怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~ 作:余田 礼太郎
ミレヴィナちゃんから誘われた『社会活動』、それは僕の想像していたものとは全然違っていた。
「え、『団体』ってただ“遊ぶだけ”なの?」
ミレヴィナちゃんの説明で、僕は驚いてしまった。募金活動の一つや二つでもするのかと思ったら、そんなことは全然ないらしい。
意外な活動内容で戸惑う僕に、ミレヴィナちゃんは笑顔で頷いた。
「ええ。社会活動とは言いましたけど、別にそんな四角四面でやってるわけじゃあないんです。人間と怪獣の平和的共存、まずその前には人間同士で助け合わなくちゃ、そうですよね?」
「た、たしかに……」
「
「へぇ~……」
……それだったら面白そうだな。
それからというもの、僕はミレヴィナちゃんの誘いで『団体』の活動に参加するようになった。
『団体』の有志で集ったフットサルのサークルに参加したり、あるいは『怪獣との平和的共存を考えるセミナー』で勉強しに行ったりもした。最初の一か月間は参加費・受講料その他がタダだったのも助かった。なんてったって、僕は貧乏フリーターだもんね。
「ようこそサトーさん!」
「よく来てくださいましたね、サトーさん!」
「一緒に楽しみましょう、サトーさん!……」
『団体』の人たちは皆そう言って、僕のことを温かく迎え入れてくれた。『Gフォースの元少年兵』という僕の経歴についても、皆同情してくれた。
「そうでしたか……」
「大変でしたね……」
「世のため人のために、命を懸けて『献身』されたというのに……」
渡る世間は鬼ばかり、そう思ってたけど世の中捨てたもんじゃない。この冷たい日本社会で、まだこんなあったかい人たちがいるのかと感動すら覚えたよ僕は。
そしてなにより嬉しかったのは、ここでは誰もが皆僕のことをちゃんと一人の人として尊重し、ちゃんと受け入れてくれたことだ。世間じゃあ元少年兵ってだけで皆爪弾きにしてきたのに、『団体』の人たちだけはにこやか爽やか笑顔で迎え入れてくれたのだった。
なんてったってアレだぜ? 此処の人たち、モゲラのカッコよさを理解してくれるんだぜ!
「地底戦闘車モゲラですか……あのパワフルな感じの重厚なシルエットが素晴らしいですよね!」
あ、そう? わかる? わかってくれるの!?
すかさず僕は得意気にぶちあげる。
「でしょでしょー! モゲラのことを不細工なズングリムックリとか言う奴いるけど、そーゆー人は物の見方ってのがわかってないよねっ!」
「「「ですよねー!」」」
僕が熱く語るモゲラ愛に、周りの人たちも揃って賛同してくれた。此処はなんと居心地が良いのだろう。こんなに大勢の人から共感してもらえるなんて、生まれて初めてだ。
「顎の部分には、特殊なクリスタルで出来たシャベルが搭載されているんですよね! オーバリーの映画では省略されていましたが……」
「いやいや、オーバリーの映画でもちゃんと再現されてましたよ! 劇中でもちゃんと特殊ガラスで造られているから、リマスタ版じゃないとわかりにくいですが……」
「そーそー! ポスターでも省略されてるけど凄いこだわりですよね!……」
そうやって地底戦闘車モゲラにまつわる談義に花を咲かせる僕と『団体』の人たち。まったく、サイコーじゃん。
そんなふうに和気藹々と、セミナー後の懇親会で御茶菓子を食べて駄弁っていると、セミナールームに入ってきた人がいた。
「……“聖女様”! 来て下さったんですね!」
誰かがそう声を挙げた途端、『団体』の人たちは一斉に席を立って入口の方へと目をやった。
「こんにちわ~、皆さん」
そう言ってニコニコ微笑みながら入ってきたのは、ミレヴィナちゃんだった。
……しかし、聖女様? 『団体』の人たちはなぜか、ミレヴィナちゃんのことをそんな風に呼んでいるらしい。
あとでそのことをこっそり訊ねてみると、
「あー、聖女様、ですか……」
ミレヴィナちゃんは途端に目線を逸らし、気まずそうに声を潜めてこう答えた。
「皆さん、どういうわけかわたしのことをそう呼んで下さるんです。恥ずかしいからやめてください、とお願いしているんですが……」
……ふむ。
言われてみればミレヴィナちゃんは長い金髪に綺麗な紫の瞳、その容姿はたしかにアニメに出てくるジャンヌ=ダルクっぽい雰囲気が無くも無い。実際『団体』の全員からとても慕われているし、そんな中でも誰にも優しく接してくれる態度はまさに聖女様って感じだ。
まあ史実のジャンヌ=ダルクは勇ましい人だったみたいだから、温厚なミレヴィナちゃんとは似ても似つかない性格だと思うけど。
「でもとっても似合ってると思うよ、ミレヴィナちゃん。ミレヴィナちゃんが聖女様じゃなかったら、誰がなるんだって感じだし」
「や、やめてくださいよぅ、サトーさん……」
僕が褒めるとそうやって、照れくさそうに頬を染めるミレヴィナちゃん。恥ずかしがるミレヴィナちゃんはなんと可愛いのだろう。
「あはははは……」
「うふふふふ……」
「えへへへへ……」
「おほほほほ……」
にこやかムードの中で互いに笑い合う僕とミレヴィナちゃん、そして『団体』の人たち。ああ、楽しいなあ、愉快だなあ……!
「……というわけで、僕は新しい仲間たちと巡り逢えたというわけさ」
僕がそれまでの
僕の話が終わったのを見届けてから、コージはようやく重たい口を開いた。
「……なあ、キヨ。最終的にはオマエの人生だ、だから俺にとやかく言う権利はない」
だがな、とコージは渋い顔で言うのだった。
「それでも言わせてもらうなら、俺から見てそのミレヴィナ=ウェルーシファとかいう女とその『団体』は間違いなくヤバイし、オマエは間違いなく騙されてるぞ」
「いやいや、ミレヴィナちゃんはそういう子じゃあないんだって!!」
疑い深いコージに、俺は懸命に説明する。
「ミレヴィナちゃんはなあ、そりゃあもーイイ子なんだぜ! 広い視野で世の中のこともちゃんと考えてて立派だし、僕みたいな社会の底辺にも優しいし……」
「そりゃあペテン師は立派なことを言うし、カモにも優しいだろうよ……」
コージの辛辣なぼやきを、僕は聞こえなかったことにした。
それだけじゃあない。ミレヴィナちゃんと出会えたことで、行き詰まっていた僕の人生にいったいどれだけ潤いと張りがもたらされたか。
「それに音楽の趣味もばっちり合うし!」
「音楽の趣味、だとォ~?」
ああ、そうとも。
不審げな態度を拭いきれないコージたちに、僕は先日のミレヴィナちゃんとのデートの様子を詳しく語り聞かせてやることにした……
「ねえ、ミレヴィナちゃん。『結束バンド』って知ってるかい?」
「結束バンド? ケーブルタイのことですか?」
いやいや違うんだよ、ミレヴィナちゃん。
問いかけるミレヴィナちゃんに、僕は説明してあげた。
「結束バンドってのはバンドの名前さ。結束バンドってロックバンド」
「ロックバンド……ああ、音楽ですね。ロック、好きなんですか?」
ミレヴィナちゃんの言葉に、僕は「もちろん!」と頷く。
「実はさ、僕、昔から結束バンドの大ファンなんだよね~。初めて見た
「
ミレヴィナちゃんの聞き上手な態度にますます気分を良くした僕は、お気に入りのバンドの話を続けた。
「特にスゲーのは、ギターのゴトー=ヒトリだね! 彼女、ちょっと風変わりなところがあるけど、ライブでいつもやってる『あのバンド』って曲のイントロがマジでイケててさ~」
「知らなかった~、そんなにすごいギタリストなんですね~!」
「ほら、このリストバンド。実は色付きのケーブルタイなんだけど、結束バンドの物販で買ったんだよ。ほら、メンバーのイメージカラー、全色揃えてんだぜ! 面白いでしょ?」
「スゴイです! そんなユニークなグッズがあるなんて!」
「まあね。でも、何よりも曲がいいんだよ。歌詞はクッソ暗いけど、魂を感じられるね! 最近になって『ようやく注目されてきたか!』って感じだよ!」
「センスいい! サトーさんはそんな結束バンドにいち早く注目してきたんですね!」
「バンドの音楽も、メンバーの個性も、全部が好きなんだ! あ、そうだ、今度いっしょにライブ行こうぜ!」
「そうなんですね! わたしも今度聴いてみます!……」
「……という感じで、ミレヴィナちゃんはね、とっても聞き上手で素直なイイ子なんだよ!」
「……はぁ~っ…………」
僕はミレヴィナちゃんの素晴らしさを説明したはずなのだけれど、コージはというとなぜか地の底にまで響きそうな深い溜息をついていた。なんでや、なんでそんなズッコケそうな感じになってるのさ。
僕が眉をしかめていると、コージは続けてこんなことを言い出した。
「……それ、『キャバ嬢のさしすせそ』だろ」
「キャバ嬢のさしすせそ? なにそれ??」
僕が聞き返した途端、コージは捲し立てるように説明し始めた。
「『
な、なにお~ん!? あまりにヒドイ言い草に、僕もついムカッ腹が立ってしまう。
さらにコージは続けた。
「その『団体』のことも調べてみたけどな、やっぱり碌な連中じゃないぞ。今は警察沙汰にはなってないだけで非合法スレスレな活動も多いし、ちゃんと政府の公認も受けてないし……」
「そんなのただの誤解だよ。ごく普通に遊んだりするだけの平穏なサークルだよ!」
僕は抗弁するのだが、コージは続けてこうも言うのだった。
「でもその『団体』、Gフォースやモナークにマークされてんだぞ。ここだけの話、俺のところにもお達しがあったしな」
ミレヴィナちゃんや『団体』の人が、Gフォースやモナークにマークされてる? うっそだあ。
僕にはにわかに信じがたい話だったが、それでもコージは真顔で言った。
「いいや、マジだ。知らないのか、その『団体』は怪獣至上主義を掲げてる危険な団体ってんで有名なんだぞ」
「怪獣至上主義……」
言われてみて、僕はふと考え込む。
……たしかに、『団体』は怪獣に肯定的な人たちの集まりだった。中には過激な活動に手を染めているので有名な怪獣保護団体のマウンテンピーナッツやイエローコリーと掛け持ちしているメンバーもいるらしい。
だけど、それは必ずしも悪いことなんだろうか。
政府はもちろんGフォースやモナークだって所詮は人間社会の仕組み、つまりは必ずしも怪獣たちの味方というわけではない。いくらコージのような前線の人たちで頑張っていたとしても、Gフォースの偉い人たち全員が地球全体のことを考えてくれているわけではない。
「だから真に地球の未来を考えるなら、政府や法律なんてちっぽけな社会の仕組みに縛られるわけにはいかないんだよ!」
「……って言われてんのか、そのミレヴィナとかいう女に?」
「え、ああ、まあ……」
「やれやれ……」
痛いところを突かれて思わず口ごもる僕に、ますます胡乱な目線を向けるコージ。そしてそのままコージは、僕へ
「……いいかキヨ、それが『団体』の連中の手口だって言ってんだよ。そうやって如何にも聞こえの良いことを吹き込んで、世の中から切り離して、洗脳して、カモを囲い込んで食い物にする。もろに悪徳カルトの常套手段じゃないか」
「悪徳カルトだなんて、そんな……!」
コージからの厳しい追及に耐えかねて、僕はコージの隣で同席してくれている
「ねえミキちゃん、ミキちゃんはどう思う?」
「え、わたし?」
僕の言葉にきょとんとしているのはミキちゃんこと〈サエグサ=ミキ〉ちゃん。彼女はエスパー超能力者、他の人には無い特別な“力”がある。
ミキちゃんの“力”は精神感応、つまりはテレパシー能力だ。ミキちゃんは周りの人が言葉に出さない気持ちを読み取ったり、逆に自分からイメージや思念を言葉へ出さずに他人へ伝えたりすることができる。そしてその対象は人間だけじゃない。ミキちゃんのテレパシーでなら動物や植物、その気になれば怪獣とだってコミュニケーションが出来るという。
僕は言った。
「そーだよ、ミキちゃん。君だって、人間と怪獣の平和のために働いているんでしょう?」
そんなミキちゃんの今の
怪獣コミュニケーター、それは怪獣相手の交渉人。街で暴れる怪獣たちの気持ちをテレパシーで読み解き、コミュニケーションをとって、平和的に事態を収拾する。
ろくに知らない奴は『怪獣と楽しくお話する仕事かよ』とバカにすることもあるけど、僕はむしろとっても素晴らしい仕事だと思っている。武力に頼らず対話で解決、超能力者のミキちゃん以外の他の誰にも出来ない役割だ。これも世のため人のため、ひいては地球の平和を守る大事な使命なのである。
そういうミキちゃんなら、むしろ僕たちの『団体』の活動について理解を示してくれたっていいと思うのだが。
「コージやミキちゃんのGフォースと、僕たちの『団体』、所属しているところが違うだけで目指す先は一緒だと思うんだけどなあ~……」
「なるほど……」
僕の言葉にミキちゃんは少し考えてから、真剣な面持ちで答えた。
「……キヨシさん。たしかに『人間と怪獣の平和的共存』っていう理念は素晴らしいわ。実際わたしの仕事もそういう仕事だし、Gフォースやモナークだけじゃなくて民間にもそういう
「でしょでしょー? ならさあ……」
「思うけど……」
「けど?」
僕が促すと、ミキちゃんは至極言いにくそうに言葉を選びながら続けた。
「だけどやっぱり、キヨシさんが誘われたっていうその『団体』は凄く危ない気がするの。なんか上手く説明できないけど、あまり“良くない”感じがする」
……ミキちゃんからの“良くない”認定。
やっぱり超能力者だからだろうか、こういうときのミキちゃんの直感はよく当たる。ミキちゃん自身は否定しているけど、彼女には未来のことが直感である程度わかるんだと思う。
だけど、僕はそれを見なかったことにした。ミレヴィナちゃんの笑顔を思い出せ。
「あなたはわたしのヒーローですから、サトーさん」
そう言って、僕なんかのことを大切に想い、信じてくれるミレヴィナちゃん。だから僕も、ミレヴィナちゃんのことを信じるんだ。
そんな決意を固める僕を前にしながら、コージは呆れたように本日何度目かわからない深い溜息をついていた。
「ったく……前に付き合ってたカオルとかいう女のときもそうだが、キヨは惚れっぽいというか、ヘンな女に引っ掛かること多いからなあ……」
おいコージ、おまえが付き合ってるミキちゃんだって大概ヘンな女だろうがよ……。
あまりに酷い言い草だったもんだからついついそう言ってやりたくなったが、僕はぐっと堪えて口にはしなかった。当のミキちゃんがいるところだし、ミキちゃん本人もかなり気にしてそうだしね。
『何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ!』ってワンピのルフィも言ってる*1し、ここは僕もミレヴィナちゃんのどこが好きなのかを語ることにしよう。
「ミレヴィナちゃんはなぁ、スゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子なんだ。だけどたまに弱いところもあるから、僕みたいな奴が支えてあげないと……」
「悪い女に騙されてる奴の典型的な台詞じゃねえか」
……ふん、勝手に言ってろ。僕は無視して説明を続けた。
「それに『団体』の人はなあ、僕みたいな奴でも人生勝ち組になれる凄い方法を教えてくれたんだぜ!」
「……どんな?」
いいかい、と言いながら僕はカバンの中からいくつかのアイテムを取り出した。
「まず、このゲマトロン演算結晶体はね、身に付けているうちに宇宙知性と繋がって真理が見えるようになる凄いアイテムなんだよ!」
「ふーん……で、そっちのはなんだ?」
ほんのわずかに興味を惹かれた様子のコージたち、すかさず僕は捲し立てる。
「こっちか、こっちはだな、ガルビトリウムの
「また宇宙知性かよ……で?」
「そしてこれらの素晴らしいアイテムを僕がコージとミキちゃんに買ってもらって、さらに二人が他の人たちに買ってもらえば僕らは働かずして莫大なマージンが……」
「ネットワークビジネス、マルチ商法*2じゃあねーかっ!」
とうとうコージも我慢の限界、堪忍袋の緒が切れたようだ。コージは机を殴りつけ、僕に向かって声を荒げた。
「キヨ、おまえいい加減にしろっ! おまえがこれ以上そんな
「ちょ、ちょっとコージさん……」
……考え、か。
コージもキレたかもしれないが、それは僕の方も同じことだ。この日、この時、この瞬間。それまで僕の中ではち切れんばかりに膨れ上がっていた何かが、“一線”を超えた。
「……コージにはわかんねえよ」
唐突に呟いた僕に対し、「……なんだと?」と不穏な表情で訝しむコージ。だけど構うことなく僕は続けた。
「Gフォースの中で出世して、怪獣との戦いでも大活躍して、おまけにミキちゃんみたいな素敵な彼女までいて。おまえなんかまさに人生勝ち組だもんな」
「おいキヨ、おまえ何を言って……!」
僕の言葉で、コージの方はなんだか泡を喰った様子だった。まさかバカで御人好しであるはずのこの僕が、こんなキツいこと言い出すなんて夢にも思っちゃいなかったんだろうな。
……ナメやがって。
「僕がそんなこともわかんないバカだとでも思ってたのか? おまえこそいい加減にしろよ。おまえなんかに何がわかる。たまたま上手い具合に人生が転がっただけのくせに、偉そうなこと言いやがって」
「いや待て、キヨ、それはだな……」
慌てて何か言い逃れするかのように守勢をとったコージ。
だけど、一度転がり出した勢いは止まらない。僕は止め処なく喋り続けた。
「僕は騙されてなんかない! ミレヴィナちゃんはなあ、ミレヴィナちゃんはなあ! 『平和に暮らしたい』っていう僕のことを褒めてくれるんだぜ!」
「だからそれはカルトの……」
「それだけじゃあない、僕みたいに弱くて頭も悪くてどうしようもない奴にだって、皆と一緒に夢を掴むことができるって教えてくれたんだ! それをなんだ、“イカれたカルト女”だあ!?」
「おい、こっちは心配してやって……」
「そんなの頼んでねえよバカ! どーせ人生勝ち組のおまえらなんか、なんもわかっちゃいねえんだろ! ミレヴィナちゃんのことも、『団体』の皆のことも、そして僕のことだって何にもわかっちゃあいないくせに……っ!!」
「…………っ」
ぜえぜえと息を切らした僕と、しばらくの沈黙。
ブチキレた僕の剣幕に圧されてか、コージはいつからか黙り込んでいたけれど、やがてゆっくり口を開いた。
「……そうか。よくわかったよ、キヨ。おまえが日頃から、俺たちのことをどう思ってたのか」
「ちょ、ちょっと待ってコージさん……」
コージの目つきに滾っているのは静かな怒りと、深い幻滅。
ミキちゃんがなんとか宥めようとしていたけれど、根が激情家のコージは一度キレるとなかなか踏み止まれないらしかった。
「俺たちに二度と関わらないでくれ」
……それは一線を超えた言葉、絶交宣言。
そして僕もまた、売り言葉に買い言葉で答えてしまった。
「……オーライ、わかった。おまえらこそもう金輪際これっきりだ。もう二度と連絡してくんなよな」
おまえらなんかに話して、ホント損したよっ!!
そう言って僕は席を立ち、振り返らずに喫茶店を飛び出した。勘定は、コージたちに押し付けて払って来なかった。
「……っていうことがあってさ~」
「そうだったのですか……それは大変でしたね、サトーさん」
コージやミキちゃんと絶交した後日、僕はミレヴィナちゃんに愚痴を聞いてもらっていた。
「コージの奴が、あんなわからず屋だとは思わなかったよ。ミキちゃんもだ。なにさ、自分のことを棚に上げちゃってさあ!」
「まあまあ……」
ぐちぐちねちねちめそめそ、そりゃもー女々しく愚痴る僕。普通の女子ならここで見放してしまうところだろうけど、ミレヴィナちゃんはイヤな顔一つせずに僕を宥めすかしてくれるのだった。
「わたしたちの『団体』はアーリーアダプターですから。こういうことはよくあるんです」
「アーリーアダプター?」
「ええ、先駆者、つまり『先を行く者』のことです。新しい道を選ぼうとするような英雄はいつの時代も理解されにくいものですよ、サトーさん」
「先を行く者、かあ……」
……そう、だよね。
うん、そうだ。そうだとも。ミレヴィナちゃんの言葉で、僕はようやく確信した。
「そーだよねっ! 本当に正しいのは僕たちの方だよね!!」
僕は、そしてミレヴィナちゃんは何も間違っていない。悪いのは僕たちの言うことをわかってくれないコージやミキちゃん、そして愚かな世間の連中じゃないか。
……今は怪獣との戦いに明け暮れているコージたちGフォース、だけどいつまでも怪獣と戦ってばかりはいられない。いつかはミレヴィナちゃんの言う通り、Gフォースの連中だって怪獣たちと共存しなければならないときが来る。
そうして時代が変わってしまってから、あいつらはようやく気づくんだ。『爪弾きにしてきた僕らの方こそ、本当は正しかったんだ』ってね。
そんな風に思い直した僕だけど。
「サトーさん……」
ミレヴィナちゃんはというと、なんだかとても不安げに僕の方を見つめているのだった。
……そんな顔してどうしたの、ミレヴィナちゃん。僕が訊ねると、ミレヴィナちゃんは心配そうな顔でこう答えた。
「……本当は『後悔』されているのではありませんか? 大切なお友達だったのでしょう?」
「……!」
……図星だった。
僕にとってシンジョウ=コージは、少年兵として共に『怪獣大戦争』の最前線を戦い抜いた親友。身寄りの無い孤児の僕からすれば、まさに兄弟も同然の存在だ。どっちが兄でどっちが弟かは議論の別れるところだけれど、とにかくこんなことで仲違いしてしまうなんて夢にも思っていなかった。
ミキちゃんだってそうだ。サエグサ=ミキちゃんだって僕にとっては大切な友人、本当はあんなことなんて言うつもりじゃなかったのだ。
そんな掛け替えのない友達を失うことになった僕、サトー=キヨシ。周りからバカ扱いされるのは慣れているけれど、あのときほど自分のバカさ加減を痛感したことはない。
……だけど、僕は。
「『後悔』だって? まさか」
……つくづく僕は、バカだ。本当のことがわかっているにも関わらず、ついつい見栄を張って心にもないことを口にしてしまうのだから。
「あんなわからず屋のバカヤローどもなんて、縁が切れてセーセーしたねっ! 僕にはミレヴィナちゃんと『団体』の仲間がいるからそれでジューブンさっ!」
「そうですか……」
はっきり言い切った僕を、優しく見守るミレヴィナちゃん。やがていつもの聖女スマイルを浮かべてこう言った。
「いつか、ちゃんとわかってもらえる日が来ると良いですね。わたしたちの『団体』は間違ったことなど何もしていないのですから」
……そう、そうだよね!
コージの奴だって馬鹿じゃない。今はカッとしているかもしれないけれど、頭が冷えたらきっと向こうから詫びを入れてくれるだろう。そうなったら寛大な僕のこと、コージのバカを赦してやらないことも無いのである。
「……ところで、」
気を取り直したところで、ミレヴィナちゃんは話題を変えた。
「ねえサトーさん、今度の水曜日、『活動』に参加してみませんか?」
「……!」
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