雄、ヒーローだったんです」
そ、そんなふうに思ってたの!?
驚く一方で、僕は同時に思い至る。そうだ、日頃からミレヴィナちゃんはこんなふうにも言ってたじゃないか。
「あなたはわたしのヒーローですから、サトーさん」
「二人でヒーローになりましょう、サトーさん。そしてこの世界をより良くするんです」
「なんてったってサトーさんは、わたしのヒーローなんですから」
……ヒーロー。
たしかに僕は『ミレヴィナちゃんに好かれてたらいいな』とは思ってたし、ミレヴィナちゃんは日頃から僕のことをよく『ヒーロー』と呼んでくれていた。
けれど、まさかここまで。
ひたすら愕然とするしかない僕に、ミレヴィナちゃんは語り続ける。
「……ねえ、サトーさん。みんな言いますよね、『『怪獣大戦争』は終わった』って。4年前、キングギドラとゴジラが大決戦して、決着が着いて、そのときに終わったって」
ミレヴィナちゃんが今言ったことは、世間における“一般常識”だ。
……ゴジラとキングギドラの覇権争いに端を発した世界大戦『怪獣大戦争』は、最終的にゴジラの勝利で終わった。キングギドラの奴はゴジラに打ち負かされ、キングギドラの手下になった怪獣たちも一斉に降参、こうして怪獣大戦争は終わった……そんなふうに言われている。
実際はどうだかわからない。けど、モナークの偉い学者や政府の人、テレビもネットも皆言ってるし、多分本当にそうなんだろう。だからこそ僕だってGフォースを辞めることが出来たわけだしね。
「だけどそれは違うんですよ、サトーさん」
その誰もが認める一般常識を、ミレヴィナちゃんは首を横に振って否定するのだった。
「巷の人間どもは誰も彼も、“不都合な真実”から目を背けている。あの戦争は、『怪獣大戦争』は、そして『怪獣黙示録』は終わってなんかいない。むしろ新しい時代は始まったばかりなんです。愚かな人間どもに代わって真の『神』が世界を支配する、新たな時代が。神の言葉は決してヒトには届かない、ヒトにはヒトの言葉のみしか通じない。だからこそ皆を神様のいる『天国』へ導く存在が要る。『村』が無くなってから、わたしはずっと探していました。そんな素晴らしい“ヒーロー”が現れてくれるのを」
そしてミレヴィナちゃんは僕に迫った。
「『神』を呼びましょう、サトーさん。『怪獣黙示録』をまた始めるんです。
ひとしきり語り終えたあと、ミレヴィナちゃんは僕の様子を窺うように黙り込んだ。
僕を真正面から真っ直ぐじっと見つめているミレヴィナちゃん。その目線に籠められているのは強い期待。与太話でもなければ冗談でもなく、ミレヴィナちゃんは本気で僕のことをヒーローだと信じて期待してくれているのだ、と僕には感じられた。
「…………。」
『怪獣を呼ぼう、怪獣を暴れさせよう、そしてみんなで『天国』に行こう!』……そんなイカレた世迷言を本気で語り尽くしていたミレヴィナちゃん。
……ミレヴィナ=ウェルーシファという人の身の上に、いったいなにがあったのかはわからない。ミレヴィナちゃんが一言だけ漏らした『村』という単語がなにか関係あるような気がしたが、それ以上のことは何もわからない。
ただわかるのは、ミレヴィナちゃんが自分の人生や現実に酷く絶望していること。そして、その絶望が極まった挙句にどうしても『天国』に行きたいのだということ。
僕には、それがなんだか無性に寂しかった。
……天国だとか神だとか、ましてや新たな時代がどうのなんてのも、ボンクラの僕にはよくわからない。
ただ、ミレヴィナちゃんが、今の自分の人生に嫌気が差してしまっていることだけはよくわかった。そしてその嫌気が差してしまった彼女の人生の中に、僕の存在は無いのだということも。
「………………。」
『天国に行く』というミレヴィナちゃんの言葉が具体的に何を意味していて、そしてそれがどれだけ素晴らしいことなのか。聞けば、きっと百万の言葉で語り尽くしてくれるだろう。
そしてミレヴィナちゃんにとっては僕:サトー=キヨシのことなんて、『天国』に行くことに比べれば些細なことなんだろう。僕と出会ったことも、僕と楽しく遊んだことも、僕という存在さえも、『天国』へ行くことに比べればどれもくだらなくて取るに足らないんだろうな。
「……ねえ、ミレヴィナちゃん」
そんなの、悲しい。その想いが、僕の口を突いて出た。
「僕にはよくわからないけど、ミレヴィナちゃんはなんかよほど辛いことがあったんだね。君はずっと、頑張ってきたんだよね、わかるよ」
でもさあ、ミレヴィナちゃん。僕は言った。
「やめておこうよ、『怪獣を呼ぼう』だなんて。多分これからはきっと良いことあるよ。なんだったら僕も一緒に探すの手伝うよ。だからさ……」
「……………。」
僕なんてバカでアホでマヌケだから、こんな月並みなことしか言えやしない。けれど、それでも、どうしても、彼女のためになにか言ってあげたかったんだ。
そんな僕の言葉を、ミレヴィナちゃんは黙って聞いていた。
「……そう、ですか」
やがてミレヴィナちゃんは、
「サトーさんって、わたしが思っていたより
そう語るミレヴィナちゃんは相変わらずの笑顔。けれど滲み出ていたのは強い幻滅、それにどこか寂しげで。
そしてミレヴィナちゃんは、
「キャアアアアア――――ッッ!!!!」
突然、建物全域にまで聞こえそうな大声を上げたミレヴィナちゃん。途端、本部に詰めていた他の『団体』のメンバーたちがすっ飛んできた。
「聖女様の声だ!」「どこだ!?」「物置の方だぞ!!」「ミレヴィナ様!!」「どうなされたんです、聖女様!?」
僕らがいる物置の扉を蹴破り、マルメス代表をはじめ、『団体』のメンバーたちが続々と集まってくる。
そこでミレヴィナちゃんは驚くべきことを口にした。
「皆さん! サトーさんは裏切り者でした! わたしたち『団体』の弱みを握ろうと、Gフォースが送り込んできたスパイだったんです!」
「ミレヴィナちゃん、いきなりなにを……!?」
突然のミレヴィナちゃんの豹変。僕は慌てて制止しようとしたのだけれどもう遅い、僕が何も出来ないうちに事態はどんどん進行してゆく。
ミレヴィナちゃんは如何にもパニックに陥ったように大粒の涙を溢しながら、デマカセを喋り続けた。
「素直に申し出てもらおうと説得していたら、こんなところへ無理やり連れ込んでわたしへ乱暴しようと……酷いですサトーさん、信じてたのに……!」
溢れんばかりの涙を湛え、声を上げて泣きじゃくる迫真の演技。ミレヴィナちゃんの訴えに、『団体』のメンバーは一斉に反応した。
「な、なんだってェー!?」
「なんて酷いことを!」
「聖女様、可哀想に……!」
……ここの人たちは皆本当に好い人たちなんだな、とふと思う。だって実際の現場を見たわけでもないのに、目の前で女の子が泣いてる現場を見るや彼女が言っていることについて微塵も疑いやしないのだから。
ミレヴィナちゃんの言うことを真に受けた『団体』の人たちは、今度は僕の方へと向き直って口々に罵り始めた。
「だいたい元Gフォースだっていうからクサいとは思ってたが、まさかスパイだったとはなァァ~~ッ!!」
「俺たちの聖女様になんてことしやがるんだ、この裏切りクズ野郎!」
「赦さねぇぇ~~ッ!!」
ちょ、ち、違……!
僕は必死に弁解しようとしたけれど、『団体』のメンバーたちはまるで耳を貸してくれそうにない。
「この下劣なクズに裁きを下してやりましょう!」
「スパイは処刑だ! 処刑してやれ!」
「正義の鉄槌だ! 血祭にあげてやれ!……」
あ、あわ、あわわわ……。
僕は何も出来ないまま、殺気だった目つきの『団体』メンバーたちからぐるりと取り囲まれ、そのまま壁際へと追い詰められてしまう。ヤバい、マジでヤバイ、このままだと僕は本当に殺されかねない。
そんな風に思ったとき、
「待ってください!」
そこで声をかけたのはやっぱり聖女、ミレヴィナ=ウェルーシファだった。ミレヴィナちゃんは泣き腫らした両目に涙を浮かべながら、迫真の勢いで訴えかける。
「……たしかにサトーさんはわたしたちを裏切り、愚かな過ちを犯しました。けれど皆さんまでもが一線を越えてしまうことをわたしは望みません。どうかここは気持ちを鎮めて、冷静になってほしいのです。どうか、このわたしの顔に免じて」
すすり泣きながら懸命に、それでいて毅然とした態度のミレヴィナちゃん。
もしこれが自分事じゃなかったら、そしてそもそもこれがミレヴィナちゃんの狂言でさえなかったら、僕だってきっとミレヴィナちゃんの言っていることを信じてしまっていただろう。
「聖女様……」
「ミレヴィナ様……」
「なんて慈悲深い……」
その一言で、いきり立っていた『団体』のメンバーは一斉に気を鎮めてくれた。
周りのメンバーたちの激昂が収まったのを見計らって、続いてミレヴィナちゃんは僕の方を向き直って言った。
「……サトーさん、あなたの裏切り行為をわたしたちは許すわけにはいきません。あなたとはもうこれっきりです。二度とわたしたちに関わらないでください」
「そ、そんな、待ってよ、ミレヴィナちゃん……!」
僕はとっさにミレヴィナちゃんへと縋りつこうとしたのだけれど、他のメンバーに遮られ、両脇を抱えられて力ずくで引き摺り出されてしまう。
「聖女様を気安く呼ぶなっ、このクソ野郎めっ!」
「おらっ出てけっ!」
「ねえミレヴィナちゃん、もう一回話そうよ! だからさ、ねえ、ミレヴィナちゃん……!」
引っ立てられてゆく最中、僕はミレヴィナちゃんの方へと振り返った。
ミレヴィナちゃんはなおも啜り泣きながら周りのメンバーたちから甲斐甲斐しく支えられていたけれど、一方で横目で僕の方をちらりと見た。
そして決して声には出さず、その口元はこんなふうに言っていたのだ。
“さようなら、サトーさん……”
次に読みたい話は?
-
ラストスタンドオブ・ジェットジャガー
-
魔法少女バトラちゃん
-
ゴジラ学会「エメゴジはゴジラではない」
-
新人ボクっ娘ウルトラ戦士、地球に赴任する
-
ポリコレ姫
-
カネゴンの繭リメイク
-
あの素晴らしい巨神世界をもう一度
-
ガメラのおねえさんとツンデレショタ
-
いいからラドンとガイガンの続き書けよ