チート無しで鬱すぎる現代和風同人ギャルゲーの世界にモブ転生しちまったと思うんだけど、どうすればいい? 作:茶鹿秀太
なに?????
書きすぎましたすまそ。
最後までお楽しみくださいな。
明日更新します。
【それ】は、刀を持っていた。
刀を持って、振っていたのだ。
別段その行為自体に特別な意味はない。
人を斬るため。
技術を磨くため。
ーー或いはもっと神聖なもののため。
理由はおそらく凡百のそれと何ら変わらない。
しかし、それはおそらく天文学的確率で起きた奇跡であり、理解できないことであったことから、ニャルラトホテプは嬉々としてそれを眺めていた。
「私の事、分かりますかネ?」
【それ】はその声を聞いて即座に理解した。
目の前のそれは、斬れない。
おそらく瞬き一つで自らの命を簒奪することのできる上位存在であると。
ーーしかし、その冒涜的な強さを前にして【それ】が呟いた言葉は、ニャルラトホテプの関心を引いた。
「--斬りたいのう……」
「--、なるほどネ! なるほどなるほど。いいでしょう。キャスティングに変更を! 貴方は……未来に役に立つ」
時は幕末。
文明開化は、もう目前。
この日、一人の、いや。
【剣豪】ぬらりひょんが生まれた。
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side 安倍怜音
夜だ。
夜が降りてくる。
ぬらりひょんだ。
杖を突いて、ゆらりゆらりと、影のような男がやってくる。
ここはステージ上。
ーー数多の陰陽師の死体の山河が生まれている。
大人はみんな死んだ。
トーナメントに参加していた学生も、一部を除いて全員死んだ。
「ほう、生き残ったか」
ぬらりひょんが杖に仕込んだ刀を抜く。
ーーみんな死んだ。
残念ながら、このルートではダメだったらしい。
ここから先は消化試合。
ただ無残に殺されるだけの、地獄。
「--、ち。姫川を軸に祟り神をメインに据えて、シルク・ストロベリーをアイツに当てると全滅か。元々期待してなかったが、このルートだと蘆屋が機能しないし、ニャルラトホテプの想像通りのシナリオになる。没だ」
「……? 何をほざいておる?」
「いやなに、俺の【観測拒否(アルベレイター)】の予想は決して外れてくれない。……それだけだ」
「ーー問答は、もはや無用か」
そうして、安倍怜音は瞬時に刈り取られた。
気付けば、歓声が聞こえる。
いつの間にか、第二試合が始まる直前まで行ってしまった。
ーー思わず舌打ちする。
もう時間は無い。結局のところ、あのルート以外道はないようだ。
ルートを再度確認する。
「さて、さらに瞬きほどの時の中で幕を閉じた第二試合!!!! 次の試合は【五星附】」
「【観測拒否(アルベレイター)】、ゲームスタート」
夜だ。
夜が降りてくる。
ぬらりひょんだ。
杖を突いて、ゆらりゆらりと、影のような男がやってくる。
ここはステージ上。
ーー会場は混沌に包まれている。
あの妖怪はなんだと慟哭が聞こえる。
ステージの上では、安倍怜音だけが立っている。
「ほう、生き残ったか。いや、やはり侮れんな安倍家。--貴様一人で、儂を食い止めようというのか」
「……」
爆発音が聞こえる。会場の外では、誰かが戦っている。
空を見上げれば--、餓者髑髏の花嫁が、何かと戦っていた。
それだけではない。
あの【永弓凍土】小笠原雹香、【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋が。
最悪の【流星の魔法少女】と戦っているではないか。
「やっぱりこのルートが上手くいくのか。大多数が死なないルート。最小限の犠牲。……4人か」
肩を落とす安倍怜音。
「何を言っておる、安倍の切り札よ」
「いやなんだ。知ってるか?俺の【観測拒否(アルベレイター)】の予想は決して外れてくれない。残念なことに、未来では【流星の魔法少女】を止めるのに全力を注がなければここにいるやつらはみんな死ぬ。そして全力で食い止めようとすると、ぬらりひょん。お前がやってきて代わりに皆殺しにしようとするんだ。--するとだ、お前を足止めしてお前を倒すやつがここに来る時間稼ぎをしなけりゃいけない。それが……俺の人生の終着点らしいぞ。ふざけてるよな」
「ーー、理解できん。問答は、もはや無用か」
「あぁ、無用だ。もうこのルートに行くしかないんだから。このルートだけが最低限だ。死ぬのは4人。……俺と、時晴、小笠原、……須藤与一」
…
「さて、さらに瞬きほどの時の中で幕を閉じた第二試合!!!! 次の試合は【五星附属術浄学園】から登場するのは問題児!! 彼が7歳の頃には既に才能の鱗片はあった!! しかし雑過ぎた!!! 力のままに力をふるい、未だに残った自然や人間への傷跡は無限大!! そして彼が出した結論は、「それでいい」!!!! 現代兵器を用いて戦う新しい陰陽師、【獅子強攻】安倍怜音(あべの れおん)!!!」
計算は終了した。
ルートは確定した。
スマホから目を離して顔を上げると、道着を着た坊主がいた。
音も気配もない。
当たり前だ。寺で生み出された暗殺術。その担い手がここに一人。
「東寺仏教流の妖怪退治!!! 健全な肉体に健全な精神! 悪意鏖殺、妖即滅!
肉体のみで幽霊や妖怪と戦い続け、極秘とされた御留流!!! ついにお披露目されるのは、日本最強の肉体強化!!!【寺生まれのG】東 呉十郎(あずま ごじゅうろう)だぁああ!!」
それは少年のような身長と容貌だった。
しかしある意味、飢えた獣のように笑う。
今にも自分を殺そうとする、血気盛んで無邪気な笑い。
胴着に隠れた肉体は、既に喜んでいる。
「よろしくお願いします! よい戦いを!」
スポーツマンのように合掌し深々と挨拶をする、東。
「……アリだな。【観測拒否(アルベレイター)】、ゲームスタート」
…
「その光る板が貴方の武器ですね! 未知の学問、科学。私のライバルのような存在です。しかし、私は必ずやこの肉体が天下を取ると信じておりますれば! さぁいざ!! いざいざいざ!!!」
拳を構えた少年。
そして、試合がーーーー。
「おい。クソ坊主。10分間遊んでやる。それで大方のお披露目は完成する。10分後俺はこの試合を降りる。この予言が当たったら、お前に役割を与えてやる。死ぬ気で実行しろ。でないと殺す」
安倍怜音は一人、心の中で独白する。
「未来なんて嫌いだ」
日輪様という存在を知って、みじめな自分を慰めるべく、安倍怜音が未来を嫌ったのは、8歳の頃だった。
元々安倍時晴という天才のせいで、その他安倍家嫡子は全員コンプレックスを抱いている。
その時晴を超えた天才が、ライバルの蘆屋にいる。
その蘆屋と安倍が、時晴を中心に結ばれようと躍起になっていた。
時晴に近い存在だった安倍怜音は、いつも天才と比較されていた。
「母さん。俺って誰にも愛されてないんじゃないか? みんな俺の事を怜音じゃなくて、安倍として見るんだ。陰陽師ってさ、クソだよ。みんなクソだ。俺たちも政治の道具なんだろ? 俺って生きる意味あんのかな」
彼は墓石にそう話しかけた。
「--どうせ、頑張ったってさ。天才には勝てないんだろ? こういうのあれっていうんだ。侍従の子が持ってきたゲームっていう科学製品のさ、「チート」って言うんだ」
墓石に水をかける。
なんとなく、お風呂で背中にお湯をかけてあげるような優しい手つきで。
「俺天才じゃないんだ。でもみんな天才なんだ。きっとズルしてるんだ。だからチート。俺さ、チート無しでこの安倍家に生きてる。だから誰も褒めてくれないし、誰も喜んでくれない。みんな誰かの特別なんだ。俺ね、つらいよ。母さん」
怜音の母は彼を生んですぐ亡くなった。
元々呪力が高すぎて、肉体が付いてこれず病気がちだったことで体力がもう残っていなかったのだ。
「母さん。どうすればいい? どうすればチート無しで……誰かに喜んで貰えるの?」
安倍家の教育はより苛烈になっていた。
蘆屋緋恋に対抗すべく。
安倍時晴という存在を支える存在を生み出すべく。
その苛烈さが鳴りを潜めたのは、彼が13歳になった時だった。
ーーもう、安倍怜音に期待する者は誰一人いなかったからだ。
安倍家として、才無し。
安倍怜音の今後は、一般市民として生きること。
陰陽師の道は、突然途絶えた。
「これが、スマホか」
市井に下った彼が手にしたのは、運命だった。
「へー、こうやって動くのか。……これ、陰陽術応用できねぇかな」
彼の才能は、純粋な陰陽師のそれではなかった。
ーー科学と陰陽師の両立。それだけが、彼に許された才能だった。
「演算機能でフルオートで術式を成立させればいいし、ショートカットしまくって手順省きまくればいいじゃねぇか。……インターネット? クラウド管理? これも、使えそうな」
その才能は、決して現在の安倍家では芽吹くことのなかった才能だった。
「--そうか。シミュレーションを使って相手戦力を自動計算してしまえば、それは未来を読むこともできるってことじゃ」
ーーそれが、新しい地獄の始まりだった。
「は?」
世界が滅んだ。
あっけなく、残酷に。
残念なことに、それは必ず訪れる結末として。
「ーー俺しか、世界が滅ぶことを知らないのか? 日輪様は、どうしてこの未来を予知して、何の対策もしないんだ? いや、まさか。未来でそう見えなかった? ”日輪様が世界の滅びの前に死んでしまって予知することができなかった”んじゃないのか?」
「俺しか、救えないのか? 才能のない、俺が?」
「--世界を、俺が……救えるのか?」
結論を言おう。
世界は救えた。
安倍怜音がシミュレーションで、250通りのルートを試し、1950回死亡した上で、たった1回の明日を手に入れた。
そして。
また世界が滅んだ。
命を懸けて、127通りのルートを試し、450回死亡し、世界を救った。
その結果、また世界が滅んだ。
一度さぼろうとした。
救いようがない未来が、あと一歩で訪れていた。
【観測拒否(アルベレイター)】の予想は決して外れてくれない。
高度に演算された予測は、未来を読み解く。
その未来は、確実に起きる。
哀れな才能だった。
象徴たる日輪様が見ることのできる予知が、「見たいと思った未来を引き寄せてそこに向かう」という未来改変を伴う才能であって。
彼は全ての滅びの可能性を目撃してしまうのだから。
それも、必ず取り返しのつかない分岐点に必ず立たされて、未来の滅びを彼しか知らず、誰も理解してくれない。
ーー新しい地獄。
救いはない。
彼が止まれば世界が滅ぶ時間が早まるだけなのだから。
そして。
【剣豪】ぬらりひょんを放置しても、立ち向かっても。
ーー遂に安倍怜音の生存するルートは、存在しなかった。
「未来なんて嫌いだ」
未来に救いなどないのだから。
未来でのハッピーエンドの確率は、0%
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【二回戦第2試合】
●【寺生まれのG】東 呉十郎
vs
〇【現代魔女】シルク・ストロベリ―
試合概要
暗殺術を警戒したシルク・ストロベリーは試合開始直後に箒に乗ってステージ全てを埋め尽くす光量のレーザーを放出。東は気合で2分耐えるも降参。誰よりも圧倒的に敵を倒す姿は、陰陽師に衝撃を与え西洋魔術の有用性を示した。
【二回戦第4試合】
●【夢幻現の如し】伏見 遊星
vs
〇【流星の魔法少女】如月 桐火
試合概要
「人の命を犠牲にする邪法に染めた人間と闘いとうない。ワイらは守るべく陰陽術を学んどんのやから」
そう言って伏見はリタイア。如月の純粋に喜ぶ声だけが、やけに会場に響き渡った。
そして。
【二回戦第3試合】
前代未聞の大逆転。
●【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋
vs
〇【トゥス-クル】松前 鈴鹿
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side 蘆屋 緋恋
それは戦闘中の出来事だった。
試合開始7分経過。
白虎が数多の動物精霊と殺し合いをしていた。
【トゥス-クル】松前 鈴鹿は白虎を上手く封じ、1対1の状況に持って行った。
「--すごいね。貴女今までどこにいたのー?」
全く荒れていない息。
堂々とステージ中央にて薙刀を振るう蘆屋。
「--神々おわす山」
息を荒くし、「鉈」を持つ少女。
その「鉈」は刃を隠すように、包帯で巻かれていてただの鉄の塊として使用しているようだった。
シロクマの毛皮をかぶって、民族衣装に身を包む彼女を、【トゥス-クル(巫女)】と呼んだ。
「へー。すごいね。精霊? 初めてだから手こずっちゃったし、知らない呪術に知らない呪具。貴女のような陰陽師は初めて見た」
「わたしは陰陽師なのではない。よくわかんないこと言わないでほしい。……むぅ。どうして都会の人間は自分の知ってる言葉を使って相互理解をこばむ」
「陰陽師の大会で陰陽師よくわかんないって言われてもなー」
「知らない。わたしからしたらその術式は形の違う猟銃と差異は無い。ーーでも学ぶことはできた」
突然。
深。
雪が降った。
ずず、と音を立てて。
ステージ上に、苔が。
植物が。
木が生えた。
「知らない学園の小笠原何某両名が行っていた、氷と、花の御業は、美しかった。この場所は生きづらい。だから、精霊をステージに降ろしてわたしの故郷と似せればいいんだ」
ーー【トゥス-クル】松前 鈴鹿。
北海道の、アイヌ最新のトゥス-クル。
突然の覚醒。
「!? その技、何をしてるのー? 初めて見るんだけれどー」
「むぅ。説明が難しい。でも、そうだ。多分猟銃の役割しかないそのおんみょーじゅつよりも、……生きてる」
トゥス-クルは神と自然と交信することで、超常的な力を発揮すると言われている。
今まで陰陽師との関わりを断っており、研究対象になっていなかった。
やっていることは恐山のイタコに近い。
イタコは死者の魂を憑依させる力を持つ。
なんてことはない。
松前 鈴鹿はステージ上に彼女の住んでいた山の原風景を憑依させただけだ。
それ以上でも以下でもない。
何か特殊な効果があるわけでもないし、何か特別な力があるわけではない。
ーー単純に、松前 鈴鹿がフルスペックにホーム戦で戦えるだけだ。
「うん。nekon ka ku=iki wa ku=nukar poka ku=ki rusuy.そう思ってたらできた。これだ。この空気。おいしい空気。水の音。地面の感触。緑と青と、白と茶色。すっきり」
「?」
「ほ、ほむーしっく。だった。えーと。むぅ。忍坂 義和は難しい言葉を設定しないでほしい。【かいじゅ(解呪)】」
【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和。
松前鈴鹿と同じ学園で、面倒見のいい彼は彼女に武器を渡した。
「くっくっく。これは禁術なのだ……。貴様にピッタリだぞぉ?なにせその鉈は復讐鉈。ひとたび封印を解けば、人類への憎悪を発露させ、対象を傷つければ呪い倒すことができるのだからなあ!」
「え、やだ。使いたくない。なんかばっちい」
「ふぅぅん!!!? そ、そんなこと言わなくて良くない? え、僕の手汚れてた? どっち? かっこいい意味? いやでも結構良いんだよそれ。例えば動物の精霊出すでしょ? すると動物が抱いてた人間への復讐心とかを乗せてパワーアップするんだよ? 山と共生してると分かると思うけど、山を荒らす奴=人類への怒りとかでめっちゃ強くなるからね。ほんと。かっこいいよ。うん。使い過ぎると突然環境活動家とかになっちゃうだけで」
「なにそれ。鮭とか獲ってたら「密漁です」って言ってくる大人のこと?」
「文化衝突と共に生きてきたの?」
「復讐鉈【ウェンプリコロ・ピッ】」
自然の安らぎと、圧倒的呪力と、重たい人類への呪い。
それらが嵐のように鉈を纏い、ガリガリと世界を引っ掻いていく。
「さぁ。神を刺激しよう。ここしかないと理解させよう。ユク!」
白虎を食い止めていた、大きな角の鹿が突如方向を変えて鈴鹿に向かう。
鈴鹿は大きな鹿に乗って、蘆屋緋恋に向かった。
「--行けそうだけど」
緋恋は薙刀を構え、呪力を極大放出する。
「あと7手くらい足りないと思うよー」
たった一歩でユクと呼ばれた鹿を切り裂かんと薙刀を振りかざし。
『汝ぃ我が肉を斬りし罪びとよ自ら業を知らぬ溺れし代行者ぁ』
事故が発生した。
「!? 祟り神!?」
一回戦第5試合。【祟神サーの姫】姫川 杏子に憑りついた祟り神が、蘆屋緋恋の影から飛び出しまとわりついた。
『血染めの大蛇、阿頼耶識の勾玉、原初の土を二度混ぜ旭光、外様の国のまりあの諮問、餓えた鼬の晩餐歌ーー』
「ちぃ!?!??!」
即座に祟り神を切り裂いて、振り返る。
全く、トラブルに動じず。
何も考えず。
鉈が、彼女の右腕を斬りつけた。
その傷跡に、祟り神が切り裂かれた五体を投げ飛ばし、触れた。
「きゃっ、あがっ、ぐぅうううううううううう!?!?」
神と、自然の恩讐が彼女の肉体に循環する。
「むぅ。やっぱり。なんとなくいる気がした」
『ーーおぉ、おぉ杏子の友人よ。裂かれた我を助け給へ。杏子にみすぼらしい姿で会えぬのだ。助け給へ』
「ぐ、が、ぁぁあ」
「ーーわたし、使える者は使う。陰に潜んでた獣がいたのを利用して罠にかけた。ずるくはない。あるものは使う。ダメ?」
「はぁ、はぁ、ぐぅ、ぁあああああああああああああああ!」
血と共に、ぶしゃあと呪いが全身から弾き飛ばされる。
「はぁ、はぁ、ま、負け、られないぃ……、負けないぃ……、はぁ、はぁ、ごふっ、わ、私が、負けたらぁ……、はぁ、はぁ、与一くんがぁ、弱く見えちゃう……はぁ、はぁ」
「--強いね。キムンカムイ(熊さん)みたいだ」
『助け給へ』
薙刀を杖のように地面に立つ蘆屋。
それを救わんと動く白虎。
その動きを防ぐ大鹿。
すると、ふわりとステージから自然が消えた。
元のステージに戻ったのだ。
「これ以上は、死んでしまう。人を殺すために私は山を下りたわけではない。わたしは頑張った。そこまで追い詰めるために知恵を振り絞った。使いたくないばっちい武器も使った。手負いの獣も放置した。……ダメか? わたしの頑張り、貴女は認めてくれないのか」
「っ……」
歯ぎしりと、苦渋に苦しみ。
世代最高の天才が、涙をこぼした。
「……わ、っ……ぐぅ、ぅぅぅ……わたし、のぉ……、ひっく、ぐぅ、ぅぅぅぅぅぅ、ぁあぁあああ、ぁ、ぁぁっ……。………負け、です……。ぅ、ぅぅ、ぅうううううううううう、うわああああん、ああああああああああん」
「む! な、泣かないでほしい。痛いか。お父さんの作った塗り薬を後で貸そう。泣かないでほしい。困った。むぅ。どうすれば」
会場が怒号を散らす。
「おいこらー!!! 祟り神は反則だろ!!!!」
「ズルいぞー!!! 蘆屋の優勝を見に来たんだぞこっちはー!!!」
「審議だ審議ー!!!!」
「それでいいのかよ陰陽庁はよぉー!!!」
「勝負あり! 勝者【トゥス-クル】松前 鈴鹿!!!」
しかし、審議は覆らなかった。
「えー! 皆様落ち着いてください。審判団のジャッジを下します。まず祟り神はコントロール不可であり、【祟神サーの姫】姫川 杏子は関与していないことを運営及び会場警備隊が確認済み! 蘆屋本家からの声明は「祟り神の気配を【トゥス-クル】松前 鈴鹿は感知し利用した。しかし【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋は警戒を怠り、認知できなかった。審判団も存在を感知しており、試合中であっても指摘があれば対処予定だったこともあり、指摘が無いことがすべてであると判断しますとのことでした。また、運営委員長からの声明も発表します!」
息を吸って、実況、青葉土筆が叫ぶ。
「死なない備えをした者だけが勝ちであると!! よって勝者は松前鈴鹿!!松前鈴鹿です!!!これは陰陽師史上でおそらく、最大のジャイアントキリングとなりました!!!!!!!!」
『助け給へ』
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side 須藤与一
「しくしくしくしく、うぐぐぅぅうぅぅ、ごべんでぇぎょびぢぐぅぅぅぅうん、ごべんでぇぇぇえぇ」
「……(絶句)」
「与一さん、もう1時間もフリーズしてます」
ひとみの声が聴こえる。
え?
ん?
幼馴染ちゃんが負けた?
ん?
え?
ん?
お?
あれ?
ん?
えーと。
ん?
は?
いやいや。
え?
あれ?
その。
は?
いやだって。
え?
あの。
おいおいおい。
あれぇ?!
え。
だって。
いやあれは。
いやでも。
お。
おぉ?
ほ。
ほげ。
ほ、ほげ?
「ほげぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!??!」
ん?
え?
ん?
お?
あれ?
ん?
えーと。
ん?
は?
いやいや。
え?
あれ?
その。
は?
いやだって。
え?
「動揺しすぎて何も考えられなくなってます……」
いろはもどうすればいいのか困惑して俺の肩を揺らす。
「はっ!? お。俺は一体……」
ひとみが頭を抱える。
「ようやく正気を取り戻しましたか。あのニャルなんとかに変なことされてる時よりも現を抜かすなんて」
「はぁ、はぁ。なんで、蘆屋緋恋が負けるなんて想定外、ぎ、ぃぃぎいいいいいいぃぎぎぎぎぎぎ」
どうすんだよこれ!?!!?
反対サイドのトーナメント!!!
魔法少女に勝つには幼馴染ちゃんが必須だろうがぁ!!
う、うわああああああああああ!!?!?!?!?
うわあああああああああああああああ!?!?!?!?
もう駄目だおしまいだあああああああああああ!!!!?
ぴーんぽーんぱーんぽーん。
会場から全体アナウンスが聞こえる。
「えー会場にお越しの皆様にご連絡申し上げます。試合時間が長引いてしまったため、明日の午前にベスト4の試合から実施したいと思いますので、本日のプログラムは終了とさせていただきます。明日は試合開始9時から、準決勝第一試合を行います!」
「びええええええええええん!! びえええええええええええん!!」
幼馴染ちゃんがうるさくていまいち集中して聞けなかったが、そうか。準決、決勝は明日になるのか……。
え、寝れるかなこれ。
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準決勝 トーナメント 確定
第一試合
【スケベハーレム】須藤与一
vs
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
第二試合
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
vs
【流星の魔法少女】如月 桐火
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side ニャルラトホテプ
「そんなのおかしいです!!!!!!!!」
ドンッ!!!! と更衣室が風が吹き荒れる。
【流星の魔法少女】如月 桐火だった。
「私は、須藤与一さんを絶望させたうえで殺すために……蘆屋さんを殺さなくちゃいけないのに……先生、私どうすれば、これじゃあ、神様の言うことを……叶えられない……どうしよう……」
如月の本命は、蘆屋だった。
蘆屋緋恋を使って、目的を達成することが全てだったのに。
トーナメントを利用して、世界を変えるつもりだったのに。
ニャルラトホテプは考える。
それはもう、過去一番、真剣に思考を回転させている。
想定外である。
蘆屋 緋恋は神に愛された才能を持っている。
間違いなく、当代最強の陰陽師である。
ーーなぜ負けた? 毘沙門天の加護を失ったのか?
いや、力は十全に働いていた。
敗北することの方が難しいのだ。
だが何かあるはずなのだ。何かが……。
そして遂に、答えに至る。
「--惚けたのか」
「え?」
如月があっけにとられた。
「く、クク、クハハハハ、あはははは!!! なんと、なんということでしょうネ! こ、恋に、惚けやがった!!! なんっ、馬鹿なのでしょうか!? 須藤与一に夢中になりすぎて、普通に油断して、意識の全てを須藤与一に向けて!!! 足元から掬われた? そんなことあるぅ? えー?」
「え、え? ど、どういう」
「……んー。じゃあ……、んー。いや、いっか? マンネリだったし。じゃあ、あー。でもあれはひどいな。え? そうだなぁ。想定外の事したいネ。よし!」
ニャルラトホテプは元気よく如月の肩を叩いた。
「もうトーナメント使う策破綻したので、明日皆殺ししちゃいましょっか!忙しくなりますネ!」
「え? 皆殺し? でも皆殺しは良くないって……」
「えぇ! でもどうしようもないですし……。あ! もし、如月さんと蘆屋さんが、トーナメントで戦うことができるなら……話は別ですけど」
「無理、ですけど……」
「無理なんですか?」
「……?」
「対戦相手が、蘆屋さんなら、良いのですけどね?」
「--あっ! そっか! 松前鈴鹿さんを殺しちゃえばいいんだ! そうすれば私が出られるかも! ありがとうございます先生! ちょっと行ってきます! 私が松前鈴鹿さんを殺すので、皆殺しなんて駄目ですよー!」
「いってらっしゃ~い。私この二人調教しますのでー」
「はーい!」
そう言ってニャルラトホテプは、地面に転がる二つの物体を見た。
「元気です?」
「ーーころし、て、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
死んだ目で、首だけになった女が二人いた。
犬鳴 響
迫野 小登里
首から上と下が分かたれていても、二人はまだ生きている。
例えようがなく、事実としてそうなっていた。
ニャルラトホテプが犬鳴響の頭を鷲掴みにして、口に手を入れて無理やり形をゆがめる。
「ゆっくり霊夢です」
「んぐっ!? んご、おぇ、が、ぐえっ!」
「今日はこの二人と如月桐火について説明するわよ。ここからはネタバレ注意だから、ネタバレが嫌な人はブラウザバックしてね」
「んごぉおっ!? んっ!? んぐぅっ!?!?」
「さて、本来は原作キャラのヒロインとして登場する3人娘だけれど、実は今回3人は本人ではないのよね。え? それって拍子抜けだよねって? その通り。本当ならそんなことしたくはなかったの。でもね、残念なことに私ってば【契約】してしまってね。本人には手が出せなかったの」
「ご、ご、ご」
「だけど今回須藤与一を追い詰める為だけに原作キャラの名を冠した人間を3人用意したのよね。【百万の恵まれたるもの】っていう、偉大なるニャルラトホテプが選んだすごい存在よ。見事ニャルラトホテプが選んだ存在は、原作に忠実な3体のNPCを作ることに成功したの。でも、想定外なことが起きたの」
「ぎゃんっ!!!?」
犬鳴響の頭部が地面にたたきつけられた。だらだらと額から血が流れていく。
次に、ニャルラトホテプは迫野 小登里の頭を掴んだ。
「ゆっくり魔理沙だぜ」
「ぐごぉおっ!!?!?」
「じゃあ霊夢、どういうことが起きたんだ?」
「ぎゃあっ!!!?」
それだけを言わせて迫野 小登里は地面に墜落した。
白目をむいて歯が抜けた犬鳴の顔を再び掴んで頬をつねるように動かした。
「えぇ。たまたまだったのだけれど、3人の女性を生み出したことによって、クトゥルフ神話における【嘆きの聖母たち】に照応してしまったの。もちろん嘆きの聖母たちは存在するけれど、3娘がそれに近づいてしまったと言えるの。そして、犬鳴響、迫野小登里が如月桐火と式神契約を結んでしまったことで、例外が生まれてしまったの」
「あー、ぉぉ、あー」
「そう。完成してしまったの。嘆きの聖母たちの、4人目。魔法少女キリカ。いや、流星の聖母。【マーテル・キリカ】が」
突然飽きたように、犬鳴を捨てる。
「さて。なぜこんなことを言っているかというとですね。もう用意したシナリオに終わりが近づいているんですが、”こんなことに力を使いたくない”んですよ。”魔法少女”なんてサブシナリオ。”ぬらりひょん”だけが本命なんですから。ひたすら須藤与一をいじめるだけのシナリオ。しかももう2人脱落していて、狂気を感じにくくなっている。”貴方”には伝えておきましょう。つまり何が言いたいかというと」
すごく大きな、それはもう、とてもすごく大きな、ため息をついた。
「飽きたんですよネ~~~~~~~~~~。つまらないな~~~~~~~~~~~~。なんか頑張って仕掛けたシナリオとかぁ、色々あったんですけどぉ、えぐみのあるシナリオにすごくなったんですけどぉ~~~~~~~~~~。もう逆転不可能になっちゃってぇ~~~~~~~。もうバッドエンド待ったなしでぇ~~~~~~~~~~。それがもうつまらないなぁ~~~~~~~~~~と」
身振り手振りで”ある人物”に話しかける。
「違うんですよぉ。解釈違いなんですよね。私はですね、人間は嫌いではない。むしろ好きなんです。だから死ぬほど追い詰めるし狂わせるんですけど、それでも命を懸けてシナリオを乗り越えてほしいんですよネ。あの勘解由小路在信みたいな逸材なかなかいないですけどそれでも挑んで乗り越えてほしくてぇ。でももう無理でぇ。無駄でぇ。そうすると想定通りみたいな話になるじゃないですか。もう、耐えられなくてぇ。はー。やってられんのですよネ。--須藤与一には、がっかりかもしれなーー」
がちゃり、と扉が開く。
「? おかえりなさい。どうしました?」
帰ってきた、如月だった。
「先生」
涙目で、彼女が先生に話しかける。
「大人に囲まれてます」
「あらー。嫌ですネー」
「それで、その」
「?」
「■■■■さんが、こちらに来ています」
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side 須藤与一
学校の地下。
ぬらりひょんは、既に脱出していた。
父の部下は、死んでいなかった。
牢屋は真っ二つになっただけ。
死者はいない。
今は救助と、捜査が始まっている。
今のところ、問題なし。
「……」
貴賓室では老人が一人発狂して倒れたらしい。
かなりのVIPらしいのだが、重篤らしい。
曰く、ニャルラトホテプの秘密を暴こうとしてそうなったと。
ーー日輪様も憔悴しているらしい。
全てが手遅れな気がしてきた。
もう、どうなるか分かったものではない。
「……どうなっちまうんだよ。これ」
ニャルラトホテプは、混沌、狂気のシナリオを全力でぶつけてくるに違いない。
今のあいつの手札は2枚。
【流星の魔法少女】【剣豪ぬらりひょん】
この2つを使ってヤバいことを起こすに違いない。
「……物語のテンプレなら、例えばトーナメントを台無しにする、とか。あとは、なんだろう。……観客を、みなご、……皆殺しにする、とか」
出来るのか?
出来るはずはない。
会場にいるのは最強の陰陽師格ばかり。
絶対に勝てる。はず、なのに。
どうしたって、胸騒ぎが止まらない。
俺は何かを、間違っているんじゃないか?
「で、どうしますか?」
ふらっと、気配無く小笠原ひとみがやってきた。
ひとみは周囲を見渡して、俺の隣に立った。
「どうするって・・・」
「? 何とか致しましょう。ぬらりひょんも、ニャルラトなんたらも。いつものことです」
「いつもって……。でも、あいつはやばいやつで」
「はい」
「……でも、でもさぁ! 俺、俺もうマジできついんだ! 幼馴染ちゃんが負けてから、なんかこう、気持ちがすごい乱れてんだよ。負けるはずない存在がなんか負けちまって、あぁ、絶対なんかないんだなって思っちまってさ、なんか、すげーしんどいんだよ。無理なんじゃないか……? 俺、そればっか……」
「与一さん……」
「大丈夫ですよ。与一様なら」
ふらりと、後ろに立っている妖怪がいた。
銀子だ。
「銀子さん」
「はい」
「で、でも……俺じゃアイツは勝てな……」
「与一様。……与一様。私が大会前に言った言葉、憶えていらっしゃいますか?」
「トーナメントなんて、私からするとどうでもいいことです。だって、貴方が動けば、助かる人間がいた。餓者髑髏の子も、もう一人の女の子も、貴方に助けられたんでしょう? 貴方は、戦って勝つ人じゃなくて、助ける人、でしょう? やれることをいつも全力でやるのが、須藤与一その人だと、認識しています」
「あっ」
そうだ。銀子さんは言っていた。勝たなくてもいい。
助けるんだと。
じゃあ、助けるってなんだ。
ーー何を?
自分を? 誰かを?
ーー全部。そうだ。俺、全部助けたい。
全部ってなんだ。
俺が、ニャルラトホテプなら、この後どうなる?
……分からない。
俺じゃ何も浮かばない。
誰かニャルラトホテプを倒せるのか?
ひとみも、銀子さんも、あの混沌には及ばないだろう。
じゃあどうする?
誰だ?
誰に助けを求めればいい?
プライドをかなぐり捨てて、「よく分からないけど全部を助ける」選択肢を選び続けるには、どうすればいい?
未来を見ればいいのか?
日輪様? それ以外にも未来を予知できる人間は?
それとも火力か? すごい火力でぬらりひょんを吹き飛ばすとか?
親父? 親父に頼れば上層部につなげられる。
誰だ。
俺だけじゃ無理だ。
俺以外の誰かがいないと、全部は助けられない。
誰に、妖怪、人間?
人間……。
人間…………。
「あ」
あった。
あってしまった。
【この状況を一旦すべてひっくり返した上で、全部救う可能性】が。
でも、どうなんだ?
できるのか?
いや、可能性は、でも、いや、それは、懸念が大きすぎる。
でも、できるのか?
ーーやるかやらないか、どちらか。
「答えが出たようですね」
銀子さんがふっと笑った。
「懐かしいですね。与一様が小さい時も、幼馴染ちゃんを倒すためにいろんなアイデアを浮かべては挑むときのことを思い出しました」
「銀子さん……」
「ーー約束、憶えていませんよね?」
「……」
「あと1年です。ふふ、その時は、私の事を……」
「銀子さん」
俺は、真顔になってこう答えた。
「嫌ですって。俺銀子さん式神にしませんよ」
「……」
「しませんって」
「--、私、諦めませんから」
「いや、ごめんなさい」
きついっす。
流石に。
「そうですか。与一様。あの日の事、まだ覚えていらっしゃるんですね」
「? どういうことですか? 与一さん」
ひとみが質問してきたので、俺は誠意をもって答えることにする。
「あれは、そう。かつて変なおっさんに襲われて暴走モードに入った銀子さんを助けた後の事だった」
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須藤与一、8歳。
「お願いします!! 坊やの貞操を私に下さい!」
「帰りなさい!!!!!!」
「お尻だけでもいいんです!!!!!!!」
「帰れ!!!!!!!!!!!!」
自宅の玄関で土下座する九尾の狐。
かつて憧れたお姉さん。
美しかったし、優しかった。
だからすごく惹かれていた。
でも今はどうだろう。
母親に怒鳴られ、父親は俺をかばうように守ってくれる。
「そんな、い、一生の、一生のお願いです! それ以上は望みません!!! 一旦全部管理して頭の中を私に染めようと思ってるだけなんです!!!!!」
「8歳の子に何言ってんだゴルァ!!! このドスケベ狐がよぉ!!!」
母親が切れ散らかしている。
こんな姿見たことなかった。
「違うんです! ただちょっと、ちょっと式神契約してドチャクソえっちなプライベート(意味深)を過ごしたいだけなんです!!! い、いえ! それが叶わないのなら側にいるだけでいいんです!!! お願いします!! 契約させてください!」
「契約して最初にすることは?」
「舐めまぁす!!!!!!」
「帰れ!!!!!!!!!!!」
「違いまぁす!!!!!!そばにいるだけでいいんです!!!言い間違えただけです!!!!」
「言い間違えで舐められてたまるかってんだぃこん畜生め!!!!! 畜生め!!!!!!!!!!」
これが、九尾の狐。
かつて【淫虐】の名を欲しいままにしていた怪物である。
「貴女ね、契約したってウチの子が貴女と結婚するわけではないのよ! 貴女何歳よ! 年下の子に恋愛感情抱くにも限度があるでしょうこの四捨五入すれば〇〇〇〇歳! 8歳の子とねんごろになる時代はね、とっくに終わってんのよ! ついでに貴女は人間性が終わってるのよ!!! あ、人間じゃないか。この万年発情女狐!!!!!!」
「くっ! それでも私は……っ! お願いします!! 側にいさせてください! 何もしません!」
「側にいて最初にすることは?」
「爆乳お姉さんの淫語塗れ添い寝ASMR~お姉ちゃんなんだかムズムズするよぉ導入から形容できないすごいコンコン編 序章~」
「帰れ!!!!!!!!!!!」
「違いまぁす!!!!!! この口が勝手に、この口が勝手に動いてるだけなんです!!!!!!! 」
「口が悪いというならその舌斬り落としなさい!!!!」
「う、うわぁ……」
俺はドン引きだった。
憧れた人がこんな爛れた人だと思っていなかったし、普通に8歳にガチになる年上を見ているとなんだか辛かった。
本当に、辛かった。
その時の価値観でモノを申すなら、夕飯がハンバーグと言われウキウキで帰ったら豆腐ハンバーグだった時くらい嫌な気持ちになった。
父親が話しかける。
「とりあえず銀子さん。家庭の方針で契約は無しで」
「う、うぐぅぅぅぅぅぅ~~~~っ!!!!」
その日から三か月。
毎日玄関先で土下座された。
雨にも負けず。
風にも負けず。
すごいガンギマリの目でこちらを見つめ。
二手目土下座。
尊厳。
尊厳は。
こうして須藤家と銀子さんの間で、協定が組まれることとなった。
「息子が18歳になったら息子と式神契約を検討。まともな感性を持っていることを証明できればなお良し。色を使うのはNG、誘うのも無し。健全な関係が築けるか判断するのは家族で。家族が契約するかどうかを判断」
「ありがとうございます!!!!!!!!ありがとうございます!!!!!!!」
「えぇ……」
俺、怖かったんだ。
8歳でガンギマリの目で見られるの。
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「ということなんだ。ひとみ」
「この性犯罪者未遂を殺しましょう」
「ひとみぃ!」
思わず名前を叫んでしまったが、そりゃそうなる。ごめん、常識の範囲内のツッコミだわ。
「ち、違うんです。あの時はたまたま、たまたま自制が効かなかっただけで」
ひとみが唸る様に呟く。
「この後すぐに契約できるとしたら最初にすることは」
「なめっ、なっ、ば、バナナっ!」
「殺しましょう」
「ひとみぃ!!!!!!!」
ひとみ、銀子さんはもう駄目なんだ。
最初こそ清純派っぽく見えたことだろう。
この人は、もう、頭の中がピンクに染まっているんだ。
「はぁ。もういいよなんか。とりあえず、動いてみようと思う。こうなったら覚悟を決めていくぜ。……ところで、いろはは?」
ひとみが首をかしげて「さぁ?」と言って、俺たちは一度、貴賓室に向かうことにした。
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side 須藤いろは
「ここは……」
須藤いろはは、明晴学園を探索していた。
試合は明日に延期になっている。
いろはは捕食者として、無意識に感じ取っていた。
明日は、狂気じみたナニカが行われると。
しかし何もわからない。
彼女には分からないのだ。
ーー何故、須藤与一が会ったことのないニャルラトホテプを知っているのか。
彼の生誕から今の今までを観測していたはずなのに、どうしてもニャルラトホテプを今まで感じることは出来なかった。
何時出会ったのかも定かではない。
何処で会ったのかも理解できない。
須藤与一は、彼女の知らない出会いをしていたのだろうか。
須藤与一が学んでもいない知識があるのが、分からなかった。
ニャルラトホテプは、自分の理解を超えた存在なのだろうかと、初めて彼女は恐怖していた。
まるで、自分が捕食される側になったような、そんな錯覚だった。
そんな彼女は導かれるまま明晴学園の中にある、とある部屋に入った。
「--教会?」
教室の中に、教会の礼拝堂があったのだ。
「おや。……君は?」
そこにいたのは。
同じように導かれるまま歩き、先に礼拝堂にたどり着いていた男。娘と一緒に、試合を観戦しており、隠れキリシタン同盟にいる賀茂の人間とあいさつを交わすために来ていた賀茂家当主。
ーー賀茂ヨハネ在人であった。
「あ、その。すいません、ちょっと探索してて……」
「ふむ。そうですか。……すいません。たまたま私も礼拝堂を見つけて祈りを捧げていたところだったんです。……失礼、レディ。あまりご時世的にもよろしくは無いのですが。……何か、悩んでいらっしゃるようで」
「えっ」
「良ければ、お話をお聞きしますよ。何せ、私も神父のようなものでして」
賀茂ヨハネ在人は、須藤いろはを席に座らせて、目を合わせるように膝を着いた。
いろはは、どうしてこんな状況に、と思いつつも。
何故か、この男には話してもいいんじゃないかと思い始めてきた。
理由は分からない。
なんとなく、本当に何となく、懐かしいと思ったのだ。
薄れた記憶の果てに、どこか、誰かの面影を感じて。
「--悩み、ですか」
「はい。深刻そうな顔をしておりましたので。……それも、娘と同じ年代の子で。肩の重しが少しでも取れたらと、思うのです」
いろはの思考に廻ったのは、全てを話してしまってもいいかという感情だった。
しかしそれはいけない。
にんしきのとり。
知られてはいけない。聞いてはいけない。言ってはいけない。
知ってしまえば、彼が死んでしまうから。
聞いてしまえば、彼は壊れてしまうから。
言ってしまえば……。
自分が、壊れてしまいそうだったから。
「あの、……その」
「はい」
賀茂ヨハネ在人は、優しい瞳で彼女を見続けた。
だから、思わず自分が子どもに戻ったような錯覚になって。
「--怖いんです。全部」
今抱えている荷物を、彼に見せた。
「私、その。……昔色々あって。その、えっと、大切な人が、出来て……。でも、それが壊れそうで。私が、なんとかしないと、明日にでも、……嫌な予感が止まらなくて」
「それは……」
賀茂ヨハネ在人は、気付いた。
彼女は、須藤与一の式神だと。
娘のモニカから話を聞いていたし、試合の会場に、あまりに希薄な存在感の彼女にすごみを感じていた。
そんな彼女が、明日にでも嫌な予感がすると言っていた。
ふと、【流星の魔法少女】を思い出す。
あの邪法の極みのような存在もトーナメントに混ざっている。
おそらく、無意識になにかとんでもないことが起きることを予感していたのではないか。
試合終わりに隠れキリシタン同盟 副代表 賀茂 アウグスティヌス 一郎に会おうとしたが、貴賓室もパニック状態になっていたので後に回そうと考えていた。
もしや、本当に何かが起きる前兆なのかもしれないと、神経を張り巡らせた。
「--罰、なんですかね」
「えっ」
須藤いろはが、沈んだ顔で呟いた。
「昔、言われた気がするんです。もう覚えていないけれど、私は、こうやって生きる前に、人を、殺してしまったことがあって」
「……っ」
陰陽師の業界で、よく聞く話だ。
自身の呪力の暴走や、家庭環境によって人を殺してしまう子どもがいる。
彼女もその犠牲者の一人なのだろうと、彼は考えた。
「誰かに言われたんです。ゆめ忘れるな。お前は人を殺した怪物だ。決してその罪からは逃れられぬ。しかし、お前が、人として、人の理に混ざるというのならば……」
その言葉は、直接聞いた気がしない。
きっと、どこかでチャンネルが接続され、たまたま耳に入った言葉なのだろう。
でも、その言葉は、自分に言われている気がした。
「そこから先の言葉を、思い出せません。でも、……どうしようもないじゃないですか。どうしようもないことを、謝れないじゃないですか。償うなんて、できないじゃないですか。でも、……私が、悪いのかなって。大切な人と一緒に過ごしたいと願ったから、……今こうやって生きることすら、ダメなことなのかなって。ーー私は、一生許されないし、幸せを運命が、許さないんじゃないかって。最近、ずっと思ってました」
それは。
懺悔だった。
須藤与一にも、小笠原ひとみにも伝えたことのない、心の深いところにあった、彼女だけが知っている痛みだった。
「--私は、幸せになるべきじゃなかったんでしょうか」
「幸せになるべきです」
「……えっ」
ふと、いろはの手が、彼の両手で包まれる。
「おそらく、既に償えない過去なのでしょう。結果が出ている以上、もう取り返しのつかない罪であり、今そのように考えていることが、罰なのでしょう。--ですが。それでも、人は過ちを犯した後に、許されないというのは、とても悲しいでしょう」
「--たとえ、人を殺しても、ですか」
「……。「父よ、彼らをお赦しください。彼らは、自分が何をしているのかが分かっていないのです。」」
「え?」
「……主のお言葉であり、祈りです。指導者が、民衆が、兵が、主を磔にして害しようとした時に、恨み言ではなく、神様に自らを殺そうとした人たちへの赦しを願い出たのです」
いろはにその教えはいまいちピンと来ていない。
しかし何処かその言葉は、今の自分が求めていたものに近いような気がしていた。
何も知らなかった。だから、人間を食べていた。
でも、今ならそれが忌避的なものだと理解できているから……。
人間の、いろはを学んでいる最中だからこそ。
「人を殺してはいけない。その通りです。人は、人として生きるのであればルールがあるからです。……聖書にも人として、クリスチャンとして生きるための行動原則や戒律があります。ですが、……人は、愚かです。有史、ルールを作っても……人はそれを守り続けることが難しいし、生きること自体が難しいと感じる人もいます」
賀茂ヨハネ在人の手が、徐々に熱を帯びていくような気がした。
「私の話をします。私は、任務を達成するために、部下をむざむざ死なせてしてしまったことがあります。今でも後悔しています。もっとやり方があったんじゃないかと。作戦や、計画が甘かったのではないか。……私が殺したも同然だと、夜も眠れませんでした」
「……」
「ある時、私は一度陰陽から離されて、一般職に就きました。教誨師の仕事でした。……刑務所で教えを説く仕事です。全国を転々と、巡りました。そこで様々な実態を知ることとなります。人を殺した人がいました。ある人は今まで家庭の影響で教育を受けられなかった。自然と歪んだ認知能力を入所後に改善していくと、素直な謝罪ができるようになった。また、ある人はキレやすく、カッとなって包丁で人を刺した。逮捕後の診断で、発達障害があることに気が付いて、投薬治療を開始した後に世界が変わり、どうしてこんなことをしたのか深く後悔していました。……復讐をしたと言って人を殺す人がいました。父を借金苦に追い詰めた人間をどうしても許せず殺してしまった。冗談で人を殺した人がいました。ふざけて突き落として、命を落とした人がいた」
「……」
「どうして、人は人を殺してしまうんだろう。状況が変われば、環境さえ違えば、もっと深く先を見通す力を人が見に付けていれば、殺さずに済んだ。……部下を殺してしまった時と、何ら変わらない。同じ悩みが出てきてしまったんです。主の教えは、本当に人を救い、助けることができるんだろうか。疑いが深まりました。まるで、どうして戦争は止まらないんだろうかと悩みを巡らせる中学生のような考えです」
「……」
「……ある時、知りました。出所後に居場所がない人はたくさんいること。誰も救おうとせず、再び犯罪に手を染めてしまう人がいること。冬の寒さに耐えられず刑務所に戻りたがる人。……刑務所以外に、居場所がない人。居場所がないと、人は、壊れてしまうこと。その居場所を作る為には……、心に、拠り所がなければいけないと」
「居場所がないと、壊れる……」
それは、あの閉じ込められていた部屋の中にいた自分ように。
「……あぁ、教えは必要だ。人は拠り所がないとダメなのだ。刑務所の中にいた人は、”犯罪者”ではあっても、”人”……。人間だ。人間なのだ。私も無意識に犯罪者というだけで石を投げていたのではないか。そうではない。そうではいけないのです。……罪に苦しみながら、命を奪った責任を果たすためには……心が守られなければ、赦しがなければ無理だった。主の言葉が、再び私の中に入ってくるようでした。自らを殺そうとする人間にさえ、主は赦しを祈った。であれば、私も祈らなければならない。……刑務所にいる人たちから、悩みを傾聴するようになったのはその時からです。あなた方のいる暗闇から、あまねく光を渡らせるには……、あなた方の心に寄り添い、立ち直るまで一緒に祈ること。そう学んだからです。……貴方は自分の自覚無き殺人に苦しんでいる。許しを求めている。ですが、相手はそれを許すことができないのでしょう。私は貴方に祈ります。きっと赦されると」
「……で、でも。所詮は、……。祈りじゃないですか」
「はい、祈りです。だから、祈ります。貴方が、……自分の事を赦せるようになるまで、私は祈りましょう。罪と向き合っているあなたは一人ではない。友達も、……たまたまいた私も、貴方の幸せを願っています。もし、誰もその罪を赦してくれないと感じるのであればーー」
一瞬、彼の顔がブレて見えた。
それはいつかどこかで、見たような顔だった。
どうしても思い出せないし、聞いた覚えもない声も聞こえた。
”しかし、お前が、人として、人の理に混ざるというのならば、学べ。人を、法を、規範を学べ。生きとし生けるものすべてが、お前を学ばせるであろう。学んだ先に、お前が素直な気持ちで罪を償おうとするのであれば。”
「私が、貴方の罪を赦しましょう」
”――我ら勘解由小路一同、お前の罪を赦そう。”
「----っ!」
「ですから、幸せになりなさい。それが貴女が生きる意味で、貴女が奪ってしまった命への贖罪です」
その言葉に何故か、心がふわりと軽くなった気がした。
須藤いろはに宗教的知識は無い。
それでも、どうしてか。
この男の言うことは、信じられた。
「……、少し、語りすぎましたね。申し訳ないです。ですが、もしご縁があればまたお話を聞かせてください。モニカに言えば、きっと繋がれるでしょう」
モニカ、という名前を聞いて、ようやくこの目の前の男が何者かが気になった少女。彼女は椅子から立ち上がり、そっと手を放して出口に向かった男を呼び止めた。
「あ、あのっ、……お名前は」
「? あぁ、伝えそびれてましたね。賀茂ヨハネ在人と申します。娘がいつも須藤与一くんにご迷惑をかけてます。ではまた。流石に、これ以上待たせると娘に怒られてしまいますので、失敬」
そう言って男は立ち去った。
ーー違う名前だ。
なんとなく彼女は思った。
勘解由小路ではなく、賀茂。
だからこの話は、それで終わりだ。
「……祈り」
なんとなく、両手を握りしめて、目を瞑った。
……でも、ダメだった。
浮かんだのは、自らの罪ではなく、須藤与一の顔だった。
ーーあぁ、私の幸せは彼だもの。
ーー絶対、死なせない。
「……ありがとうございます。賀茂さん」
そう呟いて、彼女はその場を離れた。
行き先は、たった今。
足元に咲かせた花の赴くまま。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side 安倍怜音
命の刻限が近づいてくる。
どう足掻いても明日死ぬ。
でも、どこか清々しさすらあった。
ーーようやく解放される、このくそったれな運命から。
そんなことを考えながら、会場を歩く。
悪意の見落としが無いように、ゆっくりと。
だからだろうか、悪意以外は見落としていた。
「やっ! 元気?」
底抜けに明るい声だった。
顔を上げると、今一番見たくない顔があった。
「……時晴」
【陰陽王子】安倍時晴。
安倍家の天才。須藤与一に負けた、一回戦負けの男。
「どうしたのさ。俺にこんなところで会うなんて想定してないみたいな顔して」
「……いや。なに、無理やり高校デビューで一人称俺にしてるお坊ちゃんに言われたくねぇだけだし。その癖たまに本性が出て僕呼びする。キャラブレ王子こと安倍時晴さんに用事がないないだけだ」
「disえぐくない?」
ちょっとだけしょんぼりした時晴。
かつては幼馴染の関係性だった二人だが、既に目に見えない壁があるようだった。
「んで、なんだ。用がねぇなら帰ーー」
「明日死ぬ気かい?」
「--!?」
それは。
ある種の納得感があった。
【観測拒否(アルベレイター)】の予測以外の行動ができるのは、天才以外いないだろうと。一瞬の期待、だがダメだろう。予測の最終地点、結果が変わらなければただのサブイベントにすぎないのだから。
「……明日? 何の話だ」
「ーー【観測拒否(アルベレイター)】では、俺は死ぬのかい?」
「!? てめぇ、何処まで知ってやがる……?」
サブイベントにすぎない、はずだった。
「全部かな。……はぁ。ま、仕方ない。僕は負けたからね。彼の言う通り動くさ」
「?」
「君の張ってた伏線、全部教えてもらうよ」
須藤与一が、起死回生の一手で全てをぶち壊すまでは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、次の日。
決戦当日。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side 須藤与一
別にすごいことはない。
埋め尽くされた観客。
浴びせられる怒号のような歓声。
高校生の陰陽師の中で、全国のベスト4が出そろっている。
【スケベハーレム】須藤与一
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
【流星の魔法少女】如月 桐火
四人の人間だけが、ステージの上に立っている。
2回勝てば、優勝。
だが、俺はもはや優勝が眼中にない。
【流星の魔法少女】如月 桐火。
こいつをどうにかしないと、ヤバいという話だ。
「……」
ニャルラトホテプが、ステージ入場口に見える。
腕を組んで、こちらをじっと見つめている。
ーー残念なことに、起死回生の一手ではアイツの目的が、俺には最後まで分からなかった。
だから、こう考えるしかない。
「--お前のシナリオ、全部潰してやる」
それ以外、ない。
実況席から大きな声が聴こえる。
「さて、本日も快晴、風速はほぼなし、地場はちょっぴり安定。昨日ほどではありませんが、良好な陰陽対決日和となりました明晴学園フィールド。実況は明晴学園放送部、青葉土筆(あおばつくし)が行わせていただきます! まずは最後まで残った4人の代表に健闘を称える盛大な拍手を!」
会場から大きな拍手が送られる。
音の雨が降り注ぎ、実況席が続ける。
「それでは、この4人の試合を始める前に各選手から意気込みをーー」
「すいません! 少々よろしいでしょうか!」
声が上がった。
それは、俺の反対側に立っていた、女。
【流星の魔法少女】如月 桐火だった。
「変身!」
そう言って、彼女の体は光に包まれた。
会場が困惑に包まれる中、変身を終えた彼女は……。実況者よりも大きく響く声で話し始めた。
「陰陽師の皆さん! お願いがあります! 死んでいただけないでしょうか!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
「あいつ、何を言ってるんだ?」
「急に何を……準決勝なんだぞ!?」
「おい! あの女を即座に退場させろ!」
「とんでもないことを! 元々いけ好かなかったが陰陽師として失格にもほどがある!」
「学園の教えはどうなっているんだ教えは!」
「死んでください、陰陽師の皆さん! 蘆屋緋恋さんを私が殺すので、その後は須藤与一さんを頑張って殺します! 面倒なので皆さんで自殺してください! 殺し合って、嬲りあって、慈しむように刃を、弾丸を、術をその肉袋を舐めるように動脈になぞってください! 心配はいりません! 私が赦します! ですので、『死んでください!』」
ぐさり、と。
どこかで小さく音が聞こえた。
妙に会場全体に響く音だった。
「え?」
それは、会場にいた一般客から発せられた。
小さい女の子が、フードを食べていたのだろうか。
その手に握っていたプラスチックのフォークで、隣に座っていた父親の首を刺した。
首から、ホースに出した水みたいに噴き出た血液を身にまとう周囲の人間。
「わ、わぁ!」
驚いた男が、反射的に手に持っていたカバンから、陰陽札を纏わせた特殊警棒を振りかざし、小さな女の子の首がひしゃげた。
思わず飛び出た目玉が、顔に当たった女性が「ひぃやっ!?」と小さく悲鳴を上げて、突如客席の椅子を渡り、勢いよく飛び降り、地面に赤い花を咲かせた。
「わっ」
「きゃっ」
「ひっ」
「うおっ」
「う、うわあああああああああああああああ!!!!?」
会場はワインを零したような色に染まっていく。
赤い染みが徐々に広がっていく。
骨が、髪が、引きちぎれては空に飛ぶ。
年齢も性別も関係ない。
全てが、真っ赤に染まっていく。
それは。
それはそれは。
綺麗な花が咲いたように。
「あはははは! 綺麗! 良かった、何も恐れることはなかったんです! 最初からこうすればよかった! トーナメントなんて茶番なんかより、人の命こそが最も尊いんです! 命こそ、----奪われるほどにキレイに、あっ!?」
【流星の魔法少女】如月 桐火の胸に穴が開く。
「ようやく、正体を現したね……」
「あなたは、安倍時晴さん?」
ぐるりと首と目玉を回し、魔法少女は敵を見据える。
ーー【陰陽王子】が、破神システムを起動させ、万全な戦闘態勢で彼女の前に立つ。
まるで、効いていない。
それは、どろどろと黒い液体がこぼれ、再び修復されていく姿。
「……呪言。小笠原ひとみさんよりは強力じゃないけれど、拡声の術で耐性の弱い人から徐々に呪いを強めていったのかい? なるほど、こうやって会場の人たちを皆殺しにしようとしたのか……」
「どうしてここにいるんですか? 一回戦ボーイの癖に」
「それを言うならこっちのセリフさ。君は、邪法に頼っても土御門松陽に本来は負けていた存在だろ? 一回戦レベルの魔法少女が俺にモノをいう権利があるのかい? この人でなし」
「けひっ」
その笑い声は、まるで本性が漏れ出したような音だった。
「それで? どうするんですか? 耐性がある貴方は動けても、もうみんな動かなくなっちゃったじゃないですか」
「--」
時晴が地面に転がる3つの死体を見る。
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
【スケベハーレム】須藤与一
「え!? うそ、弱っ!?!?」
如月桐火が想像するより、須藤与一は弱い。
もっと大切に育てなければいけない。残念なことに、須藤与一の物語はここで終わりだ。
「……与一くん」
時晴はわずかに視線を下げる。
「--順番変わっただけか。まぁいいや。そうそう、私一人では盛り上がりに欠けるじゃないですか?」
「?!」
「もう一人、ゲストをお呼びしているんです」
【それ】は、ゆらりと歩いていた。
【それ】は、刀を持っていた。
別段その行為自体に特別な意味はない。
人を斬るため。
技術を磨くため。
ーー或いはもっと神聖なもののため。
理由はおそらく凡百のそれと何ら変わらない。
しかし、それはおそらく天文学的確率で起きた奇跡であり、理解できないことであったことから、ニャルラトホテプは今おも嗤って見つめていた。
「ほう、ニャルラトホテプ様。どうしてここに?」
「いえネ? 貴方がこの先どのような運命を辿るのか見たくなりまして」
「--、成程。どうぞ、ご照覧くだされ。きっと、良きものを見せられるかと」
「えぇ。愉しみにしていますよ」
「……酷いお方じゃのう」
ぬらりひょんは、苦く笑った。
分かっているのだ。
ーーこの邪神が、芯から自らを応援することはないのだと。
つまり、この先に待つ展開こそが自らの最大の試練なのだと理解していた。
「須藤与一に逢いに逝きます」
「ほう? しかし貴方は【魔法少女】に呼ばれていた筈では?」
「えぇ。……ですが、のぅ。おそらく彼女に逢うことは今生ない、そう思えるのです。儂は、須藤与一に逢うのでしょう。理由は分かりませぬ。ですが、貴方様の顔を見るとそう思えるのです。きっとあのクソガキは、儂の想像を超えるでしょう。儂の想像を超えて、動いたのでしょう。だからこそ、儂の過去が疼くのです。あぁ、斬りたい、斬りたいと。ニャルラトホテプ様、それでは御機嫌よう。儂は……貴方に逢えてよかった」
「--ご武運を! 異形のサムライよ! 喜ぶがいい、貴様の武は、武によって保証される!」
そう言って、ニャルラトホテプは消えた。
……あと10歩。
あと10歩でぬらりひょんは、魔法少女の待つステージにたどり着く。
安倍時晴が見える。
魔法少女もその姿を見せている。
ーーなのに。
なのに、違う。
違うのだ。
「儂はのぅ。待っておった」
独り言のように呟くぬらりひょん。
その声に、誰かが息を飲んだ。
「油断したのじゃ。あの時、儂の力は九尾の狐を超える武があった。それも、人の形を保ったまま、技術だけで。しかし、……その技術を、術理を見ただけで見破られ、身体操作のみで上回られたあの日の事を、今でも覚えておる。--悔しかったのぅ。でも、嬉しかったのぅ。あぁ、斬れる。まだ斬れる。上がある。驚いたかクソガキ。儂は、齢いくつもの子どもに、猛烈に憧れたーー」
その言葉を聞いて、誰かが、足音を鳴らした。
「そこか。舞台に降りるには早すぎやしないか?」
「--お前が、ぬらりひょんなのか?」
男の声がした。
おそらくそれは、須藤与一の声らしかった。
「--やはりのぅ。よくここまでこさえた。大規模な、会場全てを巻き込んだ幻覚の術か!!!!」
「えっ」
如月 桐火の目が覚めた。
いや、眠っていたわけではない。
だが、一瞬視界がぶれたと思えば。
ーー結界がステージを包んでおり、会場の人間たちは、だれ一人死んでいない。
一瞬、ステージの端で花が咲いているような気がした。(でもそれは気のせいだった)
(とても鮮やかな、一輪の極楽鳥花(ストレリチア・レギナエ)が、咲くなんてありえないことだから)
「台本通りですわ~~~~~! お~っほっほっほ! 素晴らしいですわ~安倍時晴!! やるではないですか! すべての条件が整いましたわ~! これであの忌々しいきっしょい技を使う魔法少女とかいうパチモンを合法的にしばけますわ~~~~~~!!!」
大きく下品な、貴族的な笑い声。
それはステージ上に立つ、一人の挑戦者の女帝の鳴き声。
「お~っほっほっほ! 【魔法少女】如月 桐火!! 私は見ましたわよぉ~~! 呪言で会場の人間を鏖にしようと計画、実行したことを! 私たちの策が無ければ、とんでもないことになっておりましたのよ~~~~! 見ましたわね、運営の皆様!!! こいつ、やりましたわ~~~~!! ママ~~~~!! こいつしばいたりますわ~~~~~~!!!」
幻覚は全員見ていた。会場全体を巻き込む、最悪の幻覚だった。
しかし。
幻覚で、済んだとも言えた。
【現代魔女】シルク・ストロベリ―。彼女はさも”こうなることを全て知っていた”と言わんばかりに叫んでいた。
「むぅ。体よく巻き込まれた気しかしない。でも仕方ない。死対死のようなもの。殺意には殺意で返す。共存できないなら絶やした方がいい」
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
死体になっていた筈の二人が、安倍時晴の隣に立つ。
「な、なんで!? どうして!!?」
「--どうして? 貴方がそれを仰るのですね、魔性の者よ」
「え? きゃっ!?」
如月桐火の足が凍らされる。
「私も混ぜてくださいまし?」
ーー【永弓凍土】小笠原雹香が、如月桐火の後ろから現れる。
「くっどうしてここに!?」
「どうして? 不思議なことを。観客の皆様を殺そうとしたのです。陰陽師の矜持を捨てたものを、小笠原は許しませんよ。そして安心してください。まだまだいますよ」
「!?」
「ん~。ここまですれば、私の出番はいらないと思うんだけどなぁ~」
「……」
ステージの中央から、突然現れた二人。
まるで、今の今まで幻覚が彼らの姿を隠していたような錯覚。
「どうしてここに、【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋!!! 【獅子強攻】安倍怜音!!!!!」
名前を呼ばれた安倍怜音がつぶやいた。
「本当に、どうしてこうなったんだ?」
「それはねぇ~」
笑顔で、それはもう笑顔で蘆屋緋恋が囁いた。
「私の好きな人(ヒーロー)が、今も頑張ってるからだよ」
「……。【観測拒否(アルベレイター)】は決して外れてくれない。だから、俺はまだ信じてない。須藤与一をどうしてそこまで信じられる? 俺は怖い。これは【観測拒否(アルベレイター)】が選ばなかった未来だ。本当に、本当に信じてよかったのか?」
「いいさ」
安倍時晴が怜音の隣に来て肩を叩いた。
「全部やった。全部やってダメなら、ま、笑って誤魔化そう!」
「はぁ? お前がそんなぬるいこと言うから俺が……、ちっ」
「良いじゃないか。君が動かした人も、機能してるんだから。そして、……観客も、大人たちも僕らの味方さ!」
会場の人間たちは、全員がステージに向けて手を翳していた。
僅かに呪力を吸い取られながら、それでも全員が真剣に笑っていた。
「おいおい、思った以上に面白くなってきたじゃねぇか」
「事前に上の人間から通達があった通りじゃねぇか!! あいつ、敵だったのかよ!! ただのヤバいやつかと思ったぜ!」
「最近はいなかったからな。正面切って挑んでくる敵も、--自分の意思を突っ張って戦おうとする若造も!」
「あぁ、なら俺たちも!」
「私たちも!」
「「「「「「「命という名の、盾になる価値がある」」」」」」
貴賓室で【宮内庁】小笠原 遊里(おがさわら ゆうり)が鼻で笑う。
「何故高校生に解決させるの? もー。若いってすごい。一斉攻撃じゃダメ?」
「やめておけ」
【陰陽庁 審議官】 蘆屋 道斬(あしや どうざん)。
蘆屋緋恋の父親だ。
「娘が拒否した。なら、意味がある。そう、それが……あの、あの、す、すど、ぐ、ご、がはっ!!!?」
【陰陽庁 戦闘部 部長】安倍 邑楽(あべの おうら)が目をそらした。
「あぁ、そういえば須藤与一に全力で陰陽師の道じゃない道を提示してたのって……」
「当たり前だ!!! 娘をあんな、才能ゼロの、う、うごっ、がっ、畜生!! 不死鳥かあいつは!! 気に食わん!! だが、あのクソガキもそう判断しているのなら」
【警備部長】須藤頼重。須藤与一の父がステージを見つめる。
「じぃじさんの例があります。邪神が干渉している可能性が高いです。息子の考察では、邪神は息子に関わらないシナリオを絶対に許さない。そしてお気づきでしょう。我々は、誰かに”視”られている。干渉に積極派の日輪様は避難がてらじぃじさんの看病。見守りましょう。それを、あの子どもたちが決めたのだから」
「一斉攻撃……」
小笠原 遊里がしょぼくれた声を出すが、がっはっはと一蹴する笑いを出す存在がいた。
【陰陽庁 教育式神】土蜘蛛だ。
「やめておけぇ!!!! 明らかに上位の存在だ! 俺も勝てん! この視線は呪いだぁ!! 警告してんだろうよぉ!! まぁいいじゃねぇか!!! これは、高校生最強の陰陽師を決めるトーナメントじゃねぇか!!!」
「実況は明晴学園放送部、青葉土筆(あおばつくし)が行わせていただきます! まず、本作戦の立案者は須藤与一と【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人の連名! 今回の下手人は、【五星附属術浄学園】の上層部を乗っ取った、教師、若流 夏(ニャル サマー)!!!!」
熱の入る実況に、聞くものが皆高揚していく。
「先ほど、明晴学園の生徒、今回のトーナメントを辞退していた賀茂モニカが魅了の術で電話越しに上層部を洗脳し口を割らせました! 【五星附属術浄学園】の学生の内、如月桐火、犬鳴響、迫野小登里3名は下手人の手先であり、妖怪と認定されました!!!」
「分かった? 今すぐ仕事やめて最寄りの陰陽庁直轄の病院に行きなさい。そうね、全部若流 夏(ニャル サマー)が悪い。全部悪いから治療費は全部若流 夏(ニャル サマー)持ちと言いなさい。いいわね」
「は、はひぃぃぃぃぃ♡ も、モニカしゃまの、仰る通りぃいいいいいいいいいいい♡」
「はい」
電話を切って、一つため息が出る。
「大の大人が、みっともない」
「えー!?♪ しょうがないじゃん♡ モニカちゃんの魅力にメロっちゃわない男なんていない、……あごめん」
「いいの。私にそうやすやす靡かないところが与一くんの良いところなんだから。それじゃ、私たちはまだ動くわよ」
「え? どこに?」
「--まだまだ働く価値のある馬鹿がいるってことよ」
「この瞬間、如月桐火の選手としての資格はありません! しかし、選手たちは全員共通の気持ちでした! これは【高校生陰陽道最強決定戦トーナメント】! ここで如月桐火を高校生で倒すことに、意味と意義があると!! 故に!!!」
青葉土筆が叫ぶ。
「ここに陰陽庁と共に宣言します!! これより、【高校生陰陽道最強決定戦トーナメント】史上初の、エキシビションマッチを開催します!!!!!」
「エキシビション!? なんですかこれ!! 一体何が!!?」
如月桐火が吠える。
「分からないかい? 君は残酷なまでに俺たちに嵌められたんだ」
安倍時晴が宣言する。
「俺たちが何の対策も取っていなければ、全滅していただろう。誰かが犠牲になってでも、命を守ることに必死になっただろう」
怜音が口をつぐんで目を泳がせた。
時晴は”敵”に指を刺した。
「だから、頼った。ーー会場全員に結界を貼ってもらって、決して君を逃させないように。その計画すら打ち破るであろう、結界を完全に切り裂くことができるぬらりひょんを、別の場所に移動させて、君を孤立させるために!!!」
「なっ!?!?!?! なんでぬらりひょんさんがここに来て暴れる計画も!!! というか、なんでぬらりひょんさんが結界を斬れるって知ってるんですか!? そんなの、そんなの誰も知らないはず!?」
「隙アリです!」
「え? ぎゃっ!?!??!?!?」
突然、心臓をぶち抜かれる感覚を得た少女。
しかし、心臓の方がまだよかった。
ーー体から、抜き取られたものは。
「ぁ、ぁ」
「ころ、して」
「なるほど。生首の状態で埋め込まれてる癖に生きているとは! 外の人たちは本当に奇怪です。ですが、隙さえいただけるのであれば僕はこれくらいできます!」
【寺生まれのG】東 呉十郎。
東寺が生んだ天才が、如月桐火に宿っていた二つの取り込んでいた人間を一瞬にしてはぎ取った。
「--破ッ!!!!!!!!!」
掌底を二つの頭に当てると、二人の頭が消し飛んだ。
「あっーー」
「よかっーー」
ぐしゃり、と音を立てて。
「ぃ、ひびき、ちゃん……ことり、ちゃん……」
「魂喰いの化け物め。僕らが成敗してくれる」
東 呉十郎が拳を構えた。
それに合わせて、その場にいた全員が武器を構える。
姫川はただただ無力に苛まれながら、ステージを見つめていた。
「ごめんなさい……神様、まだ回復できてなくて」
『助け給え』
「仕方ないでしょう。今は出来ることをするのが吉です」
【六波羅警邏 3番隊副長】常盤 夢人(ときわ むうと)が腕を組んで姫川と会話をする。
「でも、大丈夫かな。相手は邪法、っていうか、変なやつなんでしょ? シルクちゃんと鈴鹿ちゃん、無事だと良いんだけど……」
「--、万全を尽くしても、どうしようもないことはあります。私の目的は警護。貴方は、何もできない。ならば見守る。来場者に何かあった時に、動いて、手を伸ばす。それしか出来ない。それを徹底しましょう。でなければ、須藤与一の覚悟が無駄になる」
「……? 覚悟? 無駄って、須藤……さん? に何かあったんですか?」
「えぇ。それは……私にできることではなかった」
会話の最中に、ふと男がやってきた。
「くっくっく、待たせたか? 同志諸君」
「え?! 忍坂くん!?」
それは、姫川と同じ学校に通う【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和だった。
「なんでここに! 一緒に戦ってないの?! もしかして……さぼり!?!?」
「ぐぅっ!?!?!? いや、ちょ、サボ、サボりって表現はひどくない!? う、嘘でしょ? 同じ学校の友達からもこんな扱いを!? うぅ、違うんだよぉ~……。今回は安倍怜音くんに頼まれたから、たくさん準備してたんだよぉ……禁術」
「禁術の準備……?」
「え? うん。それっぽい呪詛を弾くものとか、シルクに渡しちゃいけないレベルのやばい武器とか。そして、須藤与一って人には裏世界転移の術式をね」
「裏世界?」
「ほら、都市伝説でもよくあるじゃん。現実に近いけどなんか違う世界へ行くみたいな。如月駅とか。あれあれ」
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side 須藤与一
幻覚が解かれる。
実況からネタ晴らしが始まったようだった。
それと同時にひとみが【黄泉比良坂で会いましょう】忍坂 義和から貰っていた裏世界転移の術式を展開する。
瞬きの間に、現実から裏世界に転移していた。
色が反転している。
現実ではステージ上で魔法少女と戦っているみんながいるはずだったが、裏世界ではステージ上に誰もいない。
「ほう。裏世界か。それは陰陽師にとって禁術では? これは妖が使う業だろう」
「良いだろ別に? ここなら、誰も斬られない」
「お主は斬られるがのぅ」
「へっ。そりゃどうかな。来いよ、ステージに。決着を付けようぜ」
「何を馬鹿な。既にここは戦場。ここで斬り合いをしても構うまい」
「--馬鹿。これは決意表明だよ。俺はステージから逃げない。隠れて攻撃もしないし、逃げもしない。それともなんだ? 真正面から俺と戦えないか?」
「--その意気や、心地良し!!!!」
ぬらりひょんが跳躍する。約30mほどの跳躍のち、ステージ中央に奴は立った。
「来い、クソガキ。斬り合いだ」
「……その前に、質問がある」
俺はステージに向かって歩き始める。
刀、【獅子王】を抜きながら、ぬらりひょんを睨んだ。
「お前誰だ?」
「小僧っ!!!!」
瞬間、妖気が膨れ上がる。
「忘れたとは言わせぬぞ。あの日、齢7つほどなる貴様に敗北した、あの屈辱忘れてなるものか」
「--あぁ、あの時のおっさんか。……でも、そっちじゃねぇ。そっちじゃないんだ、ぬらりひょん」
ステージに、一歩だけ入った。
「お前の顔だよ。俺はさ、ぬらりひょんってやつの顔を知ってる。【原作ゲーム】のぬらりひょんは、トラウマレベルのやつだったからさ。だから、訳が分からねぇんだ。お前は……誰だ? 原作のぬらりひょんと違う顔なんだ」
「--痴れたこと。儂が”今の”ぬらりひょんだ」
「今の、か」
様々な含みがある言葉だった。
残念だが、これ以上の情報は貰えなそうだった。
「与一さん。来ますよ」
ふわりと、小笠原ひとみが隣に立った。
「ぴぃ。こんな奴がいるから私たちのデート回が省略されるんです。ぶっ潰しちゃいましょう」
反対隣りに、須藤いろはが立った。
「あぁ。ごめんなみんな。最後まで付き合ってくれ」
「お付き合いどころか」
「ゆりかごから墓場まで」
二人が笑った。
「儂は仕込み杖での」
ぬらりひょんはいつの間にか手に持っていた杖の先端を回し、抜くと、刃紋の美しい刀身が現れた。
「元々侍になるつもりで生きたつもりはなかった。しかしのぅ。儂はとある剣豪に出会って、刺激を受け、剣豪になることを誓った。名のない剣豪だった。佐々木……、なんだったか。刀身の長い刀だった。だが、儂には合わんかった。これくらいの刀がちょうどよかった」
「……」
「名刀ではない。数打じゃ。しかし、それでよかった。数打であれ、刀が人の斬り方を教えてくれた。……しかし、もう儂にプライドはない。貴様に負けたからじゃ。もう、儂は人の形を留めるつもりはない」
ぶん、と刀を振る大妖怪。
原作の、ラスボス格。
「人の理を捨てよう。これは、儂という獣の特性を用いた、我流の喧嘩剣術」
長い頭が、揺れた気がした。
「我が名は、ぬらりひょん。貴様を殺すもの」
老いた獣が、涎を垂らす勢いで歯茎を剥き出しにした。
「押して参ろう。最後だ。名乗れぃ小僧。添え物の小娘じゃない。お前だ。お主だ。儂にはもう、クソガキ、お前しか見えておらん」
俺は。
流石に自分でスケベハーレムを名乗る気はなかったので、こう言った。
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「これは、決してあってはならない事件です。ですが、それを挽回しようと、高校生たちが動きました。私たちは、……いえっ、私は!!!! この場で抗う全ての人たちに、敬意を表します!!!!!
エキシビションマッチ!!!!!!
【流星の魔法少女】如月桐火
vs
【陰陽王子】安倍時晴
【永弓凍土】小笠原雹香
【獅子強攻】安倍怜音
【寺生まれのG】東 呉十郎
【現代魔女】シルク・ストロベリ―
【今毘沙門天】 蘆屋 緋恋
【トゥス-クル】松前 鈴鹿
及び!!!!!!!!!!!!!
この場にいないけれど、あの大妖怪ぬらりひょんを倒さんと挑む人がいます!!!
その人は最初こそコネでここに来たのかもしれないけれど!!!!
闘い、無能の評判を覆し!!!!
今もなお、最後まで諦めず!!!!!!!
私たちを守る為に、単騎で、いえ、式神を連れて、誰かを守ろうとしています!!!
これはエキシビションにはなりません!!!!
敵は高校生ではなく、大妖怪!!!!
ですが、言わせてください!!!!
言わなきゃいけないんです!!!!
ーーもう貴方は、【スケベハーレム】ではありません!!
【剣豪】ぬらりひょん!!!!!!!!
vs
【餓者髑髏の花嫁】小笠原ひとみ!!!!!!!
【餓者髑髏の花嫁の妹】須藤いろは!!!!!!!!
そして!!!!!!!
それは須藤頼重の息子であり!!!!!!
それは餓者髑髏、九尾の狐単独撃破者であり!!!!!
ーー無能力でも戦えることを証明した貴方にふさわしい二つ名です!!!!!
貴方こそーー」
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「【陰陽師】須藤与一。やろうぜ、パチモン」
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会場の皆さんも一緒に叫びましょう!!!!
あの人にも聞こえるように!!!!!!!!
レディイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」
「「「「「「「「
ファァアアアアアアアアアアアアアアアアアアイッッッッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」
【神話生物】事件 後編 上 完
次回。
後編 中
神のシナリオは、破られる。
明日更新します~。
主の教えについて、このたび宇宙人VTuberラッパー リョーティーリジョイスクラウンさんからアドバイスをいただきました。
真摯に「人を殺してしまったという罪をどう考えていくか」という課題を、時間をかけて教えを僕に伝えてくれました。
貰ったアドバイスを完全に生かせているかは分かりませんが、頂いた言葉を僕なりに解釈して物語に落とし込むことができました。
ありがとうございました。
p.s
本当に申し訳ない
まだ終わらなそうなんじゃ
ということで次の更新、「神話生物事件 後編 中」 に変更します。
本当に申し訳ない。
明日頑張って3万文字くらい書き足すので許してくれ。
許してくれ。